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魔法の森の王女さま! ~魔女っ子お姫様と五人の悪役令嬢達~  作者: A.Bell
第2章 公国の古都の王女様
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第67話 王女様と不穏な街 Ⅱ Ver.1.01

 少しすると、騎士のお姉さんが台所の方から湯気が立ったカップを乗せたお盆を持ちながらテーブルに戻って来る。

 ちなみに、お姉さんは甲冑を脱いでシンプルなワンピースに着替えている。


 ……いつ着替えたんだろう? そんなに時間は経ってないんだけど。

 不思議に思いながらじっと見ていると、お姉さんはカップを私達の前に置く。


「はい。どうぞ。」


 ふんわりと優しい匂いが広がる。


 ……うーん。でも、どうしようかな?

 匂いは特におかしくないしお守りも特に反応していないから、毒は無いと思う。

 それに最悪、食事の前のお祈りで“悪い物”か判断出来るからね。

 でも、やっぱり初めて会った相手から出された物には少し躊躇する。

 そんな風に悩んでいると前の方から少し控えめな笑い声が聞こえてくる。


「ふふ。……毒は入って無いわよ? それに貴女のお連れはもう口を付けているわよ?」


 えっ!!

 ぱっと横に目を向けると、フードを上げたエルがカップに口を付けている。


 ……はぁ。

 少し呆れているとエルはカップを下して私をじっと見てくる。


「……なんじゃ。」

「何でも無いよ。」

「ふん。」


 するとエルは機嫌を悪そうにそっぽを向く。


 ……はぁ。

 私はため息を吐く。

 そして、私達をじっと観察しているお姉さんに顔を向けると頭の覆いを払う。


「えっと、お姉さんって騎士さんなんだよね?」


 するとお姉さんは私の顔を見て一瞬固まってしまったけど、すぐに頷く。


「……ええ。そうね。私は“アーヴェン”の騎士、リラよ。少し待って頂戴。」


 お姉さんは椅子から立ち上がると腰にあるベルトから一本のナイフを取り出す。


 へー。王冠に……杖かな? 後、シエルさんの紋章にも有った“木”も書かれている。

 ……あー。“お父さん”の紋章だね。これ。


 この“木”は私とお母さんの家を示しているって、シエルさんが言ってたんだよね。

 ちなみにお母さんが手描きで作ったらしい。

 なので、この“木”が入っている紋章を使っているのはシエルさんとシエラちゃんか、お父さんお母さん以外に居ない。


 ふむふむと頷いているとお姉さんの声が聞こえてくる。


「……これが何の紋章か分かるのね。驚いたわ。これは陛下直々に下賜された物よ。裏には私の家の紋章も彫られているわ。」


 見ていると柄が裏返される。

 ……船? それに帆みたいな物の上で杖と剣が十字で交わってる。

 首を傾げているとお姉さんの笑い声が聞こえてくる。

 見上げるとお姉さんは笑みを浮かべている。

 そして、ナイフを回収すると椅子に座り直す。


「ふふ。なるほどね。……私の家は“昔”海軍を率いていたのよ。ただ、300年前の内戦で“本家”が国を裏切って以来、海軍は有名無実化して今はただの宮中貴族ね。」


 …………あっ、もしかして。


「……大公国?」

「そう。メルッヒ゠ファイエル家が独立した本家でメルッヒ゠サイエル家が私の家よ。」


 お姉さんはこくこくと頷く。

 ……大公家の名前なんて覚えてないよ。

 そんな事を思っているとお姉さんが咳払いをする。


「んっんっ。……えっと、貴女の事も教えて貰って良いかしら?」


 ……あっ。そうだよね。

 私は例のギルド証を取り出すとお姉さんに差し出す。


「はい。“フィル”です。」


 すると、お姉さんは目を瞬かせる。


「えっと、白銀竜? 金、金、金。……フィル様、お連れ様の物もあるかしら?」

「はい。」


 カードを手に取って首を傾げているお姉さんにこくりと頷くと、隣に目を向ける。


 ……あっ。スープ全部飲んでる。

 エルは飲み干したカップをテーブルに置いて、ふぅと息を吐いている。

 じっと見てるとエルは私に気付く。


「…………? なんじゃ?」

「あれを出して。」


 私はお姉さんの手元を指差す。


「なるほどのう。……うむ。ほれ。」


 すると、エルは“どこからか”カードを取り出してお姉さんに差し出す。

 ……なんかこのカードは自分で仕舞えるらしいんだよね。何処に仕舞ってるのか分からないけど。


 エルからもギルド証を受け取ったお姉さんはそれにも目を通す。


「エル様ね。……取り敢えず、これは返すわ。」

「はい。」

「うむ。」


 カードを受け取るとお姉さんは椅子から立ち上がって私達に目を向ける。


「確認用の魔導具を取って来るわ。……エル様、スープのお代わりは?」


 お姉さんはエルのカップが空なのに気付いて声を掛ける。

 すると、エルは大きく頷く。


「うむ。頼むのじゃ。」

「分かったわ。フィル様も冷めない内に飲みなさいね?」


 ……あっ。忘れてた。


「はい。」


 私もお姉さんにこくりと頷く。

 私に微笑んだお姉さんはエルのカップを回収すると、また台所の方に歩いていく。


 ……魔導具もそっちにあるのかな?

