第〇〇二話 ペタの村へ
「レジェンドワールドに跳躍なんてスキル、なかったよな」
スキル画面には確かに跳躍のスキルが表示されていた。レジェンドワールドでは、モンスターを倒した時に一定の確率でモンスターが所持しているスキルを習得できるスキルドロップシステムがあった。京也はそれと同じように跳躍のスキルを取得したのである。ちなみにスキルドロップシステムはモンスターだけが対象で、人間を倒してもスキルはドロップしなかった。
「ウサギだから跳躍か。ゲームの方ではオニウサギにドロップするスキルはなかったはずだ」
この世界のシステムは、レジェンドワールドと全く同じではないということを京也は知ることができた。
「それはまあいい。今はこのスキルだ」
京也は跳躍のスキルを試してみたくなる。
「使う時は力を抑えて使ったほうがいいな。ステータスカンストしてる俺が本気で使ったら、どこまで飛んでくかわからないし」
京也は全力で跳躍のスキルを使ったら宇宙まで到達してしまうのではないかと考え、手加減したほうがいいと考える。
「スキルの名前を口に出して使うのかな。それはちょっと恥ずかしいが……やるか」
京也は少し照れながら覚悟を決める。
「跳躍!」
そう叫びながら、京也は垂直にジャンプした。
「おお!」
京也は地面から十メートルくらいの高さまでジャンプしていた。そこから落下するが地面に着地する時、体が魔力に包まれ地面に着地する衝撃を和らげた。
「なるほど、ゲームにはなかったけど、これは色々使えそうだ」
スキルを入手した喜びと同時に、京也は異世界にいるということを実感する。
「これは夢じゃない。ということは……どうやって帰ればいいんだ?」
京也はこの世界から元の日本に帰る方法を考えようとするが、情報が足りず何もわからなかった。
「もしかしたら帰れないかもしれない。まあ、帰れなくてもいいか。向こうに帰っても職場と家の往復ばかりで、ほかに何もないしな。親は悲しむかもしれないが……」
京也は森の中をキョロキョロと見渡す。
「とりあえず村か街に行きたいが、どっちに行けばいいのかわからん。そんな時は、跳躍!」
京也は再び跳躍のスキルを使い、空中で周りを見渡す。
「あっちか!」
森の外に道を発見し、京也はそのまま落下し着地して、森の外の道へ向かって歩き出した。その後、しばらく森を歩き、また出現したオニウサギを二匹倒して素材を回収する。さらに歩き続けるとついに森を抜けた。そこは広い草原で一本の道が通っていた。
「この道を行けば、村か街に着くかな」
しばらく歩き続けると、京也は村を発見した。その村の周りは木製の壁で囲われていて、その中に家が十五軒くらい建っていた。
「入り口に人がいる」
京也が村の入り口まで来ると、そこには槍を持った門番の青年が立っていた。
(冒険者はなめられないように丁寧語は話さないほうがいいって、異世界モノの漫画で見たことがあるな)
「あー。旅の者なんだが」
「ここはペタの村だ。旅人は大歓迎だ。今日はうちの村に泊まるのか? なら宿はあそこだ」
「わかった。それと道具屋はあるか?」
「ああ、道具屋なら、あっちにある建物がそうだ」
「あれか」
(これでいいのか……)
初対面の人に慣れない口調で話すことに困惑しながら、京也は宿屋に行く前に道具屋に向かう。なぜなら彼はお金を持ってないからである。だがさっき狩ったモンスターの素材があるので、道具屋でそれらを売るつもりだった。
「よし、入るか」
京也は初めての店に緊張しながら入る。すると色々な道具が並べられた狭い店内の奥に、椅子に座っている中年の女の店主がいた。
「いらっしゃい」
「ええと、モンスターの素材を売りたいんだが」
「お客さん、凄い鎧と剣ね。冒険者?」
「まあ、そんなところだ」
そう言いながら京也はメニュー画面からアイテム画面を表示して、素材を店主の前の机の上に取り出す。
「おっ。収納スキル持ちか」
「ん、ああ」
「お客さん運がいいね。冒険者で収納スキルを持ってるのは二割くらいなのに。持ってない冒険者は、高い収納カバンを買わないといけないからね」
「そ、そうだな」
(収納カバンとかあるのか)
「それじゃあ、査定するからちょっと待ってて」
店主は机の上の三体分のオニウサギの角と肉を調べている。
「そうね。状態もいいし全部で60ゴールドね」
(60ゴールドが適正価格なのかわからんが、ここは駆け引きとかは止めておおこう。もめると色々面倒だしな)
「それで頼む」
「よし、取引成立」
店主はそう言って60ゴールド(銀貨を6枚)を京也に渡す。彼は財布を持ってないので、メニュー画面を表示して銀貨を収納する。
(銀貨一枚10ゴールドなのか)
「それとここに魔法書あるか?」
「生活魔法のはあるけど」
(生活魔法!? 何それ、欲しい!)
