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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
22/65

手のひらからこぼれた狂乱の源。


今朝、飛竜便で小さな木箱が届いた。


シャーリーンが直って戻ってきたならば大きな木箱に入ってくるだろうし、そうなると他に心当たりは一つだけ。


「坊ちゃん、届きましたよ。マンドラゴラです」

「おー、ついに来たかー」


コアルームの白い丸テーブルの上に置かれた木箱を、鉄の工具で開封していくリーデル。


オレも本物のマンドラゴラというのがどういうものか興味をひかれ、定位置のベッドから降りて見物に行く。


釘でフタの打ち付けられていた木箱を開けると、さらに紙の小箱が入っていた。


小箱の表面には美しい風景が描かれて、金やら銀の線で縁取りもされている豪華なものだ。化粧箱というヤツか。


「箱もシャレてるな」

「高価なものですからね」


高級感溢れる化粧箱を開けると、緩衝材として敷かれたおがくずの上に等間隔で並んだマンドラゴラがあった。


どれもリーデルの手のひらサイズほどの大きさだ。


「穏やかな顔だな」


マンドラもどきの方は無表情ながらも狂気を秘めた相貌だったが、本物はやはり違うという事か。


その穏やかな表情。まるで良い夢を見ている無邪気な子供のようでもあった。


「顔に見えるだけで顔ではありませんけれど。あ、お詫びの手紙も入っていますね」

「どれどれ」


送り先であるリーデル宛ての手紙には『栄光の架け橋号』に対する不備へのお詫び、それにともなって、ご主人のオーガ様にくれぐれも、くれぐれも、本当にくれぐれも穏便によろしくお願いしますという内容が記されてあった。


どんだけ脅したんですかね、このメイドさんは。


オレが読んでいる手紙を横からのぞきこんだリーデルは、その内容を見てふいっと顔をそらした。


「いや、まぁいいけどね。お高いモノをもらって、こっちも助かるわけだし」


箱に入っているマンドラゴラをつまんで持ち上げる。しっとりした感触と意外に強い弾力が感じられる。


「ほれ。リーデルも持ってみ? 小さな見た目のわりに重いぞ。実が詰まってるんだな」

「そうですか?」


リーデルの小さな手の上にマンドラゴラを置く。別に小さいわけではなくて、オレの手がデカいだけか。


自分の掌に転がるマンドラゴラをマジマジと見つめるリーデル。興味深そうに、撫でたり、つっついたりしている。


オレも他のマンドラゴラを見比べて、何か個体差とかあるのかと観察していた時。


「きゃっ!」

「きゃっ?」


リーデルがめったに上げない悲鳴を上げて、床にへたり込んでいた。


「ど、どうした?」


尻もちをついているリーデルに駆け寄ろうとした時。


「い、いえ。そのちょっと驚いた、だけで……あ、坊ちゃん、下!」

「下?」


その瞬間、ぐにゃり、という感触が足裏から伝わってきた。


「あ」


イヤな予感、ではない。


イヤな確信をもって、ゆっくりと足をあげると、そこにはぺったんこになったマンドラゴラが。


「……やっちまった」


安らかな寝顔だったそれは、もはや跡形もなく潰れてしまっている。


つまみあげると、ペラン、とした状態でゆらゆらと揺れた。


「わ、わたしが落としてしまったばかりに……申し訳ありません」

「いや、気づかずに踏んだオレも不注意だったし、お互い様だ。けどどうした? なんかビックリしてたけど?」


悲鳴の原因を聞くと、リーデルは恥ずかしそうにうつむく。


「その……そちらのマンドラゴラの目の穴から虫が出てきまして。それで驚いてしまって」

「ああ、それは……仕方ない、か?」


手の上でぐりぐりいじっているマンドラゴラから、急に虫が出てくればオレでも驚くかもしれない。女の子なら悲鳴をあげるのも無理はないか。


「その虫は?」

「ええと、あ、そこに。坊ちゃんの足の上に……」

「ん? うおあっ!」


黒と黄色のシマシマ模様の毛虫が無数のトゲトゲを誇らんばかりに毛立たせ、オレの足の甲の上に乗っていた。


しかも結構大きくてリーデルの小指くらいある。


そりゃこんなのが出てきたらオーガでも悲鳴あげるわ! 取り落として当然、オレなら躊躇なくカベに向かって全力で投げつけたぞ!


ちなみに我が家は部屋の中では素足、もしくは靴下スタイル。ここでもオレは素足、リーデルはソックスである。


つまりシマシマ毛虫はオレの足の柔肌を直接に這いずっていらっしゃる状態だ。うおおお、気持ち悪いィ!


「これ、これ、毒とかない?」

「わ、わかりません。坊ちゃん、そーっと、そっーと、振り落とせませんか?」

「おう、やってみる……」


ゆっくり足を挙げて、優しく振ってみる……が、ダメ! むしろ振り落とされまいと、さらに上に登ってくる。


「ひい、助けて、リーデル、助けて!」

「ええと、ええと……」


リーデルがキョロキョロと使えそうなものを探して辺りを見回す。


「あ、これなら」


目についたのはさきほど木箱を開けるのに使っていた、先っちょが平べったい鉄の棒だ。


「待て待て、それはマズい!」


それで毛虫さんをつぶす気か?


