表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
45/65

『作戦準備』


「んー……ママ……パパ……」


朝食の後、お茶をしながらテンションが高くなったマリアーノちゃんの話を二人で聞いていた。


やがて話し疲れてしまったのか、今はソファで座ったまま眠っている。


「リーデル」

「はい」


オレが呼ぶとリーデルはマリアーノちゃんをソファに横たえて薄めの毛布をかけると、オレの隣に移動してくる。


さっそく色々と始めたい。やる事は山積みだからな。


「ダンジョンコアのチェックを頼む。まず、貯まっているマナの量はどんなもんだ?」

「はい」


空になったカップやサンドイッチが乗っていた皿を端によせ、テーブルにはまっているコアの操作を始めるリーデル。


オレたちがオークに借りているコアとは違い、浮き出したモニタや操作パネルはいたるところが金縁だ。さすがいいトコのお嬢様のコアだ。金かかってんね。


「かなりのマナがストックされています。すでにダンジョン化したこちらのお屋敷を保守管理しているため、常時マナを消費していますが……現状のペースであればあと10年は運用できます」

「そこまで長居するつもりはないけどな。屋敷の全体図とか出せる?」

「はい。外観と見取り図、お出しします」


屋敷の外観、各階の見取り図、中庭の地図などが宙に浮かび上がる。


データとして出てくるという事はこれらの範囲はコアがダンジョンとして掌握している証明でもある。


保守管理にはリーデルが言っていたように常にマナを消費するが、動体反応の確認、破損個所の修復なども可能。


いくつもの画像が浮かび上がる様子にオレは感動する。


いいね、まさにダンジョンマスターという感じだ。


穴倉ワンルームのダンジョンライフしか経験のないオレにとっては実に新鮮。


「おっ、そこ。シャーリーンが踏み抜いた床は直せるか?」


一階玄関ロビーの画像にはデカい穴と、玄関を塞ぐために横たわったままのシャーリーンが映っている。画面の上部には黄色の文字で『軽微の破損・修復推奨』と表示されている。


床の修理はフランソワにも言われていたし、忘れないうちにやっておこう。


「はい。修復の為、マナを使用します」


リーデルがパネルを操作すると、穴が一瞬で消えていた。


代わりにいくらかのマナが消費されたというメッセージが表示される。


あとはシャーリーンか。フランソワと協力体制になった今、玄関の扉を押さえ続ける必要もない。


「屋敷中の床を補強してシャーリーンが動けるようにすると、マナはけっこう食うか?」

「お屋敷の全てを、ですか? あの重量に耐えうる補強と維持となると……ざっと見て保守期間が10年から5年に縮まります。ですが、床を補強したとしてもあの巨体で廊下は歩けませんし、ドアもくぐれません。活動可能になる場所はロビー周辺のみとなりますよ?」

「ワリにあわんな。何かあった時のためにもマナはとっておきたい。ならシャーリーンは中庭に出して外敵からの警戒を……いや、こんな屋敷に侵入者なんていないか」


ペットを連れた優雅なお金持ちのバカンスや、そんなお金持ちのしりぬぐいに来るオレたちでもない限り来訪者はいないだろう。実際、長い間、人の出入りはなかった。多分これからも。


であれば、無理にシャーリーンを展開する理由も必要もない。


「よし、決めた。中庭にさらして雨風で汚れるのもイヤだし、シャーリーンは玄関ホール……のはしっこで安置モード待機。床が抜けないようにそっと移動しろよ」


オレがモニタ越しにそう念じると、見取り図マップに"超重量物1"とマークされた点がじわじわと移動し、玄関ホールのすみっこで停止した。


仮にも女の子の名前がついたゴーレムに、超重量物、はかわいそうだなぁ。


「そのマーキングネームも変えておいてくれ、他のもな」

「はい」


リーデルが"超重量物1"を"シャーリーン"と変更する。


応接室にいるオレたち"生体1""生体2""軽量物1""重量物1"も、それぞれ、坊ちゃん、リーデル、マリアちゃん、栄光号、とリネームしていく。


「軽量物、か。どこから見ても普通の女の子だが、やっぱり人形なんだな」


眠っているマリアーノちゃんを見るが、どう見ても生身の女の子だ。


その閉じていた瞳が開いた。


起こしてしまったかなと思ったが、実に可愛げのない仏頂面がむくりと起き上がってオレを見た。


「よお、フランソワ。サンドイッチうまかったか?」

「馳走になった。マリアがとても喜んでいたよ」


マリアーノちゃんが眠ったからか、フランソワが表に出てきたか。この際だ、色々と聞いておこう。


「お前さん人形だろ? メシが食えるのはどういう理屈だ?」

「理屈というほどでもない。食事や排せつはそう見えるようしているだけで、文字通り子供だましさ。この見てくれも魔力を圧縮して固形化させて成形、色を変えたものを人形のガワにしているだけだ。幻影とは違い、お面をかぶっているようなものさ」


