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魔法の森の王女さま! ~魔女っ子お姫様と五人の悪役令嬢達~  作者: A.Bell
第2章 公国の古都の王女様
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第64話 王女様と森の夜 Ver.1.01

#1

 それから山脈を離れるとエルは徐々に高度を下げる。


 ……ふーん。やっぱり、人の気配は余りないね。

 基本的には深い森。ただ、はるか遠くから山脈まで伸びる細い道が並んで森に刻まれている。

 砦用かな?


 私はエルの背中をとんとんと叩く。


「エル。道沿いは止めとこうか。」

「……そうじゃのう。」


 道を避けて森の木々すれすれまで下がると丁度開けた場所が目に入る。


「……エル。あそこはどうかな?」


 エルは首を動かして目を走らせる。


「まぁ、構わんじゃろう。……降りるぞ。」

「うん!」


 大きな声で呼び掛けるとエルは大きく羽ばたきながら地上に降りる。

 私はエルから手を離して地面に降りるとうーんと背伸びをする。


 ……ひさびさの地面。朝からずっとエルに乗ってたから少し疲れたよ。

 周りの木に目を走らせていると後ろからエルの声が聞こえてくる。


「アルフェ。わしの水筒を出してくれんかのう?」


 後ろに振り向くとエルがドラゴンさんの姿のまま私の方に顔を向けている。

 ……あれ?

 私は首を傾げる。


「エル。人間の姿にならないの?」

「…………森だと何が起こるか分からんしのう。」


 エルはそう言いながら顔をぷいっとする。

 ……多分、面倒なんだね。

 私はローブからエルの水筒を取り出す。


「……はい。エル。」

「うむ。」


 私は水筒に付いてる魔石に触れて魔力を注ぐとエルの口元に近付ける。

 そして、ゆっくりと傾ける。


 …………

 少しするとエルは水筒から口を離す。


「……もう。よいぞ。」

「んっ。」


 私は軽く頷いて水筒を持ちながら座り込んでいるエルの体に寄りかかる。


「……エル。私も飲んで良い?」

「うむ。好きにせい。」

「ありがとう。エル。」


 ……うーん。試しにりんご味にしてみようかな?

