第七十三話 交渉
「ではどうする?」
ヴェスタ城の会議室でフルーレ国の上層部が、エンシェントドラゴンの素材について議論している。
「エンシェントドラゴンの素材は、すべて我が国で確保するべきです」
「なら銀の竜殺しからすべて買い取ればいい。破格の値段を出せば喜んで売るだろう」
「それはどうかな? 銀の竜殺しは金や名誉では動かないタイプらしい」
「なら俺自ら彼と交渉してみよう」
「エトワール殿下がですか?」
エトワール王子はフルーレ国の第一王子であり、次代の国王候補である。彼は十八歳で、サラサラの金髪で整った顔立ちをしている。現在の国王は病気がちなので、フルーレ国の政策は彼と宰相が中心となって行われていた。
「銀の竜殺しは単独でエンシェントドラゴンを倒し、ラージ帝国軍を一人で追い返した戦闘能力を持っている。業火のエルフと共にこの国に絶対必要な人材だ。間違っても敵対はできない。なら俺自ら交渉し、誠意を見せる必要がある」
「確かにエトワール殿下のおっしゃる通りです。ですが銀の竜殺しが信用できる人間か、まだわかりません。殿下が直接会うのは危険なのでは?」
「なら俺が付き合おう」
「おお、アイン将軍」
「確かに我が軍最強の男が一緒なら心強い」
「殿下。俺は前に銀の竜殺しと話したことがありますが、我等に害をなす存在には見えませんでした。ですから心配は無用です」
「そうか。では明日、銀の竜殺しと交渉する場を用意してくれ」
「はっ!」
こうしてその日は終わり、次の日の朝になる。京也達はエンシェントドラゴンの解体が終わるまで、ヴェスタ城の来客室に泊ることになっていた。
「さて、エンシェントドラゴンの解体が終わるまで暇だ。どうしようか」
「今日は何もせずゴロゴロしてていいんじゃない」
「そうだな。今日は体を休めるか」
「解体はたぶん一週間はかかるでしょ。明日からはまた観光とか買い物とかで時間をつぶせばいいでしょ」
「観光なら今度は私も建物の中に入りますよ。せっかくこの精霊化のスキルを手に入れたんですから」
そう言ったのは精霊状態のハクレイだった。ハクレイは二十センチくらいの仔馬のぬいぐるみのような姿の霊体になって宙に浮いている。これはハクレイがレベルアップで習得した精霊化のスキルの効果だった。
「ああ、ドラゴン討伐の前に観光した時は、ハクレイは建物の中には入れなかったからな」
「はい。今から観光が楽しみです」
「ん? そういえばニャオウはどうした?」
「ニャオウなら、あっちの部屋の窓際で寝てるよ」
「そうか。夜寝て朝起きたと思ったらまた寝てるのか。よく寝るな」
「まあ、猫だからねー」
「失礼します」
京也達の会話の途中、来客室にメイドが入ってくる。
「キョウヤ様。エトワール殿下が面会を求めています」
「エトワール殿下?」
「はい。この国の第一王子で次の王になるお方です」
「そんな方が俺に面会?」
「はい。一時間後、談話室でお会いになりたいとおっしゃっています」
「王子の誘いは断れないな。わかった。こんないい部屋に泊めてもらってるしな」
「では一時間後、また迎えに来ます」
そう言ってメイドは来客室を出ていく。
「王子様だって。何の話だろ?」
「たぶんエンシェントドラゴンの素材のことだろうな」
「あー、エンシェントドラゴンの素材が欲しいんだ。それで京也はどうする気?」
「その王子がどんな人物なのかしだいだな。信用できるのか、いけ好かない強欲な王子なのか」
「いけ好かない強欲な王子だったら?」
「その時は思いっきり殴り飛ばして、速攻で国外に逃げるか」
「そ、それは過激ね。そんなことしたら賞金首になって、Sランク冒険者の地位をはく奪されるんじゃない?」
「俺は地位にはこだわらないし、変装のスキルもあるから大丈夫だろ。まあ、確かに面倒なことにはなるな。王子がまともな人物であることを願うよ」
「いざとなったら私に乗って皆で逃げましょう。加速を使えば、誰も追いつけません」
「そうだな。その時のためにみんなで談話室に行くか」
一時間後、呼びに来たメイドと共に、京也、ニャオウ、アンナ、精霊状態のハクレイが談話室に入る。精霊状態のハクレイは仲間である京也達以外には見えない状態だった。
「失礼します。キョウヤ様をお連れしました」
「うむ、ごくろう」
京也達が談話室に入るとエトワール王子、アイン将軍がソファーに座っていて、近衛兵の精鋭二人がエトワール王子の後ろに立っている。
「よく来てくれた。俺がエトワールだ」
「初めまして。Sランク冒険者のキョウヤです」
「キョウヤ殿。さあ、こちらに座ってくれ」
京也は示されたソファーに座り、その隣にニャオウがジャンプして乗る。アンナは京也の肩に乗っていて、精霊状態のハクレイは京也のそばで宙に浮いている。
「キョウヤ。エンシェントドラゴンを一人で倒したって聞いたぞ」
エトワール王子の隣に座ってるアイン将軍が京也にそう話しかける。普通、いくら将軍と言っても王子のとなりに座るということはあり得ないのだが、エトワール王子は気さくな性格で、そんなことは気にしなかった。
「一人ではないですよ。仲間がいなければ絶対に勝てませんでした」
「そう、私が回復魔法を使わなかったらキョウヤは今頃どうなっていたか」
京也の肩に乗っているアンナが得意げにそう答える。
「なるほど、銀の竜殺しの仲間も優秀ということか」
「そうニャ! ニャオウも活躍したのニャ!」
「ほう、しゃべる猫の方も優秀か」
(この猫からかなり強い魔力を感じる。やはり普通の猫ではないな)
アイン将軍はニャオウが持つ強い魔力を感じ取っていた。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。エンシェントドラゴンの素材の件なんだが、ぜひ我々に売って欲しい」
(やはりそう来たか)
「エンシェントドラゴンの素材を使えば、強力な武器や防具が手に入る。それを騎士団が装備すれば、大陸最強の騎士団ができるだろう」
(やはり戦争に利用したいんだな)
アイン将軍の説明を危機ながら、京也は黙って考えている。エトワール王子は京也から強引にエンシェントドラゴンの素材を奪おうとはしなかった。京也はその点は評価するが、その使い道が気になっていた。
「キョウヤ殿は、我々がエンシェントドラゴンの素材を使って侵略戦争を起こすと考えているのではないか?」
「はい。自分の売った素材のせいで、この大陸が戦乱の世になることを心配しています」
「ははは! それはないぜ。うちの国は、今までも一度も他国に侵略目的で兵を出したことはない。軍を動かすのは自国と同盟国を守る時だけだ」
「そのとおりだ。我々がエンシェントドラゴンの素材が欲しい理由は、兵士達の生還率を上げるためだ。あのうろこを素材に鎧と盾を作れば、戦いで死ぬ兵士をかなり減らせるだろう」
次回 不死迷宮 に続く




