彼岸の巻
「諸君!聞いてくれ。この半年間、君たちは良く頑張った!今の君たちは、そこい
らの人間や獣人になど負けない、立派な戦士だ」
まだ夜が白みかける直前、皆は、静まり返って俺の話を聞いている。
きっと胸の内では、暴れん棒をたぎらせていることだろう。
「この半年で、君たちを鍛え上げると共に、この町の現状も調べ上げた。結果とし
て、我々の脅威になる者はいない。今こそ、立ち上がる時だ!さあ、存分に暴れん
棒を振るうがいい!!」
ここ数ヶ月、俺もただふんぞり返っていたわけではない。配下の者に町の出入り
を見張らせて、どんな住人がいるかを探り、トレーニングの合間を縫って森へ出か
け、ゴブリンなど知能のあるモンスターを支配下に置いていたのである。
俺の立てた作戦はこうだ。
まずは、ゴブリンやワーウルフ、グレムリンの群れを町の外に配置し、住人の逃
げ道を塞ぐ。
次に、女子供を人質に取り、さらに逃げだす意欲を奪う。
その後は男共や年寄りを一か所に集め、軍団員やモンスターに見張らせて、身動
き取れないようにしておけばいいだろう。
この町にも牢はあるだろうし、そこに閉じ込めておくのも手だ。
うまくいけば、この町を支配下に置くのもいいし、援軍を呼ばれ敵わないと判断
したならば、森に潜み次の町を探せばいい。
とにかく、お楽しみが終わるまでは援軍を呼ばれると厄介だ。
うまくいったら、軍団の上位の奴らにはある程度の女を与え、下位の者たちの競
争意識を高めてやろう。
ただ、それも俺が好みの女を選んでからだがな……。
グフフ……。おっと、いかん。これから起こる出来事を想像すると、自然に暴れ
ん棒が膨らんでしまう。
俺はさりげなく股間を目立たないように隠す。
俺がこの時間を選んだのには、訳がある。夜陰に紛れ急襲するという手もあった
が、暗闇に紛れて脱走者を許す可能性も大きい。
それならば、まだ町が機能する直前を狙った方がいいと判断したからだ。
俺は、高ぶる気持ちで皆を鼓舞する。
「さあ、行くぞ!夜明けとともに、奴らが油断しきっている隙を突くのだ!」
『ウオォォォォォォォッ!!』
あれ……?俺が想像していたのは、まさに戦の前の戦士の雄たけびだった。
ところが、誰一人として声をあげる者はいない。
「どうしたんだお前たち?どこか具合でも悪いのか?」
静まり返った集団の中から、しばらくしてオッさんが口を開いた。
「なあ、お前は、本当に町を襲って女を犯す気なのか?」
「な、何を言うんだ!人聞きの悪いことを言うんじゃない。前にも言ったとおり、
これは女の子が望んでいることなんだぞ。俺たちは、女の子を喜ばせるために立ち
上がったんじゃないか。皆、あのスマホの画像を見ただろう」
「いや、あの絵画だって、お前たちに都合よく書かれた物じゃないのか?」
「ぐっ、そ、そんなことはない!」
こいつら、思ったより頭が回るのか!?
「なあ、もういいよ。実は俺たちは、すでに町の女の子から、それとなく聞いてい
るんだ。男に求めるものはアレのデカさなんかじゃない。優しさと愛情だってな」
「なっ、なんだと!いつの間に」
そう、俺は、俺だけが知らなかったのだ。奴らがすでに、人間や亜人の美少女た
ちと交流を深めていたことを。
「そっ、そんなのは口だけだ!女なんて、いざ暴れん棒を突っ込んでしまえば、皆
ア○顔で喜びまくるんだぞ!」
だが、俺の説得にも彼らは冷たい目を向けてくるだけだ。
その時、タウリンが口を開いた。
「も、もう、いいんです。ぼ、僕たちに目標を持たせ、あの境遇から救ってくれた
あなたには、感謝しています。で、でも、たとえオ○ンチンを入れたら女の人が喜
ぶとしても、それ以前にあんな辛そうな表情をする人に、そんなひどいことはでき
ません。それに、エ、エルちゃんが誰かにそんなことをされるかと思うと、おかし
くなりそうです」
「おう、俺もあの譲ちゃんたちがそんな目に合うかと思うと、我慢がならねえぜ」
「おっ、お前たち……」
くそう!こいつら、いつのも間にそんなことに。それに、エルちゃんだと!?な
んだ、そのちょっと風○店に行ったら、出てきそうな名前の女の子は!
