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魔法の森の王女さま! ~魔女っ子お姫様と五人の悪役令嬢達~  作者: A.Bell
第2章 公国の古都の王女様
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第65話 王女様と空の旅の終わり Ver.1.01

19話まで推敲終了

#1

 ……何だろう? 少し暖かい。

 それに土の匂いもする。

 静かに目を開けると、赤く染まる空が目に映る。


 …………朝。


「……うーんと。」


 私はゆっくりと体を起こそうとするけど、何かで体が覆われている。


 ……エルの翼。

 見るとぐっすり寝ているエルが私に翼を掛けながら囲うように体を丸めている。


「……えっと、どうしよう。」


 でも、私の声で起こしちゃったのかエルの体が身じろぐ。

 エルは首を起こして空を見上げると私に顔を向ける。


「……んっ? 朝かのう?」

「うん。」


 私が頷くとエルは森の方に首を向ける。


「ふむ。……アルフェ。なるべく早く出発するぞ。人の気配を感じるのじゃ。」


 ……えっ!

 私も森の方の気配を探る。


 …………本当だ。結界があるので私達には気付いてないと思うけど。

 私はエルに目を向ける。


「……エル。今日も魔法食で良い?」

「うむ。構わん。」

「分かった。ちょっと待ってね。」


 エルから解放された私は目を擦りながら、コップを二つ取り出すと軽く水筒の水で洗って中にスープの魔法食を落として解凍する。

 そして、言葉を使わずに身動きでお祈りを済ますとエルの口元に湯気が立っているコップを差し出す。


「はい。」

「うむ。地面に置いてよいぞ。」

「……行儀悪いよ。」

「ドラゴンに行儀も何もないじゃろう。……それに時間がなかろう。昨日みたいにわしに食べさせておったら、すぐに時間が経ってしまうのじゃ。」


 ……確かにそうだね。

 エルのコップをとんと地面に置くと私は自分のスープを飲み始める。


 ……温かい。

 夏だけど、森の朝はやっぱり寒い。

 それに多分、昨日の嵐かな? 遠くから湿った土に匂いが漂って来ている。

 ここら辺では、雨は降ってないみたいだけど。


 例の炎龍さんのお守りに目を向けると殆ど火が消えている。

 ……あれくらいなら何とかなりそう。

 ふと、エルの方に目を向けると舌を出しながらちろちろとスープを掬って飲んでいる。

 ……やっぱり可愛い。エル。


 そんな感じでエルを観察しながら食事を済ませた私は、炎龍さんのお守りを回収して忘れ物が無いか確認する。


「……こんなもんかな。結界って解除しなくて良いと思う? エル。」


 私は身を起こして大きく翼を羽ばたかせていたエルに目を向ける。


「別に構わんじゃろう。アルフェの言った言葉じゃと、わしらが離れれば効力が消えるしのう。」

「あっ、それもそうだね。」


 私が頷くとエルは翼を畳んで首を下げる。


「よし。早う乗るのじゃアルフェ。出発するぞ。」

「うん!」


 私がエルの首を目掛けて飛び乗るとエルが翼を羽ばたかせ始める。


 ……んっ。

 次の瞬間、ふんわりと体が浮かんだかと思ったら、一気に体が重くなる。

 下を見てみると、もう昨日居た場所がほとんど分からないほど小さくなっている。


 そして、その近くからは細い煙が立ち上っていた。


#2


「……あっ。街だ。」


 それから暫く飛んで太陽が森の遠い所から顔を覗かせる頃、城壁で囲まれた街が見えてくる。

 ……昨日、地図で見た街はここかな? ハイゲンよりは小さいかも。

 ただ、今までよりもかなり高い所を飛んでいるのではっきりとは分からない。

 じっと、見ていると街は後ろに飛んで行って、例の山脈が目に入る。


 ……あっ。そうだ。

 私はエルの首に抱き着く。


「そう言えば、あの山脈って世界竜さんの尻尾なんだよね?」


 昨日はうつらうつらしていたので、そのまま寝ちゃったけど起きていたら結構騒いだと思う。

 エルは軽く私に顔を動かす。


「うむ。そうじゃのう。」

「あの山脈って確か私の森まで続いているんだよね? と言う事は私の森って世界竜さんの背中にあるの?」


 エルは少し考えると首を横に振る。


「……いや。彼奴の体は南の一部じゃな。ほれ、シエルが言っておった“竜の巣”が丁度その辺りなのじゃ。」

「あの辺かぁ。」


 昔、お母さんに連れて行って貰った砂浜の方だったと思う。

 ちなみにシエルさんが話してくれた金竜さんのお話によるとミィルさんのお母さんもそこに居るらしい。

 ミィルさんの親はお母さん“一人”。要するに、番わずに産んだらしい。

 あと、本当はシエルさんとミィルさんが“番う”予定だったって言うのは驚いた。


 ……でも世界竜さんだよね。

