エピローグ
*魔界のある場所で①
その場所にオーク・キング5体を中心とした約1万のモンスターが集まっていた。
それば魔王軍といっても良いのだろう。
率いている魔王はいないのだが、モンスターが集まって集団で行動したとき、人々からはその集団は魔王軍となぜか呼ばれる。
「我らを進化させてくれた大恩あるアリス様が拉致されたとのこと!」
オーク・キングの一声によりモンスターたちは騒然とする。
「おぉぉ――」
「なんてことだ―」
「そんな馬鹿な――」
「あの姫さん、か弱そうだからなぁ」
「くっころー」
「皆に聞く! こんなことが赦されるべきだろうか――」
「赦さぬ!」
「赦さぬ!」
「赦さぬぅぅ!」
「くっころー」
「だからアリス様に大恩を受けた我らは――アリス様をお救いする必要があるぅぅぅ!」
「おぉ、お救いするのだーー」
「突撃――」
「ニンゲン殺せ――」
「くっころー」
「だが、我々では突撃してもまたもやニンゲンに殺される可能性は高い。魔王ベル様にも止められている!」
「くそうっ」
「ニンゲンめーー」
「にんげんが――」
「くっころー」
「だから! だから我らオーク・キング5人! 我らが集まることによって最強の進化を遂げたいと思う――」
「おぉぉーー」
「さすがはキング様――」
「これでワンパンですな~」
「くっころー」
オーク・キングたち5人はモンスター達の園の中心で互いの右手を取り合う。
「我ら5体、生まれし日、時は違えども進化の契りを結び、同じ日に死すことを誓わん! しからば魔物1万を率いて人の国を滅ぼさん!
おぉぉー
誤爆進化ぁぁぁ!!!
誤爆キングぅぅぅ!」
これが世にいう「魔物園の誓い」だ。
――こうして彼らはさらなる進化を遂げ、MMO-RPGのチャットでまちがったウィンドウに想定しないメッセージをぶちこんでお笑いを誘うという、誤爆之王、魔王誤爆キングへと進化した。
そして魔王誤爆キングは、常磐線に乗りトリデーの駅からフラメンコ王国に向けてまずはウェイノーの街に進撃を開始するのだ。
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*魔界のある場所で②
魔界にある冒険者ギルドは基本的に暇である。
つまり、ギルドマスターであるラチケット・コーカーは基本的に暇である。
なにしろ人が来ないのだ。
たまにモンスターが冒険者登録に来るが、それも登録さえすれば満足するのか、依頼をこなすことなどめったにない。
例外としては魔道列車が近くの駅に着いたときくらいだが、それも列車の乗組員がほとんどの業務をこなすし、魔石はモンスターが集めるし、列車の護衛としている冒険者たちは魔界にある冒険者ギルドの存在なぞほぼ知らない。
だが、今日は違った。
ギルドマスターの目の前には一人のダークエルフの女性がいる。
その名を浅科降嫁という。
長身で華奢な、まさにエルフらしい金髪の少女だ。
「こうか」という名前はダークエルフエルフ一門の長に付けられる称号である。
名前が被るなども考慮する必要はない。
一門に「こうか」を名乗る人は一人しかいないのだから。
一門の外の人間と名前を呼びあうときは一門を代表する部族名で名乗る。
つまり浅科降嫁は浅科家の長で、ギルドマスターが浅科降嫁の名前を呼ぶときは浅科さん、だ。
もっとも、以前の戦いによって浅科家のダークエルフはほとんどが散ったのだが。
エルフは長命ではあるが、目の前の少女は本当に見た目通りの年齢である。
生まれたときから知っているのだから間違いない。
「これで君もCランクだ。がんばったな――」
浅科には冒険者ギルドの意をくむモンスターを助け、敵対するモンスターを駆除する仕事をしてもらっている。
冒険者ギルドのボードに張られている依頼は一見さん用のダミーで、本当は裏の依頼があるのだと言えば嬉々として依頼を受けてくれたのだ。
単純なものである。
ラチケットが書き換えたギルドカードを浅科に渡すと彼女は笑顔を見せる。
ポーカーフェイスは彼女には似合わない。
「これで、人の世界に行くことを認めてくれると?」
「俺はラチケットの人間だから認めるとかいった問題じゃないと思うが……。少なくとも街に行って殺りあっても生きていけると思うぞ? 今の実力なら」
「難手の子せがれと殺りあってもか?」
一瞬、少女に憎悪の影が浮かぶのをラチケットは見逃さなかった。
