董卓顔の俺氏。国家の陰謀を知る
「――なら詳しく説明してあげるけど、あなた、異世界転生についてはどこまで知っているの?」
「婚約破棄されるとショックでその破棄された人物が前世を思い出す、くらいは――」
「なるほど。さすがに、難手家ローを名乗ることはあるわね。あなたも異世界転生者なのでしょう?」
「な。なぜそれを――」
俺はエリスが俺が異世界転生者であることを知っていることに驚いた。
しかしそれも当然か。異世界転生者であるなら名前で分かるのだろう。
「え? おじさまって異世界転生者なの?」
「あら、やっぱりそうなのね」
どうやらカマを掛けられたようだ。
万が一違うということも考えていたようだが、俺の表情で完全にばれてしまっている。
その罠に見事にはまっているようだった。
俺はソフィアに解説した。
「うむ。『なんでやろー』とは、異世界のカンサイという地方に伝わる伝説の言葉でな。異世界転生者だけが分かるという符号というやつなのだ」
「おぉぉ。おじさまぁ。カンサイの伝説って素敵ぃ」
そこのソフィアさん。なんでもかんでも素敵というのはやめなさい。
俺の精神が削られるから。
だがここで、「別にカンサイが良い訳じゃ……」とかも言いづらい。炎上するかもしれない。
ここはやはり、カンサイ押しで行くしかないのだろうか。
うむ。カンサイ素晴らしいぃぃ!
「いや、カンサイが素晴らしいんじゃなくて、現代知識が素晴らしいってだけなのでは……」
そんな俺にアリスは若干引き気味にツッコミを入れる。
こ、これが噂のネタにマジレスというやつなのだろうか。
エリス王妃は軽くうなずいた。
「ふふふ。私が言うのもおこがましいけれど、異世界転生人の知識には目を見張るものがあるわね。もちろん、ロー君なら分かるでしょう? そのカンサイも含めてね」
「各種の調味料であったり、魔道列車といった車両運搬具であったり……」
この異世界で最近見た現代知識チートを俺は告げる。
「正解。私のカタルニオチタン王国がいかにして他の列強より優れているかは、ちょっとカタルニオチタン国内に入っただけで分かったでしょう? 私は異世界転生者の仲間を増やしたいのよ」
確かに魔道列車はすごかった。
あれが作れる国力というのは素晴らしい。
そして、あれを作るのには確かにエリス王妃一人だけで成し遂げられる訳ではないだろう、という想像は容易につく。
ということはだ。
1人でダメなら2人異世界転生者がいればなんとかなるかもしれない。
2人でダメならたくさん異世界転生者がいれば、もしかしたらなんとかなるかもしれない。
要はエリス王妃が旗頭で動いている異世界転生者の集団でもいるのだろう。
「なるほど。だからこその『婚約破棄計画』か――」
国は異世界転生者が欲しい。
そしてこの世界で異世界転生者を増やす手段として知られているもっとも手短な手法、それが――
「そう、婚約破棄ね。学園内で婚約破棄して貰えるなら、我が国としてもコントロールしやすいし。破棄された瞬間にあてがう次の男子なり、令嬢なりもすぐに用意しやすいから――」
「しかし結構酷いことを考えているな。『ざまぁ』展開とか怖くないのか?」
「そこはほら。為政者の腕の見せ所でしょう? もちろんいろいろ危険ではあるけれど、リスクはとらないと国の発展はないから……」
エリス王妃はなかなかどうして腹黒いようだ。
これでメガネとかしていたら腹黒メガネと命名していることだろう。
髪の毛がドリルであることから、高飛車なところは自明であるだろうし。
「ふーん。婚約破棄かねぇ。まるで乙女小説っぽいねぇ」
ソフィアがつぶやく。確かに俺もそう感じた。
ソフィアがメインヒロインならば確かに乙女小説として華があるだろう。
俺ならばなろう小説が書けるレベルだ。
だが、ソフィアは俺の女だ。
そんなことは俺がさせん。
「でもでもぉ、乙女小説なら僕が悪役令嬢か何かなのかなぁ?」
疑問符を浮かべるソフィアに、俺は違うだろうと考えた。
どこの世界にコブ付きの悪役令嬢などいるのだろうか。
だが、ソフィアの髪型をツインテールのドリルにすればあるいは――
――無理だ。こんなに素直なよい娘なのにドリルでツンデレとかありえないだろう。
――いやまて。
魔王エディプスの令嬢だから悪役令嬢といっても設定的には素で通じるのか?
