第〇〇四話 水の街セレスへ
「いらっしゃいませ!」
宿屋の娘と思われる少女が元気よくあいさつする。
「一晩、泊まりたいんだが」
「朝と夜の食事付きで80ゴールドです。前金でお願いします」
「わかった」
京也は宿屋の娘に料金を払い、宿屋の主人が、202と書かれたプレートがついた部屋の鍵を京也に渡す。
「部屋は二階の202の部屋な」
「お客さん。食事はどうしますか?」
「少ししてから、もらうよ」
「なら、おなかが空いたら、ここのカウンターに来てくださいね」
「わかった」
京也は二階の202の部屋に入り、鎧を脱いでベッドに横になる。その部屋は狭かったが、一晩泊まるには十分な広さだった。
「はーっ、やっと一息つけた」
京也は体の力を抜いてリラックスする。京也は少し休んでから、一階のカウンターへ降りていって夕食を食べ、自室に戻る。そして道具屋で買った結界と点火の生活魔法を習得し、冒険者の心得をベッドで寝ながら読み始める。
「ここはフルーレ国だったのか。レジェンドワールドにもあった。だがあっちにはペタの村はなかったような……」
京也は冒険者の心得で、この国の名前を知ることができた。
「なるほど、ふーん……ん?」
京也は冒険者の心得のスキルのページを読む。
『スキルは生まれた時から所持しているスキルと、訓練で習得するスキルがある。訓練で習得するスキルは、厳しい訓練が必要で、簡単に習得できるものではない』
「……スキルドロップシステムのことが書いてない。ということは、これは俺だけのシステムなのか?」
スキルドロップシステムは、メニューシステムと共に異世界への転移者だけが持つ特殊なシステムなのではないかと京也は考える。
「俺だけがモンスターを倒していけば、それだけスキルがどんどん増えていくのか。これが世に言うチート能力という奴か。ちょっと楽しくなってきた」
京也はわくわくしながら冒険者の心得を読んでいたが、読み進めるうちに睡魔に襲われ、そのまま就寝した。
そして次の日の朝。
「ふあぁぁぁっ、起きるか」
前の世界の京也はストレスに弱く、環境の変化などで寝れないことが多かった。それなのに今回は何事もなく普通に寝れた。
「やはりこの体は、元の体とは違う気がする」
容姿や年齢が違うのもそうだがそれだけでなく、京也の体はこの世界に順応している体に変化していた。この世界の言葉が理解できたりモンスターに遭遇しても冷静に対応できるのも、この新しい体のおかげだった。
「まあ、いい。今日はどうするかな……」
京也は昨日の夜に読んでいた冒険者の心得の地図のページを開く。
「やはり大きな街を拠点にしたほうがいいよな。となると一番近い街は、ここから歩きで六日の水の街セレスか」
京也の当面の目的は生活費を稼ぐことと、失ったスキルを取り戻すことだった。
「大きな町には魔法書が売ってるはず。ゲームでもセレスに魔法書の店があったし」
水の街セレスは、レジェンドワールドにも存在していた街だった。
「まだゴールドが残ってるから、これで旅に必要なものをそろえてから出発するか」
京也は宿屋で朝ご飯を食べてから道具屋に向かい、テントや食器や調理器具や調味料など、旅の道具をそろえてペタの村を出発した。
「さて、持ってたゴールドはほとんど使ったから、また稼がないとな」
村を出発してから水の町セレスに着くまでの途中、京也は狩りをしながら街道を歩いていく。
「むっ、あれは……」
「シャーーッ!」
その京也の前に出現したモンスターはデススネークだった。デススネークは体長二メートルを超える巨大な体で、牙に毒を持つ蛇のモンスターである。
「シャーーッ!」
「オーラブレード!」
口を開けて襲ってきたデススネークを京也は腰のラグナヴァリスを抜いて垂直に剣を振るって切り裂いた。その一撃でデススネークは絶命し地面に倒れる。
「よし、オーラブレードは問題なく使えるな」
京也はアイテム画面を開きデススネークを収納して解体する。アイテム画面には
デススネークの皮×1
デススネークの牙×2
デススネークの肉×1
と表示されていた。
「これでよし、あとスキルは……」
気配感知
人間やモンスターの気配を感知することができる
常時発動スキル オンオフ設定可能
「気配感知、これはゲームにはなかったスキルだ。これも当たりスキルだな」
気配感知のスキルはMPを消費して発動するスキルではなく、常時発動可能なスキルである。気配感知があれば、離れている場所にいるモンスターの居場所を目視しなくても知ることができた。
「運がいいな。一匹目でスキルが入手できた」
新スキルを入手した京也はさらに歩いていく。すると右方向にモンスターの気配を感知する。
「これが気配感知スキルの力か。これは便利だ」
京也はラグナヴァリスを抜いて戦闘態勢のまま、右方向に歩いていく。すると大きな岩の陰に三体のモンスターが隠れていた。そのモンスターの名はコボルト。二足歩行する犬型のモンスターで、全身が長い毛でおおわれている。その中の一匹は上半身には皮の鎧を身に着け、手には鉄の棍棒を持っている。後の二匹は鎧は着けておらず武器も木の棍棒を持っていた。
「こいつらはコボルトだな。レジェンドワールドの序盤に出てくる奴だ」
京也の姿を見た三体のコボルトは、棍棒を構えて襲い掛かってきた。
「グガアアア!