フランソワが自分の頬をつねる。むにっと頬の形が変わる。


「表情を変える為に柔らかく作ってある。どうだ? なかなかよく出来ているだろう?」

「魔力の固形化? なんかスゴそうだけど聞いた事ないぞ」


リーデルを見ると、何かに思いついたようにして解説してくれた。


「魔力の固形化……ようするに魔石と同じ原理だと思いますが……」

「ああ、なるほど。マナが自然と固まったものが魔石だもんな」


マナが濃い場所では魔力がたっぷり詰まった魔石や魔結晶が採れる。魔力を使い切った後も形としては残り、それらに魔力を再充填しても使われている。


「ですが、魔力を人の部位に似せて凝固、形成、着色までするなんて。しかもこんな精密な造形なんて考えられません。もしかしてフランソワ様はご自身で魔石も作る事ができるのですか?」


自分の魔力を結晶化して魔石を作る、か。理論的には可能なんだろうが、そんな事をできる人物なんて、と思っていたら。


「魔石作りは生前の内職だった。貧乏伯爵家の当家にとって、重要な稼ぎ口のひとつだったからな。熟練の域だと自負しているよ」


フランソワが笑いながらリーデルに向き直る。


「話を戻すが、摂った食物が霞になって消えるわけはない。咀嚼した後、足の空洞部分に貯めてあるだけだ。マリアーノには内密に破棄する。リーデル嬢、せっかくの食事と食材、好意を無駄にしてしまう事を深く詫びる」


そう言ってフランソワが立ち上がり頭を下げた。


その所作と考え方は、意外だが納得でもある。


コイツは態度が不遜で悪者っぽいが、かわいい妹を想う姉だ。悪者のはずもない。


「いえ。食事は腹を満たすためだけのものではありません。少しでも心を満たす事ができるなら、それは作り甲斐のある事です」


リーデルも立ち上がり、お辞儀を返していた。


「救われる。リーデル嬢。これからもしばしの間、お願いしたい」

「はい。承りました」

「ありがとう、リーデル嬢。さて」


元の態度に戻ったフランソワが、どっか、とソファに腰を戻す。


「"やりたい事リスト"。さっそく一つ目をやっつけたか」


フランソワが"三人でお食事"という箇所を見る。


「ああ。なんとかな」

「次はどうするつもりだ?」

「簡単そうな項目からやっていくよ。まずはこれだろ」


パパに肩車をしてもらう、というものがリストにある。


「ふむ。肩車か。坊主であればこの体など羽根のごとき軽さだろう。ボーナス問題だな。その次は……」

「そうだなぁ、コレなんか……」


オレとフランソワは、肩車クエストはすでに終わったものとカウントしていたが、横からリーデルが口をはさむ。


「――肩車、とはそんな安易なものでしょうか?」

「ん? なんだって?」

「どういう意味かな、リーデル嬢?」


リーデルは真剣な眼差しでこう言った。


「肩車。ただ肩に乗せるだけなら荷物と変わりません。それでマリアちゃんが満足するでしょうか? いいえ、そうではありません」


なんか語り始めたぞ?


「私も幼い頃、父に肩車をしてもらった事があります。そして思いました。確かにいつもと違って高い視線は楽しかった。ですがこうも思いました。何かが足りない、と」


コイツもイヤな子だな。足りないとか文句垂れないで素直に喜んでおけよ。


「ふむ。リーデル嬢は何が足りないと思った?」

「はい。その時はわかりませんでしたが、今になって理解しました。それはママの存在です」


グッと拳を握るリーデル。


「肩車をされた娘はパパの肩で『ママ、高いわ! とっても楽しいわ!』と喜ぶのです。自分の楽しさを共感してくれる母親がいてこそ、肩車という儀式の中に在る家族愛が発露するのです」


途中から難しい言葉が混じってきてよくわからんが……要するに、お話し相手としてママ役が必要という事か。


オレはフランソワを見る。どう思う、と?


「私にも幼い頃はあったが親がいないに等しい境遇だったからな。リーデル嬢の提案の正否は判断できん。だがデメリットはないし、好きにすれば良いのではないか?」


やれることならやっておけばいい、そんな顔のフランソワ。確かにデメリットはない。


「なら、オレがマリアーノちゃんを肩車して中庭あたりを散歩しつつ、リーデルが横についてくればいいんじゃないか?」

「はい」

「……別にあらためて言う事でもなくない?」


そもそもリーデルだけ置いていく理由もない。


「ついていくだけでは弱いのです! パッ、パパッと! ママは! 仲睦まじく手をつないでいる必要があります!」

「なるほど?」


演技派のリーデルは色々とこだわりがあるようだ。この子のこういう所、本当にめんどくさい。


「坊主。そろそろマリアーノが起きそうだ。"代わる"ぞ?」

「わかった。とにかくそんなカンジでいくか。この後、さっそく中庭で肩車クエストを始めよう。細かい事は現地でリーデルが指示してくれ」

「はい! おまかせください!」


そうして目覚めたマリアーノちゃんに、こうたずねた。


リストにある"肩車をしてほしい"という部分を指さし、今から中庭を散歩してみないか、と。


マリアーノちゃんは、嬉しそうな顔で何度もうなずいた。


――だがオレはこの時、予想もしていなかった。


この十分後、あんな目に合う事になるなどと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