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ファレナの報復  作者: 茶津
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番外編 5月1日

5月1日、それは大切な人にすずらんの花を送る日。大切な家族や愛する人、敬愛を込めて贈るのです。

すずらんの花言葉「幸せの再来」「純粋」「謙虚」とあったりしますが、どれも初々しいような花言葉に聞こえます。


ウォルつブルグでもあまり知られた話では無いのですが、フランは教会で学びました。

「すずらん……すずらん……」

自室の机の上に植物の本を広げてすずらんの生息場所を調べています。しかし残念なことにすずらんは貴族や王の花でもあるため入手が困難な花だったのです。

「……ったー!ダメだ!全然わかんないや」

姉のファレナは今は家にいない。ベルベットが一緒なら外に出てみよう。

そう思った、フランは床のひんやりとした心地を堪能しているベルに声をかけ、玄関から外に行きました。


「あ……」

空を見ると雲行きが怪しく分厚い雲まで見えます。先程まで青空だったというのに今日の天気は変わりやすいようです。

「行くよ!ベル!」

「バウバゥ!」

そう言い片手に本を抱えながら、リオの家に向かいました。


リオの家は東の方にある家です。家にいるおばさんなら分かるだろうと、ドアをノックしました。

トントン

「おばさん、フランだよ。開けて」

ノックをしてみましたが中から返事がありません。

家の裏にいるのではと思い庭に向かいますが誰一人居ませんでした。

「しょうがない、今度はゼーテの家に行こう」

ゼーテは村の中で最も足の早い村人で、黒の髪の毛を持つ少し変わった人でした。


ゲーテの家の前までやってきてノックをします。

「フランだよ、おばさん、開けて」

それでも返事がありません。ゼーテのおばさんはあまり耳が聞こえにくいこともあり、中にいるのではとそっと、ドアを開けました。

「……おばさん??」

ベルベットも不思議そうです。いつもなら羊の毛を紡いでいるものですから、きっとお出かけなんでしょう。


仕方が無いので井戸の広場に行きました。

すると、ゼーテがいました。

「ゼーテ、ゼーテ!」

「……えっと、フランじゃないか、それにベルもどうしたんだい」

いつもと変わらぬ陽気な彼に少しほっとしました。

「すずらんの花を探しているの、見たことある?」

「すずらん?」

よく分からなさそうなので、本を開いてゼーテに見せてやりました。

「あぁ、君影草の事か、それなら薬屋のばあちゃんとこに行ってみな。知ってるかもよ」

「ありがとう!ゼーテ」

フランはまた本を閉じて、薬屋の方へ向かいました。

薬屋は南の方面にある小さな古民家で経営して、村の中のお医者さんのような役割をしています。


薬屋の前に行くとドアをノックしました。

トントン

「なんだい、」

ドアの奥から声がして、扉が開きました。

出てきたのは薬屋のおばさんでした。見た目はおじいさんのようなおばあさんで声も低め。

少し細い目をしているのが印象的です。

「すずらんの場所を知らない?」

フランが尋ねると、はて……と少し考えて、

「君影草か、なんだいまた体の調子がおかしいのかい」

「そうじゃない、薬としてじゃなくてね。今日はすずらんを大切な人に送る日なんです、それですずらんを探してて」

本をぎゅっと握りしめて必死に伝えました。

「……鈴蘭は商人から買ってるもんだから、今はもうないよ。ついさっき、薬漬けにしちまった。一足遅かったな」

薬屋のおばさんはフランの頭を撫でました。

フランはしょんぼりしてしまい、ベルベットも心配そうに見上げています。

「……ふー、あんまりおすすめしないが、鈴蘭はこの近くにもあるよ」

フランの様子を見兼ねて言いずらそうに情報を出してくれました。

フランは驚きました。なぜなら、よく遊び場にしている洞窟の周辺に鈴蘭が咲いているそうです。

そうと決まればフランはおばさんに「ありがとうございます」と伝えて、森の方へ走って向かいました。

ベルベットも後を追って来ます。


「……鈴蘭がねぇ、」

薬屋のおばさんは今日が鈴蘭を送る日だと知っていました。しかし、鈴蘭はフランにとっても大事な薬の材料です。

そう簡単に貴重な鈴蘭は渡せれなかったのです。


森に入ったフランはベルベットと共に洞窟の周辺を探しました。

しかし鈴蘭はどこを探しても見つかりません。「全然見つかんないやー」

もう日が沈みかけていました、それでもフランは探すのをやめませんでした。

「クーン……」

ベルベットも帰ろうと声をかけますが声は届いていないようです、仕方が無いのでベルベットはフランの服の裾をガブッと噛みつき引っ張ろうとしましたが、それでも探すのをやめませんでした。


