第九十一話 神々の城の宝物庫
「何っ! 討伐軍が負けて、街を奪われただと!」
王都ヴェスタ、ヴェスタ城の会議室で、宰相やエリス将軍達が伝令兵の話を聞いている。
「は、はい」
「それでアイン将軍はどうなった」
「アイン将軍はしんがりを勤め、無事、ナンブの街を脱出しました。現在この王都に向かっている途中です」
「そ、そうか。それと兵の被害は?」
「負傷者多数ですが、援軍のおかげで多くの者が脱出できました」
「援軍?」
「はい。宰相様かエリス将軍が手配した援軍のおかげで助かったとアイン将軍が言ってました」
「俺は知らんぞ。エリス将軍か?」
「いえ、私も手配してません」
「その援軍とはどの部隊だ?」
「いえ、部隊ではありません。空を飛ぶ槍を持った女性の戦士ひとりでした」
兵士はグレーターデーモンとヨルムンガンドと戦神パラスアテナのことを説明する。
「なんと! Sランクモンスターが二体も!」
「それにワーウルフが二百体くらいいました」
「ディザストーム軍ですか。軍というなら、さらに兵力を持ってるかもしれませんね」
「ぐぬぬ。まさか敵がそれほどの力を持ってたとは……そうか。まずいことになった!」
兵士の説明を聞いていた宰相が何かに気付く。
「ナンブの街の次は、この王都を狙って来るかもしれん」
「えっ、ここが戦場に?」
「それに急いでナンブの街周辺の村の人々を避難させる必要がある。場合によってはこの王都の民も……」
「宰相、最悪な状況になる前に手を打つ必要があります」
「そのとおりだ。急いでディザストーム軍討伐軍を編成する。エリス将軍、指揮を頼む」
「はい。それと城塞都市バランからも援軍を出してもらいましょう」
ナンブの街の西側にツヴァイ将軍がいる城塞都市バランがあり、ナンブの街の北側がここ王都ヴェスタだった。
「そうだな。二方向から同時にナンブの街へ進軍させよう」
「それと冒険者ギルドに指名依頼を出します」
「ふむ、銀の竜殺しだろ」
「はい……いえ、今は神炎の剣です。ギルマスから銀の竜殺しは業火のエルフとパーティーを組んだと報告がありました」
「ほう。それはフルーレ国二番目のSランク冒険者パーティーということになるな」
「はい。彼等ならきっとグレーターデーモンだろうとヨルムンガンドだろうと倒してくれるでしょう」
「あっ、そう言えば、アイン将軍も銀の竜殺しに指名依頼を出すようにと言ってました」
伝令兵がアイン将軍からの伝言を思い出す。
「さすがわかってるな」
「でも今回の敗北で落ち込んでいると思います」
「そうだな。だが奴に敗北の責任はない。いや、ちょっとはあるが、他の誰が指揮をとっても勝てなかっただろう」
「私もそう思います」
「まあ、今回の撤退戦で疲れてるだろうから、表向きは謹慎として少し休ませてやるか」
「では私は第二次討伐軍の編成に取りかかります」
「うむ、なるべく早く頼むぞ」
「はい」
場面は神界の神々の城の宝物庫に変わる。ここにナンブの街から帰ってきた戦神パラスアテナがいた。
「よし、これだ。後は盾を……」
戦神パラスアテナは宝物庫にあった三又の槍を手にし、さらに飾られていた豪華な盾を手に取る。
「神槍トライデント、アイギスの盾。これがあれば異常能力値のモンスターがいくら来ようとも敵ではない」
「ほう、そいつらが必要なくらい強い奴が現れたのか?」
突然、宝物庫の入り口からひとりの男が声をかけてきた。
「インドラか。これは私の戦いだ。お前には関係ない」
その男の名は戦神インドラ。雷を操る神界の戦神のひとりである。
「そう言うなよ。お前が宝物庫の武具を必要とするくらいだから、敵はかなり強いんだろ」
「敵が一体だけなら、たいしたことはない。だが二体同時に戦うにはこいつらが必要というだけだ」
「ふむ。敵が強いなら俺が力を貸してやろうと思ったんだが、必要ないか」
「そういうことだ。私にまかせておけ」
そう言って戦神パラスアテナは宝物庫を出ていく。
「これは何か起きてるな。ふふふ、その敵とやらを少し調べてみるか」
戦神インドラは久しぶりに強敵と戦えるかもしれないと期待しながら、どこかへ歩いていった。
場面はフルーレ国の水の街セレスの京也の家に変わる。京也、ニャオウ、ハクレイ、アンナがリビングに集まっていた。
「飽きたー。スローライフもう無理」
リビングのソファーで京也が寝ころびながらそうつぶやく。その姿を見てアンナが飽きれる。
「スローライフを楽しむって言って一週間も経ってないじゃない」
「スローライフって何すればいいんだ? ゴロゴロするの、もう飽きたんだが」
「そうねー。畑仕事とかするんじゃないの?」
「俺はそういうのは興味ないな」
(テレビやネットやゲームがあれば毎日ひきこもってても飽きないんだが、無理だしな)
「ふわーっ。ニャオウは今のままでいいニャ」
ソファーに寝ているニャオウは、あくびしながらそう話す。
「猫は寝てられるからいいだろうが、俺は夜に八時間も寝れば、もう昼寝も無理だ」
「なら冒険者ギルドに行って、依頼を受けるのはどうですか?」
「それはカーナの体調が戻ってからな。せっかく仲間になったんだし、カーナ抜きで依頼を受けるのもな」
京也達は病み上がりのカーナのために冒険者活動はしばらく休みにしていた。
「ピンポーン! ピンポン! ピンポン!」
その時、玄関のチャイムが鳴る。京也は意識を玄関の方に向ける。
「この魔力はカーナか!」
京也は急いで玄関に行ってドアを開けた。
「キョウヤ! 緊急の指名依頼が来たよ!」
「緊急? まあ、とりあえず中に入ってくれ」
「おじゃまします」
京也とカーナが、ニャオウとアンナとハクレイがいるリビングに入る。
「カーナ! もう大丈夫なの?」
「うん、もう完全に元通りよ」
「それはよかったニャ!」
「一安心ですね」
「それで緊急の指名依頼っていうのは?」
「王都のエリス将軍からの依頼で、南にあるナンブの街がモンスターの軍団に奪われたから、その討伐軍に参加して欲しいんだって」
「モンスターの軍団か」
「うん。あと、そいつらにアイン将軍と神竜の牙が負けて撤退したみたい」
「マジか! それは強敵だな」
「詳しい話は王都の冒険者ギルドで説明するらしいから、王都まで来て欲しいって」
「わかった。よーし! 神炎の剣の初仕事だ!」
「カーナと京也が一緒に戦えば、どんな敵だろうと、もう勝ったも当然ね」
「そうニャ! さっさと倒してまたスローライフを楽しむニャ!」
「ふふふ、まあ待て」
皆が戦う前に勝利を確信してると、京也が得意げな様子で話す。
「いいか。力を持った者の最大の敵は慢心だ。敵は己の中にあり!」
次回 黄金の竜の鎧 に続く




