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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
3/65

すごく……寒かったです……ッ!


「着いた、やっと、着いた……」


高度が下がり地上に降り立つ飛竜。


紫になった唇も、ようやくまともに言語を操れるほどにあったまってきた。


「お疲れ様でした。坊ちゃんのコートの中、なかなかぬくぬくでした」


襟から頭を出しているリーデルがねぎらってくれた。


オレがコイツの忠告に従ってちゃんとした防寒着をもってくれば、こんなに窮屈な思いをさせずに済んだかと思うと申し訳なくなる。


「じゃー、行くか」

「……ええ、そうですね」


ボタンを開いて、オレのコートから解放されるリーデル。男くさいとか言われなくて良かった。


リーデルが自分の懐からピンクのガマ口財布を取りだす。


「ご苦労様でした」


リーデルが飛竜に声をかけると、飛竜がくるる、と鳴いて高い位置にあった首をもたげる。


『お疲れ様でした。お二人様と大型貨物一つのお急ぎ便となります。料金は……』


飛竜の首の下あたりにくくりつけてある魔道具スピーカーから、ややかすれた初老の男の声が響く。


声の主はこの飛竜のオーナーたる竜騎士だろう。


戦士系ジョブは年をとって引退すると潰しがきかないが、召喚系や使役系はこのように再就職に事欠かない。


「それではこちらを」


スピーカーと一緒にくくりつけてある革袋へ、リーデルがよく見えるように料金を入れるとスピーカーから『確かに頂戴いたしました』と声がかけられる。


自分が使役する飛竜と視覚や聴覚の情報伝達ができる竜騎士にとって、運搬業務は天職だな。


『この度はご利用ありがとうございました。飛竜便をご用命の際はぜひまた弊社に』


リーデルが支払いをしている間にオレは、飛竜の背中にくくりつけられてあったオレの身長より大きな木箱のロープを解いて降ろす。


腐っても引きこもってもイケメンじゃなくてもオーガだ。純粋な力作業ならどんと来い。


飛竜が飛び去り、オレは木箱を肩に担ぐ。


「さて。こっからどうする?」

「そうですね。まずはあちらの森で、ダンジョンを設置できる場所を探しましょう。地図である程度のめどはつけてありますが、現地で確かめてみない事には」


リーデルいわく、人間界の地図を色々とあさって調べた結果、この辺りの土地が良いらしい。


ダンジョン設営に向いた深い森がありつつも、さほど大きくはない人間の街がほどほど近くにあるそうだ。


人間の街に近いと冒険者が襲いに来ないかとビビったオレが聞いたが、逆に人間の街がないというのは良くないらしい。


人間が全くいないという事は、生活圏に向いていないという事。


もしくは人間の手に負えない危険な野獣や魔獣、魔物が生息しているという事でもある。


今回借金取りが貸してくれたダンジョンコアは、洞窟に設置するのが効率的なタイプだそうで、危険地帯であるとそういった害獣が紛れ込む事もあるのだ。


よって、ほどほど拓けた土地でありつつも、ぼちぼち未踏の森があるという地形がベストなんだってさ。


他にも色々とあるようだが、難しい事はリーデルが考えた方がいい。


は? オレの意見? 役に立つと思うん?


