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主従そろって出稼ぎライフ!  作者: 吐息
〜このダンジョンには、オーガの坊ちゃんが有能メイドとひきこもっています〜
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いつも師匠はブレる事のないゴーレムマニア!


「……という事が、初日からあったんですよ」


今日は朝からヘタをうってリーデルの機嫌を損ねてしまったが、その後は逆にリーデルがオレに色々と気を使ってくれた。


夕食のおかわりも三回まで出してくれた。


オレが悪いのに。ほんと、よくできたメイドさんだよなぁ。


『へー。我が弟子は恵まれてるね。いや、不幸中の幸いかな』

「トータルで言えば幸運に寄ってますよ。マナにも余裕があるみたいですし」


夜になってリーデルに確認した所、思った以上にマナの抽出量がある為、短時間であればコアトークを使ってよいと許可が出た。


それならお言葉に甘えて、と、メールで挨拶をするつもりだった師匠にさっそくコンタクトコールをした次第だ。


コアから立体的に映し出されている師匠は、見た目は黒髪の人間の子供のようだ。


だが本物の人間種族の子供がオレより年上って事はありえないので、容姿を何かでイジっているかそう見せているか。


色々と事情がありそうなので、オレはそれに対してたずねた事はない。


重要な事は一つ。


彼がオレのゴーレムの師匠だという事だ。


「それで何かアドバイスを頂ければと思いまして」

『状況はなかなか良い具合だよね。ゴブリンには入口を知られていない。盗賊もゴーレムが徘徊しているとなれば寄ってこない。ただ……』


師匠はその見た目には不相応な、年長者のように落ち着いた口調で考える。


誰でも思いつく可能性だが、口に出すと現実になりそうでオレが言葉にしなかったイヤな事を言うつもりだろう。


『盗賊やゴブリンを排除する為に、冒険者やら騎士団が探索に来る可能性もあるからね』


やっぱりそうだよなぁ。だが、師匠の言葉はアドバイスという形で続いていく。


『マナに余裕があるというなら、警戒にはもう少し力を入れるといいかもしれない。キミの相棒はボクの自信作ではあるけれど、数というのはそれだけで力だ。ゴブリンだろうと盗賊だろうと、多いというだけで脅威になるよ』

「師匠のシャーリーンは一対一なら負けませんけどね」

『過信は禁物。ボクのロマンを詰め込んだ会心の一体だけど、決して強さを追求した作品ではないからね』


そう。


シャーリーンは師匠が制作したゴーレムの一体で、初めて会った時に譲ってもらったものだ。


むしろシャーリーンに出会ったからこそ、ゴーレムという道に開眼したのだが、その話は今は置いておいて。


「とりあえずアイちゃんを二体増やす予定です。それに加えてとなると……やはりゴーレムを増やすというのがベストでしょうか?」

『ボクと君の会話では、それ以外の選択肢は全てベター以下にしかならないだろう。結論ありきの議題は無駄でしかないよ』


それもそうだ。


何かにつけ、全てをゴーレムで物事を解決しようとする師匠に対して愚問であった。


それを自覚しているあたりが師匠の潔さでもある。


『問題は別のところさ。キミもわかっているだろ?』

「ええ、まぁ、はい」


オレはチラっと背後を見る。


そこにはピンクジャージではなく、いつものメイド服に着替え、ピシっとした直立姿勢で後ろに控えているリーデルがいる。


微動だにしないその姿は、まさに完璧なメイドさんである。


だだし、その切れ長な目がいつもよりさらに細い。


ジト目というヤツだ。その心の中も読める。


その子とあまり遊ばないようにと言ったでしょう、という顔だ。


リーデルは師匠を悪い友達扱いしているフシがある。


『う、うう……』


対して師匠はリーデルと目を合わせないようにしている。師匠は女性が苦手なのだ。


師匠のいう別の所にある問題とは、まさにリーデルの事だ。


リーデルからすれば、悪友にそそのかされたオレがゴーレムを増やすと言い出した。


そしてそんな流れの提案に対して、保護者のリーデルがどう思うか。


むろん主人たる発言力を使えば、ゴリ押しはできるだろうけども。


『まぁ、キミの事だ。賢明な判断ができるだろうし、ボクの口出しする所ではないよ。ただ監視ファミリアの他の戦力、特にゴーレムを購入するというのであれば……そうだね。参考までに、魔界の方でめぼしい出物やセール情報をメールで送っておくよ。何か聞きたい事があればコールしてもらっていい。いつでも歓迎だよ』

