第五十七話 神竜の牙 VS 女神アフロディーテ
「ではランクアップ試験開始!」
ギルドマスターの合図で女神アフロディーテと神竜の牙の戦いが始まった。まず盾を持ったドワーフがアーサーの前に出て盾を構える。
「スパイラルカッター!」
次に魔法使いの老人が放った風のやいばが、放物線を描くようにアーサー達の頭上を通って女神アフロディーテに向かっていく。
「魔法障壁!」
女神アフロディーテは全身を包むように球状の魔法障壁を展開し、高速回転しながら迫ってくる風のやいばを防ぐ。
「ライトエレメンタルアーマー!」
魔法使いの魔法攻撃と同時に、エルフの女性が球状の光の精霊を複数を呼び出す。その光の精霊達がアーサーの全身を包む。すると彼は光に包まれ、すべての能力値が大幅に上昇した。
「よし、行くぞ!」
今のドワーフ、エルフ、魔法使いの老人の行動は、すべてアーサーを強化するためのものだった。準備が整いアーサーが攻撃を仕掛ける。
「ファイナル・ギガブレー……」
「グラビティバインド!」
女神アフロディーテが審判の杖を構え魔法を発動する。
「ぐあっ!」
「キャッ!」
「うおっ!」
「ぐっ!」
神竜の牙の四人は同時に地面に膝をつく。
「くっ、こ、これは……」
四人はしゃがんだまま動けず、さらに地面にはいつくばるように倒れる。
「う、動けな……い……」
「この……魔法……は……」
四人は地面に倒れた後も動けず、何かに押さえつけられてるような様子だった。
「あれは重力魔法ね」
「重力魔法? そんなのあるのか?」
(レジェンドワールドにはそんなのなかった)
「普通の人が使える魔法じゃないよ。あれは古い神話に出てくる伝説の魔法で、重力を自由に操る魔法だよ」
アンナが京也に重力魔法の解説をする。
「くそっ、か、体が……動かな……い」
ライトエレメンタルアーマーで能力が強化されたアーサーでも全く動けないほど、神竜の牙の四人は強い重力を受けている状態だった。
「す、凄い魔法だ!」
「おいおい、アーサー達が手も足も出ないなんて」
「信じられない。何者なんだ? 彼女は」
観戦している冒険者達も、女神アフロディーテの見たことのない強力な魔法に驚いている。
(今の私の魔力はこの審判の杖と魔法神のローブのおかげで、あの呼び出した三人の英雄達を少し越えるくらいに強化されている。今の私に勝てないようでは、あの三人が言っていた強者ではない)
女神アフロディーテはHPやMPなどの能力値は低かったが、魔力だけは神々の装備品によって大幅に強化されていた。
「だ、駄目だ……」
「うあああああ」
「あばばば」
「た、助け……」
「お、おい! 大丈夫か!」
審判をしているギルドマスターが、神竜の牙の四人に声をかける。だが四人はもうしゃべれないほどの重力を受けて、再起不能になりそうな危険な状態だった。
「ま、まずい! 魔法障壁展開!」
それに気付いた京也は手をかざし四人に魔法障壁を展開する。すると四人の横たわっている全身を包むように魔法障壁が現れ、四人は超重力から解放された。
「むっ! 私の魔法を防ぐほどの障壁……」
女神アフロディーテは重力魔法を解除し、魔法障壁を発動した京也のほうを見る。周りの冒険者達も京也に注目する。
「おっ、フェアリーがいる!」
「フェアリー……そしてあの銀の鎧は……」
「そうだ。銀の竜殺しだ!」
「あのブラックドラゴンとレッドドラゴンをひとりで倒したっていう奴か!」
(ほう、彼が銀の竜殺しか)
ギルドマスターも京也の存在を確認する。
「アンナ、彼等を回復してやってくれ」
「しょうがないな。まあ、豪華ディナーの前に軽く運動しますか」
京也に頼まれ、訓練場の中央で倒れている神竜の牙の四人のそばにアンナが飛んでいく。強い重力を受けていた四人は、全身にダメージを受けて立ち上がれない状態だった。
「エクストラエリアヒール!」
アンナが空中で一回転しながら広範囲上級回復魔法を発動する。すると地面に倒れている四人の体がいやしの光に包まれ、全身に受けていたダメージが回復していく。
「た、助かった」
「死ぬかと思ったわい」
「ありがとう。フェアリーさん」
「どういたしまして」
「……」
四人を回復させたアンナは、京也のそばに帰っていく。それをアーサーは黙って見ている。
「今の魔法障壁はあなたが発動したんですよね」
そう言いながら女神アフロディーテが京也に近づいてくる。
「そうだが」
「あなたも冒険者ですか?」
「ああ」
「……失礼ですがランクは?」
「俺はAランクだ」
「そうですか」
Sランク冒険者を探していた女神アフロディーテは、京也がAランクだと知って興味がなくなる。
「ちょっといいか」
京也と女神アフロディーテがそんな話をしていると、ギルドマスターが近づいてくる。
「ランクアップ試験は合格だ。だがギルドマスター権限で上げられるのはCランクまでだ。ほんとはSランクの実力があるとみるが」
「そうですか」
女神アフロディーテは自分のランクには興味がなさそうだった。
「では私はこれで」
女神アフロディーテは訓練場を出て冒険者ギルドの一階に向かう。
「あっ、私も行きます」
「私も」
冒険者達と一緒に観戦していた受付嬢と門番の女の兵士が、女神アフロディーテの後をついて行く。
「さて、君が銀の竜殺しか。国の方から指名依頼の報酬が出てる。額が多いからギルドマスター室で渡そう。ついてきてくれ」
「はい」
ギルドマスターと京也とアンナは、一緒に冒険者ギルドの二階のギルドマスターの部屋に向かって歩いていった。
「あれが銀の竜殺し……」
アーサーはこの場を離れていく京也の後姿を見ている。
「彼が魔法障壁で助けてくれたみたいね」
「礼を言う暇がなかったな」
「ん? どうしたんじゃ。アーサー」
「……」
アーサーは青ざめた表情をしている。
「戦った彼女とフェアリーと銀の竜殺し……俺達の常識を超える魔力を持っていた」
「彼女の魔力の凄さはわかったけど、フェアリーと銀の竜殺しも?」
「ああ、銀の竜殺しが魔法障壁を発動した時と、フェアリーが回復魔法を使った時、一瞬だがとんでもない魔力を感じ取れた。特に銀の竜殺しはほかの二人より遥かに強かった」
「まさか……」
「俺達はSランクともてはやされてたけど、上には上がいるのがわかった。俺なんて大したことない冒険者だった」
京也達の実力の一端を知ったアーサーは落ち込んでいる。
「そう落ち込むことはないぞい。銀の竜殺しの魔力を感じ取れたのは、この場ではアーサーだけじゃろう。長年魔法使いとして生きてきたわしでもわからんかった。アーサーにはもっと上にいける素質があるということじゃ」
「じいさんも、たまにはいいこというな」
「ほっほっほっ。伊達に長く生きとらんわい」
「私の方が長く生きてるんだけど」
エルフは人間より寿命が長いので、彼女は魔法使いの老人の倍は生きていた。
「ふふふ、ありがとう。みんな。そうだな。また一から出直そう。俺達はもっと強くなれるはずだ」
仲間に励まされたアーサーはそう決意した。
次回 竜の谷へ に続く