「そういうことだ。いろいろ思うこともあるが、この境遇を変えるきっかけを作っ
てくれたお前には、皆感謝してるんだぜ。だからお前も、ここで皆と真面目に暮ら
そうや」
すでにオッさんは、元リーダーの風格を漂わせて、コミュニティのボスらしく振
舞っている。そんなオッさんを見る皆の目も、やはり真のリーダーはこの人だと語
っている。
…………。
いや、実を言うとね、俺だってオークごときが、そこまで大それたことなんて出
来ないんじゃないかって思ってたのよ。
それに、こんなに皆から責められると、ちょっと気持ちが折れそうになるじゃな
い。
なんか皆も、町の美少女たちと仲良くなってるみたいだし、俺も混ぜてもらおう
かな……。
「わ、わかりまし……」
俺が白旗をあげようとした、その時だった。
「皆さん、集まってどうかされたんですか?」
ふいに背後から声が聞こえたかと思うと、7~8人ほどの少女たちが現れた。
おそらくは静かな早朝に騒いでいたせいで、町のほうにも声が聞こえてしまった
のだろう。
「イライザさん、来ちゃダメです!」
「カリン、こっちにくるんじゃねえ!」
「え?皆さん、いったいどうしたんで……」
妹のエルの手を引いて近付いて来たカリンは、醜悪なオーク……、つまりは俺の
姿を見て、歩みを止めた。
「キャァァァァァァ!」
「くっ、逃げるんだカリン!こいつは女を襲う凶悪なオークだ。ここは俺たちが食
い止めるから、心配するな!」
「で、でも……。ゴブりんさんが……」
「し、心配しないで。ぼ、僕たちは結構強いんだから。エルちゃんたちは僕たちが
守るから、だ、大丈夫!」
「お兄ちゃん……」
「さあ、イライザさんも早く!私達は、姿は醜くても、惚れた女性の危機を見過ご
すほど、心まで醜くなったつもりはありません」
「ウ……、ウルフルさん……」
こんな状況だというのに、彼女たちは感動に潤んだ瞳でゴブりんたちを見つめて
いる。ほかにも、何人かどさくさ紛れに告白している者がいる。
え?何この展開……。ちょっと、さっきまで俺も仲間に入れてくれる感じだった
よね?
目の前で、俺をダシにして繰り広げられる恋愛ドラマに、俺の心は急激にすさん
でいった。
あ~、はいはい。これ20代のころに良く見た光景ですよ。一時期やたらに合コ
ンに誘われると喜んでたら、結局周りの奴らを引き立たせるための、ダシだったや
つだよ。
ブサメン万歳ってやつだよ……。
くそう!なぜだ、なぜこいつらがモテているんだ!
「ぐっ……。貴様ら……、許さん、許さんぞ!認めん!認めんぞぉぉぉぉぉ!!」
俺はまるで、どこぞの魔王か悪役のように吠えると、彼らに向けて言い放った。
「この負け犬どもめ!もう貴様ら半端モンスターの手など借りん。貴様らごときが
束になったところで、俺に勝てるとでも思っているのか?それ以前に、俺が力で支
配下に置いた、本当のモンスター軍団の餌食にしてくれる!おい、ゴブリンども!
ここへ来るんだ!」
俺の叫びを聞きつけたゴブリン、ワーウルフ、グレムリンたちが集まってくる。
「キャァァァァァ」
「ひっ……」
「だ、大丈夫だ。皆、俺たちの後ろに!」
相変わらず、俺から見ればうらやま……、じゃない、滑稽な恋愛ドラマが繰り広
げられている。
「ふん!こうなったら、ボロ雑巾のようになったお前らの前で、その女どもを犯し
てやる!自分の惚れた女が、俺の暴れん棒でア○顔をさらすのを見ているがいい。
本物のオークの力をとくと見よ!」」
どうしよう、勢いで言っちゃったけど、もう後には引けないっぽい……。
もはや、やるしかない!
俺は、第一目標をタウリンに定めた。いくら強くなったとはいえ、所詮はハーフ
だ。こいつをKOすれば、俺に力でかなう者はいないし、あとは片腕でねじ伏せる
のもたやすい奴らだ」
俺はクラウチングスタートの姿勢から、タウリンに突進していった……。
数秒後、おれのタックルをもろに食らったタウリンは、地面に倒れていた。
「いやぁぁぁぁ!、お兄ちゃぁぁぁん」
ロリっ娘の叫びが聞こえるが、今の俺には心地よいBGMにしか聞こえない。
ふっ、ロリとて容赦はせん。お前も後でいい声で哭かせてやろう!
て言うか、むしろロリっ娘万歳!
「ふっ、他愛ない。さあ、これ以上痛い目に遭いたくなければ、さっさと女を差し
出せ」
「くっ……!」
俺は、この先に起こることに期待を膨らませ、暴れん棒を天に向けながら、少女
たちに近付いていった。
しかし、その時だった。
「オッさん!いました、連れてきました!」
「おお、間に合ったか!」
なんだ?誰を連れてきたのか知らないが、この俺の熱いパッションは、誰にも止
められないぜ!
しかし、俺の燃え盛るパッションは、次に発せられた声を聞いて、一瞬で凍りつ
いた。
「フフフ、ついに見つけたぞ。この私にあれほどのことをしておいて、まさか逃げ
おおせると思っていたわけではあるまい」
「……っ!」
その聞き覚えのある声に、まさかと思い振り返る。
そこには、俺の天敵とも言うべき、あのエルフが立っていた。
「フフフ、あれほどの屈辱……。この大魔導師と謳われた『クラリノーヴァ』の人
生の中で、1度あるかないかだ。この状況では、貴様は私に近付くことも逃げるこ
ともかなわんぞ。なぁに、心配するな。私の究極魔法で、たっぷり礼をしてやろ
う」




