第〇〇一話 異世界転移
「やった! ついにやり遂げた!」
日本のとある町の一軒家の二階の部屋で、一人の男がテレビとゲーム機の前でガッツポーズをとる。
「レベル99、全パラメータ999、最強装備全種類入手、全スキル習得、ゴールドカンスト。はー、疲れた」
男の名は真田京也。彼は超有名大作RPG「レジェンドワールド」をプレイしていた。
「ふふふ、全属性の吸収スキルをとったから、もう雑魚敵の攻撃は怖くない」
このゲームでは攻撃属性が斬撃属性や火属性など十種類あり、それぞれの属性攻撃を吸収する常時発動スキルが存在していた。(斬撃吸収、火吸収など)
「まあ、無属性が吸収できないのはしょうがない。無吸収スキルはないから……ふあぁぁぁっ」
時刻は深夜二時を過ぎていて、京也がいつもの寝る時間をかなり過ぎていた。
「もう寝よ。こいつの強さを確かめるのは明日に……」
京也はゲームプレイを止めてそのままベットに潜り込み眠りにつく。
ZZZZZ……
京也は深く眠り、時間が過ぎていく。そして……
「ふあぁぁぁっ、ん? 堅っ」
京也は体の違和感で目が覚めると、そこはどこかの森の中だった。さらにいつの間にか夜が明けていた。
「なっ、何だ?」
京也は周りをよく見る。するとその森には現実では見たこともない植物が生育していた。
「なんだこれ……いやこれ、どこかで……」
その植物は、現実では見たことがないが、どこかで見たような記憶があった。
「ん? それよりこれは……なんで俺は鎧をつけてるんだ?」
京也は自分の体を見る。すると銀色に輝くスリムな鎧を身に付けていた。さらに腰には鞘に納められた剣があった。彼はその剣を鞘から抜いて形状を確かめる。
「この剣はラグナヴァリス! そしてこの鎧は……霧の鎧か!」
京也は自分が身に着けていた剣と鎧がレジェンドワールドに登場する物だということに気付く。
「そうだ! この植物もレジェンドワールドで出てきたやつだ。ということは……ここはゲームの中!」
京也は自分が現実離れした体験をしていると感じている。
「ああ、ああ、これは夢か。そういえば前にも寝る前までレジェンドワールドを遊んでたら、夢の中まで遊んでたことがあったわ」
京也は自分がレジェンドワールドの世界にいることを受け入れられず、夢を見ていると信じ込もうとする。
「うむ。この体も俺がキャラメイクした奴だ。髪型も身長も足の長さも俺と違う」
京也はこの世界に来る前は三十を過ぎて髪型も短髪で身長も平均くらいだったが、今の体は十代のような若さで髪の毛もサラサラだった。
「ゲームならメニュー画面が出るはずだけど」
ゲームならメニュー画面はボタンひとつ押せば出せるのだが、ここにはコントローラーはなかった。
「おお、出た!」
京也の「メニュー画面」という言葉に反応して、ゲームと同じメニュー画面が目の前に出現した。彼はメニュー画面をタッチして操作してみる。
ステータス
キョウヤ 16歳 人間
レベル 99
HP 9999/9999
MP 999/999
攻撃力 999
防御力 999
魔力 999
速さ 999
経験値 999999
「おお! 俺の努力の結晶がそのままだ!」
ステータス画面には、京也がこの世界に来る前にレベル上げしてステータスを強化したキャラの能力値が、そのまま表示されている。
装備
武器 ラグナヴァリス
鎧 霧の鎧
装飾品 ミカエルのロザリオ
精霊神の守り
神速の腕輪
「よし! クリア後の裏ダンジョンの装備品だ。次はスキル画面を……ん?」
京也はスキル画面を表示させるが、そこには何も表示されてなかった。
「なっ! あれだけ苦労してコンプしたスキルが一つもない!」
京也は自分のスキル画面を見て絶望する。さらにアイテム画面を表示する。
「ア、アイテムも何もない……」
アイテム画面にも何も表示されずに、京也はさらに絶望する。よく見るとメニュー画面には所持金ウインドウがあるのだが、そこには
