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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
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『三日目、地下探索』

翌朝。


「ごちそーさん」

「ごちそうさま!」

「お粗末様でした」


応接室にて三人で朝食を摂った後、さっそくフェレットの捕獲作戦が始まった。


まず、昨日のうちに作り終えたというリーデル謹製の罠がお披露目される。


テーブルにはまっているコアを獲物に見立て、棒で丸いカゴを支えるリーデル。


棒には長い紐がついており、それをテーブルのはしまで伸ばすとマリアーノちゃんを呼んだ。


「練習してみましょう。このヒモを引っ張ってください」

「はい!」


リーデルからヒモを受け取ったマリアーノちゃんは、ゆっくりとそれを引く。


カランという音とともに支えられていたカゴが落ち、コアを覆い隠した。


「すごい、すごーい!」

「ふふ、本番もよろしくね」

「うん!」


魔道具技師とオペレーターが和気あいあいと罠の出来を確かめている。動作に問題ないようで何より。


「それで、フェレットがいるのはどこなんだ?」

「はい、こちらです」


リーデルがカゴを持ち上げて横に置き、コアの操作を始める。


パネルに屋敷の見取り図が映し出された『フェレット(グロリアちゃん)』とマークされた光点も表示された。


「ここは?」

「地下室です。昨日、入り口から中を確認したところワインセラーのようでした。樽もいくつかあるようです」

「地下室か。ま、こんな立派なお屋敷だ。あっても不思議じゃない」

「坊ちゃん。ウチのお屋敷にも地下室はございますよ?」

「そうなの? 酒が置いてあるのか?」

「瓶のみですが来客用にいくつか。それよりお酒以外の方が多いですね。ほとんどが塩漬け肉ですけれど」

「オーガ親子の屋敷だからな」


ウチの屋敷にも地下室はあったらしい。もっとも酒ではなく肉が保管されているようだが。


「よし。じゃあ、さっそく向かおうか。マリアーノちゃん、そのカゴ重くないかい?」

「大丈夫!」


小さな体でカゴを抱えているマリアーノちゃんが元気よくうなずく。


「良し。リーデル、案内を頼む」

「……」

「良し。ママ、案内を頼む」

「はい」


めんどくせぇ。


一階の玄関ロビーに降りると、はしっこではシャーリーンが安置姿勢のまま待機している。


一方、閉じた扉の横にはメイド服姿の栄光号が立っていた。


「大きなお人形さん! と、ママとそっくりの……お人形さん?」

「ふふ、そうですね」


ゴーレムたちを見て驚くマリアーノちゃん。


オレは栄光号に念じる。すると栄光号がメイド服のスカートをつまみ、軽やかな礼をする。


「動いた!」

「あれらはパパの仕事道具ですよ」

「すごーい!」


興味津々という顔で、二体のゴーレムに視線を釘付けにするマリアーノちゃん。


遊びたそうに足を止めかけるが、フェレットへの興味が勝ったのか立ち止まらずに先に進む。


そのまま今降りてきた階段の裏側に周ると、陰になって見えなかった場所の床に両開きの扉があった。


「こちらから地下に降りられます」

「へー」


扉は床と同じ色に塗られており、パッと見ではわからない。


隠してあるというほどではないが、来客に見せるものでもないという程度の配慮だろう。


「マリアーノちゃんは、これ、知らなかった?」

「うん!」


オレがたずねると元気なお返事が返ってきた。


酒蔵とか子供には関係ない場所か。


「よし、行こう。開けるぞ」


オレはそれぞれのドアについている鎖を引き、扉を大きく開く。


「幅が狭いな」

「人間用の屋敷ですから」


両肩があたるほど狭い幅ではないが、オレにとっては広くない穴から下へ続く階段に足をかける。


「奥はどうなってるんだ?」

「すぐに酒蔵のようです。私もここから確認したのみで中までは見ておりません。フェレットを刺激して逃がしてしまうといけないと思いまして」

「そうだな。せっかくこんないい場所で見つけたんだ。広い屋敷の中で鬼ごっこするより、ここでかくれんぼの方が楽だろう」


独断では動かず下準備だけ整えるあたり、慎重なリーデルらしい。


「よし、じゃあみんな、静かに行くぞ」

「はい」

「はーい」


オレを先頭にゆっくりと階段を降りていく。


最後の階段を降りると、深い木の香りとカビの匂いが鼻につく。


「広いし、けっこうな数の酒があるな」


階段から降り立った場所で立ち止まって、地下室の様子をうかがう。


地下の酒置き場なんて言っていたから狭い部屋を想像していた。


しかし目の前に広がる部屋は広く、天井も高い。


応接室が十個くらい入りそうな広さがあり、シャーリーンが立って動いても問題ないほどの高さがある。本当に歩いたらまた床が抜けるだろうが。いや地下だから抜けないか?


そんな広い部屋の端には樽がいくつも置かれ、中央にはワインの瓶が置かれた棚が立ち並んでいる。


整然と並べられた高い棚は、まるで図書館のような光景でもあった。


天井には採光用の窓がいくつかあり、地下とはいえ完全な暗闇ではない。


だが、樽や棚に直接光が当たらないように配慮されている為か、全体的に薄暗く死角も多い。


唯一、陽が当たる場所に飾られているのは一枚の肖像画。


描かれているのは若い男だった。男のオレから見てもなかなか美男子だと思う。実にいけ好かない。


着ている服も金銀キラキラした立派なもので、相当に地位の高い人物らしい。


だが違和感もある。偉い人の絵なら地下ではなく、屋敷の目立つところに飾りそうなもんだがな?


