朝《1部訂正》
まだ幼かった彼女は言った。
「私は強くなりたい」
なぜだ。と父に聞かれれば即答で答える。
「あいつらを倒したい」
呆れ顔でため息をつかれてしまった、そんな理由で武器を持つならお前には持たせられない、考えを改めろ
そう言われてしまった。
あれから10年、彼女は村の守り人となった。
自然の木々に囲まれて彼女は木剣の素振りをしていた。
まだ太陽は顔を出しておらず冷えきる森の中は、薄着の彼女には寒さすぎるだろうが、体は熱に包まれていた。
「ふっ、ふっ」
綺麗な甘栗色の髪は、汗が滴り落ちて耳飾りの羽は動く度に揺れ動く。
「ふっ、ふっ、ふっ……。」
毎朝の日課である素振りを終わらせると、木の幹に置かれていたカバンの中から布を取りだし、汗をふきとる。
汗がじわじわと流れてきて気持ちが悪くさっさと洗い流したかった、その前にも仕事を終わらせなければならない。我慢だ。
さっさと荷物をまとめて、カバンを腰に身につけると、ランプを手に持ち中に入っている魔法石に魔力を流す。
すると、魔法石がふわっと浮き上がると弱々しい光が溢れ出す。
安物の魔法石ではこのぐらいの発光で十分だ。
「よし、帰ろ」
まだ体の熱が冷めぬうちに家路へと急ぐ。
さっきまでハードに動いていたのに森の中を駆け出し始めた。
ランプが激しく揺れるがそんなものは気にしない。もう既に何個もランプを壊してきた。
その度に怒られたがランプを壊すことなく走るコツをみにつけたので成長はしている。多分。
村に着くと太陽は顔を出し始めていた。
村の中心部に井戸に向かえば、おばさんやおじさん達が水を組みに来ていた。
井戸はここにしかないので毎朝ここに集まり、彼女はここで仕事を貰ったりもする。
「やぁ、ファレナ。今日も早いじゃないか」
気さくに話しかけてきたのは羊飼いのおばさんだ。毎朝彼女を気にかけてくれる親切な人だ。
ファレナは彼女の名前だ。
「うん、一応ここの守り人だからさ。強くないとね」
そう笑顔で返せば少し寂しそうな顔をする。
なぜ、そんな顔をするのか理解は出来ないがあまり話すもんじゃないなぁと思ったりする。
「ゼラニウムが戻ってこればこんな事しなくても済むのにねぇ」
おばさんが頬に手を当てながらため息混じりに話す。
ゼラニウムは、彼女の父だ。体術や武術なんかを彼女に叩き込んでは旅をしているそれを繰り返して10年、続けていれば慣れてしまうし、村の人たちのこんな態度も変わってしまうものだ。
「……いやいや、自分好んでやってる仕事だし、ゼラは任せてくれてるんですよ。ね、今日は何か手伝うことある?」
ファレナは、明るく振舞った。
今日の仕事を聞き出すのも毎日の日課だ。
村の人達はお年寄りや女性が多いため力仕事に必要だと駆り出されることも多いのだ。
守り人の仕事もあるので午前と午後のどちらかになってしまうが、これも生活する上では必要な事だ。
「いや、今日はいいよ。でも、3日後は空いてるかい?羊の毛刈りの時期でさ、祭りにも間に合わせたいんだ」
「わかった。3日後ね。なら午後からでいいから行くね」
そうして毎日村の手伝いをしている。何かを手伝う代わりに食料を貰う。毎日やりくりすれば村の外に買いに行かずとも何とかなるのがありがたい。
井戸にいる人に話しかけたが今日は特にやることはなさそうだった。
村の情報共有は井戸の広場にある村長の家の掲示板を確認する。
1週間後に祭りがあること、付近の魔物情報なんかが書かれていたりするがこの情報伝達は守り人の仕事でもある。
魔物や動物の情報、村の外のことや中の事も報告したりする。
今となっては守り人の仕事はファレナだけでは無いため相方にはすごく助かっているのだ。
「さぁて、帰ろっ」
汗が冷えてしまい少し冷えた身体を震わせながら家に帰っていく。
玄関の扉を開けた瞬間に荷物を壁掛けのフックに吊るし、早く温まりたい気持ちでキッチンへと急ぐ。
昨日作ったスープがまだ残っているのでいまから火をくべれば体を拭いている間に温まるだろう。
「あ、お姉ちゃん、おはよう」
声がしたと目線をやると、キッチンにたっていたのは弟のフランシス、愛称はフラン。
太陽のように光るオレンジの髪に新緑のような綺麗な黄緑の瞳のまるで夏のような少年。
肌は白く、あまり体が強くないため家の中にいることが多い。
そんな弟が姉のためにスープを温めてくれている、朝からこんなに嬉しいことがあって良いのだろうか。ファレナは弟を溺愛している。
「おはよう。フラン、ベル」
「バウッ!」
家の中にはもう1匹の家族、魔獣のフォレストウルフ。毛並み白と灰色の配色だが、特徴としては瞳である。フランと同様に緑色で森に入れば人間のように二足歩行をしたりする。
普段はファレナの腰辺りまである背も二足歩行ならあっという間に身長も抜かしてしまう
ベルベット、愛称ベルがいる。
フランをよく見ていてくれる魔獣で、安心して家を空けられるのもベルがいるからである。
魔獣をいやがる村人でさえもベルもファレナと同様手伝いをするため警戒心は薄い方だ。
「スープ温めてるから、その間に着替えちゃったら?風邪ひくよ」
「そうね、じゃあ着替えてくるわ」
フランに言われたんじゃあ、仕方がない。
キッチンを後にして2階の自分の部屋に向かうと服を脱ぎ始めた。
靴を脱ぎ、シャツ、ズボンと脱ぎ、下着姿のまま椅子に座り、洗面器に溜めていた水に布を浸して体の汗をふきとる。
適度に吹き終えるとさっぱりして気持ちがいいがやはり水浴びはしたかった……。
クローゼットからまた違う仕事着をみにつけて部屋を後にした。