董卓顔の俺氏。少女を彼女の家から追い出す
冒険者ギルドでお金を調達してきた俺たちはソフィアの家で、アリスと一緒にあてがわれた一室でくつろいでいた。
ソフィアはお義父さんのところに行っていて帰ってこない。
俺はテーブルの上にある金貨を見ながらほくそ笑んでいた。
ほぼアリスが稼いだお金であるが、パーティ登録しているので俺たちの金ということにしておこう。
うむ、きっとそうに違いない。
そんな風に笑う俺はどうみても董卓顔の男であった。
「さて、お金も給ったところでいよいよソフィアの婚約指輪を買いに行かないといけないよな……」
「ちょっと、それ私のお金なんだけど!」
「その装備品代とか、お馬さんの賃貸料はどうするのかね。それにお部屋の賃貸とか」
「えっとそれは……。でもそれって、ソフィアちゃん家のお金ってことになるでしょう?」
「めんどくさいという理由でソフィアのお金の管理は俺に任されている。だから賃貸料は頂くぜ」
「酷い。酷いヒモの姿を見た――」
――ということで、ソフィアからお金の管理を任された俺なのだが、ぶっちゃけ使うところはない。
そもそもソフィアの家では基本、ソフィアの魔術によってなんでも揃う。
そう、食糧であってもだ。
だからといって、指輪とかまで作ってもらうのは違う気がした。
婚約指輪の作成。
あの0℃から8℃あたりの冷たい温度の指輪メーカーとかの大手がいない以上、中小の隠れ家的存在な鍛冶師に依頼するしかない。
変な技術料とかライセンス代とかが入っていない分だけ品質やお値段的にも上だと俺は信じる。
だが、そんな鍛冶師はどこに行けば会えるのだろうか?
俺の家は町からは相当離れていて、最近は行ってすらいない。
そうなると元部下の人にもあっていないし、彼女らがどこにいるかも分からない。
そしてぶっちゃけると、俺の家から北部の町に行って彼女らに会いたくない。
だって、こんなソフィアみたいな彼女ができて婚約したなんて言ったら、めちゃくちゃ言われるに決まっているのだから。
とすると、魔界から南の経路を使って南側の国に行くしかないわけだが、そんな都合よくソフィアがそっち方面に足を運んでいるわけもなく転移魔術は使えない。
そうなると長旅になるのだが、そこまで歩くのは大変だ。
さらに、もし南部に行ったとしても鍛冶屋を探すとなると……
「なぁ、宝飾メーカーで良いところをアリスは知らないか?」
「知らないわよそんなの。異世界でも指輪とは縁が無かったし、そもそもこっちの知識だと――。つまりアリス・アメジストの知識だと自国の知識しか無いわ。今はどうなっているか――」
なるほど。
異世界転生前でも独身だったとの自供を頂いたところで、ソフィアが部屋に戻ってきた。
父親に用があったらしい。
今日のソフィアは薄い緑色のワンピースの部屋着だった。
幼児体形でも凸凹がよくわかる。
風呂あがりなのか長い黒髪は艶があり艶めかしく、ハリのある肌は肩とか足がむき出しだった。
スカートの部分の下は素足で、なにか動物の絵が描かれたスリッパを履いていた。
魔獣の王「モフデラデピ」とかいうらしい謎の怪獣だ。
なんでも、モジリアーニ、フリードマン、デューゼンベリ、ラチケット、デモン、ピグーなる魔物を合成したキメラらしいのだが、説明されてもそれぞれの意味するところからさっぱり分からない生き物だった。とりあえず口からは火を吐くらしい。
――そんな彼女が、なぜか涙にくれている。
「あれ? どうしたんだ? そんなに――」
「おじさまぁ――、おじさまぁ――、お父さんがぁ――、お父さんがぁ――」
いきなり抱き着いてきたソフィアに押され、俺はソファーに押し倒された。
顔がとても近い。
ともかく、俺はなだめるようにソフィアを抱き返した。
しばらくするとソフィアは落ち着いてきたのか、ぐったりと眠りそうになっている。
相変わらず顔は近いままだ。
このままキスできそうだな――
そう思うが、アリスからの冷たい視線をなんとかするべく俺はソフィアの肩を掴んで起こした。
「ソフィア、いったいどうしたんだ……」
「実はぁ――、お父さんがぁ、家から出ていけって言っててぇ……」
確かにこんな連続してショッキングな事件が起きたら親も出ていけとかいいそうだ。
いきなり娘が男を連れてきて、その男があげくに女まで連れてくるのだから。
きっと泣きたいに違いない。
俺なら泣くだろう。
ともかく宥めないと。
俺はよしよしと言いながらソフィアの頭をなでた。
「あぁ、出ていくなら俺も一緒だから。ソフィアとならどこにでも一緒に行くから」
「ねぇ、私と一緒にいってくれる?」
俺はソフィアを抱きしめた。
「あぁ、どこまでも行くさ」
アリスも同意した。
「私も行くからね」
ソフィアと一緒に行動しないとこの魔界のど真ん中に取り残さることになる。
アリスに関してはここに取り残される危険性に気づいたのだろう。
さては打算家だな。
「でも急になんでそんなことを言うのかしら? 突然すぎじゃない? 言い出すならもっと前のタイミングになると思うのだけれど。何かあるのかしらね?」
人差し指を顎に当てながら、アリスは疑問を語る。
そういわれれば確かにそうだ。
ソフィアはおずおずと答えを言った。
「お父さんがねぇ。『4月になったら学校に行け』なんていうのよぉ? 学校なんてぇ、めんどくさいよぉ」
あのぉ? ソフィアさん?
さすがに学校に行かず不登校というのはダメだと思うぞ。
俺はアリスと目があった。
異世界転生人として、思うところが一致したらしい。
「うん。それはお義父さんが正しいな!」
「ソフィアちゃん。さすがに学校にはいきましょうね」
誰もソフィア学校に行かないことに賛成するものはそこにはおらず、ソフィアの前には暗雲が立ち込めるのであった――