第六十七話 魂融合
「キョウヤも行っちゃった」
「私達はどうしますか?」
京也と戦神アレスの戦いを離れた岩の影で見ていたアンナとハクレイは、これからどうするか話し合う。
「んー。京也の後を追った方がいいかな。いざという時は京也を乗せて加速で逃げれるように」
「なるほど」
「でもあんまり近づくと戦いに巻き込まれるから、少し離れた所から様子を見るのがいいかも」
「そうですね。では京也の後を追いましょう」
アンナを乗せたハクレイは空を走り、京也の進んだ森の方へ向かった。
場面は戦神アレスがいる山の森の中に変わる。彼は森の中を走り、ダメージを追って墜落して倒れているエンシェントドラゴンがいる場所に到着する。
「派手にやられたな。エンシェントドラゴン」
「ぐぐっ、戦神か」
ニャオウとの戦いで大ダメージを受けたエンシェントドラゴンは、体を動かさず目だけを動かして戦神アレスを見る。
「そっちも傷だらけだろうが」
「まあ、そういうことだ。このままでは俺達の負けだ。そこで……」
戦神アレスはエンシェントドラゴンのそばに近寄り、右手でエンシェントドラゴンの体に触れる。
「貴様! 何をする気だ!」
「お前の力を貸してもらう。このままでは二人とも殺されるぞ」
「ふん。力を貸そうにもしばらくは動けん」
「俺の体を貸してやる。だからお前の魂をよこせ」
「むっ……まさか、我の魂をお前の体に移そうというのか?」
「そうだ。よくわかったな。魂融合だ」
「それは、我にこの体を捨てよと言うのか」
戦神アレスが提案した魂融合とは、二つの魂を融合してひとつの体に入れる神々の秘術である。それにより二人分のスキルが使えるようになり、魔力などの能力値も強化されるのである。
「この魂融合は双方の同意がなければ使えない。早く覚悟を決めろ。奴がもうそこまで来てるぞ」
「くっ」
エンシェントドラゴンは、今のままでは京也とニャオウに勝てないことはわかっていた。
「仕方ない。お前の手に乗ってやる」
「よし!」
戦神アレスとエンシェントドラゴンは全身に魔力をまとい精神を集中させる。
「魂融合!」
エンシェントドラゴンの魂が戦神アレスの右手を通って、彼の体の中へ移動し二つの魂が融合する。
「ふはははは! 成功だ!」
戦神アレスは今までより強大な魔力を全身から放出して身にまとう。
「これだ! この強化された力とエンシェントドラゴンのスキルがあれば奴等に勝てる!」
(はー、なぜ我がこんな目に……)
戦神アレスの体に取り込まれてもエンシェントドラゴンの意識は残っていた。エンシェントドラゴンは戦神アレスの体を操ることはできないが、心の中で会話することはできた。
(おい、戦神! 我は元に戻れるんだろうな)
「えっ? ええと……」
(まさか戻れないのか?)
「いや、それは……ん! 来たか!」
戦神アレスが振り向くと京也がこの場に到着していた。
「エンシェントドラゴンと合流しようとしてたのか」
(傷だらけだな。ニャオウが勝ったのか。ん? ニャオウは……)
京也は周りの気配や魔力を探る。するとニャオウは空中をまだ飛んでいた。
(よかった。無事だったか)
ニャオウの元気な様子を確認し京也は安心する。
「よく来たな、人間。だがもう遅い!」
「むっ、その魔力は!」
京也は、戦神アレスの魔力が先ほどより大幅に強化されていることに気付く。
「ふふふ、わかるか。エンシェントドラゴンの魂と融合して強化された俺の力が!」
「魂の融合?!」
京也は戦神アレスの近くで動かないエンシェントドラゴンを見る。
(ということは、そっちのエンシェントドラゴンは魂がなくなってるのか。確かに動かないが)
「ふふふ、理解したか。俺が貴様より強くなったことが」
戦神アレスはさらに全身から凄まじい魔力を放出する。それは大気が震え、地鳴りが発生するほどの強大な魔力だった。
「くっ、確かに凄い魔力だ」
(だがこれでもカーナには届いてない……)
京也は戦神アレスの魔力の強さより、カーナの魔力の凄さに改めて驚く。
「さて、ドラゴンの力とやらを試してみるか」
戦神アレスは大きく息を吸って口の中に魔力を集中させる。
「ドラゴンのブレスか!」
京也は戦神アレスの魔力と動作を見て危険を察知し、全身を魔法障壁で守りながら森の中を全力で走りこの場から離れようとする。だが森の中は木や草などが密集していて高速では走れなかった。
「ブフフアアアアアア!」
戦神アレスは口から猛火のブレスを吐き出した。その猛烈な勢いの火が森の木を燃やしながら広範囲に拡散していく。
「うあああああ!」
その火に京也は飲み込まれ、そのまま吹き飛ばされた。
「おお! これがドラゴンのブレスか! これを喰らったら無事では済まないだろうな! ハッハッハッ」
戦神アレスは京也が猛火のブレスに飲み込まれたのを見て、勝利を確信した。今の猛火のブレスはエンシェントドラゴンが使った時より、さらに威力が強く範囲も広かった。
「この力は色々できそうだ。例えば……そう、ドラゴンウイング!」
戦神アレスは背中にドラゴンの翼を作り出し、それを羽ばたかせて空を飛び始める。
「ハハハハ! 速いっ! 速いぞ!」
戦神アレスはエンシェントドラゴンの飛行のスキルも使えるようになっていて、さらにエンシェントドラゴンより高速で飛行できるようになっていた。
「むっ! 何ニャ!」
空中を飛んでいたニャオウが、空を飛んでいる戦神アレスを発見する。彼は人間サイズなので、広い空で目視で見つけるのは大変なのだが、彼がまとっている強大な魔力のおかげで、ニャオウはすぐに見つけることができた。
「あれはキョウヤが戦ってた奴ニャ! ん? ならキョウヤはどうしたのニャ?」
ニャオウは付近の京也の魔力を探す。すると森の中から京也の魔力反応を感知する。
「いたニャ!」
ニャオウは地上にいる京也の所へ飛んでいく。彼は戦神アレスの猛火のブレスを受けて全身にダメージを負っていて、うずくまっていた。
「ぐっ、い、痛てぇ」
京也は猛火のブレスに飲み込まれた時、全身に魔法障壁をまとっていた。だが猛火のブレスはその魔法障壁を破壊し、京也の体にやけどを負わせていた。
「キョウヤ! 大丈夫かニャ!」
「こ、このくらい……大丈……夫」
京也は強がりを言ったが、全身のやけどの痛みで話すのも辛そうにしている。そのやけどは、彼が装備している精霊神の守りの持つHP再生の効果で少しずつ回復しているが、完治するまではまだまだ時間かかかりそうだった。
「キョウヤ!」
「キョウヤ!」
そこへ空を走っていたハクレイとアンナも、京也の元へ駆け付ける。
「アンナ! 回復魔法を!」
「わかってる」
アンナは精神を集中させて全身から魔力を放出して魔法を発動する。
「エクストラヒール!」
アンナが回復魔法を発動すると京也の全身が光に包まれ、やけどが徐々に治っていく。そしてしばらくするとやけどは完全に治った。
「ふぅ、これで完治ね」
アンナは京也の体のやけどが治ったことを確認する。だが京也はその場から動かず体を振るわせていた。
次回 破滅の竜を従えた闇の邪神 に続く




