第三十〇話 ゼウス共和国軍との戦い
「うおおおお!」
「行けーー!」
「俺達も行くぞ!」
「おお!」
フルーレ国軍歩兵五千と冒険者部隊が、高台の敵兵に向かって突撃していく。騎馬兵は高台に登れないので、エリス将軍と共にその場に待機している。
「兵達が動いたか」
「私達はどうするの?」
「エリス将軍の所に帰るか。これからは魔法を使うと味方に当たってしまうからな」
「キョウヤは地上に降りて接近戦はしないのかニャ」
「止めておこう。乱戦は戦いづらいし、兵士達にも活躍の場を残しとかないとな」
京也、ハクレイ、ニャオウ、ハクレイは、空を駆けてエリス将軍の元へ戻る。
「お疲れ様です。キョウヤさん」
「敵は思ってたより少なかったですね」
「伏兵がばれないように、少ない兵で潜んでいたのでしょう」
高台にいたゼウス共和国軍の弓兵は千人程度だった。八千のフルーレ国軍に対してその数が少ないのは、この場でフルーレ国軍を全滅させるのが目的ではなく、ある程度攻撃したら撤収する予定だったからである。
「エリス将軍、敵軍の掃討が終了しました」
しばらくの戦闘の後、千人のゼウス共和国軍は壊滅した。フルーレ国軍の被害は軽微だった。
「では少し休憩してから出発しましょう」
戦闘の後、すぐに進軍するのは兵の体力の消耗が激しいので、フルーレ国軍は怪我人の治療や食事などをしながら休憩することになった。その後、彼等はハイン王国の南西部のデルタ砦へ進軍を再開する。
場面はそのデルタ砦に変わる。デルタ砦はゼウス共和国軍の三万の兵に包囲されていた。ゼウス共和国軍は、何度も攻撃をしかけていたが、堅牢な砦で有名なデルタ砦を落とせずにいた。
「ちっ、また失敗したか」
「あの高い城壁が厄介です。我が軍の兵士達が四方からはしごをかけて登ろうとしてますが、すべて失敗しています」
ゼウス共和国軍を率いるのはオーディン将軍である。彼はゼウス共和国の四将軍のひとりで年齢は四十二歳、屈強な体で立派な鎧を身に着け、強そうな槍を持っている。
「何度挑発しても奴等は砦から出てこない。このまま力づくで攻め続けるか、それとも包囲を続けて兵糧攻めするか……」
「ハイン王国の王都と同盟国のフルーレ国から援軍が来ているので、兵糧攻めは得策ではないと思います」
「確かにな。まあ、すでにその両軍の予想進路に伏兵を手配してあるから、ここに来るとしても無事ではすむまい」
オーディン将軍と副官が、どうやってデルタ砦を落とすか議論している。そこへひとりの兵士が馬に乗って走って来て、オーディン将軍の前で馬から降りて報告する。
「オ、オーディン将軍、対フルーレ国軍の兵が……壊滅しました!」
「何だと!」
「まさか業火のエルフか?」
「いえ、敵が使ってきたのは火の魔法ではなく、雷系や氷系の魔法でした」
「業火のエルフではないのか」
「雷系なら銀の竜殺しかもしません」
「ああ、あのラージ帝国軍をひとりで倒したという」
銀の竜殺しという通り名はフルーレ国だけでなく、近隣諸国にもその名が広まっていた。どの国にどんな強者がいるのかを知ることは、この群雄割拠時代では重要なことだった。
「むう、ではここにフルーレ国軍が来るということか」
「奴等の戦力はどれくらいだ?」
「はい。一万まではいないかと」
「デルタ砦の戦力とフルーレ国軍を合わせても、まだこちらのほうが戦力は上だろう。あとはハイン王国の王都からの援軍の方だが」
「はい。出陣したのは一万程度だと報告がありました」
デルタ砦には五千の兵士がいて、ハイン王国の王都から一万、フルーレ国軍の援軍は八千である。ゼウス共和国軍は三万なので、まだ兵力ではゼウス共和国軍の方が上だった。
「オーディン将軍!」
今度は別の兵士が馬に乗って走ってくる。
「王都軍に向かった部隊から連絡が来ました。奇襲が成功し、敵に多数の損害を与えて敵の進軍を停止させました」
「こっちは成功したか」
「よし、よくやった!」
「これでフルーレ国軍と王都からの援軍と、同時に戦わなくて済みますね」
オーディン将軍は今後の作戦を考える。
「よし、では部隊をふたつに分ける。ここに一万五千の兵を残して、俺は一万五千の兵を連れてフルーレ国軍に向かう。奴等はデルタ砦の戦力と協力して我々と戦うつもりだろうが、そうはさせん。合流する前に各個撃破してくれるわ」
ハイン王国軍とフルーレ国軍は、こここで合流してゼウス共和国軍と戦う作戦だった。だがハイン王国の王都軍の進軍が止まり、それができなくなってしまった。
「お前は魔獣軍団と一万五千の兵で包囲を継続しておけ。敵が出てきても魔獣軍団がいれば問題ないだろう」
「はっ!」
この場を副官にまかせ、オーディン将軍は騎馬兵三千、歩兵一万二千を率いてフルーレ国軍に向けて出発した。
場面はフルーレ国軍が進軍してる街道に変わる。
「あと一時間くらいでデルタ砦に到着します」
治療と休憩を終えたフルーレ国軍は進軍を再開し、目的のデルタ砦に近づいていた。その途中、馬に乗った伝令兵がエリス将軍の元へ走ってくる。
「エリス将軍! 前方に敵軍です! その数、およそ一万です!」
「全軍進軍を停止してください! 今回は正面からの戦いになりそうですね」
エリス将軍は前方に現れたゼウス共和国軍とどう戦うか、周りの地形を見渡しながら考えている。この場所は右側が森で、前方と左側が開けている場所だった。
(このまま進軍して正面から戦っては被害が大きくなる。何かいい手はないかしら)
「エリス将軍」
「は、はい。何でしょう。キョウヤさん」
頭の中で作戦を考えていたエリス将軍に、京也が気付いたことを話す。
「敵軍の敵意を二か所から感じます。ひとつは正面ですが、もうひとつは右の森からです」
「敵は部隊を二つに分けている。ということは……」
エリス将軍は敵軍の動きを予測する。
「わかりました。あの正面の軍と私達が衝突した後、右にいる別動隊が私達の後方にまわりこんで挟み撃ちするつもりなのでしょう。というかキョウヤさんの敵意察知は、こんなに離れていてもわかるんですか?」
「敵意を持ってる者がたくさんいれば、それだけ察知しやすいんですよ」
「私も気配察知のスキルなら持ってますが、こんなに離れた場所の気配はわかならいです」
「キョウヤは特別だからね。普通の人間とは違うのよ」
京也の肩に乗っているアンナが、自分のことのように得意げに話す。
「そうみたいですね。では敵の作戦が判明したので、私達はまず右の森の中にいる部隊を倒しましょう。このまま前進してしまうと敵の思惑通り、挟み撃ちにされてしまいますからね」
「なら前方の敵はどうするんですか?」
「森の中の部隊を撃破してから、すぐに前方の敵に向かいます」
「なるほど、各個撃破ってやつですね。なら正面の軍は俺にまかせてもらえますか?」
次回 オーディン将軍 VS 銀の竜殺しチーム に続く