 私は五大竜さんのお話を思い出す。


「……確か、竜王様の折れた歯から生まれたんだよね。」


 ちなみに破壊竜さんは竜王様の“逆鱗”、龍帝さんは竜王様の“尻尾”、聖竜さんは竜王様の“涙”、そして創世竜さんは竜王様の“血”から生まれたらしい。


 エルはこくりと頷く。


「うむ。そうじゃ。」

「……すごく大きいんだね。竜王様。」


 世界竜さんは世界で一番大きなドラゴンだって聞いていたけど、実際に体の一部を見て実感が湧いてくる。

 ……それでも、竜王さまと比べると歯の大きさなんだよね。

 一人でこくこくと頷いていると少し気まずそうなエルの声が聞こえてくる。


「…………竜王はそんなに大きくはないぞ。アルフェ。」

「? エルって竜王様と会った事あるの?」


 私は首を傾げる。

 すると、エルは少し目を逸らしながら言葉を続ける。


「……ドラゴンならそこら辺に居る飛竜でも会った事あると思うぞ。」

「ふーん。…………そう言えば、飛竜さん見ないね。」


 エルの様子が少し怪しかったけど、今まで飛んできた中で飛竜さんとは会った事がないので聞いてみる。

 ……例の大きな雲に入っていった飛竜さんらしき影は見掛けたけど、こんな高い所を飛んでいたら飛竜さんとは会いそうなんだけどね。


「あーあ、それはじゃのう。わしが彼奴等を近付けん様に“威圧”しておるからじゃ。」


 ……ちょっと可哀想。

 私は顔を顰める。


 エルはそんな私を見ながらため息を吐く。


「はぁ。お主を乗せておるのに飛竜どもの“遊び”になんぞ付き合っておれんのじゃ。」


 ……エルも色々と考えてるんだね。


「ごめん。エル。」

「うむ。気にするのでないぞ。…………この様子だと日が落ちるまでには、おー、お?」


 エルが“お”を繰り返して頭を捻る。

 ……うーん。


「オーベリィ?」

「……うむ。その“おうべりー”に着きそうじゃ。」


 エルって固有名詞を覚えないんだよね。

 たぶん、ハイゲンの名前も覚えていない。

 ……まぁ、良いけどね。

 私はエルに頷く。


「よし! 今日中に行こう! でも、間に合いそうになかったら教えてね?」

「うむ!! 分かっておる。……“少し”加速するのじゃ。掴まっておれ。」

「うん。」


 私が捕まった事を確認したエルは更に加速する。


 目線を下げると小さな街が一瞬だけ目に入った。


#3


「そろそろだと思うのじゃが、分からんのう。……アルフェ。確認して欲しいのじゃ。」


 ……はぁ!

 私は目をぱちっと開けるとローブから地図と懐中時計を取り出す。


「……アルフェ。寝ておったな。」


 ……一応、魔法でエルの体に繋ぎ止めているけど少し危なかった。

 私は首を振るとミィルさんに貰った地図に触れて“拡大”させる。


「寝てない。…………うーん。市域には入ってるみたい。」


 私は地図に目を走らせる。

 少し古いのと旧市街、昔の城壁の中の一部が空白なの以外はかなり詳細に書かれている。


 オーベリィには城壁はない。

 昔は有ったらしいけど、オーベリィが三か国……現在の三大貴族と連合を組んだ時に打ち壊している。

 なので、他の街と違って建物が点々として空からだと位置が判り難い。


 ……流石にお城の周辺は建物で埋まっているから分かると思うけど。

 ちなみに、その後で作った王都はそもそも城壁が無い。

 ただ、かなり広い範囲を切り開いて建物で埋め尽くしている上、中央には高い塔が何本もある王宮があるので遠くからでもすぐに分かるらしい。

 ミィルさんとシエルさんが口を揃えて言っていた。


 地上に目を向けると幾つか大きな街道が目に入る。

 ただ、街道沿いには乗り捨てられた馬車が目に付く。

 ……うーん。どうしよう。

 私はエルに声を掛ける。


「エル。ちょっと、この街道沿いに進んでみて。」

「うむ。分かったのじゃ。」


 そのまま、進むと沢山の馬車が止められている場所が目に入ってくる。

 ……関所かな? ほとんど動いてないみたい。


 じっと、関所の様子を見ているとエルの声が聞こえてくる。


「……少し止まっても良いぞ?」

「うんうん。このまま行こう。」


 私は首を横に振る。

 エルは無言で私に頷き返すとそのまま、街道沿いを進む。


 すると、森が開けて建物が密集している場所が見えてくる。


「……着いたかな? そろそろ、下に降りよう。エル。」


 これ以上先に入るとエルが降りられる場所がなさそう。

 私は地図を畳むとエルの首に抱き着く。


「……よし、ならばあの辺に降りるかのう。」


 エルは一旦静止すると一気に森に向かって滑空する。

 ……やっと、着いたよ。マーシェリー。


 顔を上げると遥か遠くにある私の森に沈む太陽が目に入った。


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