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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
32/65

リーデルafter2(留守番リーデル:前編)

「じゃ、行ってくるぞ?」

「はい、道中、お気をつけて」

「気を付けるも何も、そろそろ……」


玄関ホールで最後の身支度を整えていたオレは、つま先立ちになったリーデルにネクタイを直されながら笑う。

見計らったように、来客を知らせる呼び鈴が鳴った。


「お迎えの馬車のお着きだ」


オレが扉を開けると、そこには四頭仕立ての立派すぎる馬車が停まっていた。

御者席には帽子を目深にかぶったエルフの男性が座っている。


目が合い互いに軽く会釈する。

見知った顔だ。


そして後ろに曳かれている馬車の扉が開くと、颯爽と飛び降りる人影があった。


「やあ! お待たせ! 準備は出来ているかい?」


師匠である。


「はい。この度はおめでたい席にお呼ばれしていただいて」


オレはあえて、あやふやで間違った言葉遣いで答える。

すると。


「ははは! 意地悪だね、我が弟子は! ボクが毎回毎回困っているのを知ってるくせに!」

「ええ。ですから僭越ながら、今回もオレで用が足りるならお付き合いいたしますよ」

「うん、いつもありがとう!」


笑顔満開の師匠だがオレの背後に控えるリーデルに視線を向けると、しおらしい態度になり。


「え、えっと。また、ご主人をお借り、します」


と、恋する乙女でもそんなか細い声にはならないだろうというくらいに縮こまって声をかけた。


「はい。我が主をよろしくお願いいたします」


対してリーデルはいつもの無表情で答え、完璧なお辞儀を返す。


「じゃ、行ってくる。一人で心細いかもしれないけど。今回の師匠の講演予定だとだいたい十日もあれば戻ってこられるから」

「ご心配なく。寂しくて眠れない年でもございませんから」


いつもの無愛想な顔である。

ここで、早く帰ってきてくださいね、とウソでもそう言ってくれればオレもカッコがつくのだが。


「……ちゃんと戸締りしろよ? あと寝る時は、防犯の為にも部屋にシャーリーンとアイちゃんたちも一緒にな?」

「そこまでする事もございませんから」

「泥棒とか入ると怖いじゃん」


いつだって用心に越したことはないと思う。


普段ならば、ひきこもりとはいえ、オーガのイケメン子息がいるからめったな事は起きない。

しかしもし張り子のオーガすら不在となると、万が一のこともあるかもしれない。


「坊ちゃんがおらずとも、戦爵位をたまわった旦那様のお屋敷に盗みに入る命知らずなんておりませんよ」

「そうか? それなら……いやいや、用心はしすぎてダメって事はないから! なるべく早く帰るよ!」

「はいはい、かしこまりました。では就寝時にはゴーレムを部屋に待機させておきます」


用心するのはそれだけじゃないぞ。


「くれぐれも気を付けてな。火の元とか」


料理で火を使うからには、そのあたりも……。


「……お師匠様がお待ちですよ」


リーデルに言われて外を見ると、馬車の扉を開けたままイスに座って足をブラブラさせている師匠と目が合った。


「そ、そうだな。とにかく、気をつけてな!」


オレはあれこれと不安の種になりそうなことをリーデルに確認する。


いや、わかってる。

無駄な心配だという事はわかっているんだ。


オレよりはるかにシッカリしているリーデルに、なんの説教だという話であるのだが。


やっぱり若い女の子が一人であんな大きな屋敷で十日もというのは心細いに違いない。

親父もリーデルパパも、相変わらず家を空けている中、オレまでいなくなってしまうのだから。

今は気丈に振舞っているが、オレがいなくなったら泣いてしまうかもしれない。


……そんなわけないか。


ともかく、そんなわけでオレは師匠の講演の補助というか、たまに質問や会話、パーティーのお誘いなどで寄ってくる女性客から師匠をガードする護衛として同行すべく、馬車に乗り込んだのだった。




