を? それを聞いちゃうか? 泣くぞ?
「はい。はい、ではそのように。失礼します」
そこでようやくリーデルのコアトークが終わって、こちらを向く。
「結果からお伝えしますと、不良品です」
「あちゃー。ま、会話からそうだと思った。リコール案件どうこう言ってたし」
具体的には? と聞くとリーデルは、メーカーから届いたメールも交えて、詳しく説明してくれた。
「『栄光の架け橋号』の型番に限り、千台に一台ほどの割合でコアのマナ貯蔵にトラブルがあるそうです。すでに新型では対処されているようで、旧型に関してはメーカーに送れば十日ほどで対処できるとの事です」
「悪い事ほど低確率を引くよなぁ。しかしシャーリーンもいないのに『栄光の架け橋号』まで十日もよそに出せないぞ?」
「おっしゃる通りです。こちらでできる対処方法としては、マナ補充の回数を増やすしかないそうです。機構そのものに問題はなく、あくまでコアに貯蔵したマナが揮発しやすいという事すので、動作そのものには問題はありません」
「そうか。じゃあ、とりあえずはここにいる限りはそれでしのぐしかないな」
手間とマナは余計にかかるが、戦線離脱を余儀なくされるというほどでもない。
「修理そのものはいつでも受け付けるとの事ですので、魔界に帰還後、メーカーに回せばよろしいかと」
「そうだなー。ちゃんと帰れればいいなぁ」
「坊ちゃんなら大丈夫ですよ」
そのオレに対する自信はなに? 根拠があるならぜひ教えてくれ。オレが不安になる。
「それでですね。メーカーから今回の件のお詫びがしたいという事で、いくつかの条件を提示させ……提示して参りました」
今、なんか言い直さなかった? マズい真実を言いかけなかった?
コアテーブルを操作すると、メーカーからのコアメールが映し出される。
そこにはいくつかの選択肢が並んでいた。
「ええと。産地直送マンドラゴラ全身四本セット、または魔界の四ツ星レストランのディナーチケット。もしくは名酒と呼ばれる蒸留酒の四本セットですね」
「なんでそんな『四』にこだわってんの……ああいい、わかった」
確か『栄光の架け橋号』の生産メーカーの名前が。
「お察しの通り、ゴーレムのメーカーがフォーローズという名前ですから」
「しょーもな。酒でももらっとく? リーデル酒飲むだろ?」
オレはさほど好きではないが、お高い酒ってのはうまいと聞くしな。
働きづめのリーデルに慰安というか息抜きというか。なんかリラックスできる品ならいいんじゃないか?
という、オレにしては気の利いたすすめだったのに。
「私、ワインしか飲めませんし」
このシャレオツメイドめ。
と、なると。
マンドラゴラって結構な高級品だよな。オレが見つけたマンドラ……なんだっけ。マンドラマガイ? ああ、マンドラモドキか。
アレの時にもマンドラゴラを売れば、返済の足しになるって言ってたし。
「あー、じゃあマンドラ……」
と、言いかけたオレの言葉をさえぎるように、リーデルが別の選択肢を指さした。
「こちらのお食事券はどうですか?」
「え? なに? お前有名レストランのディナーとか行きたいの?」
意外……でもないか。大人のレディはリッチなホテルでディナーがお好きと噂で聞いたことがある。
「どちらかというのであれば、一度は行ってみたいかと」
ガッツリ提案してきたわりに、ちょっと遠慮がちにチラチラとこっちを見てくる。
雇用主である親父の代理人としては、被雇用者の要望にはできるだけ答えたい。
リーデルに不平不満をため込まれて、最終的に困るのはオレだしな。
愛想尽かされて一人でダンジョン運営なんて想像もしたくない。
ココに来る前の無知な自分ならともかく、現実を思い知った今では到底無理だと理解している。
「よし、チケットもらっとけ」
パァと笑顔になるリーデル。そんなに食ってみたかったのか……と、いや、違う。
オレはようやく気付いた。鈍い主だと思われるところだったぞ。
ペアチケット。
ペアチケットなのである。
ペア、というのは、一人ではなく、二人で、という事だ。
そしてさきほどからチラチラとこちらをうかがうような視線を向けている。
つまりリーデルには、一緒に行きたい相手がいるという事である。
そしてオレに対して、言いたいことがある。
察しのいいオレの灰色の脳みそがピンとひらめく。そりゃあ言いにくい事だよな、と。
オレはごく自然に、わかってるぞ、という態度でリーデルにうなずく。
「リーデルもお年頃だし、そういう相手がいるんだな。悪かったな、色々と気づかなくて。よし、今回の仕事が終わったら長期休暇をやるから行ってこい」
休みが欲しいなら遠慮せずに言えばいいのに。
さすがに今回の件が終わってからになるけど、こんなに大変な仕事の後だ。オレからも親父に言って臨時ボーナスくらい出してやってもらおう、と思っていると。
「マンドラゴラにいたしましょう。アレであれば現金に換える事もできますし」
