董卓顔の俺氏。困ったときの「モノの言い方」言い換え辞典 単行本 を求む
『採取依頼:
ニンゲン大好きぃぃぃ!
子供の七五三のお祝いに!
モンスターが7年も生きていたらすっかり大人だけどww
人肉20kg20万円~。以降グラム単位でお支払い。
なお、状態は確認します。
依頼主:トロール事業協同組合』
『採取依頼:
一つ人の世生き血を啜りたい!
大好きなあの子の気を引くために、新鮮な血液を募集します。
生娘なら最上!
10ccで500円~。
依頼主:吸血鬼特別有限会社』
俺は依頼を見て絶叫した。
「ダメだろこれ――!」
さすがにニンゲン食べたり、一つ人の世生き血を啜ったりしたらニンゲンとして終わっていると思うんだ。
こんな100g99円のしゃぶしゃぶ用豚肉みたいな値段でニンゲンを売っていいはずがない。
そんな風に興奮する俺に、ソフィアはきょとんといった表情を浮かべる。
「ん? 何かダメだの?」
「この依頼、ニンゲンとして終わっているだろう」
「だってニンゲンじゃないもん。私たちぃ! ニンゲン大好き魔族ですぅ!」
「そんな〇〇芸人みたいな言い方するなよ!」
いや、ニンゲン大好きなのは良いのだが、ちょっとばかし意味が違うのではないだろうかソフィアさん。
そんなこんなで驚愕している俺に、エルフのお兄さんがにこやかな笑顔でサムズアップする。
「ふっ……。甘いな小僧。南部人側の最高位賢者、真実の赤き瞳シャトラーニ様も『彼らがニンゲンを好きなのは間違いない』と太鼓判を押したのだから間違いない」
「だから、誰だよそいつ」
「それにほら、お肉を提供できるニンゲンと、身体を修復できる治癒魔術ができる巫女のお嬢ちゃんがいる。もうこの依頼は達成したも同然さぁ――」
「少しも同然じゃないから! 同然じゃないから!」
俺は身の危険を感じだ。
「でももぅ! おじさまったらぁ。これならちゃんと汗水を流して働いたことになるんじゃないのぉ?」
「絶対に違うからなそれ」
なにその肉を切らして骨を断つ理論は。
それ汗じゃなくて血だから! 血だから!
大事なことだから2度言うぞ。汗水じゃなくて血肉だから!
「でも確かにおじさまが僕以外の女に食べられるのはいやかもぉ。僕ぅ本当におじさま大好きだからぁ」
そんなことを上目遣いに言うソフィアに対して、俺はなんとも言えない表情をしながらソフィアの両肩にそっと手を置いた。
ソフィアの暖かい体温が手から伝わる。
「ソフィアが俺を食べていいのは『ただし肉体的な意味で』だけだからな。なっ」
俺は実んで発言しておいてちょっとゲスイなと思った。
そんな俺の両手にソフィアは手を絡めてくる。
俺とソフィアの顔が、近づいた。
「んん~。でもちょっとだけならぁ。ダメ? ですかぁ」
「だめです! 超だめです!」
甘えてくるソフィアに対して俺が反論していると、エルフのお兄さんが別の依頼を指し示す。
「じゃぁその下の依頼なんてどうだい。ちょっと連れてきてよ」
『犯罪者奴隷募集!
両親が、家族が、娘が殺された!
死なんて生ヌルい。
そんな憎い相手はいませんか?
我々トロール/吸血鬼合同会社では、そんな貴方の依頼に答えた極上の恐怖を犯罪者奴隷に与えます。
えぇ、すり潰します!
どれだけ恐怖に怯えたかは今流行の定量化、つまり数値化してSUN値でご報告!
まさにSUN値直葬! 新鮮北極しゃきしゃきな恐怖を犯罪者奴隷に!
ご利用お待ちしてます!
