その15
噴水の縁に座りながら、やっとのことで思いついたのは、隆行に電話をすることだった。SNSアプリの通話ボタンをタップすると、比較的早くに叔父が出た。
「あ、叔父さん? 今森宮先生に会って来たんだけど」
話を切り出すと、隆行の声が一段低くなる。
『危ないことはするなと言ったはずだが?』
「そんなつもりはなかったわよ。ただたまたま亀吉さんが」
言い訳を試みると、隆行が口を挟んできた。
『誰だそれ』
「亀の名前。森宮先生が飼ってて、その仔を捕まえたら温室に誘われたものだから。ついツッコんで、いなくなった子たちとの関係を訊いてみたんだけど」
杏梨は言葉を遮られる前に、と慌てて要件を告げる。
『だから、それが無茶なんだろうが』
叔父の呆れたような声がスマホ越しに響いた。
『まあいい。それで? どんな話をしたんだ?』
溜め息混じりに問いかけられ、杏梨は改めて口を開く。
「うん。なんか上手く言えないけど、何かを隠してる気はする。でも……」
『なんだ?』
「やっぱり私には、悪いことやってるような人には見えなかったわ」
隆行に促され、杏梨は正直な感想を告げた。その途端、沈黙が続く。何かを考えているのか、それとも怒っているのか。心配になって声をかけようとした時だ。
『……とにかく、無茶はするな。俺も明日からそこの清掃員として出入りすることになったから。お前はあくまで友人たちからの証言を集めるんだ、いいな?』
隆行が硬い声で念を押してくる。だが、そればかりは確約できない。
(また行くって言っちゃったしなあ)
顎に人差し指をあてつつ、杏梨は返答する。
「承知しましたー」
『心がこもってないぞ』
すぐに見破られ、叱られた。
「本当に気をつけるから」
反省してもう一度了解したことを告げると、隆行の重々しい口調が耳に届く。
『よし。それはそうと、美知子さんたちと例の件話し合ってみたのか?』
話を転じてきて、杏梨は言葉に詰まった。




