第七十四話 不死迷宮
(うん、エトワール王子は信頼できる感じがする)
京也は今までのエトワール王子とアイン将軍との会話でそう判断する。
「わかりました。ならエンシェントドラゴンのうろこは売りましょう。自分でも色々作ってみたいのでうろこを十枚確保して、残りを売ります」
「おお、そうか! 売ってくれるか! 買い取り金額は期待してくれていい。兵士の命が救えると思えば安いものだ」
「エンシェントドラゴンの素材は、牙と爪と肉と魔石もあるだろ。それはどうするんだ?」
「肉はいらないですが、牙と爪と魔石は自分で使おうと思ってます。エンシェントドラゴンの牙で武器を作れば強いのができそうなので」
「そうか。その強い武器とやらに俺も興味があるが、ここは欲張らず、うろこの鎧と盾に期待するか」
場面はフルーレ国最大のダンジョンといわれる不死迷宮内部に変わる。京也がエトワール王子と交渉してる頃、カーナは不死迷宮の地下三階にいた。
「ここら辺は、まだ冒険者達でにぎわってるわね」
地下三階にはカーナ以外にも冒険者達がたくさんいた。この不死迷宮のモンスターはレアなモンスターや高価なアイテムを落とすモンスターがいるので、常時、冒険者達が攻略しているのである。
「ん? スケルトンかな」
地下三階を進んでいたカーナは、前方に四体のスケルトンがいるのに気付く。スケルトンは人型の骨のモンスターで、鉄の剣と鉄の盾と鉄の鎧を装備していてカーナに向かって歩いてくる。
「マジックボム!」
カーナは五十センチくらいの魔力の球を四個作り出し、それをスケルトンに向かって放つ。それが四体のスケルトンに命中して爆発し、鎧や骨がバラバラになった。
「ここで火の魔法を使うと大変なことになるから、無属性魔法で戦うしかないのが少し面倒ね」
カーナの火の魔法は威力が桁違いなので、閉鎖空間の地下迷宮で使うわけにはいかなかった。
「この骨はいらないかな」
カーナは散乱しているスケルトンの骨は回収せず、壊れた鉄の剣や鎧などを回収して先に進む。
場面は王都ヴェスタのヴェスタ城の談話室に戻る。エンシェントドラゴンの素材の交渉が終わり、京也達は雑談している。
「お前達はエンシェントドラゴンの解体が終わるまで暇だろ。どうだ? 三日後の武術大会に出てみないか?」
「武術大会?」
「ああ、この国の最強を決める一対一の大会だ。俺も出るしエリス将軍も出る。神竜の牙のアーサーも出るらしいぞ」
「ええと、俺は止めときます」
「ん? 何で?」
「人前で戦うのはちょっと……俺の手の内を見られたくないので」
「ああ、確かにその考えはわかるな」
「なら観戦だけすればいい。こちらでいい席を用意しよう」
「はい。観戦だけなら、ぜひお願いします」
「キョウヤ! エリス将軍が負けそうになったら助けに入る気でしょ!」
「は? そんなことしないって」
いつものようにアンナが京也をからかう。
「何だ? キョウヤはエリス将軍が好みなのか?」
「ち、違います! 好みとか、そういうのじゃなく……」
「確かエリス将軍は二十六歳だったか。まだ結婚もせず、釣り合う相手がいなくて困ってると言っていたな。これはいい。さっそく縁談を進める……」
「ち、ちょっと待ってください! エトワール殿下!」
「そうだった。キョウヤはほかにも気になる人がいるんだった」
「お、おい!」
「そうか。ならエリス将軍に決めたらすぐに報告してくれ。王都を上げて祝福しよう」
エトワール王子は京也がエリス将軍と結婚すれば、フルーレ国に敵対することがなくなると考え、縁談を進めようとしたのである。
場面は天界の神々の城に変わる。女神アフロディーテは一緒に戻ってきた霊体の戦神アレスと別れ、青い髪の女神のいる部屋に来ていた。
「あっ、アフロディーテ。地上世界はどうだった?」
「大変なことになりました。もうどうしたらいいのか……」
女神アフロディーテは戦神アレスが邪神に負けたことと、その邪神の反応が二つあり、さらにその邪神が想定を越える力を持っていることを説明した。
「ふーん。それは確かに困ったわね。それで呼び出した人間達が言っていた強い人物とは会えたの?」
「人間達のなかで強いと言われるSランク冒険者には会いましたが、あまり強くはありませんでした。まだ会ってないSランク冒険者もいたのですが、邪神が現れアレスが負けたので、急いで帰ってきたのです」
「それなら、まだ会ってないほうも期待できないわね」
「はい。それにまだおかしなことがあります。その邪神と戦っていたエンシェントドラゴンが、私の知っている強さではなかったのです」
女神アフロディーテが知っているエンシェントドラゴンの強さは、彼女が呼び出した三人の英雄でも倒せるくらいの強さのはずだった。それが彼女の想定を越える強さの邪神と勝負ができるくらいの強さになっていたのである。
「なるほど。あなたの管理する世界の色々なところが、おかしくなってるみたいね。考えられるのは、あの次元転送装置の不具合の影響くらいかしら」
「え? 確かに最初は色々不具合がありましたが、今は正常なはずです」
「うーん。前にあった不具合の影響が世界にでてるのかもしれないわ」
「そ、そんな。それじゃあ、どうすれば……」
「私もこんなことは初めてだから、どうすればいいかわからない。でもこのことが主神にバレたら、管理者としてあなたが罰せられるかも」
「はわわ……」
女神アフロディーテは混乱している。
「大丈夫、対応策を私も一緒に考えてあげる。まずは主神にばれないように行動しましょう」
時は少し進み、場面は不死迷宮の地下八階に変わる。
「マジックボム!」
カーナは少し離れた場所にいる鎧だけのモンスターリビングアーマーに向けて魔力の球を放つ。それがリビングアーマーに命中し爆発して、鎧の破片が辺りに散らばる。
「モンスターとの戦闘は問題ないわね」
カーナは床に落ちている壊れた鋼鉄の鎧と鋼鉄の剣とリビングアーマーの魔石を回収する。
「後は罠だけど」
カーナは今、レビテーションの魔法を発動しながら、物理障壁(不可視)を全身の周りに展開している。レビテーションは宙に浮く魔法で、彼女は落とし穴や床スイッチ罠対策で、床から一センチメートルくらい浮いた状態で歩いていた。
物理障壁(不可視)はその名の通り、目では見えない物理障壁で、ダンジョンの罠でよくある毒矢などから身を守るためのものである。
さらにカーナはすべての状態異常を無効化する装飾品「ミカエルのロザリオ」を持っていた。それで毒ガスや睡眠ガスなどの罠も彼女には効かなかった。
「レビテーションと物理障壁(不可視)とミカエルのロザリオがあれば罠は大丈夫でしょ。問題は……」
カーナは周りを見渡して付近に魔力反応がないか探す。だがあるのはモンスターの魔力反応だけで、冒険者達の魔力反応はなかった。地下八階になると出現するモンスターが上層階より強くなるので、ここまで来れる冒険者は少なかった。
「さ、さみしい……」
次回 王都ヴェスタ武術大会 に続く