 少しの間、がたがたと音が聞こえて来たけどすぐにお姉さんは戻ってくる。


「ごめんなさい。多分、二階に仕舞っているのね。……すぐに戻って来るわ。」


 エルの前にお代わりのカップを置くと、お姉さんは小走りに階段に向かう。


 じっと見ていると、お姉さんの姿が二階に消えて上から物音が聞こえて来る。

 そのまま上を見上げていると隣からエルの声が聞こえてくる。


「ふむ。……飲まんのならわしが飲むぞ。アルフェ。」

「! 飲むよ!」


 私は目を戻してエルを睨むとお祈りをしてカップに口を付ける。

 ……へー。案外おいしい。

 野菜だけじゃなくてお肉も入っているので味が濃い。


 ちびちびとスープを飲んでいるとお姉さんが両手に“水晶玉”を抱えて階段を降りてくる。

 ……あれが、魔導具なのかな?


 お姉さんは階段を下りてテーブルまでやって来るとその水晶玉を置いて一息吐く。


「……ふぅ。これが確認用の魔導具になるわ。……順番にそのギルド証をこれに翳して頂戴。」


 すると、エルはカップを置いて私を見る。


「うむ。お主からで良いぞ。」

「分かった。」


 私はこくりと頷くとテーブルの真ん中に置かれた水晶玉にカードを翳す。

 すると、例の魔法用具店の時と同じ様に金色の魔法陣が広がる。

 ……でも、ちょっと大きいかも。

 ただ、魔法陣の大きさが少し大きくてテーブルを覆うくらいの大きさの物がテーブルを挟んで床と天井に広がっている。

 お姉さんは魔法陣を確認すると今度はエルに顔を向ける。


「……確認したわ。エル様もお願いしても良いかしら?」

「うむ。ほれ。」


 すると、私と同じ様に金色の魔法陣が広がる。


「確認したわ。 二人ともそれは仕舞って良いわよ?」


 私達はこくりと頷いてギルド証を仕舞う。

 それを確認するとお姉さんは私とエルの前に座って口を開く。


「一応、ここは“アーヴェン”の関所になるわ。ただ、難民の流入もあって南部へ続くこの街道は完全に閉鎖しているのよ。“議会”開会に伴う“議員”の移動も含めて全て“オーベリィ”側の街道に誘導しているわ。……と言う事で、貴女達について他の関所に問い合わせたのだけど、記録が無いらしいのよね。貴女達は何処から来たのかしら?」


 ……うっ。どうしよう。何も考えてなかった。

 ミィルさんが言うにはこのギルド証がある限り何も言わなくて良いらしいけど、答えられる事は出来るだけ答えた方が印象は良いとは言っていた。


 どう答えようか悩んでいると、前からため息が聞こえてくる。

 見ると、お姉さんが額に皺を寄せながら私達をじっと見てる。


「ふぅ。まぁ、良いわ。“取り決め”に従えば、別に答える必要は無いもの。……ただ、貴女達はもう少し注意すべきよ。どの様に来たのかは知らないのだけど、ここの治安は良くないわ。それに街の方についても“議員”が集まる事もあって“問題”が起こらないなんて事は無いから。…………街には入らない事をお勧めするわ。」


 そして、お姉さんは私とエルを順番に目を合わせる。


 ……

 でも、私は静かに首を横に振る。


「ごめんなさい。お姉さん。でも、私はやらないといけない事があるの。」


 そして、エルも私に合わせてこくりと頷く。


「じゃな。……それにのう、お主は“見た目”で判断せん方が良いぞ。リラよ。」


 エルにじっと見つめられたお姉さんは息を吐くと目線を下げる。


「はぁ。仕方が無いわ。でも、せめて宿屋までは案内させて貰うわ。……貴女達がスープを飲み終わったら行きましょう。」


 そしてお姉さんは私達に目尻を下げながら優しく微笑む。


 ……ふぅ。

 私も微笑み返してカップに口を付けた。


次回、街の様子を知る


P.S.

 8月頭まで個人的事情により更新が滞ります。

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