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魔法の森の王女さま! ~魔女っ子お姫様と五人の悪役令嬢達~  作者: A.Bell
第2章 公国の古都の王女様
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第63話 王女様と竜王様 Ver.1.01

数日と言いながら申し訳ないです。


12話まで推敲終了

§1


「……エル。あれが?」

「うむ。そうじゃな。」


 私の目の先には落ち始めた太陽で所々が光っている青い地面が広がっている。


 ……これが“海”なんだ。

 初めてではないけど、こんな高さからは見た事が無い。

 私は風でたなびく髪を押さえるとエルの首に顔を埋める。


「……広いね。」

「じゃな。」


 エルは軽く海に顔を向ける。


 ちなみに真下では長い山脈が東の方へ走っている。

 この時期はこの山脈から吹き上げる上昇気流に乗った方が早いらしいので、一気に南下したんだ。


 ……ふぅ。でも、あまり街に出られなかったなぁ。


 2日目はエルとシエラちゃんが行方不明。

 3日目はミィルさんと一緒に禁書を読めたけど、夜は私抜きでエルとシエルさん、ミィルさんの3人で集まっていた。

 ……何を話したのか教えてくれなかったけどね。

 で、4日目からはみんな、家に閉じ込められた。


 なんか、シエルさんが大公の名前で命令を出して大分“荒れた”らしいんだよね。

 シエルさんが言うには、この国で私のお母さんとお父さんを覗けばシエルさんより偉い人は居ない。大公って公爵の筆頭って意味なので、実は公爵な私の叔父さんにあたる王弟さんよりも偉いらしい。


 ……シエルさんはお母さん以外に頭を下げる気なんてさらさら無かったらしいんだよね。

 そう言う立場になるよう私のお父さんに要求したらしい。


 と言う事で、普通なら捕まらない領主の一族の人や貴族の人が捕まってお城が大荒れ。

 しかも、エル達に使われた隷属の首輪が知られていない物で、場合によっては反逆者として王都に首を差し出す必要があるらしい。

 隷属の魔法みたいな呪術は掛けようと思ったら貴族の人や王様に対しても掛けられるからね。

 解呪手段が知られていない呪術の使用の殆どが、使用した相手に関係なく反逆罪になる。


 まぁ、そんな感じでシエルさんのお屋敷の外に出られなくなった私とエルは、シエラちゃんと一緒に勉強したり、お屋敷の中を探検したりして過ごした。


 ……シエラちゃん。元気かな?

 海に目を向けながらぼんやりとシエラちゃんの事を思い出していると下からエルの声が聞こえてくる。


「アルフェ。そろそろ下に降りてみたいのじゃ。良いかの?」


 ……どうしよう?