 今度は味が付くように念じながら魔石に触れる。

 すると、水筒からほのかに甘い匂いが漂ってくる。

 私はゆっくりと水筒に口を付ける。


 ……少し薄い気はするけど、完全にりんごジュースだね。これ。

 少し安心して、ぐびぐびと飲んでいると何か視線を感じる。

 隣を見るとエルが恨めしそうな目をしながら、首を私に向けている。


「……わしはただの水だったのじゃ。」


 うっ。

 私はそっとエルに水筒を向ける。


「エルも飲む?」

「良いのか?」

「うん。」


 私が頷くとエルはドラゴンさんの顔で笑顔になる。


「……よし。早う、飲ませるのじゃ。」

「うん。……はい。エル。」


 私は身を起こすと、さっきと同じ様にエルの口の中に注いでいく。


「……うむ。美味いのう。少し酒に……。」

「駄目。」


 水筒から顔を離したエルに私は首を横に振る。

 ドラゴンさんの体になっているエルは大丈夫だろうけど明日も空を飛ぶからね。

 念には念を入れないと。


 エルは器用に首を背けて深くため息を吐く。


「全くのう。……まぁ良い。アルフェ。そろそろ野営の準備をするのじゃ。日が落ちるまで余り時間は無いぞ。」


 エルはそう言うと木々の間に開けた空に首を伸ばす。


 ……えっと。

 私は懐中時計を取り出す。

 ……後、1,2時間で一気に暗くなるね。

 私はエルに頷く。


「……とりあえず、まき集めてくるね。」


 魔法で火は出せるけど、寝ると消えてしまう。

 ちなみに魔導カードや魔導具はエルの水筒以外は持ってない。

 ……正直、嵩張る。大抵の事は何だかんだ出来るし、速度を優先したいのでかなり身軽にしている。

 魔法食は非常食として持って来ているけど。


 そうして、森に顔を向けると後ろからエルが呼び止める。


「まて、アルフェ。お主、炎龍に渡された金剛石があるじゃろ? あれを使えば良いのじゃ。」

「……えっ。」


 私はぎょっとしながら後ろに振り向く。


 ……大陸を溶岩で覆いつくせる物騒な物なんか使えないよ。

 私は首を横に振る。


「無理。」

「取り敢えず、そこの地面に置くのじゃ。」

「無理。」

「…………お主。この程度の事も出来んとはのう。」


 エルはそう言うと深くため息を吐く。


 ……うっ。そんな言い方しなくても良いのに。

 私はエルを睨み付けると、首に掛けてある炎龍さんのお守りを取り出す。


「そこまで言わなくても良いのに。…………はい。これで良い?」


 軽く魔法を使って“綺麗”にした地面に例の金剛石を置くとエルをもう一度睨む。


「そんなに怒らなくても良いのじゃ。…………うむ。そのままその石に手を触れて、魔力を流せば良いのじゃ。」


 エルは微妙に私から目を逸らしながら言葉を続ける。


 ……魔力を流す?

 私はよく分からなかったのでエルに目を向ける。


「魔力って?」

「その炎の魔力を抑え込んでおる物を“揺るがす”様にじゃ。」


 ……あー。何となく分かるかも。

 でも、平気なのかな?

 私は地面に置いたダイヤを突きながらエルに声を掛ける。


「……でも、そんな事をしても大丈夫なの?」

「アルフェの魔力ではその封印を解く事なぞ出来ん。」

「ふーん。」


 ……まぁ、分かるけどね。

 私は、ゆっくりと魔力を“動かす”。


 ……!!

 次の瞬間、ダイヤから炎が噴き出て、慌てて手を退ける。

 ……火傷はしてない。

 私はずっと炎が噴き出ている様子を見ながら、エルに声を掛ける。


「……ねぇ。これって止めるには?」

「んっ? 時間が経てば勝手に消えるから安心するのじゃ。あくまで漏れ出た物じゃからのう。」

「分かった。」


 私はエルにこくりと頷く。

 それによくよく考えたら、正確には炎じゃなくて炎の魔力だもんね。

 これ位の量なら何とかなると思う。

 ……さてと、後は食事かな。


 私はエルに背中を向けるともう一度森に入ろうとする。


「まて、アルフェ。今度は何しに行くのじゃ?」

「……食料を探しに行くんだけど。」

「魔法食はあるのじゃろう? わしはあれで良いぞ。」


 ……はぁ。まぁ、いいか。

 私は足を止めるとエルの所に戻ろうとする。


「あっ。結界を忘れないようにしないと、『森さん。森さん。私達が他の誰にも見つからない様にして下さい。代わりに魔力を上げましょう。』……これで、いいかな?」


 さっと結界を張るともう一度歩き始める。

 エルはそんな私に顔を向ける。


「まだ明るい内に飯にするのじゃ。」

「だね。」


 ……空を見上げるとほんのりと赤く染まり始めていた。


#2


「エル。少し早いけど横になって良い?」

「うむ。ならば、わしを枕にしても良いぞ。こっちにくるのじゃ。」

「ありがとう。エル。」


 私はローブに包まると地面に伏せているエルのお腹に頭を乗っける。


 すると、エルも私を囲うように尻尾と頭を丸くして翼を私の体に掛けてくれる。

 炎の魔力がぱちぱちと音を鳴らす中、空を見上げると星空が切り取られている。


 夕暮れ早々に食事を終えた私とエルは直ぐに眠る事にしたんだ。

 エルに包まりながら、何となくぼんやりしてるとエルの声が聞こえてくる。


「……アルフェ。」

「何?」

「今日、見た山脈の“正体”を知っておるかのう?」

「……正体?」

「うむ。」

「……うーん。分かんないよ。」

「くくく。まだ、お主は教えて貰ってないのじゃな。……あれは巨大な竜の尻尾なのじゃ。彼奴の体は地の深い所にあるがのう。尻尾だけが地上に出ておる。」

「…………世界竜さん?」

「そうじゃ。」

「ふーん。でも、動いたら大変だよね?」

「……彼奴が動いておるのは見た事ないのう。いつもは分身ないし眷属を通して動いておるがのう。」

「へー。……ふぁあー。」


 軽く頷くと欠伸が出る。


「……すまんのう。アルフェ。今日はここまでにするのじゃ。」

「うんうん、平気。おやすみ。エル。」

「うむ。お休みなのじゃ。アルフェ。」


 私はもう一度欠伸をするとローブの前をもう一度合わせ直す。


 目を閉じるとゆっくりと二人一緒に夢の中に落ちていった。


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