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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
19/65

美人って得だよね。


「とにかく。体力勝負なんだから、せめていつもより食ってくれよ。お前の事だから自己管理とか完璧なんだろうけどさ、見てると心配になってくる」

「……そこまでおっしゃるのであれば。では、そうですね。日持ちのしない果実も少々ございますから、人間の街で本番のマンドラゴラを売るための練習がてら売ってみましょう。帰りにそのお金で買い物をしましょうか」

「おう、そうだな。そうしよう。なるべく早いうちにな?」


せめてリーデルの腰があれ以上細くならないうちに。


「では、明日のお昼頃にでも向かいましょうか?」

「お、いいな、そうしよう……って。オレも行くの? この図体で? 角とかあるよ? 流行りのオシャレでごまかせると思う?」

「それも面白いかもしれませんが……私、幻惑魔法が使えますので。手の届く範囲の対象であればいかような姿にも魅せる事ができますよ。離れても自分から解除と念じたり、他者に触れられたりしなければ、しばらくは効果が続きます。無論、人間の街には私だけで行っても構いませんが……」

「あ、いや、行けるならオレも行く。荷物持ちがいた方がいいだろ? そうか、幻惑魔法ってのがあったな」


そういえばサキュバスだった。優秀なサキュバスは自分以外にも幻惑魔法をかぶせる事ができる。


けれど、そんなに有効範囲が狭かったっけ? リーデルパパの幻惑魔法はそうじゃなかったはずだ。


「手の届く範囲?」

「お恥ずかしい限りですが、未熟者の私と熟練の域にある父とでは比べ物になりません」


ちなみにリーデルパパの幻惑魔法の腕前を見たのは一度きりだが二度と見たくない。


あの時は閉じ込められた部屋の中で、そこに飾ってある花瓶や壺などの小物のすべてが見るも恐ろしいゾンビの生首になったのだ。


子供心にあれは強烈だった。


ん? なんでそんな事をされたかって? 菓子を食い荒らし続けたオレたちへのお仕置きに決まってる。


とにかく怖かった。


風もないはずの部屋でロウソクの火がゆらめくたびに、まるで動いているのではないかと思うようなゾンビの生首に囲まれたのだから、怖くないはずがない。


オレは一秒で漏らした。あんなん漏らすなという方が無理だ。


だがリーデルは漏らさなかった。


コイツはその瞬間に気絶したのだ。


立ったまま気絶して、ゆっくりと顔から倒れそうになったので、オレは小便を漏らしながらも、あわてて抱きとめたのを今でも覚えている。


その後、リーデルに何度も呼び掛けたが起きなかった。安らかな寝顔だった。


一方で顔を涙と鼻水を垂らし、小便でズボンと床を濡らして、オレだけがひたすら怖い思いをした。


そんなトラウマのような幻惑魔法が身を助けるというのだから皮肉なものだ。


いや、悪いのはオレなんだが。


……あれ、今更だけど共犯というか主犯格のリーデルの方が、罰が軽いな。だってコイツ、何も覚えないんだよ?


「リーデル、ゾンビの生首部屋って覚えてる?」

「ああ、懐かしいですね……って、なんの事ですか?」


自分がさっき覚えてないといったのを思い出したのか、白々しい態度でとぼけるリーデル。


「やっぱ盗み食いの事覚えてるじゃねーか! しかしもお前、幻惑魔法が切れてから目ぇ覚ましやがって! リーデルパパが部屋に入ってきたとたん、ウソ泣きでもうしませんって言って反省したフリしたの、オレは忘れてないからな!」

「……なんの事ですか。まったく覚えがありません」

「ぐぬぬ」


さっきとは逆方向に、ふいっと顔をそむけるリーデル。


あかんわ。口喧嘩に勝てないとかじゃなくて、口喧嘩にすらならない。


もし口喧嘩になったとしてもどうせ勝てないし。


知ってる? 美人ってね、睨んでくると怖いんだよ? 


それでこっちが目をそらすと、なんかオレが間違ってみたいになって、負けた雰囲気になるからずるいよな。


「はぁ、まぁいいや。ともかく明日の昼だな?」


どうせ勝てない戦いに時間を使うのはもったいない。


オレはやるべきことの再確認をしておく。


「ええ。朝は『栄光の架け橋号』に採取をしてもらって、私たちはそれの補佐と監視を。それと収穫した果実の確認と仕分けを、今日と同じく進めましょう」

「おー」


そんなこんなの打ち合わせを終えて、夜になる。


就寝前のマッサージもしっかりしてやる。やっぱりこっちに来た時より細くなっているような気がする。


その時にちょっと確認してみた。


「リーデル」

「なん……ですっ……かっ?」


寝っ転がって背中を向けているリーデルの腰をもんでやりつつ聞く。


「最近、体重って計った?」

「……どういうっ……意味っ……ですかっ?」


声にトゲが生えた。なんで急に怒ってるのこの子。


「なんかさ、細くなってない? これ以上痩せたら腰が折れるぞ?」

「……そう? ですっ……かっ? 痩せ……ましたっ……か、私?」


声のトゲが消えた。情緒不安定すぎない? 