「ほいほい。じゃ、方向の指示よろしく」

「はい、お願いいたします」


オレが先に立ち、このムダにデカい体で森の茂みを分け入っていく。


地図とメモを見ながら左、右、真っすぐと指示するリーデルに言われるままに、小枝、大枝、倒れた巨木、転がる巨石、そういった障害を露払いして進んでいく。


華奢なリーデルに、この山道はシンドイだろうからね。オレでもやれる事があるなら。


担いでいる木箱がなければ片手で抱っこして、片手で障害を取り除いていく方が早い。


ただもし木箱がなくて両手がフリーでも、口が裂けてもそんなん言い出しませんけどねー。


指示がこなくなったので、背後を振り返ってリーデルを見る。


なんかすごい目でオレが担いでいる木箱を見てる。


「なにさ?」

「……いえ、別に。しばらくこのまま直進です」

「あいあい」


直進よろこんでー、と返事をしつつも、背後からは変わらず木箱に向けて突き刺さる視線を感じる。


難しいお年頃ですかね? だいたい同じ年齢だけど、若い女の考える事はよーわからん。


そこそこ歩いた先でリーデルが、ここです、と足を止めた。


深い森の中、ポッカリと開けた空間があった。


小さいながらも滝とそれが流れ落ちる湖があり、周囲の木々には実も成っている。


「ほーほー」

「それであちらの滝ですが……ほら、見えますか? 崖に沿うように小道がありまして。そこから滝に隠れたように出来上がった洞窟に入れるそうです」


お、マジですか。いかにも隠れ家ってカンジでいいじゃん。シブい大人のイケてる趣味だ。


滝のしぶきからリーデルをかばいつつ、崖にそった小道を連れ立って歩くと、確かに滝の裏側に奥へと続く道があった。


「こんなの知ってるとかスゴいな。どうやって調べたの?」

「ダンジョン設営サポート情報会社というのがありまして。こちらの希望を伝えて、それにマッチする情報を売ってもらいました」


その際、資料に間違いがないか直前調査期間として二日かかり、リーデルがその調査結果を是か非か判断に一日かけたそうだ。


確かに昔はこうでしたけど、今は違いましたとかでは問題あるしな。


オレたちの出発もそれだけズレて、三日後だったというわけか。


「でも、けっこー金かかったんじゃない?」


出稼ぎの為の準備出費がなんかスゴそうだ。必要経費と言えばそうなんだろうけど、どっから出てきた金なんだか。


「あ、ウチの金か」


けどさ、ならその分を利息返済に充てた方がいいとかない? 本末転倒とか大丈夫?


「いえ、お屋敷のお金は父が管理しております。ですが、私、いささか蓄えがございまして。普段も特に浪費するものがありませんし、使うなら今かと」

「リーデルの金かよ。もしかしてさっきの飛竜に払った金も?」

「はい」


はいじゃないが。


「いや、それはマズくない? いや確かに雇用先のピンチはお前の生活にもかかわる事だけど」

「こちらは別に返して頂かなくとも結構です。私が勝手に……」

「いやいや、そうはいかんでしょ?」


さすがにそれはなぁ……。


ここでオレがじゃお言葉に甘えてー、とか、もうそれはヒッキーじゃなくてヒモじゃん。


親父のスネに歯型をつけるのは抵抗ないが、リーデルの貯めたお金を取り上げるとか絶対に無理。


「ちゃんと金額メモっておけよ? 親父に言って返してもらわんと」

「いえ、そんな恐れ多くて」

「何がどうして恐れ多いのよ。こっちのセリフだわ」


雇用主の借金騒動に巻き込まれた挙句、その借金の為に自腹を切るとかブラックどころじゃないぞ。


「では……坊ちゃんが返してください」

「は?」


何言ってんだコイツは。


金がないからこうして人間界くんだりまで怖い思いを覚悟で来たのに。


「別にお金でなくとも、体で支払っていただく事もよろしいかと。良い体をお持ちなのですから」

「はひぇっ?」


ヘンな声がでた。


「そうですね。例えば人間界にいる間、就寝前に私の肩や足をもんでくださるとかどうでしょうか?」

「……ああ、そういう……」

「何ですか? 何かヘンな勘違いでもしましたか、恥ずかしいですね? 別にお上手でなくともいいのです、期待はしていませんから」


なんか普段より早口だな。言葉の辛辣さはいつもより増してるけど。


「いや、けど、そんな子供が小遣いねだる時みたいな事で、釣り合う額じゃないよ?」

「戦爵位の貴族、そのご令息が、たかがメイドにマッサージをする。とても光栄な事ではないですか? それとも坊ちゃんにまともに返済ができると?」


偉いのは親父であって、オレはただの引きこも、いやちょっとシャイなお子さんですからね。そこまで持ち上げられるほどじゃないんだが。


「ん、まぁ。お前がそう言うならね? なら、あのオークじゃないけど、今お前から借りた金の利子って事にしといてくれ。親父が戻ったらちゃんと全額返してもらえよ?」

「それはつまり……マッサージしていただけると?」

「期待すんなよ。マジで下手だぞ、そんなの初めてだし」


オレもオーガ種として筋力だけはあるが、むしろそれが怖い。


リーデルのこのほっそい腕とかほっそい腰とかほっそい足とか簡単に折れそう。


さっきリーデルがオレのコートの中でモゾモゾしてた時だって、けっこー気を使ったからね。


「うふふふ」

「あん? なんでそんな笑うの?」

「笑ってませんよ?」

「いや、今、めっちゃ笑顔で」

「見間違いでは?」


そんな真顔でハッキリ言われると、なんかオレの見間違いだった気がする。


「そうかなぁ」

「そうですよ。さ。まずは中に入って生活できる程度に整えましょう」

「ほいほーい」


オレは木箱を担ぎなおし、リーデルとともに洞窟の奥へと進んでいった。




――返済期限まであと二十七日

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