設計図紛失事件
「・・・ない!」
博士は顔面蒼白になった。
「どうしたんですか?」
立野君が尋ねたが、博士は自分の考えに夢中で返事もしてくれなかった。
「昨日は確かにあった。開発中の本体と一緒に金庫にしまって帰った。朝来てみるとこつぜんと消えていた!」
「あのー、博士?何をお探しですか?」
「設計図じゃ!」
それだけ答えてあとは小声でぶつぶつ言っている。
・・・設計図、ねぇ?
立野君は頭をぼりぼりかきながら、とり散らかった実験室を見回した。
あの机の上のも設計図。あの棚のも設計図。みーんな博士が開発したものの基。
「何の設計図なんですか?こないだはアヒル型歩行目覚ましがくわえてませんでしたか?」
「あれはスイートポテト焼き型の図案じゃった。あれではない」
「フラスコの中で雨を降らす装置とか、アイスクリームをカスタードクリームにする実験とか・・・」
「違う」
そこへ、博士の奥さんが鼻歌まじりでやってきた。
「あなた!出来たわよ」
「何が?」
「昨日編みかけだったアフガン編みのセーターよ?徹夜しちゃった」
「何!いつの間に金庫から出して作ったんだ」
「びっくりさせようと思って、あなたが眠ってるすきにちょちょいのちょいと」
「ちょちょいのちょいと?」
立野君はあきれて聞き返した。
「博士、あれは設計図じゃなくて編み図ですよ」
「そうじゃったかのぉー」
暖かそうなセーターを着て幸せそうな博士に、立野君はやれやれと思った。
立野君が従事している博士は何でも屋です。