「あいつにはコンプレックス家のお嬢ちゃんが付いているからな。分からんぞ――」
「魔王エディプスの令嬢――。ソフィア・コンプレックスだな――」
「あ。行くならすぐがいいぞ。ちょうど魔道列車が来ているころだ。そしてモンスターがちょうどそれに乗りまくろうとしている。紛れ込むなら今だな」
「!!? すぐに出ます――」
そういって冒険者ギルドから走り出る浅科降嫁をギルドマスターは悠然と眺めて悦にいる。
(これは、おもしろくなりそうだ――)
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*とある、天界で――
伝説の歌に唄われし六甲大蛇が第4位、死神辣甲守瑞樹は此度の大腹黒梅田守時貞の活躍に怒りを露わにしていた。
「おのれ大腹黒め! 我ら六甲を始めとする八百万の神々が人々から集めた1億2千7百万程度の魔力ポイントを分け合って細々と使っているのに対し、奴は80兆ものポイントをまるで湯水のように使いおる。許せぬ……」
それに呼応するのは、同じ六甲大蛇が第3位亀甲醤油守間男命だ。
「まさに許せぬ。奴め笑いが止まらぬであろうな」
「奴はお笑い系の神である。笑いは止まらぬであろう」
「だからあの時、あの魔人の少女に与しておけば良かったものか」
「いや、やつは魔人ぞ。いくら我ら六甲大蛇とはいえ与するにはいささか……」
「だが、奴は健気である。助けてやっても良かったのでは?」
「いまであれば土下座してでも信徒に迎え入れるべきか?」
「おうよ、六甲の守たる我らが出向いて魔人ソフィアにご機嫌を伺うというのはどうだろうか。魔人の彼氏たるローなるものは、ハンシン地域の神々について詳しいと聞く。諭せば頷くやもしれぬ」
「意義なし」
「意義なし」
そんな話に紛れ込んできたのは、六甲大蛇が第6位、六甲阪虎守金本である。
「ところでなんだが――、ワシはなぜに第6位なのだ?」
「それは阪虎守であるからであろうよ」
「それはアニキが阪虎守であるからであろうな」
「解せぬ……」
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*とある、北エルフの村で――
散村といっていいだろうか。
エルフの村は閑散としていた。
そのエルフの村はエルフたちの故郷ではあるのだが、長い生を持つエルフにとって刺激がなさすぎた。
そこにいるのは夫婦か子供――。そしてリネージュのように戦いに疲れたものだけだ。
リネージュもかつて若いころは面白味のない村から飛びだしていた。
そしてかつては、魔界のモンスターと戦う冒険者だった。
そしてモンスターと戦い続け、個人での戦闘に限界を感じ、国に仕えたこともある。
人の将軍と駆け抜けた戦場は――敗戦につぐ敗戦であった。
しかし刺激はそれだけに大きかった。
幾度とない献策を行い、将軍にはほとんど受け入れられた。
戦に関しての策は失敗したものもあったが、敗戦の中であって将軍とリネージュは主に策略によって郡内の権力をわが物としていく。
中には悪政と呼べる酷いものであったが、リネージュにとっては楽しかった。
軍略がこれほど楽しいとは――リネージュは今でも思い出すだけで震えが止まらなくなる。
歓喜――愉悦の震えだ。
そして最後の逆転劇――都市をまるごと用いた火計を用いた大規模戦闘――
それは、楽しくて、楽しくて、そして楽しかった時間だった。
リネージュにとって、かつて将軍と自分を主人公とした物語は、しかしそこで終わる。
都市は廃墟となり、アンデッドが徘徊する魔都となり、今も北方では魔界と人の世界とを阻む天然の要塞となっている。
そう、物語は終わってしまったのだ。
都市ごとを使った計略に憤慨した王女が、将軍との婚約を破棄した。
リネージュは喜んだ。ついに私の出番だと。
(将軍と私、エルフと人の恋か――)
これは恋を叶えるために神が恵んだ祝福であると確信した。
だが、リネージュの恋が叶うことはなかった。
将軍は婚約破棄されたことでそれはもう見事に、完全にやる気をなくした。
人が、変わってしまった。
まるで何かが取り憑いたかのように。
かつてあれだけ好きだったのに、人が変わった将軍に対してリネージュは冷めた。
婚約破棄された将軍は、結果として軍を追われた。
どれだけ将軍は王女が好きだったのか、王女は知らないのか?
