1話 夜と少女と河川敷
久しぶりの投稿となります。
「待ってください」
その言葉が頭の中で何度も響き、反芻した。自分でかろうじて聞き取ることが出来たのだが、理解するという段階までは踏み込むことが出来なかった。時間が永遠と止まっているようにさえ感じ、このまま進まない気がする。
自分でも知らないうちに、彼女の座るベンチのほうへと近づいていく。ややこしくなるということは、もちろんわかっている。でも、体が言うことを聞かない。
静かに隣に座ると、何も言わないまま沈黙が続いた。自分から彼女のことを聞いてはいけない気がしていた。だから、ずっと待っている。たとえ、この夜が明けてしまおうとも。ずっと。
それから5分くらいが経ったのだろうか。静まり返った、闇の沈黙から解き放たれたのは。
「ご、ごめんなさい。私、急に呼び止めてしまって。本当に、、、」
彼女は申し訳なさそうな顔をして、ひたすら謝り続けていた。この様子からすると、先ほどまでの感情は少なからず治まっていることが分かった。
「今日は風が気持ちいいですね。嫌なことも忘れれそうな感じで」
ポカンとした表情でこちらを見つめていた。
冷静になった自分も振り返ってみると、何を言ったのかを理解することが出来なかった。でも、この言葉しか出ず、この言葉が最適解なのだと今はそう思えた。
「自分も思い悩むことがあって、こうやって散歩をしていたんですよ」
「同じです、、、」
そう、小さくつぶやいた。
できるだけ、相手の事情には深く聞きこまないようには気を付けている。だから、話はこれ以上進んでいくことがなかった。
また、沈黙が続く。たった数分間が永遠に続いてしまうかのように思えた。時計の生み出すリズムが限りないほどゆっくりに聞こえていた。
「聞いてもらっていいですか、私の話を。こんなに長く一緒にいてもらっているのに。もう一つだけ、我儘を聞いてもらっていいですか」
彼女に目からは再び雫が流れていた。
「ええ」
そう答えた瞬間、彼女の携帯電話からメロディが流れた。
彼女は慌てた様子でいた。
「ごめんなさい。何かお礼もできずに」
「いいんですよ、ほら。このハンカチで拭いてください。それじゃ」
彼女の顔を流れ落ちていく涙が、どこかあの人に似ていた。
あれから振り返ることもせずに、ただ帰路についた。家に帰っても誰もいない。もう一度シャワーを浴び、今日は早く寝ることにした。
ベッドに入り込み目を閉じようとしたときに、通知音が鳴る。
スマホに手をかけようとしたが、今は無視をした。
夢を見ている。
その夢の主人公である男の子は、別にモテているわけでもなければ、特段と頭がいいというわけでもなかった。ただ、目の前に広がっている今という時間を大切にし、毎日を楽しく過ごしていた。
こんな生活が変わらずに永遠と続くのではないかと錯覚していた、むしろ望んでいた。このまま馬鹿なことやって、笑って暮らせる日々を。
そんな少年にも好きな子が出来た。その女の子は、常に笑っていた。そんな彼女の笑顔にどこか救われていたのだ。彼女と話している時間が好きだった。彼女を後ろから見ている時間が好きだった。頭の中から彼女のことを忘れることが出来なかった。
そんなある日、いつものように彼女に会うために河川敷に向かうと彼女の目からは涙があふれていた。話しかけようと心では思っていても、実際に話しかけることはできなかった。そうして、数分が経つ。すると、彼女のほうから僕に話しかけてきたのだ。
「いつからそこにいたの?」
ドキッとした。まるで彼女は自分の心が読めているような感じでいる。初めて自分がみじめでいるような感じがした。困って、涙を流している好きな女の子にも寄り添うことのできないちっぽけな人間だと。だから、悔しかった。
「ごめん、ごめん」
ただ、繰り返すことしかできなかった。
それでも彼女は言う。
「いいんだよ。君が謝ることじゃないよ。」
笑っている素振りを見せている。でも、涙があふれていた。あふれていながらも、僕の前だけではいつも笑顔を見せようとしていた。
僕は理解することが出来なかった。今にも誰かの助けを求めたい立場なのに、逆に笑顔を見せる。理解が出来なかった。
「なんで笑っていられるの?」
確か自分は素直に聞いた。
すると彼女は一番の笑顔を見せて
「、、、、、、だからだよ」
と言った。
そこで夢から覚めた。
気が付けばもう朝の6時だ。
何故だろう、目から涙が出ていた。
また見てください!