「だから体重とかどうかなって?」

「……坊ちゃんから見てどうですか?」


リーデルが立ち上がり、オレの前でくるりと回る。


ジャージじゃなくて、ドレスだったらカッコいいんだろうな。


「ううーん、あれ? いつもと同じか?」


よくよく見れば、細くなってないか? なら安心だ。


「さっき痩せたっておっしゃいませんでした?」

「そうでもない気がする」


安心させてやろう。リーデルも急に細くなったと言われたら、不安になるだろうしな。


「大丈夫だ。痩せてないぞ!」

「……ッ! 続きをお願いしますッ!」


怒ったような声をあげて、ベッドに寝転んだ。なんなんだよ一体。


そうして今日も無事に一日が終わった。




***




「持っていく果実はこんな少なくていいのか?」

「今日は売買の為の様子見程度ですから。それにあまり大荷物を持って動くのも今の私たちの見た目ではおかしいですし」


朝食の後、オレとリーデルは森の中を歩いていた。


オレは果実が入った小さめの麻袋を担ぎ、その横でリーデルが地図を見つつ道案内としてオレの先を歩いている。


いつもであれば見下ろすリーデルの頭が、今はオレより少し上にあるというのが新鮮だ。


そのリーデルの姿は、いつもより背が低く年も幼くなっている。


服は町娘っぽい素朴な布の服になっていて、これも人間の貨幣を用意した時に一緒に用意したそうだ。サキュバス美女から町の美少女にチェンジだ。


一方、オレはリーデルよりもさらに背の小さな少年になっている。強面の暑苦しいムキムキオーガから、紅顔の美少年だ。決して生意気そうなガキではない。


服も幻惑魔法でリーデルと揃いのような服になっている。半ズボンとかいつ以来だろうか。いや、実際にはいつもの黒ジャージを着ていて、その上から幻惑魔法がかかっているので、本当に半スボンをはいてるわけではないんだが。


「幻惑魔法ってかけられた本人にも効果があるんだな。というか視点まで低くなってるんだが、どういう原理なんだコレ」

「私の幻惑魔法は父とは違っていて、対象は生物に限定されます。そして幻惑魔法で変わった容貌に沿った感覚を再現します。今も実際に坊ちゃんの背が低くなったわけではないので、幻惑魔法の効果で元の体の腰あたりに視点が設定されていると思います」

「ほうほう」


あまり極端に元の体と違いすぎると幻惑がかかりませんけれど、と付け加えるリーデル。


そりゃ竜とかに変身させられても、幻惑魔法さんも困るわな。


「飲食の際も元の口の位置に食べ物を手で運ぶわけですが、そういった齟齬や違和感などは外見から見ておかしくないように幻惑されます」

「ほうほう?」

「ただし、本来の位置にある頭部や胸部に攻撃が加えられれば当然ながら負傷します。実際に背が伸びたり縮んだりしているわけではりませんので、低い扉をくぐったりする時は頭を打たないように気を付けてくださいね」

「ほっほーう?」

「……ちゃんと聞いていますか?」


ほうほうとしか言わなくなったオレを、目を細めて見てくるリーデルにオレは聞き返す。


「一言でまとめると?」

「ご自身からも周囲からも、坊ちゃんの見た目だけが子供のようになっている状態です」

「理解した」


はぁ、とため息をつくリーデル。ちょっとふざけすぎたかな。


「本人に効果を出さないようにも出来ますが、たまに幻惑魔法をかけている事をわすれてトラブルになる場合があるので」

「別人を演じてるのに、いつもの自分のように行動したりとか?」

「おっしゃる通りです。ですから坊ちゃんもその姿でいる時は、相応の振る舞いを意識してくださいね」

「難しいな……」


というか、なんでこんな子供にしたんだ? モノの売買をするのにも客にナメられたりして不便じゃないか? という疑問をぶつけると、リーデルが急に手をつないできた。


「を? どしたん?」

「……お、覚えていますか? 私の幻惑魔法の効果範囲が狭いという事を」

「ああ、確か手の届く範囲ぐらいだっけ」


少しぐらいなら離れてもいいとは聞いているが、離れないに事した事もない。


「ええ。ですからこうして……こう、手をつないでおけば、何かの拍子に効果範囲外になってしまう事を予防できるかと。子供の姉弟が手をつないでいても不自然ではありませんが、いい歳した男女が商売中に手をつなぎっぱなし、というのもおかしいでしょう?」

「確かに。幼い弟この子守りをしつつ、果物を売りに来た姉というのはなかなか見た目の印象とか良いかもな」

「子供というだけで不審がられませんし。逆に甘い大人もいるでしょうから」


なるほど。買う時はオマケしてもらえるかもしれないし、売る時はちょっと高く買ってもらえるかもしれない。


子供に対する庇護欲を利用するとは、なかなかリーデルもワルである。


「さすがリーデル、完璧な作戦だ」

「……で、では、なるべく街では……いえ、もう街も近いですし、どこに人の目があるかもわかりません。ここから手をつないで行きましょう。むしろ、洞窟に戻るまで、ずっと手をつないでいるほうが安全です。よろしいですか?」

「人間の街に行く時は、ダンジョン以外では手をつないでいるって事だな。それはよろしいですけど、なんでオレが弟役?」


オレはリーデルの手を潰さないように握り返しながら聞いてみる。


「売買交渉は私がいたしますから。それとも坊ちゃんがお兄さん役になって、それらをやってくださいますか?」


そう言われれば納得。頭脳労働はオレよりリーデルの方が適任だ。


「リーデルお姉ちゃんにおまかせします」


ふざけて返事をしてやると、急にそっぽを向いてオレの手を強く握り返してくるリーデル。そんなに怒るなよ。


あとぜんぜん痛くないからな? むしろあんまりオレの手を強く握るとお前の手が痛くなるぞ?




――返済期限まで十二日


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