すべからく、オレはいつもヒマである……くっ!
師匠とのコアトークから三日。
毎朝リーデルはシャーリーンを連れて、果実やら獣肉やらを調達してオレの朝ゴハンを作り。
昼は湖に行き、洗濯やらの洗い物、拭き掃除などをしてから、オレの昼ゴハンを作る。
夜はコアとにらめっこしながら、ダンジョン管理や消費マナの調整をしつつ、オレの夜ゴハンを作り。
「一方、オレは何もしてない」
オレが自分で食事の用意をできれば、リーデルの負担はかなり軽減されるのではなかろうか。
これでもオーガ種ですからね?
最悪、生肉食っても腹こわしませんし。生理的にムリだけど。
「どうかされましたか、坊ちゃん?」
夕食の後片付けをしつつ、リーデルがオレの呟きに反応する。
「いや別に。ただオレにもできる仕事ないかなぁって。リーデルばっか働いてるし」
「そんな事。お気になさらず。坊ちゃんには毎夜、私のマッサージをしていただいていますし」
さすがにそれが対等とは思わんけども。
「では……そうですね。マナもそろそろ貯まりましたし。一緒にお茶でも頂きながら、新たな防衛力に関しての相談に乗って頂けますか」
「よしきた!」
オレはいそいそと部屋の端っこのベッドから降り立ち、リーデルの定位置であるコア付き白テーブルにつく。
リーデルがオレの前に果汁搾りたてジュースを置いてくれた。
コレがまためっちゃうまい。
魔界の金持ちには、人間界の果実を取り寄せる食通がいるのは知っていた。
そこまで手間と金をかけるなんて、食い道楽は金がかかるなーと思っていたが、確かに一度この味を覚えると病みつきになりそうだ。
リーデルも自分の前に小さなグラスをおく。
こっちは屋敷から持ち込んだ赤ワインだ。漂ってくる香りがすっぱい。
ちなみにオレは酒が好きではない。
飲めないわけではないが、なんか辛いというか苦いというかウエッとくるというか。
なんだろうね、あの言葉にしにくいお味は。
あれが大人の世界というものだろうか。
「防衛力強化の進捗ですが、おっしゃられていた汎用自立型視覚共有システムを二体、すでにコアにて生産を始めており完了間際です。今にでも、といった所でしょうか」
相談も何もない、ただの報告だった。
さすがリーデル。オレは感心するのみである。
「ついにウチにもアイちゃんが生まれるのか。しかも明日? けっこー早いな。ファミリアも、誰かから買えたり貰えたりできれば、もっとラクなんだけどなー」
「……産む、という概念はコアにはありませんが、確かにそれに近いかと。造り出されるファミリアは、同じ生命情報を持ったコアと同調して活動しますので、別のコアが生産したシステムには使えません」
各コアが生み出したダンジョンファミリアは、そのコア専用となる。
ダンジョン経営の難しいところの一つがコレだ。
先輩ダンジョンマスターから、高性能かつ実践経験を積んだアイちゃんなんかを譲渡できないのだ。
ダンジョンコアは、展開時にマスター登録した後、コアをお片付けして再度展開するタイミングまでマスター変更はできない。
生みだされたファミリアは、送還すれば再度呼び出すこともできるが、その時のダンジョンマスターの情報も取り込み、紐づけられるため、他人では呼び出すことができない。
今回のオレたちのように、コアを譲ってもらったとしてもファミリアや防衛機構のデータは引き継げないのだ。
要するにダンジョンマスターは自分のダンジョンの全てを、最初から最後まで面倒をみなければならないのだ。
せいぜい、アドバイスを受けるくらいしかできない。これがダンジョン経営の難しい所だ。
コアルームのデザインに関しては、以前の持ち主が初期設定をあのようにしていたのだろうとリーデルは不満そうに言っていた。
話を戻して。
アイちゃんなどのファミリアをコアが生み出す、という知識はあったが具体的にどのように生まれるのかは知らない。
まさか目の前にあるコアがパカッと割れてポコンと排出されるのだろうか?