レジェンドワールドには攻撃魔法や回復魔法はあるが、生活魔法はなかった。
「それ見せてもらっていいか?」
「ああ、ちょと待ってて」
そう言うと店主は机の上に三冊の本を取り出す。
「点火と結界と光球の魔法書だよ。一冊100ゴールドね」
(スキルが100ゴールド! 安いな)
レジェンドワールドの魔法書は、下級魔法でも500ゴールドだった。ちなみにゲームでは魔法は魔法書で習得、スキルはスキルドロップで習得というシステムだった。
「この三つはどれも冒険者や旅人には必須の魔法さ」
「光球と点火はなんとなくわかるけど、結界というのは?」
「結界は野宿する時にテントの周りに結界を展開して身を守る魔法だよ。人の匂いも外に出さないから、獣系のモンスターが寄って来ないのよ」
「なるほど」
(確かに旅には必須だな)
「ちなみに、この村の宿屋は一泊いくらなんだ?」
「ああ、80ゴールドだよ。良心的でしょ」
(今、所持金が60ゴールドだから宿屋には泊まれない。魔法書も買えない)
「もうひとつ聞きたいんだが、この村付近で高く買い取ってくれるモンスターの素材って何だ?」
「そうだねー。バンデッドウルフの毛皮が狙い目かね」
「なるほど」
バンデッドウルフはレジェンドワールドでは序盤に登場する弱いモンスターである。
「お客さん、冒険者ギルドに登録してるかい?」
「いや、してないけど」
「モンスターを狩るんだったら、ギルドで登録してたほうがお得だよ。討伐報酬ももらえるし」
「なるほど。確かに」
「近くに冒険者ギルドの出張所があるから行ってみな」
「わかった。後で行ってみよう」
京也は冒険者ギルドの出張所の場所を聞いてから道具屋から出て村を見渡す。
「まずは食べ物だ。こっちに来てからまだ何も食べてない」
京也は村の食堂を見つけ中に入る。すると若い女性の店員があいさつしてくる。
「いらっしゃいませ!」
「ここのおすすめは何かな?」
「バトルボアの焼き肉がおすすめですよ」
(ボアということは、イノシシかな)
バトルボアは巨大なイノシシのモンスターである。性格が好戦的で、猪突猛進という言葉がぴったり合うモンスターだった。
「一人分いくらになる?」
「7ゴールドです」
「ではそれで」
京也はテーブルにすわり、しばらく待っていると店員が料理を持ってきた。
「お待たせしました。バトルボアの焼き肉です」
「おお、これは旨そうだ」
「ごゆっくりどうぞ」
京也はさっそくバトルボアの焼肉をフォークで食べ始める。
(んん、ちょっと硬いけど、なかなかうまい)
京也は空腹だったせいもあり、ペロッと料理を平らげた。
「日本の料理ほどじゃないけど普通に食べれるな。これならこの世界でもやっていけそうだ」
「ありがとうございましたー」
京也は銀貨一枚を渡し、おつりの銅貨三枚をもらう。
(銀貨が10ゴールドで、銅貨が1ゴールドみたいだな)
通貨のことが少しわかった京也は、店を出て聞いていた冒険者ギルドに向かう。
「宿屋とか冒険者ギルドとかの施設が、村の入り口付近に集まってるのは助かるな」
京也は冒険者ギルドの中に入る。そこはそれほど大きな建物ではなく、受付の若い女性が一人だけいて、まさに出張所という感じの場所だった。
「いらっしゃい」
(す、凄い剣と鎧の人が来ちゃったよ)
京也が装備している豪華な剣と鎧を見て、受付嬢が心の中で驚いている。
「初めてですよね。仕事の依頼ですか? それとも登録?」
「登録を頼む」
「わかりました。ではこちらに記入を」
受付嬢が一枚の紙を取り出す。
(日本語じゃない。けど読める)
京也は登録用紙に名前、職業、年齢などの情報を書いていく。
(文字も書ける。日本語で書いてるはずなのに異世界の文字を書いている。変な感覚だ)
登録用紙に記入が終わり、京也は受付嬢に渡す。
「キョウヤさんですね。年齢は16歳で剣士と」
受付嬢が手続きをして一枚の茶色のカードを取り出す。
「ではこちらをどうぞ」
受付嬢は京也に冒険者ギルドカードを渡す。
「では簡単に冒険者ギルドの説明をします」
受付嬢はそう言いながら冒険者ランクと必要ポイントが書かれた紙を取り出す。
「冒険者にはEからSランクまでの階級があります。Eランクから初めて、依頼をこなしてポイントをためていくとランクが上がります」
(ゲームと大体同じだな)
「キョウヤさんはEランクなので、Eランクの依頼を受けられます」
「では村付近のモンスターを狩る依頼を受けたいんだが」
「はい。この辺りのモンスターは弱いのでEランクでも受けられます。それにモンスター討伐は常時クエストなので、何体狩っても大丈夫です。その討伐数がギルドカードに自動的に登録されて、その数によってポイントと報酬が増えていきますよ」
「わかった。ではさっそく狩りに行ってくる」
「お気を付けて」
京也は冒険者ギルドを出て村の入り口へ向かった。
次回 モンスター狩り に続く