「ガアアア!」
「ガオーーーン!」
「はっ!」
京也は三体のコボルトの攻撃をすべてかわし、ラグナヴァリスを振るって斬撃を放つ。
「ガアアアアッ!」
「グギャーーッ!」
「グガッ!」
鉄の棍棒を持っていたコボルトは皮の鎧ごと体を斬られ、ほかの二体のコボルトも体を斬られて地面に倒れた。
「……人に近い姿のモンスターか。これは解体する気にはなれないな」
京也は戦利品の自動回収機能をオフにして、コボルトが持っていた武器だけ回収する。コボルトが装備していた皮の鎧は血がべったりとついていたので、彼は触りたくないと考えて回収しなかった。
木の棍棒×2
鉄の棍棒×1
「これでよし。スキルはどうかな」
京也はスキル画面を開いたが、そこには新たなスキルは表示されてなかった。
「まあ、そんなに簡単にはスキルは入手できないか。いや、今はスキルよりも……」
京也は心を落ち着かせて考える。
「この世界では亜人だけでなく、盗賊みたいな人間とも戦うかもしれない。さすがに人殺しには抵抗がある」
盗賊などの悪人は殺しておかないと、さらに被害が増えてしまう場合がある。京也は、戦いが日常の異世界では、平和な日本の甘い考えは危険ではないかとも考える。
「まあ、その時はその時だ。あんまり考えすぎるのは止めよう」
その後も京也はモンスターを狩りながら水の町セレスに向かった。そして三日後、
「だいぶ売れる素材も集まってきたし、もういいか」
京也はこれまでにコボルト、デススネーク、オニウサギなどを倒して複数の素材を手に入れていた。だが新しいスキルは入手していなかった。
「それじゃあ、もう街に向かおう。加速!」
京也は水の街セレスへ続く街道を加速スキルを使って走っていく。
「うおっと!」
京也は水の街セレスが見えてきたので、高速走行をやめて止まろうとする。だが勢いが強すぎて転びそうになる。
「危なっ! もう少しで転ぶところだった。加速スキルは加減が難しい」
態勢を立て直した京也は、水の街セレスの城門の方を見る。
「街の入り口に人が並んでるな」
水の街セレスはフルーレ国で二番目に人口の多い大きな街である。街の周りは高い城壁に囲まれていて、東西南北にひとつずつ門があった。そこで身分証の提示や通行税の支払いなどが行われていた。
「並ぶか。ゲームと同じならギルドカードがあれば、通行税はいらないはずだ」
京也は水の街セレスの入り口の列に並んで、自分の順番になると冒険者ギルドカードを兵士に見せて無事、街の中に入った。
「おお、りっぱな噴水だな。このあたりはゲームと同じだ」
水の街セレスは、街の中央や東西南北の入り口付近に巨大な噴水があり、それがこの街の観光名所になっていた。
「でも建物の配置がゲームとは違う。まず冒険者ギルドに行って、素材の換金をしたいんだが」
レジェンドワールドではこの街すべてを再現出来てなかったので、冒険者ギルドや宿屋などの施設の場所が違っていた。それで京也は冒険者ギルドがどこにあるのか、わからなかった。
「誰かに聞くか。冒険者風の人はいないかな。ごついおっさんじゃなくて優しそうな人がいれば……」
京也が周りを見渡すとエルフの女性が近くにいた。彼女は動きやすい服装で豪華なマントを羽織っていて冒険者風の美しい女性だった。
「すまん。ちょっと道を聞きたいんだが」
「いいですよ。どこに行きたいんですか?」
「冒険者ギルドなんだが」
「!」
京也の冒険者ギルドという言葉を聞いて、エルフの女性が驚いた表情をする。
次回 モンスター軍団襲来 に続く