「クーン、クーン……」

空は瞑色で月がではじめました。あたりは暗がりになって、フランがはっと気が付き上を見上げると

「もう、暗くなってきたなぁ……あ、あった!」

フランはやっとすずらんを見つけました。

鈴蘭は月に照らされて、洞窟の上にちょこんと咲いていました。

下がばかり探していたもんですから、上にあるとは思えませんでした。

本じゃない本物を見たフランはその小さく真っ白な花を綺麗だと思いました。

「よし、ベル!僕登るよお姉ちゃんに渡したいからさ」

「クーン……」

フランは洞窟の壁を登り始めてましたが、ベルは心配そうにくるくると回っています。

一つ一つ、壁をのぼります。

「あっ、」

洞窟は古いもので、壁か少し崩れてしまいました。ちょうど左足をかけていた部分です。

とっさの判断で両手で体を支えましたが何とか耐え抜きました。

ベルベットも不安そうに「バウッ」とひと鳴きしました。

「大丈夫だよ、もうすぐ、もうすぐだから」

ベル声をかけ、もう一度上に目を向き、一歩づつ確実に登っていきます。

体力もスタミナも少ないフラン、すぐに息が上がってしまうため、休憩しながら上がっていきました。

数十分間登り続け、やっとの思いで1輪のすずらんに手を伸ばしました。

「やっと取れた」

左手で一輪の花を手にしました。

安心してしまったのでしょうか、足場から足をずらしてしまいました。

「わっ、」

フランは頭と手を咄嗟に体の中に入れました。

頭も守ることも出来ずに地面に落下してしまいましたが、何とか鈴蘭を守り抜きました。

「……クン、クーン」

落下の着後にベルベットが風の魔法を出してくれたため、大きな衝撃は免れました。

しかし、足をくじいて足を痛めてしまったようで顔を少し顰めました。

「ベル、ありがと……」

「フラン!!」

フランがベルにお礼を言いかける前に、姉の声が聞こえました。意外と近くから声がして姿もはっきりと見えてきました。

「ね、姉ちゃん?」

「フラン、怪我してない?」

ファレナは慌ただしくフランに近づいて、フランが倒れ込んでいるため体を気遣っています。

「ど、どうしてここに」

「どうしてって、こんな時間に家にいないんだもの、心配で探してたのよ」

ファレナは汗だくでフランの目を見つめます。

すると、ベルベットの反応を見て足を痛めてることを知り、応急処置を施してからフランをおんぶして森を歩きます。

ベルベットは本を咥えて、一緒に歩きます。


「フランそれ何?」

ファレナがフランをおぶり続けていたために、手に持っていた花が丸見えだったのです。

「あ、これ……鈴蘭」

「鈴蘭?綺麗な花ね、初めて見たわ」

「……薬屋さんに教えてもらっだんだ」

「へぇあのおばさんがね、よく教えて貰えたね、フランに甘いからか」

ファレナはふふふっと笑を零しました。

たわいもない会話でこのままさっきのことは無かったことにされるのだろうか、そう思ったフランは「お姉ちゃん、下ろして」と、ファレナに。

「ダーメ、久しぶりにフランをおぶるんだもん、フランも大きくなってもうおぶれなくなるんだわ」

病弱とはいえ男の子、成長すればもうおぶることできなくなるのだろうとしみじみと感じ歩みを止めません。

「お姉ちゃん、でも足プルプルしてるよ」

おぶられている側として不安だったのでしょうか、耐えず声が漏れてしまいます。

足が震えようとも彼女は歩み続けます。

「ゔ、しょうがないでしょ、今しか出来ないんだから」

そう言いながらも歩みをとめません。

「一回降ろしてよ、」

フランに2回も言われてしまったので仕方がなくファレナは木の幹の付近にフランをおろしました。

「どうしたのよ、そんなにお姉ちゃんのおんぶが怖いの」

「こ、怖いよ……そりゃあいつ落とされるかと思うと……」

2人は目を見合わせて笑い合いました。

休憩をしている間にベルベットがスー、スーと寝息を立て丸まってしまいました。

「寝ちゃったね、」

ファレナは起こさないようにそっとベルの頭を撫でました。

「……お姉ちゃん、これ」

フランは手に持っていた一輪のスズランを姉の前に差し出しました。

「えっ……」と声を漏らしなでる手を止めました。

「……今日は、大切な人に鈴蘭を送る日なんだってだからこれ、」

ずっと握っていたせいか少し弱々しくなってしまった鈴蘭。

「これ。私にくれるの?」

嬉しそうに声色が明るくなり、両手で受け取りました。

「うん、いつも僕の分まで頑張ってくれてもっとお姉ちゃんを助けたいんだけど、なかなか出来なくて……だからせめて感謝を伝えようと……」

フランは少し照れくさそうに頬を掻きながら花を渡しました。

「……そんなん、フランはいっぱいやってくれてるよ、家のこともやってくれて、ありがとう!!」

「わっ!」

嬉しさのあまり、勢いよくフランを抱きしめました。その反動に耐えきれず、2人はそのまま地面に倒れ込んでいます。

「大切にするね、ありがとう!」

「……うん、」



姉はなぜ洞窟にいたのか、どうして危ないことをしたのかなどと一切聞いてきませんでした。

怒られる覚悟もできていたのですが、全然そんなことも無くいつも通りの日常になりました。

あの鈴蘭はしばらく花瓶に入れてそのあと押し花にして栞として使ってくれています。


鈴蘭は送られた相手の幸せを願って送られます。


今日も幸せな日でありますように


敬語でのストーリーは難しいですね笑

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