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猫耳少女は森でスローライフを送りたい【WEB版】  作者: yocco
第二章 猫耳獣人と小さな村
28/50

27 ゴブリン、村民になる?

「「「やるゴブ!」」」

 ゴブリン達の決意は決まったらしい。

「よろしくお願いするゴブ!」

 しかも、襲撃のときにリーダーらしい言動をしていた子が、私や村長さん、アルを含めた皆に頭を下げた。


「こりゃあたまげた。ゴブリンを改心させるとは。さすがは聖女様、と言ったところなのか?」

 虎獣人の青年が、目を丸くしている。


 ……薬師様も困るのに、聖女様に昇格とか、やめてください!

 全くもう。私は可愛い子たちとスローライフすることが目的なのに。


 仕方ないなあ、と思っていると、今度は村長が悩ましげにしている。

「ゴブリン達が心を入れ替えて、真面目に働きたいというなら、村民に迎え入れるのもやぶさかではない。食料をめぐって争い、傷つけあうなど私は望まない。……だが」

 そこで、村長が「うーん」とうなってしまう。


「どうしたんですか?」

 私が村長さんに問うと、彼はおもむろに口を開く。

「当面の間彼らを養うほどの食糧の蓄えがないんですよ。今食糧庫に収まっているものは、今の村民の分と、残りは国に納税する分。それでいっぱいでしてね……」

 そして、再び、「うーん」と唸ってしまう。


 私は、小袋を開いて、さっき薬と交換したばかりの一万八千マニーを手のひらに載せる。

 そして、そのお金をじっと見つめた。

「これじゃ、足りないよね、ソックス」

「……チセ……」

 しゅんとして小さな声で呟く。だって、私のこのお金じゃ、当面のあの子たちを養うには到底足りないということは、いくらこの世界の初心者といっても想像がつくからだ。

 そんな私を、ソックスが私を労るかのように、ぽふん、と私のスカートの上からピンクの肉球がついた前足で優しく撫でてくれる。


 ……どうしたらいいんだろう。

 そのお金の上に、ポトリと一雫涙がこぼれ落ちた。

 なんでだろう?

 非力な自分が悔しいのかな?

 私の尻尾も、しゅんと下がってしまい、私の両足の間に小さく収まってしまっている。


 そんな私を見ていたアルが、私の頭の上に、ぽふっと手を乗せた。

 頭の上にいたスラちゃんは、気配りなのだろうか。ぴょんと良いタイミングでソックスの頭の上に移動していた。


「おい、何を一人で悩んでるんだ」

 そう言われて、顔を覗き込んでくるから、私はそれに促されるように顔をあげる。

 目と目が合った。

 私とそう高さの変わらない位置から、青い瞳が私を見つめていた。


「だって、私の手持ちはこれしかないの。薬を売ったお金よ。……でも、これじゃ、この子達が作物を得るまでの間の食糧代には足らないでしょう?」

 私を見つめる青い瞳が真っ直ぐすぎて、私は少し上目遣いでおずおずと見ながら答えた。


「なあ、村長。ここの村の納税は、とれた作物の三分の一か?」

 アルが村長に確認する。そして私を宥めようとしてくれているのだろうか。私の頭の上に乗せられた温かな手はそのままだ。


「あ、はい。農作物の三割を納めるだけです。こんな辺境の土地ですから、その他の人足役などはありません」

「ん……。だったら、その三割の農作物を納めなくても済むなら、それでゴブリン達を当面養えるか?」

「はい! それはもちろん……! 彼らにも置いてきた家族がいるでしょう。その数にもよりますが、なんとか工面しましょう。ただ、税金を納めないなんて、いいのでしょうか?」


 アルと村長の会話の中から導き出された、『納税しない』という提案。

 そんなこと、だれもが予想し得なかったようで、村長や私達は困惑顔をする。そしてゴブリン達を含めて、みんなの視線がアルに集中した。


「……そんなこと、可能なの?」

 私も、村長の問い繰り返すようにアルにぶつける。


「ゴブリン達が、この村に定住し、この国の国民になるという建前が通れば……『移民保護』に関する特例を利用して、納税免除を受けられるはずだ」


 アルが、ゴブリンたちを見下ろす。

「この国は、『亜人達のための国』だ。そしてここに、他の亜人と共存できるような、知性と誠実さを見せるゴブリンがいる。知性があるならゴブリンだって『亜人』の移民と扱っておかしい理由があるか?」

「……じゃぁ……!」

 まだアルの手を頭に乗せたままの私が、パッと彼を見上げる。

 私は、期待で胸がいっぱい。

 私の頭を飾る耳がピン! として、尻尾が上がってきて、ゆらゆら揺れるのが感覚でわかる。


 ……アルってすごい、頭がいい!

 そんな抜け道を思いついちゃうなんて!


「アル様。それは、我々にはとても思いつけないような妙案です。ただ、この辺境から、誰が王都へ陳情しに行けるというのでしょうか?」

 村長が、アルに尋ねる。


 その村長の言葉を耳にすると、私のピンと立った耳が、落胆で下がるのを感じる。

 だって、村長さんのいうとおり、ここは本当に王都からは離れているんだもの。


「それはだな……」

 私や村長を見て、アルがまるで楽しいことを見つけた子供のように、口角を上げて悪戯に笑う。


「俺が飛んでいって、交渉してくるんだよ!」

 そう叫ぶと、彼の背についている赤い翼がばさりと広げられる。

 ばさり、とそれがはためくと、彼の体が宙に浮いた。


 彼は、村にいるみんなを見下ろしながら、笑いかける。

「話ができそうな知り合いがいる。そいつに俺の案、絶対に認めさせて来るから!」

 そう言って、ぱちっと片目を瞑って見せると、翼をはためかせて飛び去ろうとした。


 バサバサと飛んでいくのかと思ったら、アルが停止して振り返った。

「おい、泣きべそ薬師。それまで泣いてないで、ゴブリン達の面倒、するんだぞ!」

「ちょっと! 泣きべそ薬師ってなによ!」

 ぷうっと頬を膨らませ、両拳をブンブンと振って抗議するものの、空からは彼の笑い声が聞こえるのみだった。

自分の小説の世界観が、ようやく固まってきたなあと、

しみじみ思う、今回の話 (ただのぼやき)。

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