確かにオーガのオレならびくともしない。痛くもないと思う。


けど絶対に色々と飛び散るぞ! なんか汁とか針とか、そんな感じのが色々と!


「坊ちゃん、動かないで!」


しかしオレを救助するべく真剣なまなざしのリーデル。


むむ、ならば仕方ない。オレにできる事は目をつぶって、文字通り目をそらすことだけだ。


だが、いつまでたっても棒で叩かれる感触はしない。そーっと薄目で現実を再び直視してみると。


「この……こっちきなさいよ……」


鉄の棒を毛虫の進行方向にあてがって、オレの足から毛虫を移そうと懸命な救助活動が行われていた。


「なんだ、叩き潰すわけじゃないのか」

「坊ちゃんを棒で叩くなんてできません」


心外だといわんばかりに怒られた。


そうしてシマシマ毛虫を必要以上に刺激しないように、その後も慎重な作業が行われた。


「よし、リーデル、それ貸して!」


ようやくリーデルの持つ棒に毛虫が移り、オレがそれを受け取ってゆっくりゆっくり出口に向かっていく。


「坊ちゃん、気を付けて」

「おうよ、めっちゃ遠くにぶん投げてきてやる!」


などと一瞬でも目を離したのが悪かった。


棒の先からポトリと毛虫が落ちる。


「あっ、坊ちゃん!」

「うおっ」


毛虫がカーペットに転がり再びオレたちは恐慌状態となるが、今度はマンドラゴラが入っていた化粧箱のフタを使ってサクッと毛虫を回収。


今度こそとオレは洞窟の外へダッシュし、フタごとぶん投げた。


「厳しい戦いだった。まさか最初にオレたちを脅かすのがあんなのとはな」


リーデルの幻惑魔法もオレの筋肉も通じない。いや通じるが、もたらされる被害を考えると物理攻撃がのきなみ封じられる。ああ、恐ろしかった。


「これはどういう事ですか?」


そんな危険物の処理を終えて戻ってくると、リーデルがオーガでもないのに頭にツノを生やして、いや比喩的な意味でね? コアに向かって声を荒げていた。


「送っていただいた品に毒虫が混入おりまして……主人の機嫌は見た事もないほどに悪くなっております。メーカーを通してではなく、生産者から直接送られたというものという事は理解していますが、あまりにも手落ちすぎませんか?」


クレーム入れるの早いっすね。


リーデルからすれば悲鳴なんてあげちゃったから、カッコつかないんだろう。


ただ、リーデルよりカッコつかないオーガもいるし、あんまり責めないであげて欲しい。とは言え、お詫びの品を送って、それがさらにトラブルを起こしているからなぁ。


ひとしきり言いたいことを言ったリーデルが、コアトークを終了させた。


「坊ちゃん」

「またなんかくれるって?」


先方が気の毒だとは思うが、もらえるものは貰う主義です。


「いえ、さすがにそこまですると、御家の名に傷がつきますし。ただ次回、またゴーレムやパーツを購入する際は割引してくれるそうですよ」

「おー、いいねー」

「私としては、こうも不手際が続くメーカーというのはどうか、とも思いますけれど」


それも一理ある。


「その時はまた考えるさ。ところで」


オレはペランペランになったマンドラゴラをつまみあげる。


「これ、どうしようね」

「そう、ですね。さすがに売り物にはなりませんけれど……生食しても、一時的な増魔効果や治癒効果がありますから、いざという時のために持っておくと良いかもしれません」

「生で食べてもいいんだ?」

「もちろん錬金術師がしっかりと加工したものとは効果は雲泥の差でしょうけれど、使う機会があるならば使うべきでしょう」


オレ達の今の状況で使う機会が来るという事は、命の危機、またはそれに類するピンチの時という事だ。もちろん、そんな機会は歓迎できないが、もしもの備えがあるとないとでは大違いか。


となれば。


「んじゃ、リーデルが持っといてよ。なんかあれば使ってくれ」

「……こういう貴重なものは坊ちゃんが使うべきでは?」

「体には自信があるんだ。いやプロポーション的な意味じゃないぞ」

「わかっています。坊ちゃんは屈強なオーガ種ですからね。わかりました。お預かりしておきます」


リーデルはありがとうございますと礼をいいつつ、取り出したハンカチに包んで胸元にしまい込んだ。


ふと気づく。


「……オレが踏んじゃったヤツだけど……大丈夫?」

「言われるまでは大丈夫でした」


しまったハンカチを再び取り出して、マンドラゴラを見る。


「あとで洗って干します」

「……うん」


ちょっと傷ついた。


オレは残り三本のマンドラゴラに目をやる。


「……昼からさっそく売りに行くか?」

「そうですね。まずは一本だけ持っていきましょう。貴重なものだと思いますが、貴重すぎるものですと目立ってしまうかもしれませんし。そんなものを何本も売るというのは危険でしょう。一本だけならたまたま手に入れたという言い訳もききそうですしね」


リーデルは色々と考えている。いつも大変だな。


「果実も持っていく?」

「ええ。マンドラゴラは果実採取の際に運よく見つけた、そう装った方が自然ですしね」

「わかった。じゃ、今採取に出てる『栄光の架け橋号』が帰ってきたら、昼飯食べて出発だな」




――返済期限まで七日


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