リーデルが急に態度を変えた。
「ペアチケットは? 欲しいんじゃないの?」
あれ? と思いながらオレはリーデルに確認する。
「そんなお話していましたか?」
「あれ? してたよね?」
しかしリーデルは何のことでしょう? とばかりに首をかしげる。
いや、首をかしげたいのはオレなんだが。
「さて? 私は別段ディナーチケットなど欲しいわけではありませんよ? 行く相手もおりませんし? 一緒に行ってくれる相手もおりませんし? エスコートしてくださるような、大柄でたくましくて優しい男性のアテもございませんし?」
なんでぐいぐい迫ってくるの? 目が怖い、悪かったよ、聞き間違いだったよ。
「そ、そうか。それなら、まぁ、目先の金にもなるしマンドラゴラでいいか」
「では、そのようにメーカーに伝えておきます」
コアを操作してリーデルがマンドラゴラ四本セットを選んでいた。
しかし、そんなお高いマンドラセットと同じレベルのディナーか。
「オレもなー。食ってみたいとは思うけどなぁ」
そりゃあオレだって、お高いディナーには興味もある。
どんだけ美味いんだろうか。何が出てくるんだろうか。食い放題なんだろうか、とか。
「高級レストランのディナーですか? けれど、坊ちゃん、さきほどはお選びになりませんでしたよね?」
当たり前じゃん。だって。
「だってペアチケットだろ?」
「……坊ちゃんもいい年ですのに、そういったお相手はいらっしゃらないのですか?」
「を? それを聞くか?」
なんか既視感を感じるぞ。
さっきオレがリーデルに言った言葉だ。そのジト目から察するに仕返しか?
だがオレとリーデルとは違う所が一つある。それも決定的に違う点が。
才女かつ美女のリーデルは選ぶ側。
一方、オレは選ばれる側であり、その中でも選ばれない範囲にいるのである。
つまりリーデルが放った皮肉は仕返しにすらならない。
一方的な……惨殺だ。
「戦場上がりの成り上がり戦爵貴族の引きこもり息子で、しかも家には借金もある事が発覚。さらにその借金を返せないと家無しなる、なんちゃって貴族に嫁ぎたい酔狂な女もいないだろ?」
「そうとも限りません。そうとも限りません」
「何で繰り返すんだよ。っていうか下手な慰めはいいって。だから当然、そんなお高いメシも食った事ないし、食いに行く相手もいないわけだ」
「でしたらせっかくの機会ですし、ディナーチケットになさればよかったではないですか?」
リーデルがそわそわとしながら聞いてくる。なんかさっきから挙動不審じゃない?
「だーかーらー。誰と行くの? ペアチケットだろ? 一人で行ったらさすがにかわいそうだわ、オレが」
もはや苦行だ、それは。
ボディはオーガでもメンタルまで強靭じゃないからね? どっちかというと壊れ物だ。
「お、お相手がいないのでしたら……」
「それともお前が一緒に行ってくれんのか?」
「!」
うわ。リーデルがこんなに眼を見開いたの初めて見た。
「はいはい、そんな顔すんなよ。面倒みきれないって、表情に出しすぎだぞ? まぁ、メシ食ってる時まで、仕事モードでいたら息つまっちまうだろうしな」
「ち、ちが……」
リーデルがぼそぼそ言ってるが、別に言い訳なんてしなくても怒りゃしないよ? さんざん面倒かけてる自覚くらいあるからな。
「本物のマンドラゴラって売ったらいくらぐらいになんのかなー。楽しみだなー」
それより、四本もマンドラさんが届くなら、結構な金額を期待できるんじゃないか?
「原因もわかったし、『栄光の架け橋号』にマナ補充してくるよ。待機状態なら一日くらい持つだろ。んでまた、明日の朝になったら再度補充して果物集めに出すとするか。今はそれくらいしかできないよな?」
「……はい、そうですね。そうですね! そーですねッ!」
うるさい。なんで急におっきな声出すんだよ?
「そんな事より。実際のところ、朝の時間だけで必要数の果実って集められると思う?」
「そう、ですね……厳しいと言わざるを得ないかと」
眉をしかめるリーデル。計算はしていたようだが、やはり足りないらしい。
「なら不足分はオレたちで採取し……だからその顔やめろ。リーデルは悪くないぞ」
いちいち自分がこんな金策をしなければ、という顔をするリーデルがメンドイというかシンドイというか。
もしオレに気遣ってくれるというなら、いっそ『バシバシ働いてくださいね』とか言ってくれた方が助かる。
果実をもいでくるくらいならオレにもできるからな! 自慢じゃないがオレにできる事は少ないし、こういう時こそ役に立たないとオレの立場がない。
「でさ。その前にメシつくってくれる? 『栄光の架け橋号』だって腹すかせて止まるんだから、オレも止まっちまうぞ?」
「……ふふ、そうですね。坊ちゃんは燃費悪いですからね」
微笑んだリーデルがさっそく料理に取り掛かる。
リーデルは色々と気ぃ使いすぎなんだよなぁ。
――返済期限まで十三日




