董卓顔の俺氏。冒険者になる
「なるほど。あの都市で火計により魔王軍を滅ぼし、我らエルフの一族を半壊させたネン・ナンデではなく、その親類縁者か――。それもコンプレックス家の庇護にあると。もし本人だったら問答無用で仇敵認定して殺すところであるが、しかし本人じゃないんじゃなぁ……」
なんとも悔しそうにエルフのお兄さんはいう。
剣呑すぎるじゃないだろうか。
もしかすると、彼はエルフではなく彼もまたダークエルフなのかもしれない。
「その俺――、じゃない、ネン・ナンデという人はダークエルフさんに相当な恨みを買われているのかね?」
俺は念のため聞いてみた。
「そりゃそうだろう。あの都市での攻防で3大部族であるキシュナ家、浅科家、ラチケット家のうち、キシュナは半壊、浅科家はネン・ナンデの汚い策略によってほぼ全滅した」
火計汚いというか、異世界転生前の俺にとっては基本戦術なんだが。
異世界転生前の俺にはチートな近代魔術もなにもなかったからな。
あるのは部下のリネージュとかの人材? くらいだろうか。
指揮をしたのは俺だが、都市を炎上させるタイミングなどは実に絶妙だった。
「――我らラチケット家が《拉致》スキルを駆使して救出しなければ一門がすべて消えていたところだ。キシュナ家はその後の奇襲も失敗したからほぼ全滅といっていいだろう」
ラチケット家? あぁ、そうか……
「やはりエルフのお兄さんはダークエルフだったのか……」
奇襲大好き、キシュナ家。
暗殺大好き、浅科家。
拉致大好き、ラチケット家。
この3家が俺の知る限り特に有名なダークエルフの集団だ。
彼らダークエルフは戦国武将の徳川家や豊臣家のように、家の単位で部族一門を保有している。
このギルドマスターは自らがラチケット家であると語った。
ならば、彼はダークエルフであることが確定だ。
エルフのお兄さんは俺のつぶやきにすぐさま反応する。
「は?! 俺のことをまさか自然大好きでスピリチュアルなエルフの連中と間違えたとか言うんじゃないんだろうな!」
「え? 違うんですか?」
「ダークエルフとエルフを一緒にするなよな! 水と油ほども違うぞ。だいたいこんな場所でギルドマスターやるとか普通のエルフじゃありえないだろう」
確かににそれはそうだろう。
しかしエルフのお兄さんの怒り用はすごい。
それはまるで、ある国の人に別の国の人と間違えられるのと同じくらいの怒りようだ。
ドイツ人だってイタリア人と間違えられればそりゃあ怒るだろう。逆もまたしかり。
大阪民だって京都民と間違えられればそりゃあ怒るだろう。逆もまたしかり。
広島人が自らのお好み焼きについて広島焼きと言うと炎上するのは解せぬが。完全に一致じゃないか。
上野駅近くの某商店街では大阪焼きと銘を打ってたこ焼きを売っているのに炎上しているのは見たことがない。
――もしや大阪民は明石焼きこそが本物のたこ焼きで、大阪焼きとは別のものだとでも思っているのか。
明石で採れたタコが入っているたこ焼きのことを明石焼きだと思っていた頃が俺にもある。
いや、今は外はパリパリ中はどろどろの築地系の方がたこ焼きとしては主流なのか――
――いかん。料理の話ではなかったな。ついつい熱くなってしまった。
ダークエルフとエルフの違いの話だったか。
俺が壮大なタコについて思いを馳せている間も、エルフのお兄さんはいかにエルフがひどい連中であることを力説していた。
「――その胸に魔石を宿し敵と戦う我らダークエルフと違い、あいつらエルフは尿管に結石を作るんだぜ。結石! そんな奴らと一緒にするなよな!」
尿管結石って……
確かにそんな大事なところに魔石ができたら絶望するだろうな。
それを聞きながら、なぜかソフィアは顔を赤くしていた。
「えーっとぉ、僕もまだおっきっくなるんだからねッ」
地平線が見えそうなソフィアの胸を見て、俺はコメントすることをやめた。
ここはヒトとして突っ込んではいけないところだろう。
ちなみに魔人とて魔石ができるところはエルフと同じだろう。
これは全てのモンスターに対して言える。
「おっきっくなるんだからねッ」
ツッコミ待ちを今は無視することに俺は決めた。
しかし何だろう。このわざと強調するソフィアに対する違和感は。
――もしかして、これが世にいう誘い受けというやつなのだろうか。
俺はじっとソフィアを見つめると、ソフィアの顔はさらに朱色にと染まっていった。
あぁ、ソフィアは可愛いなぁ。
このネタで夜になったらいぢろう。
「けっ。これだから馬鹿っぷるは……」
エルフのお兄さんは俺とソフィアを交互に見ながらあきれ顔だ。
いいぞ。その蔑んだ瞳が実にここち良い。
ソフィアは渡さないからな。
「で? 話を戻してあれか、ネン・ナンデか。難手家だよな。お前を含む難手家が浅科家や他のダークエルフのやつらに恨まれてないか、か……」
「どうなんだ」
「――あぁ、もちろん大丈夫だとも安心しろ。浅科家の女性陣は我らラチケット家が華麗に拉致――じゃなかった華麗に救出したから。――救出費用払えないなどとほざくものだから彼女たち専用の娼館をぶっ建ててあげたから、一族の存続は安泰だしな!」
「なにやってんだお前ら」
「キシュナの一門は売り飛ばしたし」
「まてぃ!」
「すこぶる恨んでいるに違いない!」
「おぃ! それ難手家が恨まれている理由ってほとんどお前らのせいじゃないのかな?」
「さぁな?」
「商館? おじさまぁ。浅科さん家は商売でも始めるのぉ?」