0G
と表示されていた。
「カ、カンストした金が……」
京也はステータスと装備品はゲーム通りだったが、スキル、アイテム、所持金をすべて失っていた。
「な、なんて悪夢だ。まあいい。どうせ夢だ。起きたら全部元通りだろ」
京也は今の現実が受け入れられず現実逃避している。
「ちょっと歩いてみるか」
京也はやることもないので森の中を歩き始める。
「それにしてもこの夢、いつ覚めるんだ?」
京也はあまりにも意識がはっきりしていて五感もはっきりしているので、徐々にこれが夢ではないと思い始める。
「むっ!」
その時、京也の目の前にウサギが現れた。そのウサギは体長が八十センチメートルくらいあり頭には二本の角が生えていた。
「こいつは……オニウサギか!」
出現したオニウサギは、二本の角を向けながら京也に突撃し、いきなりジャンプしてきた。
「うわっ!」
本来オニウサギはゲームの序盤に登場する雑魚モンスターである。レベルとステータスがカンストした京也にとって取るに足らない強さのモンスターだったが、初めてのモンスターとの戦いに京也は何もできなかった。
「!」
だが猛スピードで襲ってきたオニウサギは京也の体をすり抜けた。これは彼が装備している霧の鎧の効果で、物理攻撃を受けた時、体を霧状に変化させ相手の物理攻撃を無効化したのである。
「こ、この!」
京也は腰のラグナヴァリスを抜いてオニウサギに斬撃を放つ。オニウサギは素早い動きのモンスターだが、速さがカンストしている京也は難なく動きをとらえることができて、一撃で倒すことができた。体を斬られて死んだオニウサギが地面に倒れている。
「や、やった!」
初めてのモンスターとの戦いに勝利した京也は、興奮しながら喜んでいる。
「これは……まるでレジェンドワールドのVRゲームをやってる気分だな」
VRゲームとはヘッドマウントディスプレイという視界を完全に覆って、まるでそのゲームの世界に入り込んだような体験ができるゲームである。レジェンドワールドはテレビにつないで遊ぶゲームだが、今の感覚はVRゲームを遊んでいるような感じだった。
「ゲームなら、これで経験値とゴールドをもらえるんだが」
京也はメニュー画面を再び表示してみる。だがすでにレベルはカンストしているので経験値は入手してなかった。ゴールドも1ゴールドも増えてなかった。
「まじか。経験値はまあいいとして、このオニウサギを街に持っていかないとゴールドが手に入らないパターンか」
ゲームではモンスターを倒すと、その場で経験値とお金をもらえるので、京也はゲームとこの世界との違いを実感する。
「ん? アイテム画面にオニウサギが表示されている。自動回収してくれたのか」
今まで地面にあったオニウサギの死体がいつの間にかなくなっていて、代わりにアイテム画面にオニウサギの文字が表示されている。京也のメニューシステムはアイテム画面を開くだけで、倒したモンスターを自動回収する機能を持っていた。さらにメニューシステムのオプションの項目で、自動回収のオンオフも選べるようになっていた。
「ええと、アイテムを操作するには……」
京也はアイテム画面のオニウサギの文字にタッチしてみる。
このアイテムは解体可能です。解体しますか? はい/いいえ
「おお、アイテム収納だけじゃなく、解体もできるのか!」
動物の解体などできない京也は、さっそくメニュー画面でオニウサギを解体してみる。するとアイテム画面に
オニウサギの肉×1
オニウサギの角×2
と表示された。
「これを売れば金になるんだな。よし!」
京也はこの世界でのメニューシステムの使い方を理解し始め、少し楽しくなってきた。
「ん?」
京也はほかにも何かないかメニュー画面を操作していると、スキル画面にひとつのスキルが表示されていた。
跳躍
高くジャンプすることができる
落下時の保護機能付き
消費MP10
「ん? 跳躍?」
次回 ペタの村へ に続く