依頼主:トロール/吸血鬼合同会社
※ただし移動が大変なので魔界支部での引き渡しとなります』
――えーっと、これも最終的にはなにか肉団子的な何かになるのではないだろうか。
単にオブラートに包んでいるだけで。
というか、より酷い気がする。
俺は呟いた。
「ここにまともな依頼はないのか?」
じゃぁ、その下の――というエルフのお兄さんからの指示で期待せずに内容を見る。
それはある意味期待通りの内容だった。
『有名料理店への招待:
日本の文豪、ケンジ・ミヤザワの世界へようこそ!
素敵なトロール料理にあなたを招待します。
なお、文豪の世界を忠実に再現するため、注文が多いことをご了解ください。
イベントは〇月×日の19:00-スタート。
ご予算は1万円~。
依頼主:トロール事業協同組合』
却下。これ絶対、異世界転生者がネタだししているよね。
なにその注文の多い料理店っぽいクエストは。
「私もトロールたべてみたーぃ」
ソフィアは無邪気に言うが、それ、トロールの(作る)料理じゃなくて、トロールの(食べる)料理だからな。だめ。絶対だからな。
全裸になってソフィアにバターを塗るとかありえないだろう。
もしもそんなことになったら――、俺がおいしくいただく。
ソフィアのバター犬になってよいのは俺だけなのだ。
はぁはぁ。
『王家のみなさん! そして高位貴族のみなさん!
救出したい女子はいませんか?
我々3大ダークエルフが一派、ラチケット家ではそんな貴方を手厚くサポートぉ!
国家が危機的な状況になったときお金さえ頂ければ全力を持ってお救いします!
依頼主:ラチケット家合資会社』
却下。これ、そもそも冒険者向けの依頼じゃねぇじゃねーか。
――そんな中、ソフィアはある依頼書に目が釘付けになっていた。
どうやら、ソフィアは依頼書で妄想を掻き立てているようだ。
『女騎士募集!:
俺の野生が蘇る!
なかなか出会えない女騎士さま!
ぜひ一度うちの前で『くっころ』プレイをしていただけないですか。
繁殖できるくらいの妙齢がいいです。
その蔑んだ視線で私たちにご褒美をください。
依頼主:南魔界オーク合名会社』
却下だ! とても見てはみたいものだが、俺は男であって女ですらそもそもない。
だが、ソフィアはにやりと笑っていた。
「おじさまぁ。女装しよう?」
「却下だ! だいたい、こんなむさい顔の男にどんな需要があるんだよ!」
ぜいぜいと肩で息をしながら俺はボードに張られたイベントをすべて見るが、ろくなものは一つもなかった。
モンスターが冒険者ギルド民として勢力拡大中とかなら抗争で冒険者ギルドと敵対モンスターが戦うとかいったものがあると思ったのだが、そういった類のものも存在しなかった。
エルフのお兄さんが笑いながら俺の肩をばんばんと叩いてくる。
「まぁ、人世界への魔石の運搬とかはあるんだけど、そういうのは相手先のギルドか、こちらからなら指名依頼で処理しますからな。そこに張ってあるのは要はネタだよネタ。ほら、魔界にあるギルドなんだから、それくらいびっくりさせないとお帰りいただいたときの話のネタにならないでしょうが」
そういうことは早く言ってほしい。
「――ま、そういう半分は冗談なものは置いておくとして」
半分本当とかもやめてほしいんだ。
「コンプレックス家のお嬢ちゃんにはまともな依頼があるんだが、ちょっと見ていかないかい?」
ソフィアの顔が明るくなり、あっさりとエルフのお兄さんに連れられて冒険者ギルドの地下に歩いていくのを、俺は急いで追いかけた。
知らない人について行ってはいけないとソフィアには後で言っておこう。
あ、エルフのお兄さんは知人だから良いのか。
そして地下室――
そこには、牢獄にとらわれた姫さまが佇んでいた。
完全に拉致である。
これあかんヤツだ――