第七十二話 報酬
「なんとか帰って来れたか」
「ああ、エンシェントドラゴンを見た時はもう駄目かと思ったが、全員無事、帰って来れて良かった」
王都ヴェスタに戻ってきたドラゴン討伐軍の兵士達は、皆、安堵の表情を見せている。
「私はキョウヤさんと冒険者ギルドに向かいます。あなた達はヴェスタ城へ帰還してください」
「了解しました」
エリス将軍の指示で、ドラゴン討伐軍の兵士達はヴェスタ城に向かって進んでいく。
「キョウヤさんは私と冒険者ギルドに行きましょう。今回の指名依頼の報酬が用意されてるはずです」
「はい」
ハクレイに乗った京也とニャオウとアンナは、馬に乗ったエリス将軍と共に王都の冒険者ギルドに向かって進んでいく。
「それとエンシェントドラゴンの素材やフェンリルが倒したブラックドラゴンの素材とかもキョウヤさんの物になります」
「ああ、今回も報酬がとんでもない金額になりそうです」
「いいじゃない。これで一生遊んで暮らせるよ!」
「やったニャ! 毎日、美味しいものを食べて昼寝しまくるニャ!」
「いやいや、それじゃあ、やることなくて飽きるって」
(この世界にはネットもゲームもないんだ。退屈でひきこもれない)
「でも今回は大変な戦いだったので、しばらく休養することは必要ですよ」
「そうそう。ハクレイの言う通りだよ!」
「確かにな。帰ったら、しばらくのんびりするか」
京也達がそんな会話をしながら進んでいると王都の冒険者ギルドに到着する。いつものようにハクレイは冒険者ギルドの入り口の前で待っていて、ニャオウはハクレイの背中で日向ぼっこしている。冒険者ギルド内には京也とアンナとエリス将軍が入っていく。
「ギルドマスターに会いたいんですけど」
「あ、エリス将軍とキョウヤさん! はい、ご案内します!」
受付嬢が京也達を二階のギルドマスター室に案内する。
「ギルマス! エリス将軍とキョウヤさんをお連れしました」
「おお、入ってくれ」
三人がギルドマスター室に入ると、美しい大人の女性のギルドマスターが椅子に座っている。
「竜の谷から無事、帰ってきたか」
「はい。エンシェントドラゴンの討伐は成功しました。キョウヤさんがエンシェントドラゴンの死体を収納して持ってきてます」
「では依頼の報酬を払わないとな。キョウヤへの報酬を用意してくれ」
「はい。ギルマス」
ギルドマスターに指示された受付嬢が部屋を出ていく。ギルドマスターは自分の椅子から立って来客用のソファーに座り、京也とエリス将軍は反対側のソファーに座る。
「ああ、それとキョウヤ。冒険者ギルドカードを出してくれ。Sランク昇格の手続きをするからな」
「ああ、そういえばランクが上がるんでしたね」
京也は冒険者ギルドカードを取り出してギルドマスターに渡す。彼女はソファーから立ち上がって、冒険者ギルドカードを自分の机の上にあった魔法の水晶にかざす。
「おお、ほんとに討伐記録にエンシェントドラゴンが登録されてる。これで条件はクリアだ」
「おめでとうございます。キョウヤさんは、神竜の牙の四人と業火のエルフに続いてフルーレ国の六人目のSランク冒険者ってことになりますね」
「あんまり実感はありませんが」
「失礼します」
そう言って冒険者ギルドの職員の男二人と受付嬢が、ギルドマスター室に入ってくる。
「こちらがキョウヤさんへの報酬になります」
「うむ。ごくろう」
職員達がテーブルの上に白金貨で650000ゴールド(六千五百万円)とブラックドラゴンの魔石を置く。
「キョウヤ! 今回も四分の一もらっていいんだよね」
「ああ、いや。今回はフェンリルにもやるから五分の一だな」
「それでもすごい金額だよ。ふふふ、何に使おうかな……」
京也の肩に乗っているアンナは、にやけ顔で色々妄想している。
「彼のSランク昇格の手続きも頼む」
「はい。お任せください」