リネージュは怒り狂う。
顔が気持ち悪いとかで嫌いならばまだ分からないでもない。
だが、謀略を嫌って婚約破棄とかありえないだろう。敵は強大なモンスター群なんだぞ。
リネージュは婚約破棄し、将軍から非道さを失わせた王女を心から恨んだ。
だからリネージは暗躍した。
国内は混乱し、そして滅びた。王女は死んだ。惨たらしい死に方だった。
自身でも逆恨みだと分かっていた。
だがリネージュの暗躍に手は抜かれることはない。
ただ顔が酷いだけのやる気の無い男に価値はない。
今までの人生が否定されたようで、リネージュはやりきれなかった。
政権を追われ冒険者となった将軍はネン・ナンデと名前に変えたが、その名前にかつての非道な将軍の影を見ることはなかった。
あぁ、あの暴虐で、悪辣で、顔まで醜悪なあの将軍は一体どこにいったのか。
そして10数年が経った。
あの将軍はきっとどこかでのたれ死んだのだろう――、そう思っていた。
だけど。
フラメンコ将軍を推していたサンデー長老の部隊が村に戻ってきたとき、その息子らしいナンデという姓の男について知る。
彼は――、旧アメジスト王国付近で謀略をしていたそうだ。
(ふ……、面白い――)
こうして、≪暴虐の将軍≫に次ぎ北方で名を成した、≪弑逆の参謀≫リネージュが立ち上がった――
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*ウェイノーの街のある場所で
最近のソフィアはアリスにご執心でいつも抱き合っているのを見かける。
俺にとっては目の保養だ。
「あぁん。アリスちゃーん。今度ぉ屋台でパフェでも食べにいかなぁい」
どうもアリスが誘拐されたとき、ソフィアをアリスが助けたようでそれに感動してしまったようだった。
ソフィアさん。ちょろいんすぎるだろう。
なんでもソフィアのために初めて近代魔術をアリスが使ったらしい。
女の子どうしがいちゃいちゃするシーンは、見ているだけでこう――。モヤモヤする。
だが、それがいい。
その、あまりのべたべた感にアリスがときどき俺に助けてと視線を送ってくるのもなかなかに可愛いものだ。
二人ともとびっきりの美少女で、いるだけで華がある。
「うふふ。アリスちゃんったら可愛い――」
「ちょっとっぉ。変なところ触らないで――。ローくんもにやにや見てないで止めて――」
ついにアリスからのヘルプが視線だけでなく口頭で来てしまった。
これは助けるべきか――
「えーぇ。好きな娘には何しても良いってぇ、おじさまがぁ――」
「うむ。良いぞ。良いぞ。ソフィアもっとやれ」
「そこ! 煽らない!」
「俺が異世界の董卓で、ソフィアが異世界の呂布だとすると、君は異世界の貂蝉役なんだから、貂蝉が呂布に求められるのは自然なことじゃないか――」
「いやぁー」
アリスの声にならない声が響き渡った。
空は青く、晴天だ。
そう、俺たちの冒険の旅はこれからだ――




