第6話 王女様と初めての友達 Ⅰ
#1
「ほー。ここが図書室かの。アルフェはいつもここで勉強しているのか?」
「うん。適当な所に座って。」
エルは椅子に座るとテーブルの上に出しっ放しになっている本をパラパラとめくっている。
机の上は今日の朝のまま。
私とエルは炎龍さんと会って家に帰った後、勉強しようと図書室に来ていた。
ベルさんは自分の家に帰ったけど、シーさんはまだ家にいる。
エルのお昼ご飯を作り終えたら呼んでくれるらしい。
……エルを家に招待した時はご飯の事とか考えてなかったよ。
私の分は用意されていたけど、エルの分が出来るのを待っている。
今、図書室には私とエルの2人だけ。
私はエルの隣に座る。
……ちょっと勇気を出して例の記憶について相談してみようかな。
そう思った私は口を開く。
「……ねぇ、エル。“星読み”って知ってる?」
「んっ。知っておる。それがどうしたんじゃ?」
「私もその力を持ってるんだと思う。」
エルは少しだけで目を見開くと私をじっと見てくる。
「……ほぉー。お主はどの様な未来を見たんじゃ。」
「女の子が不幸になる未来だよ。女の子のお父さんが死んじゃって、その女の子も足が動かなくなっちゃう。」
女の子とはマーシェリーの事。
例の記憶によれば今年の初秋、公爵領で大規模な暴動が発生しちゃうんだ。
……この時に公爵のおじさんは殺され、マーシェリーも一時的に行方不明になっちゃう。
マーシェリーが行方不明になった時の事も例のゲームでは分かるようになっているけど、かなり“酷い”扱いを受ける。
王様……お父さんが兵隊さんを送って収拾をつけた時に助けられるけど、暴行を受けた後遺症で足が動かなくなってしまう。
さらに生き残ったマーシェリーと仲が良かった人達も公爵が殺害された責任を取らされて殺されちゃう。
例のゲームの中での第一王子の婚約者、公爵令嬢マーシェリーはそう言う経験を経て苛烈な性格になっちゃう。
平民の人達は些細な事で処刑して、貴族の人達も気に入らなかったら暗殺や誘拐とかしてしまう。
そんな、マーシェリーは殆どのルートでも救いがない。
最後は、子供の頃に母親代わりだったメイドさんから贈られた小さなお花のお守りを胸に抱きながら一人で死んでゆく。
ちなみに、そのメイドさんは“平民”だったりする。
……エルには“暴動”より後の出来事を言うつもりはないけど。
隣のエルの方に顔を向けると少し額にシワが寄っている。
「……ふむ。詳しく聞かせてほしいの。アルフェはその女の子を救いたいのじゃな?」
「うん。暴動に巻き込まれてそう言う事になっちゃうの。」
「暴動とな。位置は分かっておるのか?」
私はエルに聞かれて、テーブルの上に目を走らせる。
「えっと、地図は……あった。…………と、今私達が居る森がここで、女の子がいる場所がここだよ。」
「……うーん、分からんのう。そこら辺は昨日飛んだのじゃが、変な雰囲気は感じんかったのじゃ。いつそれは起きるのじゃ?」
「あと、1ヶ月位かな。……そっか、やっぱり街に行って情報を集めるべきだよね。」
するとエルは目をきらきらとさせて私をじっと見る。
「……人の街とな? わしも行っていいかの?」
「いいよ。後で、シーさんに聞いてみるね。」
「うむ。頼んだぞ。」
エルはにこにことテーブルの本を読み始める。
……私も読もっと。
私はテーブルに置いてある本を手に取った。
そして少し時間が経った頃、図書室の扉を叩く音が聞こえてくる。
「姫様。“エル”様。お昼の用意が出来たわよ。」
シーさんが扉を開けて顔を覗かせる。
私はすぐに本を閉じてシーさんの所に向かうとエルが街に行きたいって言っていた話を聞いてみる。
「シーさん。エルも一緒に街に行っていい?」
「構わないわ。……でも、姫様は数日滞在する事になると思うけど、エル様は大丈夫なのかしら?」
早速、シーさんはそう言ってエルの方を見る。
……シーさん、私がエルを連れて行きたいって思ったのかな?
