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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
~この館では、とある主従が新婚暮らしをしています! ただし呪いの生き人形を添えて~
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『魔女との契約』

「さて、マリアーノちゃん。少しお話してもいいかな?」


オレは親睦を深めている女性陣に声をかける。


「は、はい!」

「マリアーノちゃんには何か願い事があるってフランソワに聞いたよ。オレたちに出来る事ならお手伝いしたいけど、どうかな?」


子供を相手にするのは、言葉一つにも気を遣うものだ。


今まで子供の世話なんてした事もないし、なんならオレはリーデルにお世話をされる側だからなおさらだ。


「え、えっとね」


うつむき。


けれど、上目遣いでオレを見るマリアーノちゃん。


次に横に座るリーデルを見て。


また顔を反らした。


言いにくいというより、恥ずかしいという表情か。


フランソワにも恥ずかしがって話してくれないと言っていたからな。


「遠慮なく言ってごらん?」

「う、うん……えっと、ええと……」


オレは慣れない笑顔を浮かべながらうながす。


マリアーノちゃんも、小さな口を何度も開いては閉じる。


リーデルはニコニコしながら、オレとマリアーノちゃんのそんなやりとりを見ていた。いや、手伝えよ。


そうして時間をかけ、なんとか聞き出したマリアーノちゃんの願いは……なんとも言えないものだった。


「パパとママとたくさん遊びたい! 一緒にお食事して、一緒のベッドにみんなで並んで眠るの! でも、お仕事でずっと帰ってきてくれないから……」

「……そっか」

「うぅ……パパ、ママ……ぐすっ」


両親の顔を思い出したのか、泣き始めるマリアーノちゃん。


マリアーノちゃんは、自分がすでにこの世の者ではないと知らない。


当然、ご両親もいつか帰って来ると思っているのだろう。


リーデルがマリアーノちゃんの手を握った。


難しい望みだ。いや、誰にも叶えられない願いだ。


おいフランソワ。どうすりゃいいんだよ、コレ。


「ねぇ、マリアーノちゃん」


リーデルがソファから降り、マリアーノちゃんの前にヒザをついて座って視線を合わせた。


指でマリアーノちゃんの優しく涙をぬぐいとり、優しく話しかける。


「パパとママとどんな遊びがしたいの?」

「……ぐすっ……ええとね」


リーデルに笑顔を向けられ、マリアーノちゃんは、ぽつぽつとやりたい事を話し出す。


たくさんしゃべって疲れたのか、マリアーノちゃんは話をしている途中でウトウトとし始め、ついには眠ってしまった。


今はソファで横になって、すうすうと寝息を立てている。


テーブルの上にはリーデルが書きとめた"マリアーノちゃんのやりたい事リスト"ができあがっていた。お見事。


「しかし、どうしたもんかな」

「ええ。難しいですね」


オレとリーデルは同じソファに座り、肩をくっつけてテーブルの上のリストを見ている。


・パパに肩車をしてもらう。

・ママの作ったゴハンをみんなで食べる。

・大きなペットを飼ってみたい。


他にもあるが、そんな願いが十個ほど。


おそらく一般家庭のパパとママなら簡単なものから、ちょっとがんばれば叶えられるものだろう。


だから絶望する。


オレはパパではないのだから。


「うーん、どうしたものか」


うなっていると、対面のソファで横になっていたマリアーノちゃんが起き上がり、こちらを見る。


うるさくして起こしてしまったかと思ったが、そうではなかった。


顔は同じなのに一目でわかる、この威圧的な無愛想ヅラ。


「おはようさん、フランソワ。ところでコイツを見てくれ。このリスト、どう思う?」


フランソワがリストを一瞥し、肩をすくめて口を開いた。


「親の愛に飢えた少女らしい願いだ、ぜひ聞き届けて欲しい。ちょうど年頃の男女がいるじゃないか。リーデル嬢が母親役、坊主がその旦那役をやれば良い。少し本気のママゴトをするだけで妹は満足するだろうさ」


