董卓顔の俺氏。おじさんと楽しいところに行く
今は3月下旬であり、まだ学園に入学するには時間がある。
しかし、学園にソフィアが入ってしまうと、俺とソフィアが会えるのは放課後から女子寮の門限までの短い時間帯と、後は休みの日だけになってしまう。
するとソフィアと一緒にいられる時間が減ってしまうのだ。それはとても悲しい。
それが嫌なら――、女子寮から通うのではなく、近くに邸宅を確保するかだ。
こちらであれば夜もずっと一緒にいられる。
だが、さすがに邸宅を確保するのはお金がかかるので難しい。
――さすがにお義父さんに「ソフィアと同棲したいから邸宅の資金をください」とか言ったら発狂して斬りかかってきそうで怖い。
ともかく当面は、なるべく多くの時間を3人と一緒にいようと話し合った。
そこで今日は女子寮から出てきたソフィアとアリスと共に、俺は近くの食事処で夕食を取ることとなった。
「「かんぱーぃ」」
3人は血のように赤いワインの入ったグラスを重ねる。部屋は暗い。ロウソクの炎が照明だからだ。
だがその分、雰囲気はシックというか、レトロというか、良い感じである。
食事はスパゲティとジャガイモだ。
スパゲティ――こんなところにも異世界転生者の暗躍を感じる。おのれエリス王女め。
どうせならジャガイモもフライドポテトを促進すればいいのに。
え? お酒をソフィアに飲ませて良いのかって? 年齢? そんなの関係ない。
異世界じゃ未成年に酒を飲ませてはいけないなんて法律はないのだ。
俺は、さっそくとばかり今日あったことを話した。
「――そんな訳で冒険者ギルドは酷いな。こちらは新人でHランクだからなのか、さっそく絡んできやがった。もう少し舐められないように冒険者ギルドないの序列――。スクールカーストみないなものを上げないと、女性なんか連れて行った日には何が起こるか分かったもんじゃない」
「――なら、近く冒険者ギルドで昇格試験があるみたいだから、それに参加すれば? HからGにあがる程度だと大したことはないんでしょうけど」
ジャガイモを食べながら答えるのはアリスだ。
どうやら、女子寮でいろいろ聞き込み調査をしたらしい。
しかし、あんた元とはいえ本物の姫さまなんだからそんな食べながら話すのはやめなさい。
「あぁー。僕もぉおじさまの活躍みたーぃ。僕も昇格試験にでたーぃ」
そんなジャガイモをフォークに刺したまま喋るソフィアもはしたないのでやめてください。
というかさっきの話を聞いていなかったのだろうか。
ソフィアであれば即座に返り討ちするのだろうが。
ちなみに、冒険者ギルドのランクは、何もしていないソフィアがHで、姫さまことアリスがなんとCランクである。
あのエルフのお兄さんによるギルドマスター権限による昇格だ。自由すぎる。
冒険者ギルドのランクは、多くの人は実力と思いがちだが、実際には冒険者ギルドへの貢献度合いによって決まる。さらにSランク以上からは国からの許可も必要だ。
ちなみに各国はSランク冒険者を多く抱えたい、自慢したいという思惑もあり基本的にどんどん許可を出す方針だ。ただ、そのSランク冒険者が死んだりすると国にとっても恥となるため、ある程度以上の実力もないといけないとも考えている。このあたりの匙加減は難しいところだ。
「でもソフィアは卒業したら自動的にCランクになるのだろう? 昇格試験になんて出なくて良いのじゃないか?」
「それでも出てみたいんだよぉ。僕はぁ自分の実力とか知りたいんだよぉ」
えいやー。とフォークを振り回すソフィアは実に可愛らしい。
今度はスパゲティがフォークに絡みついてた。
やっぱりはしたないからやめなさい。
いやまて。
スパゲティのソースがソフィアの頬についているじゃないか。
ここは取ってあげるイベントをするしかあるまい!