受付嬢は京也の冒険者ギルドカードを手に取り、職員の二人と共に部屋を出ていく。
「ブラックドラゴンの素材は魔石だけでいいんだったな」
「はい」
「では前回討伐したブラックドラゴンなどの素材の代金と、今回のエンシェントドラゴン討伐の報酬650000ゴールドだ。受け取ってくれ」
京也は白金貨とブラックドラゴンの魔石を受け取り、アイテム画面を表示してそれらを収納する。
「あとは……エンシェントドラゴンの解体か」
「ほかにも竜の谷に残してきたドラゴン達の素材もキョウヤさんの物がたくさんあるので、そちらの素材の処理も頼みます。あとで軍の輸送部隊が持ってくるので」
「まだ報酬があるのか。いいねぇ。どうだ? キョウヤ。私と結婚しないか?」
「は?」
京也はいきなり求婚されて固まっている。
「キョウヤさん。ギルマスの冗談ですよ。お金にがめつい女性を演じたんです」
「えっ? あ、ああ。こういうのは慣れてないので」
(いや、本気だったんだが、今から本気とは言いづらい……)
ギルドマスターはポーカーフェイスで会話を進める。
「ではこれから解体場に行くか。案内しよう」
ギルドマスターの案内で京也達は冒険者ギルドの近くに建っている解体場に到着する。
「ギルマス、エンシェントドラゴンを出すには、広い場所が必要ですよ」
「なら解体場の裏庭に広いスペースがあるからそこにしようか」
京也達が解体場の裏庭に到着すると、京也がアイテム画面を開いてエンシェントドラゴンを取り出す。その裏庭には解体場で働いている職人が何人も来ていた。
「おお! これがエンシェントドラゴンか!」
「なんと美しいうろこなんだ!」
「強度も凄そうだ。というかこれを俺達で解体できるのか?」
職人達はエンシェントドラゴンのうろこをはがそうとするが、簡単にはいかなかった。
「これは王都にいるドワーフの職人達にも手伝ってもらう必要があるな。それでもかなりの時間がかかるだろう。それでキョウヤ。この素材はまた魔石以外全部買い取りでいいのか?」
「ええと、まだ考え中なんですよ。これを市場に流していいものなのかどうか」
エンシェントドラゴンの素材を使えば様々な強力な武器や防具ができるので、世界の軍事バランスが崩れてしまう恐れがあるのを京也は心配していた。
「そうか。それとエンシェントドラゴンの素材なんて市場に出るのは初めてだから、いくらの値がつくかまったくわからない。まあ、肉はほっとくと腐るからとりあえず解体はしといたほうがいいだろ」
「はい。お願いします」
(メニューシステムの解体を使えば自分でできるけど、ここは秘密にしておいたほうがいいな)
この世界の収納スキルには解体機能はないので、京也は自分の正体がばれないようにそう考える。
「わかった。解体には時間がかかるだろうから、それまでにどうするか考えておいてくれ」
その後、京也は受付嬢から白色のSランク冒険者ギルドカードをもらい、エリス将軍と共にヴェスタ城に帰っていった。
数時間後、場面は王都ヴェスタのヴェスタ城の会議室に変わる。そこには宰相や第一王子やアイン将軍などフルーレ国の上層部がいた。
「ドラゴン討伐軍がエンシェントドラゴンの討伐に成功しました」
「やってくれたか」
「はい。エンシェントドラゴンは銀の竜殺しが単独で討伐したようです」
「単独でか。それは困ったな」
「ん? 何が困るんだ?」
宰相の困ったという言葉を聞いて、アイン将軍がそう質問する。
「単独で討伐したということは、エンシェントドラゴンの素材の権利は銀の竜殺しがすべて持っているということだ」
「ああ、宰相殿はエンシェントドラゴンの素材が欲しいのか」
「当たり前だろう。エンシェントドラゴンの素材があれば、軍をかなり強化できる。逆にラージ帝国や魔族国アスラに素材が流れたら大変なことになる」
次回 交渉 に続く