***




主人が乗り込んだ馬車が見えなくなるまで見送ったリーデルは、やがて下げていた頭をあげて、ふう、と一つ息を吐く。


「坊ちゃんが心配してくれるのは嬉しいけど……心配の仕方が子供を相手にするような内容なのよね……」


少なくとも愛する恋人に向けてならば、一人でも怖くないか、とか、火元がどう、とかは言わないであろう。

むしろ、恋人……などとありえない仮定をした自分が急に恥ずかしくなる。


「ま、まぁ、いいわ。一人なのも久しぶりだし。少し羽根を伸ばさせてもらおうかしら」


リーデルは屋敷に戻ると扉に施錠をした後、自室に戻る。

この後、少なくとも数日は来客の予定もない。


仕事着であるメイド服を脱ぎ、クローゼットの奥から衣装ケースを引っ張り出した。

そして、その中にしまっておいたピンクのジャージを取り出す。


「あ」


その時、一緒に隠しておいた写真が舞い落ちる。


「……ふふ」


今も屋敷のどこかで這いずりまわっているペットのうちの一匹が、先日のダンジョン経営の際に撮った記念写真だ。

しばらくの間は処分しろと何度か言われたが、うまく誤魔化し、結局うやむやにして手元に残す事ができた。


決して誰にも見つかってはならないものなので、こうして奥底にしまってある。

リーデルは再び写真を衣装箱の内ポケットにしまいこみ、ジャージに着替える。


こちらも思い出の品ではあるが実用品でもある。

使ってやらないと勿体ないと機会があれば袖を通している。


そう。

リーデルは誰もいないこの機会に。


「大掃除よ!」


誰もいない、つまり誰にも邪魔されず、誰に気を使う事もなく、思いのままに掃除ができるのだ。

羽根を伸ばすという意味合いが本人にとって楽しむ事というのであれば、これはこれで間違ってはいないのだろう。


「銀食器を全部出しちゃう? それともカーテンとカーペットの洗濯? ……いえ、ここはむしろめったにできない坊ちゃんの部屋の大掃除ね!」


そうと決めれば、さっそく掃除道具をそろえて階段を上っていく。

実に楽しそうな顔で、外出したばかりの主人の部屋を目指すリーデルだった。


一番日当たりの良い、二階の角部屋の前でリーデルは抱えていた掃除道具を降ろし、腕まくりをする。


「さてと」


ドアを開け、男性の部屋にしては片づけられている室内に入り込む。

とはいえ、リーデルとて別の男性の部屋を知っているわけでもない。


父やこの屋敷の主などは家にいる時間の方が短いのでは、というほどに外に出ている為、そもそも部屋が散らからない。

せいぜいが寝室のシーツなどを洗濯する程度で、部屋の掃除もほどほどで十分だ。


もちろんそれ以外の男性の部屋の状況など知り得るはずもない。

よって、リーデルの男性の部屋が散らかっているというイメージは、本などで得た知識だ。


「このあたりは勝手に触ると坊ちゃんも困るでしょうし」


多少、ゴーレム関係の品が机上に散らばってはいるものの、書籍などはきっちりと本棚にしまわれている。

以前と違うのは本棚にダンジョン関係の本が増えている所だろうか。


「このあたりの本は相変わらずみたいだけど」


それとは別に、ちょっとわかりにくい所、例えば本棚に収めている本の奥の方には『自分に自信が持てるようになるために!』とか『ひきこもりは罪ではない!』など、本人にとってはやや後ろめたいものが隠されている。


「気にしすぎなのよね……ま、まぁ、もうちょっと自信というか、強引な性格でもいいかな、とは思うけど」


誰にも聞かれないとわかっているだけに、独り言の数も増え、声も大きくなるリーデルだが、手もきっちり動いている。


手際よく掃除をしていく。

その際、ベッドの下やタンスの裏、衣装ケースの奥などに、あくまで、あくまで掃除の過程で仕方なく、チェックをしていく。


それをこの部屋の主が見たら、ひどく焦る……事もない。


「やっぱりないわね。何もないわ」


今回も特にお目当てのものは見つからなかった。

女性に興味がないというわけではないと思うのだが、そういった本といったものが痕跡すらない。


「……うーん」


悩む顔は乙女だが、やっている事は鬼畜の所業である。


そもそもこの部屋の主は、それを承知している為、危険物の一切をこの部屋から排除している。

部屋に入るな、と言えばそれでいいかもしれないのだが、それもまた難しい。

リーデルの仕事を取り上げるという事もあるのだが、なぜ入ってはいけないのかと問われた時に答えに詰まるからだ。


「ここにもないし」


ソファのクッションを外して確認するリーデルは、こうして今日も存在しないものを探す。

なんでもいいから見つけられれば、主の好みの女性のタイプの手がかりになるだろう、という乙女心を抱いて。


そうして三日にわたり、丹念に清掃された主の部屋は輝きを発しているような仕上がりだった。


「……はぁ」


反して、諦めきれずに三日も時間をかけたリーデルの表情は曇ったままである。

そうして何の成果も得る事なく、ため息とともに掃除道具をかかえて主の部屋から撤収したのだった。


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