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魔法の森の王女さま! ~魔女っ子お姫様と五人の悪役令嬢達~  作者: A.Bell
第2章 公国の古都の王女様
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第66話 王女様と不穏な街 Ⅰ Ver.1.01

§1

 ……ふぅ。

 私はエルから降りるとフードを払って周りを見回す。

 もう夕暮れの割には“明るい”。


「……人の手が入ってるのかな?」

「ふむ。こんなもんかのう?」


 エルの声が聞こえたので振り返ると“白いローブ”を着た可愛い女の子の姿になっている。


「エル。結局“どっちに”したの?」


 実はエルの“服”は持って来てないんだよね。

 なので、“服を含めて人化”するか“鱗から新しく服を作る”かのどちらかを選ぶ事になる。

 ……どっちも嫌がってたけどね。エル。


 でも服なんて大荷物だし街に着いてから買う事になった。

 見た目より多く入る鞄や魔法を使うって言うやり方はあったけど、そもそも鞄自体が荷物になるしそんな高度な魔法はまだ使えない。

 なので、今着ているローブに入れられる量の荷物しか持って来ていない。


 目を向けるとエルは私に振り向く。


「アルフェと最初に会った時と同じじゃ。」

「ああ、服も一緒に作ったんだ。」

「うむ。やはり、一度剥ぎ取った“鱗”を身に着けるのはちとのう。……アルフェも早う準備せい。その髪の色では目立つのではないのか?」


 ……あっ!! そう言えばそうだね。

 エルに言われて気が付く。


 私は首に手を通して一気に髪の毛をローブから出すと魔法を使う。


「えっと……、『光よ光、光さん。どうか私の髪の色を隠してください。』こんなもんかな?」

「うむ。成功じゃな。“見た目には”髪の色は隠せておるぞ。」


 エルは私の髪の毛に目を向けながらこくこくと頷く。

 試しに髪の毛を手に取って目の前に持って来る。


 …………あっ。本当だ。

 私の髪の色は銀色から金色に変わって“見える”。

 自然と笑みが零れる。


 幻影の魔法。

 旅をしていた間は良く使っていたらしいサクラさんに教えてもらったんだよね。

 屋敷に閉じ込められていた時にシエラちゃんと一緒に勉強した。

 ……シエラちゃんに“負けそう”になったのはショックだったけど。

 完全に使いこなせるようになったのは私の方が早かったけど、初めて成功したのはシエラちゃんの方が早かった。


 少しどんよりしているとエルの声が聞こえてくる。


「……アルフェ。日が暮れるぞ。」

「うん。ちょっと待って。」


 私はローブを羽織り直すとエルに手を伸ばす。


「うむ。」

「よし! まずは道に出ようか。」

「じゃな。」


 私とエルは手を繋ぐと方角を確認して森を歩き始めた。


 薄暗い中、森を歩いていると視線の先が開けている。


「……あっ。ここだね。」


 一応、人が居ない事を確認するとエルと自分のフードを頭に掛けて広い道に出る。


「……ほう。これは石を並べておったのか。」

「だね。」


 エルは地面に敷き詰められた石を足で蹴る。

 道は馬車二台がすれ違える幅がある。


 ……確かこっちかな?

 空から見た様子を思い出しながら街の方まで続いている筈の方角に目を向ける。


「エル。こっちだよ。」

「……うむ。」


 エルは足を止めて私にこくりと頷くと私と一緒に歩き始めた。


 空から見た時、街はそう遠くなかった。

 すぐに建物が見えてくる。

 …………あっ。

 私は右手に杖を取り出すとエルの体に自分の体を近付ける。


「なんじゃ?……ふむ。なるほどのう。」


 エルは一瞬、怪訝そうな顔をするけどすぐに頷く。

 建物は増えてきたけど、大体ボロボロで馬車の荷台をそのまま使っているような物もある。

 そして、その中から汚れた服を着た痩せた人たちが私達をじっと覗いている。


 ……怖いな。

 ハイゲンでも多分こういう所はあるんだろうけど、私は知らない。

 人攫いに捕まっちゃったシエラちゃんやエルは知っているんだろうけど。


 少し震えながら歩いているとエルが私に身を寄せてくる。


「心配せんで良かろう。この者どもは“弱き者”じゃ。」

「……うん。」


 確かに、“そう言う意味”では怖くない。

 ……でも薄暗い中、じっと沢山の人に見られるのは怖いよ。

 すっと、目線を下げるとエルの声が耳元から聞こえてくる。


「……んっ? あれはなんじゃ?」


 私が目線を上げると同時に今度は女の人の声が聞こえてくる。


「……ちょっと!! 何でこんな所に子供が?……子供よね? あなた達何もされなかった?」


 ……騎士さん?