「……なにより謎なのがコレだな。偉い人っぽいが憎たらしいからこんな事して、こんな場所に飾ってるのか?」


立派なイケメンの絵には『親の七光り』『おたんこなす』『う〇こたれ』などと罵詈雑言が書き込まれている。微妙な語彙が荒ぶる怒りを感じさせる。


謎に満ちた肖像画だが、オレがその真実にたどり着くことはないだろう。ちょっと興味はあるが。


「さて。物音ひとつしないけど、この部屋にフェレットがいるんだよな?」

「はい。少なくとも私たちが応接室を出るときまでは、マーキングは動いていません」


壁から顔だけを出して中をのぞきこんでいるオレの背中から、リーデルも同じように顔だけを出して様子をさぐるリーデル。


「パパ、グロリアちゃん、ここにいるの?」

「グロリ……? そうだね。どこかに隠れるんじゃないかな?」


ああ、確かそんな名前だったな。


「メスとは言え、魔獣に女性名をつけるとかどんなセンスなんだろうな」

「……」


リーデルにそう言うとジッとオレを見返してきた。わけがわからん。


「さて、どこに罠をしかけるか。先に軽く中を見てまわるべきか?」

「相手に気取られませんか?」


あまり騒ぎ立てれば、フェレットにオレたちの存在を気取られる可能性もある。


相手は獣だ。音や気配には敏感だろうし、ここに来た時点で感づかれているかもしれない。


しかし、逆にこちらが先に相手を見つける可能性だってある。


資料を見る限り警戒されれば厄介だが、そうでなければ酒癖が悪いだけのペット。


それに、あのヘビと似たような性格なら、人を見ただけで逃げ出すほど殊勝とも思えん。


「いや、行こう。ただし、なるべく静かにな」

「はい」

「はーい」


オレは物陰や足元にフェレットがいないか慎重に歩を進め、地下室を探っていく。


「……マジかよ」

「これは……」

「あー、グロリアちゃん、見つけたー」


直後、オレたちの慎重さをバカにしたような光景を目にした。


フタに小さな穴が開いた樽の上にヘソを見せて寝っ転がる一匹の白い獣がいる。


長い胴と短い手足。


オレたちがお探しのフェレットさん、グロリア嬢に違いない。


資料にはご主人様を勇敢に守ったと書いてあったが、どう見てもそんな立派なナイト様には見えんぞ。せいぜい場末の酒場で潰れたケンカ自慢のでっぱら親父だ。


「マリアーノちゃん。罠はまた今度な?」

「えー。つまんない」


残念そうな顔で胸に抱えたカゴをいじるマリアーノちゃん。


ごめんね、もう勝負ついてたから。


「首輪をくれ。この場でハメちまおう」

「はい」


リーデルがヘビの時より、やや大きめの首輪をオレに差し出す。


受け取ったオレは抜き足も差し足も必要ないほど爆睡している胴長ネズミに近寄る。


これで二匹目。


順調順調、そう思った時。


「……ヒッ」


声を押し殺したリーデルの悲鳴が背後から聞こえた。


