第〇〇七話 原初の洞窟へ
「80000ゴールド……」
(白金貨か。金貨十枚で白金貨一枚だったかな。それと魔石だ。ドラゴン系の魔石は強い魔力を秘めているから何かに使えるはず。売るのはもったいない)
「それとキョウヤさんは今日からCランクに上がります」
京也の冒険者ギルドカードが緑色から黄色に変わっていた。受付嬢はそのカードと白金貨八十枚とレッドドラゴンの魔石を京也に渡す。
「こんなに早くCランクに上がる人は珍しいですよ。普通の冒険者はDランクからCランクには半年から一年くらいかかります」
「それだけドラゴンの討伐ポイントが凄いということか」
「はい、キョウヤさんの実力はSランク冒険者でも、おかしくないですよ」
「いや、俺はまだまだだよ。彼女に比べたらな」
「ああ、カーナさんのことですね。彼女はこの国にいる五人のSランク冒険者の中でも最強と言われてますからね」
「あの魔法の威力ならそうだろうな」
京也はモンスターの軍勢を一撃で壊滅させたカーナの魔法を思い出していた。
「そうだ。魔法書を買いたいんだが、魔法屋はどこにあるんだ」
「魔法屋なら、ここから西方向に十五分くらい歩いた所にあります」
「わかった。行ってみよう」
京也は冒険者ギルドを出て西に向かう道を歩いていく。すると魔法屋の看板がある店を見つける。
「ここだな」
京也が魔法屋に入ると、大人の長い髪のセクシーな女性のエルフの店主がカウンターに座っていた。
「いらっしゃい、何か探し物?」
「雷系か氷系の魔法が欲しいんだが」
「あなた、二つも適応属性を持ってるの?」
「適応属性?」
「自分の適応属性を知らないのなら、この水晶に触れてみて」
エルフの店員がカウンターの隅にある三十センチくらいの水晶を指さす。京也はその水晶の前に移動して右手で触れてみる。すると水晶が黄色の光を放ち始めた。
「うん。あなたは雷属性みたいね」
(そうか。この世界では、適応属性の魔法でないと習得できないのか)
レジェンドワールドには適応属性などはなく、すべての属性の魔法を習得できた。だがこの世界では習得できる魔法に制限があり、普通は一種類の系統の魔法しか習得できなかった。
「なら雷系の魔法書を頼む」
「雷系ね。ちょと待って」
エルフの店主が棚から四冊の魔法書を取り出す。
「これが雷系の初級、中級、上級、最上級の魔法書よ」
「それを全部もらおう」
「え? 最上級の魔法書だけでも10000ゴールド(百万円)なんだけど」
「大丈夫だ。全部でいくらだ?」
「17500ゴールドよ」
京也はアイテム画面を開き17500ゴールドを取り出して四冊の雷系魔法書を手に入れた。
「めんどうだから、ここで魔法を習得してもいいかな?」
「ほかにお客もいないし別にいいけど」
京也は四冊の魔法書を開き「サンダーボルト」「ライトニングレイン」「サンダーストーム」「サンダーブレイズ」を習得した。
「驚いた……最上級魔法は魔力が300以上ないと習得できないのに」
エルフの店主は、京也が最上級魔法までは習得できないと思っていたので驚いている。強力な魔法の魔法書は、属性の適性があっても一定以上の魔力がないと習得できないのである。
(それにしてもおかしな男ね。装備は剣士なのに最上級魔法まで習得できるなんて)
エルフの店主は京也に興味が出てくる。
「ああ、そうだ。生活魔法の魔法書も欲しいんだが」
「生活魔法なら、そっちの棚にあるから好きなのを選んでよ」
京也は示された生活魔法の棚の前に移動する。
(光球と結界と点火はあるから……)
京也は「水生成」と「冷却」と「洗濯」と「清潔」の生活魔法の魔法書を手に取りカウンターへ持っていって購入し、先ほどと同じようにこの場で習得した。
「あなたの剣や鎧、高そうだし、どっかの貴族なの?」
「いや、ただのCランク冒険者だよ」
「またまたー。お姉さんをからかっても何にもないよ」
京也は本当のことを言ったのだが、信じてもらえず苦笑いをしている。
(さて、魔法も習得したし宿屋へ帰るか)
「では俺はこれで」
「またどうぞ」
京也は宿屋に戻り、食事したり、休んだり、読みかけていた冒険者の心得を読んだりしてこの日を過ごした。
そして次の日の朝、京也は冒険者ギルドに来て巨大掲示板の前に立ち、依頼の張り紙を見ている。
「Cランクの依頼は……これにするか」
京也はその張り紙をカウンターへ持っていく。
「これを頼む」
「はい。原初の洞窟のマンティコアの討伐ですね。こちらが原初の洞窟の場所の地図です」
受付嬢が紙の地図を京也に渡す。
「マンティコアはCランクモンスターで、普通はパーティで受けるクエストなんですが、竜殺しのキョウヤさんならソロでも大丈夫だと思います」
「ああ。まかせてくれ」
京也は街で食料や雑貨を買って洞窟を探索する準備を整えてから、水の街セレスを出て北にある原初の洞窟へ向かった。
三十分後、京也は加速スキルを使って原初の洞窟の入り口までやってきた。
「ここか。やっと見つけた」
京也がもらった地図は大体の場所しか書かれてなかったので、森の中をあちこち走り回って、やっと原初の洞窟の入り口を見つけたのである。
「よし! 光球!」
京也は洞窟に入り空中に光の球を作り出す。すると洞窟の中は意外と広く、かなり奥まで続いているように見えた。
「こんな便利な魔法があるなら、松明なんて使ってられないな」
京也は光球の明かりを頼りに洞窟の中を進んでいく。
「むっ、モンスターの気配だ」
京也は気配感知のスキルのおかげで、離れた場所にいるモンスターの存在を知ることができた。彼がこの洞窟で最初に遭遇したのは、一メートルくらいの巨大な蜘蛛のモンスターだった。
「あれはハンタースパイダーだな」
ハンタースパイダーの口には鋭い牙があり、頭には目が八個ついている。今は距離が離れているため、ハンタースパイダーはまだ京也に気付いていなかった。
京也はハンタースパイダーが自分に気付く前に、右手から魔力を放出してそれを雷に変換し雷系下級魔法を発動する。
「サンダーボルト!」
「ギギャーーッ!」
雷の直撃を受けたハンタースパイダーは、全身が感電して倒れ動かなくなった。普通なら下級魔法の一撃で倒れるモンスターではないのだが、魔力999の京也の下級魔法は威力が増していて一撃で倒せたのである。
京也は倒れたハンタースパイダーに近づき、アイテム画面を表示して収納して解体する。
ハンタースパイダーの魔石×1
ハンタースパイダーの牙×2
「スキルはどうかな?」
京也はスキル画面を開いてみたが、新たなスキルは習得してなかった。
「まあ、しょうがない。先に進むか」
京也はさらに洞窟の奥に進んでいく。
「むっ、またモンスターだ。しかも何体もいる」
京也の前に現れたのは、体長一メートルを超える複数の巨大なコウモリのモンスターだった。
「洞窟にいるコウモリのモンスターならジャイアントバットだな」
ジャイアントバットは全部で六体いて、洞窟の天井に逆さになってぶら下がっている。ジャイアントバットは京也の接近をすでに感知していて、六体すべてが京也の方を見て警戒している。
「六体もいるのか。なら今度は広範囲魔法だ」
次回 最下層の戦い に続く