エルは少し考えるとシーさんと私の顔を順に見る。
「いや、人の街に行きたいとはわしが言ったのじゃ。……そうじゃの。明日アルフェが炎龍より“地核の欠片”を受け取るのじゃが、その後に街に向かうと言うのはどうかのう?」
「なるほどね。貴女達がご飯を食べ終わったら一旦街に戻るわ。……そうね。明日の昼にはこの家に迎えに来るわ。姫様もそれで良いかしら?」
「うん。」
私はシーさんに頷く。
するとシーさんは一旦図書室を出てスープやサラダ、サンドイッチと言った軽食を乗せたワゴンを押して図書室に入ってくる。
私はワゴンを見るとシーさんに顔を向ける。
「あれ? シーさん、お昼ここに持ってきてくれたの?」
「ええ。」
「うーんと、それじゃあ食べ終わったら私がワゴンを片付けるね。シーさんは街に戻って大丈夫だよ。」
「良いの? ならお言葉に甘えさせてもらうわ。姫様とエル様。また明日ね。」
「はい。」
「……じゃな。」
シーさんは私とエルに挨拶すると図書室を出て行く。
私とエルはワゴンに駆け寄ると、どれから食べようか話し合う。
「エル。どれから食べる?」
「……そうじゃのう。…………選べんのう。」
「全部少しずつ取っていく?」
私がそう聞くとエルは何度か頷き取り皿に料理を盛っていく。
私も適当にスープをカップ一杯分注いで、サンドイッチを3切れ程と。
後、お茶も注いでおこうかな。
全部、お盆に乗せるとテーブルに運んでいく。
テーブルの上に積んである本を脇に寄せてスペースを作るとお盆を置いて椅子に座る。
エルを見るとまだお皿の上に乗せる作業をしていたので少し待つ。
……もう少し待つ。
…………さらに待つ。
結構待った後、やっと、エルはたくさん料理を乗せた食器をいくつも“浮かせ”ながら私の隣に座る。
……もう軽食じゃない気がする。
じっとエルのお皿を見ているとエルの声が聞こえてくる。
「……遅くなってすまんのう。」
「んっん。大丈夫だよ。エルってお祈りしたい神様っている? やっぱり、ドラゴンさんだと竜王様とかかな? 」
確かに遅いと思ったけど首を横に振る。
私はエルのお皿にお肉が結構あるので、食前のお祈りについて聞いてみる。
「?? …………! あー、いや女神だけで充分じゃ。後、言っておくが“あやつら”が竜王という肩書きに敬意を払ったことなぞ、一度もないの。ドラゴンとはあらゆる科から逃れる“自由な翼”を与えられた存在じゃ。ゆえにドラゴンが竜王と言う権威に祈りを捧げる事はないのじゃ。」
「? よく分からないけど、女神様だけで良いんだよね。」
「そうじゃ。」
「それじゃあ、私が祈りの言葉を言うね。『女神様と魂さん。お昼ご飯の感謝を込めて魔力を捧げます。』」
私はお祈りが終わるとサンドイッチ片手にお勉強を再開する。
ちょっと気になってエルを見ると、お皿を器用に宙に浮かしながらバクバク食べていた。
#2
「エル凄い! お勉強がこんなに進んだの、初めて!」
「まぁ、アルフェが勉強している所は基礎じゃからの。」
エルは自分の食事が終わった後、私のお勉強のお手伝いをしてくれたんだ。
やっぱり一人で調べて勉強するよりずっと良い。
私は笑顔になっていたけど、エルが複雑そうな顔をして私を見てくる。
「……アルフェ。ちと、確認したいんじゃが。お主の年齢は幾つじゃ?」
「5歳だよ。」
「いや。お主の“姿”の年齢でなくてのう。生まれてからの年齢じゃ。」
「? 生まれてから5歳だよ?」
「…………うむ。とりあえず後にするかの。そろそろ、食事した方がいい時間ではないかの?」
エルに言われて懐中時計を確認する。
…………少し早い気がするけど。エルと一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にベッドでお喋りしたらちょうどいいかも。
私はエルに頷くとワゴンに空の食器を乗せて、エルと一緒に台所に押していったんだ。