などと話しをしていると。
「あら。汎用自立型視覚共有システム、二体、無事に完成しました。ただいま個体情報の最終チェック中」
「おっ」
いいねいいね。どうやって出てくるのか。
リーデルがコアを操作しつつ、流れ出てくる文字の羅列を確認している。
「一体目。仮称アルファアイ、正常動体確認。外観にも問題なし……いえ、この個体は現状では当たりです」
「当たり?」
オレがドキドキしていると、テーブルのやや中空、コアの真上の何もない所から蒼い穴がうまれた。
サイズ的にはリーデルの首周りくらい? オレの上腕ほどは大きくないな。
そんな蒼い穴から、ぴょこん、と。
オレの指ほどの太さの黒い触手が一本。
続けて、二本、三本、と続けざまに蒼い穴の外縁にへばりつくようにして、ズルズルっと這い出して来たのは、八本の触手を備えた大きな黒い目玉だった。
「おお。シックだな。カッコいいじゃん」
全身が黒く瞳孔も黒い。
柔らかそうな表皮はテカテカしておらず、艶消しブラックで実にマットな感じだ。
このいかにも隠形に長けた外観は、監視役としてうってつけだろう。
「外観色、オールブラックです。"ブラックナイト"と通称される希少種ですよ。統計データによると、発生確率1パーセント未満との事です。眼球に異常も見られず、触手の数も平均数と不足なしの優性体です。運が良いですね、坊ちゃん」
「レアなアイちゃんゲットか!」
ちなみに個体の色やら大きさはバラツキがあり、珍しい色や形状をしていると希少種と呼ばれる。
……まぁ、前述した理由で売買や譲渡ができないので、希少だろうがなんだろうが、金銭的価値はないのだが。
でも、やっぱりレアって嬉しいじゃん? うまく育てたら頼もしい味方になりそうだ。
ちなみにコアが破壊されると全崩壊するので、このレアなアイちゃんもお亡くなりになる。
逆にコアを片付ける際に送還する事で、再びコアを展開する時に同一個体を呼び出す事ができる。
また、送還しなくてもマスターがマナを供給しつづける限り、ダンジョン外でも生命活動を継続できる。
ダンジョンコア経営経験者がたまに珍妙なペットを飼っているが、だいたいこのパターンだ。
常時マナを必要とするので、普通はコアを片付ける際、一緒にファミリアも送還してしまう。
けれど命がけのダンジョン経営をともに戦いぬいた子たちに情が移ってしまう、というのも今ならわかる気がする。
実物を見る前は触手型のアイちゃんは苦手だと思っていたが、実際に見てみると大きなお目目はなかなかキュートではなかろうか。
「ちっちっちっ」
と呼びながら手をさしだすと、ずろろっずろろっ、といった擬音を身にまといつつ、目玉を充血させながら近づいてきたので……オレは手をひっこめた。
やっぱちょっとキモいわ。
アルファアイが、悲しそうな目をした気がするが気のせいだろう。
「二体目、仮称ベータアイ。出ます」
コアを操作していたリーデルが、二体目のアイちゃん排出を宣言する。
通常個体は緑か茶だったはずだが、次は何色かね。
「あ……続けて希少種です」
リーデルがコアに目を釘づける。
「お、やったじゃん!」
運がいい。また黒色とか?
「コレは……ううん、でも……ああ、どうでしょうね……」
再び蒼い穴が中空に生まれるが……さっきより穴がデカい。
オレの上腕よりデカい。
いや、それどころかリーデルのお尻より大きいぞ。
「坊ちゃん……?」
ついついサイズを見比べてしまった。
女性が男の視線に敏感というのは本当らしい。
「しかし大きいな」
さっきの穴の倍近くはなかろうか。
そしてそんな穴から這い出てくるのは、当然二体目のアイちゃんなわけだが、それ相応のサイズという事だろう。
ああ、なるほど。リーデルの懸念が理解できた。
あまり大きいのは監視役としては不向きという事か。
ま、仕方ない、そういう事もある。
アルファアイが当たりの"ブラックナイト"なんだし、その分がんばってもらうさ。
などと楽観して、大き目な穴から出てくるベータアイを迎えようとしていたオレだが。
ベッタン!
と、力強く張り付き現れた、太い触手にまずビビる。
なによりその色に。
「なにさ、あの色」
「確率0.01パーセント未満とされる――レインボーです」
蒼い穴の外縁にかけられた触手は七色に輝いていた。
そんなレインボーの触手が蒼い穴の外縁に、べたんべたんべたんべたんべたんべたんぺたんべたんべたんと張り付いた。
うわこわ!
「触手の数が十を超える多脚個体です。さらに超希少とされる……」
ええぇ、まだなんかあるの?
虹色で触手がいっぱいあって、さらにレアな要素とかなによ!?
オレがビビりつつ、穴から出てくるベータアイ本体を待ち構える。
出てきた。
出てきてしまった。
そして、ここまでくれば、ハッキリとわかるアルファとの決定的な違いがある。
全身を虹色に輝かせつつ、通常より多い触手で自らを飾る花弁のように大きく広げて現れたそれは、その瞳には。
「メスです」
まつげがあった。
――返済期限まであと二十二日