「にゅ?」
「ほら、付いてるよ……。食べながら喋るのはやめさい」
「はーぃ」
うむうむ。可愛いやつめ。
ソフィアの頬についていたソースを舐めた。
当然ながら俺が食べているソースと材料は同じはずなのに、なぜか甘く感じられた。
しかし……、ソフィアの実力か……。
こういっては何だが魔王の娘なんだし、相当ろくでもないんだろうな。
異世界転生者の俺TUEEEも真っ青みたいな。
「――。ちなみにソフィアが戦った中で最強だったモンスターは?」
「最強のモンスターってお父さん? それからお母さん? 僕ぅ、お母さん殺してお父さんを僕だけのものにしようとしたけどぉ、お母さんは技術がすごくてさすがに無理だったなぁ……」
ん? なにげに怖いこと言ってませんかこの娘。怖い、怖すぎる。
しかし親では比較対象にならないな。
あのおやじ魔王だけに最強すぎる。
「えーっと。魔人以外のモンスターは? 強い?」
「魔人よりモンスターなんているわけないよぉ。ドラゴンとかも瞬殺だよぉ。でも攻撃魔術が封じられている今だと――」
「ん? 封じられている?」
「うん。今は僕ぅ巫女さんだからねぇ。だからおじさまぁ。守ってねぇ?」
「あぁ。俺はソフィア、君を守るよ――」
あぁ、そういえばソフィアは俺を治癒魔術で助けるために邪神――じゃなかった神様の巫女さん職になったんだったな。
うーん。可愛いやつめ。
「あー。おあついことで。――で、冒険者ギルド関連の報告はそんなところ?」
手をひらひらとさせて次を促すのはアリスだ。
「そんなところかな。で、アリス。学園の方はどうだい? 調べてきたんだろ?」
「教育のカリキュラムとかよね。選択制よ。1年生での必須は領地経営のための複式簿記と貴族としての礼儀作法。それ以外は何をとってもいいけど10科目は最低、といったところかしら。簿記は算数の知識も前提条件になってくるから後期からしかないみたい。1年は3期制ね。どうもシステムは日本の高等学校で、中身は商業や儀礼系に特化した印象を受けるわね。他は、国語/社会/地理/料理/工匠/軍事/魔術/冒険……、いろいろありすぎて分からないわ」
こういう時は、現代知識を持つアリスの情報は役にたつ。
しかしいきなり簿記か。異世界転生者で作ったカリキュラムだとしても変則的すぎるな。まずは統治系を進めようという魂胆か。
俺が思案しているのをよそに、ソフィアはアリスの言っていることの半分も理解できていないようである。いやソフィアの頭が悪いわけじゃないんだが、さすがに異世界転生者との知識差はいかんともしがたい。
「で? 他には?」
「後はクラス委員とかサークルとかかな? これらは入学してみないことには分かりません」
「はいはーぃ! わたしぃ。保健体育委員とかやりたーぃ!」
げほげほっ。
ソフィアさん。いったいどこでそんな言葉を覚えたのか。
「それ、保健委員だからな。保健体育委員じゃないからな」
この世界では治癒の魔法が使えるのは少数派だ。
ソフィアがやりたいといえば確実になることができるだろう。
しかし、ソフィアの保健体育委員はよいかもしれない。
俺だけに保健体育の知識を教えてくれる限定ならば、だが。
とりあえず体操服は必須だな。
「保健委員になれば保健室の出入りを任されるってことだから、業者として私たちが入っても怪しまれないのかな?」
アリスはそういうが、董卓顔の俺が入っても、貂蝉なみの超絶美少女が入っても十分目立つだろう。
かなり難しいかな? まぁ一度くらいはいいか。
「そしてサークル活動か……。ソフィア、サークル活動は諦めてくれないかな?」
「良いけどなんでぇ?」
「ほら、入ったサークルがやりさーとかだったら困るだろ?」
「??? やりさー?」
「それにソフィアと俺が合う時間も短くなるし……」
「あぁ。それはそうだねぇ。僕はぁ、サークル活動よりぃおじさまと一緒に遊んだ方が方が良いに決まっているもんねぇ」
「あぁ、おじさんと楽しいところに行こうね――」
「うん!」
「ふけつ……」
そんな俺たちを冷たい視線でアリスはずっと眺めていた――