「ありがとうございます、参考にさせて頂きます。ゴーレム購入となれば、夜を徹して投入状況に対してベストな選択をするべきですから、その時はぜひとも」

「いいね。限られた予算、限られた時間、その中でもベストな構成を目指して徹夜で語り合……」


なとど、盛り上がりが最高潮の時点でリーデルが動いた。


そして師匠をまっすぐに見ながら。


「お言葉ですが、夜通しのトーク接続はさすがにご遠慮いただければと。トーク以外にもマナを消費する事が多々ございますので」

『あ、はい、ごめんなさい……』


師匠の視線が下に向く。


『……』


そしてリーデルの顔とオレの顔を、交互にチラチラ見ては黙り込む師匠。


「リーデル、もう少しだけだから」

「はい。お邪魔して申し訳ございませんでした」


元の位置に戻るリーデル。


「師匠……あいかわらずですね」

『……いや、これでもずいぶんとマシにはなったんだけどね……』


師匠の初対面の女性に対する人見知りは、オレから見てもひどい。


ゴーレムマスターの大家でもある師匠は、ときおり講演なども依頼される。


オレも聴講に行ったことがあるが、ゴーレムを知らない人にはとても面白く、オレのような同好の士にはとてもタメになる講演をしてくれる。


少ないながら、女性もいるわけで、時折、講演終了後に話しかけられる事がある。


この時の師匠の反応はだいたい三パターン。


言葉を発しない。


視線を合わさない。


近くの親しい仲間に激しく助けを求める。


オレが参加していれば、まず師匠はオレを呼ぶ。手がもげるぐらいの勢いで手招きする。


質問に来た相手が男であれば、相手がもう結構ですと言うまでゴーレムの話をえんえんとするのだが、女性が話を聞きに来ると、もう本当になんというか、ダメな人になる。


今だって、コアトークを仲介してですら、女性に話しかけられると挙動があやしくなってしまうのだ。


「どこがマシになったんですか?」

『ちゃんと……ごめんなさいと言えただろう?』

「それは、そうなんですが」


確かに以前の師匠だったら、慌ててコアトークを切っただろうな。


『それに……』


師匠が声をひそませる。リーデルに聞かれたくない話のようだ。


『あのメイドさん……美人すぎて目を合わせるのも無理』

「確かにリーデルは美人ですけど……うひっ」


うお、急に何かゾワっとした、なんだろ?


パッと振り返るがリーデルは変わらずのままだ。


再び師匠に視線を戻すと、とんでもない事を言い出した。


『それで、彼女はキミの……彼女さんかい?』

「は?」

『そうだとするならば、ボクはキミとの付き合い方を考えなければならない。そう……ボクがキミの師匠でなく、ボクがキミを師匠と呼ばせていただく関係になるだろうね』


師匠の顔は真剣そのものだ。キリッとしている。


別に師匠は女性嫌いではない。


オレと二人だけで会話をしている時などは、かわいい彼女が欲しいなぁと漏らしてもいる。


だが、残念ながら師匠の師匠になる、そのご期待には応えられない。


師匠に対して申し訳なく思いつつ断言する。


「リーデルが彼女? ありえませんよ。今朝も触ったら怒られましたし」

『さ、触ったのかい?』

「マッサージをと思って」

『キ、キミは大胆だな。ボクならあんな美人の影にすら近づけない……やはり師匠と呼んでいいかい?』

「やめてください」


冗談でも師匠にそう呼ばれるなんて、おそれおおすぎる。


『そうか……けれど本当に彼女はキミに気がないのかな?』

「皆までいわせないでくださいよ」

『……ならばボクは、もうしばらくキミの師匠でいよう』

「ええ、よろしくお願いします」

『しかし弟子というのは師を越えてこそだと思うよ?』


師匠が未練がましく言葉を付け加えるが、そっちの方向から越えるというのは違うのではなかろうか。


こうして師匠との楽しいトークは終わりを迎えた。


リーデルにはマナをたくさん使ってゴメンな、ありがとうと言ったら、ややはずんだ声で大丈夫ですよ、と言われた。


おや、なんだかえらいご機嫌だ。


オレはその追い風を見逃さず、もしマナに余裕ができそうなら追加戦力にゴーレムを嘆願、いや打診した。


リーデルはコアのデータを確認しつつ。ちょっと考えて。


もう少し様子を見てマナ抽出量が安定すれば大丈夫です、と認めてくれた。マジかよ。


オレが無言で喜びの万歳三唱をしていると、リーデルが別の話題を振ってきた。


「坊ちゃん。さきほどの方。本人を前にお世辞を言わない方が良い、とアドバイスしてさしあげたらどうですか? あんな聞こえるように……露骨に私の機嫌を取って、ゴーレムの話を通そうとしてらしたでしょう?」

「お世辞?」

「その……私の事を影も踏めないほど近寄りにくい、その……」

「ああ、美人って言ってたな」


リーデルほどの美人でも、自分を美人というのははばかられるのか。いやそういう性格か。


けどまぁね。


持ってない者からすれば、持ってる者の謙遜というのは、時に嫉妬パワーを生み出すのだ。


リーデルがそうやって褒められるのが苦手というのであれば、今、オレはまさに絶好の機会を得たわけだ。


自分から弱みを見せるとは。今日のリーデルはボディが甘い。


「師匠はウソを言わないし、オレもこんな美人が街で前から歩いてきたら、視線を外したフリしてガン見する」

「……え?」

「ガキの頃からの付き合いのオレですらそう思うんだ。女性に不慣れな師匠からすれば、影も踏めないっていうのもわかる気はする」

「え、えっと」


おー。


リーデルがうろたえております。


しかし褒められている以上、いつもみたいに睨まれたり説教されたりしない。


その後、しばらくからかっていたら「しょ、食事の支度がありますので」と言って逃げて行った。


おかわりは三回までオッケーだった。


オレとしては普段の仕返しのつもりだったのに、なんでおかわり増えたんだろう。




――返済期限まであと二十四日


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