となると、メインヒロイン役は――
俺は背後にいるアリス・アメジストに視線を送った。
「もしアリスがメインヒロインになって、ソフィアが悪役令嬢で、俺がアリスに惚れてソフィアを婚約破棄とかいう展開はあるのだろうか?」
「うん! それしたらぁ、おじさま刺すからねッ」
ソフィアは素敵な笑顔でさわやかな笑顔を振りまいた。
俺は戦慄した。
あれは本気だ。
「へぇ……。貴方の名前はアリスさんなのね」エリス王女は目を細めた。
「アリスさんなら学園に入学してメインヒロインになって、ヒーローを次々落としてハーレム展開、さらには悪役令嬢どもをばったばったと断罪して婚約破棄に追い込むとか良いんじゃない? 王妃である私がサポートするわ」
突然何言いだすんだこのエリス王妃は。
確かにアリスは絶世の美女だ。
フォトショップで加工したんじゃないかと思えるほどきらきら輝いている。
ソフィアがいなかったら俺も一瞬で惚れるほどの美少女だ。
オッドアイなところも希少価値があるし、顔立ちもすっきりしている。
そして紫水晶の流れる長髪なんて、思わず触りたくなる。
「私、平民なんですけど……」
小さな声で訴えるアリスさん。
嘘つくな嘘を。
だが、ここは嘘を突き倒した方が良いシーンだろう。
アリスが旧アメジスト王国の王女なんて知られた日には大変なことになる。
「良いじゃない。貴族の学校に入学するアリスさん。王子様他に目を付けられめでたく恋の仲に。それに激怒する王子の婚約者の悪役令嬢。いやがらせが始まる。そして断罪! 婚約破棄! あぁ……。あぁ……」
なにか自分の世界に入っているエリス王妃に対して、俺はどうしたら良いんでしょうか。
「あ。あのぉ。貴族の学校なのに平民が入学できる時点で矛盾があるんですが……」
「えーっと、ほらそこは王族の遠い親戚だから平民だとか。適当にでっちあげれば大丈夫よきっと!」
「王族の遠い親戚の時点で平民じゃないでしょそれ」
「私が後見人だ! 文句は言わせない」
「いやいやいや」
「書類上は平民。でも王女からの推薦がある。その実態は滅んだアメジスト王国の元お姫さまだったのだ! とか言えばストーリー的にも盛り上がるじゃない」
「え……」そこでソフィアはびっくりしたような声をあげた。「どうしてアリスが元お姫さまだってばれているのぉ?」
それはね。ソフィアさん。
今ソフィアが自白したからだよ。
「そんなの。紫水晶の髪を持ったアリスという名前の絶世の美少女とか、アリス・アメジスト以外にありえないでしょう。――そういうことよ」
確かにそれだけ証拠があれば大抵の人なら分かるのだろうか。
「――というか、アメジスト王国王家と、カタルニオチタンは王家同士で親戚なのよ? さすがに分かるでしょう?」
それ以前の問題だった。
エリス王妃はアリスに向かって諭すように言う。
「で、どう? 学園に来ない? 今なら卒業後に貴方を旗印にしてアメジスト王国の再興を目指して王子さまといっしょに軍隊を派遣するオプションも付けちゃうから。あのフラメンコのやつってウザいんだよねぇ」
「さすがにそれはお断りします」
何気に侵略戦争を始める気まんまんのエリス王妃がいた。
国家運営がそんなので良いのだろうか。
「じゃぁ、ローくん。君は学校来ない? ロー君が学園の悪役令嬢食いまくって、つぎつぎ不貞を理由に婚約破棄させるとかどう?」
「ソフィアに刺されるのでお断りします」
「うん。僕ぅ、おじさまが浮気したら頑張って刺しますぅ」
怖いことはやめてほしい。
ところでソフィアさん。そこは自信たっぷりにいうところじゃないからね。
「振られちゃったか――。ともかく、それなら既に異世界転生者であるロー君や、それを知っているソフィアにはもし『婚約破棄』が起きたらフォローをお願いしたいのだけれど良いかな?」
「まぁそのくらいなら」
俺は頷いた。
どうやらアリスが異世界転生者であることはばれなかったようだ。
「なるほどぉ。婚約破棄されて弱った女の子をおじさまは狙うんだね。おじさまが近づいて優しい言葉をかけてあげるとかぁ」
ソフィアも頷く。
だからそれ、全力で俺が君に刺されるコースだからまじやめてほしい。