第六十三話 新たな敵
「やった! 戻って来れたぞ!」
「助かった!」
ドラゴン討伐軍の兵士達が竜の谷の入り口に到着し、この場に残っていた後方支援部隊と合流して喜んでいる。彼等は後方にいたブラックドラゴン、レッドドラゴン、ワイバーンを全滅させて、この場所に到着していた。
「フェンリルが一緒に戦ってくれて助かりました。もしいなかったらどれだけ被害がでたことか」
「ふん、健康のため、たまには運動しないとな」
「ニャオウちゃん達もありがとう」
「ニャー!」
エリス将軍達と一緒にフェンリル、ハクレイ、ニャオウ、アンナも無事、竜の谷を脱出できた。
「キョウヤさんがフェンリルを従魔にしていることは知ってましたが、まさか召喚できるなんて思ってもみませんでした」
「キョウヤは初めて使ったんだもん。知らなくて当然よ」
「そうなんですか」
(たぶんアースドラゴンを倒して従魔召喚を入手したんでしょうね)
スキルドロップシステムを知っているアンナはそう考える。実際にアースドラゴンに止めを刺したのはバリスタ部隊なのだが、その戦闘に参加しただけで京也は敵からスキルを入手できたようだ。
「あとはキョウヤさんが無事、戻ってきてくれればいいんですが」
「そうですね。では私達が迎えに行きましょう」
「ニャオウも行くニャ!」
「私も当然行くよ」
ハクレイとニャオウとアンナが、京也を迎えに行くことになった。
「俺はここにいる。久しぶりに戦って疲れたからな」
フェンリルは地面に寝て目を閉じて休んでいる。
「では私達は周囲を警戒しつつ、怪我人の治療をして待っています」
「わかった。じゃあ、キョウヤを連れてくるね」
「では出発します」
アンナとニャオウを乗せたハクレイは、空を駆け上がり京也の元へ走って行った。
場面はその京也とエンシェントドラゴンがいる場所に変わる。
「ほう。ドラゴンの肉を食べようと来てみれば、まさかエンシェントドラゴンがいるとはな」
崖の上にいる豪華な鎧を身に着けて手には強そうな槍を持っている男が、崖から飛び降りて谷底に着地する。
(こいつ、只者じゃない……)
槍を持った男をエンシェントドラゴンが注意深く観察する。
「そうか。貴様、神族か!」
「ほう。わかるか。伊達に古代から生きてるわけじゃないな。エンシェントドラゴン」
(神族……神様のことか?)
エンシェントドラゴンと槍を持った男のやりとりを、京也は警戒しながら聞いている。
(レジェンドワールドには神族なんて出てこない。この世界だけの存在か)
「俺の名はアレス。戦いの神アレス様だ!」
「戦神アレスだと!」
エンシェントドラゴンは戦神アレスの名を聞いて驚いている。
(戦神アレスといえば、神族のなかでもトップクラスの強さを持っていると聞いたことかある。そんな者がなぜここに……)
エンシェントドラゴンは戦神アレスのことをうわさでは聞いていたが、実際に会ったのは初めてだった。
「それにしても」
戦神アレスは周囲に倒れているブラックドラゴンとレッドドラゴンとワイバーンを見ている。
「お前がこいつらをやったのか?」
「……そうだが」
京也はいきなり戦神アレスに話しかけられ、どう対応していいか戸惑う。
「人間がひとりでこいつらを倒し、さらにエンシェントドラゴンの前に立っている。ふふふ、面白れぇじゃねえか」
(こいつがアフロディーテが言ってた強者かもしれん。確かめるか)
戦神アレスは京也に向けて槍を構える。それを見て京也もとっさにラグナヴァリスを構える。
「何だ? 俺にはお前と戦う理由はないぞ!」
「そっちになくても、こっちにはある!」
京也と戦神アレスが戦おうとしてるのを見て、エンシェントドラゴンが不満を口にする。
「貴様! 我の獲物を横取りする気か!」
「こういうのは早い者勝ちでいいだろ」
「ふん、貴様には負けん!」
エンシェントドラゴンも京也をにらみつけ戦闘態勢になる。
「二対一かよ。なら!」
京也はラグナヴァリスを構えながら精神を集中させる。
「ドラゴンオーラ!」
京也は全能力強化スキルを発動し、彼の全身が赤いオーラに包まれる。
「ドラゴンオーラだと!」
「ほう、竜の能力強化スキルか。ますます面白い!」
戦神アレスは京也に向かって突撃し、神槍ブリューナクで突きを放つ。
「うおりゃあ!」
「はっ!」
京也は戦神アレスの攻撃をかわした後、距離を取るため一瞬で二十メートル以上離れた場所に移動する。今の京也は先ほどの加速スキルの効果が残っていて、さらにドラゴンオーラによって超高速移動が可能だった。
「何っ!」
「むっ、速い……」
戦神アレスもエンシェントドラゴンも、今の京也の動きは目で追うのがやっとだった。
(うーん。エンシェントドラゴンのおかげで魔法が使えないから、戦術が限られるな)
京也は地面に落ちている適当な石を拾う。彼はメニューシステムのアイテム収納で手ごろな石を97個収納していた。だがメニュー画面を開いてアイテムを取り出すのは隙が大きく。強敵の前ではできなかった。
「バーストショット!」
京也は戦神アレスに向かって全力で魔力を込めた石を投げつける。
「うおっ!」
パワーブーストとドラゴンオーラで強化された京也の全力の腕力で投げられた石が超高速で飛んでいく。そのとんでもない速さに戦神アレスは避けられず、鎧の腹部に命中して爆発する。
「さらにバーストショット!」
京也はまた地面に落ちてる石を拾い、今度はエンシェントドラゴンに向かっ投げる。
「グアッ!」
それがエンシェントドラゴンの巨大な体に命中して爆発する。その時、戦神アレスが爆発の煙の中から神槍ブリューナクを京也に向かって投げた。
「うおっ!」
京也は高速で飛んでくる神槍ブリューナクを避けられず、体が貫かれそうになる。その時、京也の霧の鎧の物理攻撃無効の能力が発動し、彼の体が霧状になって神槍ブリューナクが通り抜けた。その後、霧状になった京也の体が元に戻る。
「あ、危なっ」
(完全に油断した。バーストショットを受けた直後に攻撃してくるとは)
京也は戦神アレスが只者じゃないと認識する。その戦神アレスは爆発の煙が薄れると無傷で神槍ブリューナクを持って立っていた。
「何だ、今のは? どうなった?」
戦神アレスは京也に神槍ブリューナクが命中した手ごたえを感じていたが、京也が無傷で立っていることに疑問を持つ。
「ん? 何で槍が……」
一方、京也も戦神アレスが投げたはずの神槍ブリューナクを持っていることに驚く。その時、京也の後方の空からハクレイ、ニャオウ、アンナがこの場に到着した。
「キョウヤー!」
「まだ戦ってたのかニャ」
「キョウヤ、無事でよかったです」
「おお、来てくれたか。そっちはどうなった?」
「みんな無事に谷を脱出できたよ」
「フェンリルは疲れたから休むって言ってたニャ」
「そうか」
京也は仲間が来てくれたこととドラゴン討伐軍が無事なことを喜ぶ。
「ん? あの男……」
アンナは戦神アレスをじっと見る。
「あいつはアレスっていう神族らしい」
「神族……もしかして戦神アレス!」
次回 邪神化! に続く