いやいや、そんな雑な。


そもそも、オレと夫婦ごっこなんてリーデルが受け入れるはずがない。


そう抗議しようとした時。


「しっ、仕方ないですね! この状況、やるしかありません! 私は今日からマリアちゃんのママです!」

「うるさっ!?」


横から大声でリーデルが即答した。


オレは鼓膜の痛みに耐えつつ、リーデルを見る。


「リーデル? 同情するのはわかるが、簡単に請け負うもんじゃないぞ?」

「べ、別に、人間の子供に同情なんてしていませんよ?」


いや、別に同情するのはかまわんよ? オレだってかわいそうだと思うし。ただ、入れ込み過ぎるなって話だ。


「けれど仕方ないじゃないですか。そうしないとコアの回収も私の呪いも解けません。だから、私と坊ちゃんが夫婦を演じるのも仕方ない事ですよ!」


確かに仕方ない。他に選択肢もない。


「予行練習にもなりますし」

「は?」

「あああしまったなんでもありません!」


言いたい事を言い終えたのか、リーデルは"マリアーノちゃんのやりたい事リスト"を手に取って、ああでもない、こうでもないとうなり始めた。


ママゴト遊びは決定らしい。


「……コアやペットだけなら逃げ帰る事もできたけどな。リーデルにかけられた魔女の呪いを解くにはそれしかないか。ないんだよな?」


非難をこめてフランソワを魔女と呼ぶ。


「くくっ、その通りだ。だが魔女でなくとも女は自分の願いの為なら何でもするものさ。時に愛する人に嘘をつくことだっていとわない」


フランソワがリーデルを見ながら笑った。


お前みたいな性悪女と真面目なリーデルを一緒にするな。


ともかく、そういう事になった。なってしまった。


「ところでフランソワ。オレたちの間には友情も信用も契約書もないが、それぞれの目的が達成されるまでは協力関係になったと考えていいんだな?」

「ふむ。そうだな。何が言いたい?」

「実はドリルお嬢様が置いて行ったペットの回収も頼まれてる。フランソワにとっても望まない同居人だろ? ペットを探し回る際、屋敷の中をウロついても問題ないか?」


これから泊りがけでマリアーノちゃんとおママゴトをするのだから、あえて確認するまでもないと思うが一応の了承をとっておくに越したことはない。


幼いマリアーノちゃんが知らないだけで、立ち入り禁止の部屋があってもおかしくない。


「ああ、忘れていた。屋敷を獣どもの糞尿で汚されるのは辟易する。獣共の始末も合わせてやってもらわんとな。どのみち妹の望みをかなえるまで屋敷に住まうのだ。家賃代わりに一匹残らず頼むぞ? あと立ち入り禁止の場所は無いが調度品は壊すな。どれも年代物だ。古いだけとも言うが生前、長らくを共にした品々だ。価値はなくとも愛着はある」

「家主さんのご理解とご協力に感謝するよ。こっちも仕事だからな。しっかり回収していくつもりだ。ところでコアの設定ってイジった? なんかもう稼働してるっぽいんだが、オレが管理しても構わない?」


オレは目の前で真っ二つになって転がっているテーブル、その片方にハマっている黒い宝石のような石を見る。


依頼人のお嬢様は設置だけして起動はさせていなかったばすだが、目の前のコアはすでに稼働状態にある。


「教会禁制のダンジョンコア、か。かつて見る事もかなわなかったが学術的興味はあった。少し触らせてもらったが中々便利なものだな。王や教会が潰したがるはずだよ。こんなものを持った反逆者が現れれば国家転覆もかなうかもしれん。少なくとも生前に私がこれを持っていれば、と悔やまれるよ」


なんともいえない物騒な顔でダンジョンコアを見るフランソワ。


そしてダンジョンコアに触れ、コントロールパネルを表示させてトントンと指で操ると、真っ二つだったテーブルが蒼い光に包まれ、もとのように一つに戻る。


初めて見たってわりには使いこなしているな。


天才肌っぽい口調や態度に違わず、そういうタイプらしい。


「すでに屋敷はダンジョン化し、老朽化していた所は魔力を使って修繕も行った。もはや私にとっては用済みだ。あとは好きに使え。管理者権限の譲渡はできないようだが、扱うだけなら問題なかろう? だが、あの狼娘がコアを設置した際、いくつか機能の制限をかけているようだ」

「わかった。ならコッチのいいようにやらせてもらうよ。機能のロックに関しては後で確認しておく」


コア機能の一部が使えないか。


コアメールさえ使えれば、最悪どうとでもなるが色々と要確認だ。


「良し、話はまとまったな。私は眠ったマリアーノの体を寝室に送っていく。あとは若い二人にまかせるよ。頼んだぞ、新婚さん?」


といって、フランソワはパチンと指をはじく。


すると応接室の扉の両サイドに蒼い光が立ち上り、二体のメイドスケルトンが現れて扉を開いた。


フランソラが出ていくと、骨のメイドさんたちは音もなく扉を閉め、再び蒼い粒となって消えていった。


「おっかない自動ドアを気軽に使いやがる。こっちの身にもなってほしい」


正者が死者に抱く本能的な忌避と恐怖は、慣れろというほうが難しい。


リーデルも無言のところを見ると、このお化け屋敷に滞在する事に恐怖を覚えているのだろう。


言葉はうまくないが、リーデルを元気づけるため口を開く。


オレも男だ。虚勢を張るのも役割のうちだ。


「なぁ、リーデル」

「し、新婚さん……」


呼び掛けても気づかないリーデル。


なにかしらブツブツと呟いている。


「頼りないかもしれんけど、オレもがんばるからさ。なんとかうまくやっていこうぜ? 少なくともダンジョン経営みたいな危険はなさそうだしさ」

「坊ちゃん! がんばりましょう!」


なんかしらんがヤル気があるのは良い事だ。


とりあえず今夜の寝床になる部屋を探して、明日からがんばるか。


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