何事だとオレが振り返ると。


「ヒィッ!」


オレは総毛立ち、悲鳴を上げた。


今までどこに隠れていたというのか。


その異形はオレたちの足元で静かにたたずんでいた。


いや、動く。動き出してしまう。


毛むくじゃらの恐ろしい足を一歩、また一歩と進め、オレたちに向かってくる。


八つの目、八つの足、鋭い牙。


どれもこれもが恐ろしい。


しかも見たこともない大きさだ。


オレの手のひらより大きいんじゃないか、コレ。


それがもうすぐそこまで迫っている。


「リーデル、下がるぞ……刺激するなよ、ゆっくり下がれ」

「は、はい、坊ちゃん」


オレたちは降りて来たばかりの階段に向かって、あとじさる。


弱者はた無様に脅えて、逃げるしかできない。


しかしマリアーノちゃんだけは動かなかった。


いや、恐怖で動けないのか? と思ったが、首をかしげてこんな事を言ったのだ。


「パパ、ママ、どうしたの? クモさん、怖いの?」

「マリアーノちゃん、しーっ!」

「マリアちゃん! 刺激してはダメです!」


子供とはなんと恐れ知らずの生き物だろう。


あんな恐ろしいヤツが目と鼻の先でのたくっているのに、まったく物怖じする様子が無い。


オレもリーデルも虫だけはどうにも苦手だ。


クモが虫の仲間かどうかは細かい事はどうでもいい。伝わって欲しいのはこの恐怖だ。


特にイモムシ系と多足系は見ているだけでぞぞぞっとする。


しかもこのような逃げ場のない室内でエンカウントした場合、見失う事だけは絶対にあってはならないので、魂をけずって凝視するしかない。


そうして刺激しないように、その場から離れる事しかできないのだ。


だが。


「マリアが捕まえてあげようか?」

「え?」


とオレが声を漏らしたと同時に、マリアちゃんは持っていたカゴを頭上にかかげ、てててっと走り出す。


そして。


「はい、つかまえたー」


クモの上からカゴをかぶせ、ものの数秒で捕獲してしまった。


「おお……」

「すごいですね……」


勇者の偉業に言葉を失ったオレたちだが、すぐに喝采を送る。


「マリアーノちゃん、すごいぞっ! 絶対にそのカゴどかさないでくれ!」

「マリアちゃん、よくできました! 絶対にそのカゴはとっちゃダメですよ!」

「ふっふー!」


罠が使えなくなって不満顔だったマリアーノちゃんだが、活躍できてご満悦だ。


一時はどうなるかと思ったが、思わぬ勇者の登場でグロリア捕獲作戦が続行できる。


「まったく、どうなる事かと思った」


気を取り直し、フェレットに首輪をはめようと樽に向き直ると。


「……おはようさん。お目覚めか、酔っ払い」


酔いつぶれていたグロリア嬢が、二本の後ろ脚で立ち上がりこちらを見ていた。

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