「――うんうん。ソフィアは可愛いねぇ」
優しくソフィアの頭を撫でてくるエルフのお兄さんは結構腹黒かった。
「さて2人とも。準備できたぜ。この冒険者ギルド資格者証のこの部分に体液を一滴垂らせばギルドへの入会は完了だ。代表的なものは血か唾液だな。変なもの付けるなよ」
エルフのお兄さんは冒険者ギルド資格者証――通称ギルドカードをソフィアと俺の2人にそれぞれ1枚づつ渡してくる。
そこには大きなHのマークと名前、空白の空間1か所と所属冒険者ギルド名が書かれていた。
この空間の個所に体液を垂らすと、QRコードのような一人につき1つしかない魔力パターンの紋章が刻まれることになる。
「入会するにあたって何か質問はあるかね? メリットもあればデメリットもあるぞ」
「ほう。わざわざ説明するのか? ダークエルフなのに意外だな」
「遺憾ながら、一応規則に書いてあるので俺は喋らなければならない。ダークエルフながらにギルドマスターの職務を遂行する俺偉いだろう。敬うが良い」
冒険者ギルドに入会するにあたって、メリット/デメリットなどはそういえば聞いたことがなかった気がする。
いや、聞いたことはあるかも知れないが、相当昔のことなので忘れているのだろう。
「ラチケットのお兄ちゃん。冒険者ギルドに入ることにデメリットなんてあるのぉ?」
ソフィアが自分の顎に手を当てながら問いかける。
それは確かに疑問だ。
「もちろんだよぉー。コンプレックス家のお嬢ちゃん」
ギルドマスターはエルフのお兄さんモードを継続するためか、ソフィアの前にしゃがみ込み、彼女の目線で話し始めた。
なんとなく気に入らないが、確かに董卓顔の青年に話すよりかは可愛い女の子相手に話す方が楽しいのだろう。
なにごとも可愛いは正義である。
「まずねぇ、冒険者ギルドに入ると冒険者の仲間になる。さまざまな個所で冒険者のみんなが君を助けてくれるだろう。それが最大のデメリットかなぁ」
それのどこがデメリットやねん。
「助けてくれるということは、お嬢ちゃんも困っている冒険者ギルドのメンバーを助けないといけない。分かったかい?」
「うん。分かった!」
「助けるのもそうだけど、殺したりしたらダメだからね? もちろん殺せとか言われても殺してはいけないよ?」
「うん。殺さないよぉ」
いや、そこからなのか。
魔人おそるべしと感じた一瞬だった。
そこは冒険者ギルドメンバーでなくてもそこは殺したらいかんだろう。
「えらいぞー。よく分かったね!」
なでなで。
俺のソフィアを猫を転がすかのようにあやすエルフのお兄さんに、俺はだんだん嫉妬してきたので、ソフィアを奪い取った。
「あん。おじさまったらぁ」
「ちっ」
エルフのお兄さんが、舌打ちしたが無視する。
だからソフィアは渡さないからな。
「――それってどこがデメリットなんだ? 冒険者ギルドのメンバーを殺してはいけないとか当たり前じゃないか」
「ふむ――。察せられないならばあえて言おう。例えばこのあたり一帯の言葉が話せるモンスターの大半が冒険者ギルドのメンバーだったり、例えば現在も冒険者ギルド民が勢力拡大中だったりする、と言ったらどうだね?」
「は?」
さすがに魔界にある冒険者ギルドである。
冒険者ギルドメンバーにモンスターがいることは想定の埒外であった。
魔人が冒険者になれたり、ダークエルフがギルドマスターであることからそこは察しておかねばならないことだったか。
「討伐依頼もそれらギルドメンバーが自発的に出しているぞ。ここ5年くらはないが」
「それって、モンスター同士の勢力争いに冒険者ギルドを使っているということか?」
「さぁ、どうなんだろうなぁ……」
とぼけるエルフのお兄さんだが、おそらくそうなのだろう。
「他には?」
「冒険者ギルド資格者証には、最初に発行した出身ギルドの支社名が刻まれる」
それは本来、出身地を明らかにすることで地域の連帯感を増すための制度だ。
だが、ここ魔界に存在する冒険者ギルドで発行された冒険者ギルド資格者証を他の支部で見せたりなんかしたら、その支部の人たちはどういう反応を示すことだろう。
ひたすら嫌な予感しかない。
「それから?」
「冒険者ギルド資格者証は定期的に更新しないと失効する。わざわざ更新手続きしなくてもクエストを受けるだけでいいぞ。ただしクエストを受けた場合、失敗すると降格する可能性があるがな。Hランクじゃ降格すらできないが。さらに失効した場合は再発行すれば良いだけの話だから、デメリットとしては軽微だな」
確かにそれもデメリットというか普通のことではないだろうか。
そんな話を聞いているとソフィアと目があった。
明らかにソフィアは暇を持て余していた。
昔の俺のようみ右から左に文字が流れているに違いない。
「ふむ……。って、ごあぁぁ。ソフィア、いきなり何をあああ」
そうこう言っているうちに面倒になってきたのか、ソフィアの人差し指が俺の口の中に突っ込まれる。
そして俺の唾液でべとべとになった指を冒険者ギルド資格者証に押し付けてさっさとギルドカードを完成させてしまった。
おそらくというか、やっぱりというか。
話を聞くのがめんどうになったのだろう。
「むぅ。僕はそろそろ(冒険の旅に)いきたいのぉ」
「ちょ、おま……」
不貞腐れるソフィアに、エルフのお兄さんが「なんというご褒美」とかほざいているのを聞きのがさなかった。
ソフィアは絶対にあげないよ。