海の巻
「ハァ……ハァ…………」
酸欠でぶっ倒れそうになるほど全力疾走した俺は、これ以上は走れないというと
ころまで走りまくり、その場にへたり込んだ。
何度も何度も背後を振り返るが、エルフの姿は見えない。
いつ森の中からファイヤーボールがすっ飛んでくるか怯えていたが、その気配も
無さそうだ。
どうやらうまく巻いたようだ。
ホッとしてようやく辺りを見る余裕が出来た俺は、周りの景色を見渡す。
「あれ?ここは……」
気付くと、見覚えのある場所にいた。そう、以前にエルフに連れられてきた町で
ある。
「まずいな……。ここは、あのエルフが立ち寄る可能性があるんじゃないか?」
かと言って、他に立ち寄る当てがあるわけでもない。森の中に隠れ住むのが一番
なんだろうけど、あの虫だらけの環境には耐えられない。
悩んだ末、やはり以前お世話になったコミュニティを訪ねてみることにした。
そう、ハーフモンスター達の暮らす、元の世界で言うところのダンボールコミュ
ニティである。
とは言っても、オークの俺が正面から町に入っていったら、どんな騒ぎになるの
かは目に見えている。
それはそれでちょっと楽しそうだが、さすがに戦力が自分一人であるのと、この
町にどんな力を持った者がいるのかわからない以上、危険すぎる。
とりあえず夜になるのを待ち、暗闇に紛れてコミュニティを目指すことにした。
幸いなことに、ダンボールコミュニティは町外れにあり、さらには町の人々は彼
らを忌み嫌いこそすれ、関心を持つことは無い。
誰にも見られることなくたどり着いた俺は、見覚えのある顔を見付け安堵する。
「オッさん、俺です。久しぶりです」
幸先良く、リーダー格であるハーフオークの『オークランド』さんこと、『オッ
さん』を見つけた俺は、気軽に声をかける。
見た目と違い、ぐう聖である彼なら、すぐに俺を受け入れてくれるだろう。
と、思っていたのだが……。
「ひっ……、ひいぃぃぃぃぃぃ!!オッ、オークだぁあああああ!」
オッさんは普段の悠然とした態度からは想像も出来ないほどに、恐怖に満ちた表
情をしている。
「あ……、いや、俺です。俺ですって!」
「どうしたんですか!?」
悲鳴を聞きつけて、ハーフゴブリンの『ゴブガリ』さんこと、『ゴブりん』さん
や、その他のダンボールハウス住人が駆けつけてくる。
「うあああああ!オッ……オークだぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
「こっ……、こっ……、殺されるぅぅぅぅ!」
皆の反応は、一様に俺を恐怖している。
「ちょっと、俺です!俺!」
だが、恐怖が伝播し、すでに全員パニック状態で俺の話は通じそうに無い。
マズい。このままでは、このマイスイートホームすら追い出されてしまう。
仕方ない。やりたくはないが……。
「ウイィィィィィィ!!」
雄叫びと共に鈍い衝撃音が走り、近くの建物が吹っ飛ぶ。
俺の黄金の左腕から放たれた必殺のラリアットが、廃材で作った彼らの家を吹き
飛ばしたのだ。
「少し黙れ!」
ドスを利かせた声に、彼らが静まり返る。中にはガタガタと震え、失禁している
者までいる。
ハーフミノタウロスの『タウリン』さんなんかは、地面にひっくり返って気絶し
ているようだ。
この人、この中じゃ一番いかつくて強そうな見た目なんだけど、めっちゃビビり
なんだよなぁ。
まあ仕方ないだろう。一応人間?の彼らからしたら、オークに出会ったら十中八
九殺されると思っているだろうから。
静まり返った中で、俺はこれ以上彼らを刺激しないように、努めて優しく語りか
けた。
「す、すいません。建物を壊してしまって……。後で直すのを手伝いますから。た
だ、まずは落ち着いて俺の話を聞いてください」