 見ていると鎧を着た人が音を立ててこっちに走って来る。


 薄暗くて良く分からないけど。

 ただ、騎士さんの声が聞こえると同時にすっと視線が消えていく。

 じっと見ていると私達に駆け寄った騎士さんは頭の兜を取って脇に抱えると私達に目線を合わせるように腰を落とす。


「……えっと。取り敢えず、詰め所が近くにあるから一緒に付いて来てくれるかしら?」


 ……どうしよう。

 多分、悪い人ではないと思うけど躊躇する。


 すると、隣のエルがつんつんと私の腕を突いてくる。

 そして、私の耳に口を寄せる。


「別に平気じゃろう。……それに“色々と”知っておりそうなのじゃ。」


 ……そうだよね。

 私はこくりと頷くと騎士のお姉さんに目を向ける。


「はい。」

「分かったわ。こっちよ。」


 騎士のお姉さんは私達を先導しながら街道の脇にある右側の小屋に向かう。

 ただ、小屋と言っても石造りで周りの建物と合ってない。

 ちなみに道を挟んで反対側にも同じ小屋がある。


 ……関所かな?


 小屋の前に着くとお姉さんは私達に振り返る。


「……中に入ってもらって良いかしら?」


 私達が頷くと騎士のお姉さんは小屋の扉を開いて案内する。


 ……へー。結構、好きかも。

 天井からは小さなランプが吊り下げられていて、部屋の中は優しい光で溢れている。

 そして、その真下には小さなテーブルが置かれていて奥には台所もあるみたい。

 ……二階もあるんだね。

 部屋の脇には階段もあってロフトみたいな構造になっている。。


 エルと一緒に観察していると騎士のお姉さんに声を掛けられる。


「ふぅ。テーブルに座って頂戴。」

「はい。」

「うむ。」


 私とエルはお姉さんに頷くとテーブルの椅子を引いて腰かける。

 するとお姉さんは階段に目を向ける。


「ちょっと、待って頂戴。……カイン隊長!! お客さんが着たから外、代わってくれないかしら?」


 お姉さんが階段の上に呼び掛けると少しして口に髭を生やした薄着の男の人が降りてくる。


「…………はいはいっと。人使いが荒い“姫様”だな。……なんだ子供か?」


 男の人は階段を降りながら私達に目を向ける。

 するとお姉さんはこくりと頷く。


「ええ。」

「分かった。少し剣、借りるぞ。」


 男の人は扉に立てかけてあった剣を肩に担ぐとそのまま小屋を出て行く。


「ふぅ。……っと、スープでも用意しましょう。待っていて頂戴。」


 そして、お姉さんは奥の台所に消えていく。


「ふむ。しばし待つかの。」

「だね。」


 私はエルに頷くと足をぶらぶらとさせながら台所に目を向けた。


§2 一方その頃、オーベリィ城にて


「……遅いですわね。」


 つい言葉が口を吐く。

 毎週毎週、“彼女”は私を置いて出掛けてしまう。

 更に年に数回は一週間程、この城を開ける。

 ……つまらないわ。


 私は窓の外から外を眺める。

 まだ、空は赤いものの恐らく日は既に隠れている。

 ……はぁ。


 とんとん。


 ため息を吐いていると扉を叩く音が聞こえる。

 目をそちらに向けると続く言葉耳に入る。


「エマでございます。マーシェリーお嬢様ただいま戻りました。」


 ……やっと、帰ってきましたわね。

 私はもう一度ため息を吐くと扉から目を離し、声を掛ける。


「……入りなさい。」

「失礼します。」


 私はそのまま窓に目を向けたまま、部屋に入って来たエマを無視する。

 すると、私の側からエマの声が聞こえてくる。


「……申し訳ございません。外から戻る際に多少手間取りました。」


 ……!

 私は思い当たる節があり、はっとする。

 私はエマに顔を向ける。


「……ローベルツの難民ね。」

「左様でございます。」


 この地には私達ローベルツの王家に従った民が多く住んでおり、親族の伝手を頼りここに来ている者が増えているとエマから聞いていた。

 “邪龍の災厄”と呼ばれるあの悲劇から一年程経った今でも難民は増えている。


 ただ南部の街は“何処も”同じ様な状況で、珍しい訳ではない。

 更に不穏な空気はあれど城や市中のギルドに集まっている“情報”によればそこまで悪い状況でも無いとは聞いている。


 ……理由があるのならば仕方が無いわ。

 私はエマに頷き返す。


「そう。……今日は何処に行っていたのかしら?」

「本日は“王妃様の森”に続く大司教領との境にある森に行って参りました。」


 エマはそう言うと幾つかの紙を私に差し出す。

 森へ入る事の許可証や魔物の素材の買い取り証、それに何故か孤児院で開かれるバザーのお知らせの紙もあった。


 彼女は武力ギルド白銀竜の黄金級ギルド員で毎週末、日帰りで向かえる場所に魔物を狩りに行っている。

 更に言うと彼女の祖父は白銀竜先代総長であると同時に彼女の祖母は“数代前の総長”の子孫でもあるらしい。

 とは言っても彼女自身は平民でギルドでも特に役職に付いている訳ではない。


 紙から見上げるとふと“見慣れた”瞳と目が合う。


「? 如何なさいましたか?」

「ふふ。何でもないわよ。」

「左様ですか。」


 エマは首を捻りながらもゆっくりと頷く。


 鮮やかな緑色をした瞳。

 私も父も同じ色をした瞳を持っている。

 ……そして、母もそうだったらしい。


 そんなエマを見ながら私は微笑みかけた。


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