「……エル。この近くに人は居る?」


 ……シエルさんに聞いたんだけど、この山脈って海沿いにある大公国との国境になってるんだよね。

 しかも、300年前にアーヴェンから独立した国だから仲がかなり悪い。

 砦や要塞がずらっと並んでいて兵隊さんもいるので注意するように言われている。


 実はハイゲンも独立国時代にその大公国と戦争して、大公様のお姫様を差し出させている。

 ただ、大公国は隣国だったローベルツとは仲が良く互いに血が入っていて、マーシェリーのお母さんも現大公の妹さん。

 と言う事で、マーシェリーとシエラちゃんは血の繋がった親戚だったりする。


 ……全部、ミィルさんとシエルさんに教えて貰った事だけど。

 シエラちゃんも少し驚いていた。


 エルは山並みに目を走らせる。


「……うむ。人がぽつぽつと居るのう。」

「なら、もう少し飛ぼうか。」

「仕方がないのう。」


 目線を下げて目を凝らすと、石で組まれた幾つかの砦に人が見える。

 私達の方を何人かの人が見上げている様に見えた。


 ……

 そのまま暫く飛んでいると、少し南寄りの東のはるか遠くの方に高い山が見えてくる。

 エルは空中で羽ばたきながら止まると私に振り向く。


「……炎竜の火山じゃな。地図はどうなっておる?」

「ちょっと、まってね。」


 私は地図を取り出すとエルの背中に張り付けて懐中時計をぱかっと開く。

 現地点の太陽の位置と懐中時計の太陽の位置の差を割り出す。

 ……えっと、緯度は……ここで、経度は…………ここと。

 見ると、ちょうど山脈の三分の一あたりに来ている。


「……そろそろ、方向を変えた方が良いかも。」


 魔法で風を押さえると、現在位置に印を付けた地図をエルの顔の前に持っていく。


「……よし、砦は見飽きたのじゃ。それに、荒れそうだしのう。山を離れるぞ。」

「荒れそう?」

「うむ。後ろを見るのじゃ。良く雲が育っているじゃろ?」


 エルに言われて、後ろを振り向くと遠くの山の頂上からもくもくと立ち上がった雲が空の高い所で広がり始めている。


 ……なんだろう。少し怖い。

 内心、震えているとエルの声が聞こえてくる。


「アルフェを乗せておらんかったら突っ込む所じゃな。あれ程の雲じゃ。中は面白いぞ。……ほれ、飛竜どもが突っ込んでおるのじゃ。」


 エルの目線の先を見ると、確かに何かが雲の中に飛び込んでいる。


 ……まぁ、いいや。

 私は目を逸らすとエルに声を掛ける。


「それじゃあ、今日はこのまま山脈を離れて、森の何処かで野宿する?」

「……街があれば、行ってみたいのう。」


 ……街。

 私は地図に目を走らせる。


 ……あるにはあるけど、ちょっと遠いな。

 しかも、それは王室直轄地にある自由都市。

 要するにお母さんの顔を知っている人が居そう。


 でも、野宿に心配がない訳でも無い。

 ミィルさんが言うには、ここら辺って街の外の治安が悪いらしいんだよね。

 大貴族の空白地帯で小さな領地か王室の飛び地ばかり。

 国境線の守りとして大公国の独立の時、王様に味方して武勲をあげた人たちに土地を与えたんだけど小さく分けちゃったんだよね。

 それでも兵隊さん達が常駐していたから平気だったんだけど、戦争の気配が無い今はその兵隊さんの数も少ない。


 と言う事で、山賊さんみたいなのが山脈の麓の森には潜んでいるらしい。

 ……やっぱり、街にしようかな。

 今度は街に印を付けてエルに見せる。


「……一番近いのが、ここなんだけど。」


 すると、エルは目を細める。


「……ふむ。風の様子をみるとちと厳しいのう。おそらく、着くのは日が落ちてからになるのじゃ。」


 ……うーん。まぁ、結界を張れば大丈夫だよね?

 私は自分を納得させるとエルに軽く頷く。


「それじゃあ。森で野宿の場所を探す? エル?」

「うむ。……掴まっておれ、移動するのじゃ。」


 私は地図と懐中時計を仕舞い込むとエルの首に手を回す。


「いいよ。エル。」

「よし。行くぞ。」

「うん。」


 エルと私は山脈を離れて森の方角に飛び立った。


§2 とある砦にて

 アルフェが乗ったエルを双眼鏡で観察する一人の兵士が、その隣で通信用の魔導具を触っている一人の兵士に報告する。


「……対象は山脈沿いを離脱、方角は王都方面。」


 若い兵士は双眼鏡を下げると目を瞬かせながら、隣の壮年の兵士に目を向ける。


「あれって、何なんですか?」


 兵士の目には白銀に光輝く竜の姿が映っていた。

 そして、アルフェの姿はその光で隠されていた。


 壮年の兵士は他の砦への報告を終えると若い兵士に顔を向ける。


「さぁな。普通の飛竜に見えない事もない。太陽の光を鱗で反射すればあんな風に見えるだろう。……ただ、ハイゲンからの話によれば白銀竜ではないかと言う事だが。」


 白銀竜の名前を聞いた若い兵士は飛び上がる。


「白銀竜ですか!? あの教皇様ですら、見る事が無いと言う伝説の……。」

「あー。噂だ。噂。落ち着け。」


 壮年の兵士は煙たがるように手を動かすと椅子から立ち上がる。

 そして、煙草を取り出すと魔法で火を付ける。


「……ふぅ。まぁ、聖竜様は飛竜程の大きさだと言うし強ち間違えでは無いかも知れないがな。」

「やっぱり、白銀竜じゃ無いですか。……煙草、貰って良いですか?」

「……ほらよ。」


 壮年の兵士は若い兵士に煙草を差し出す。


「ありがとうございます。……火も貰いますね。」

「っん。」


 若い兵士は壮年の兵士に差し出された煙草の先に自分の煙草を押し付ける。


「ありがとうございます。…………ふぅ。しかし、王都の連中はどうするんでしょうか?」

「……もし王都に現れたら、飛竜部隊を出すかどうかって所か?」


 壮年の兵士は首を捻る。

 すると、若い兵士が壮年の兵士に顔を向ける。


「そう言えば、その飛竜部隊って本当にあるんですか? 自分が王都で訓練受けてた頃は影も形も見なかったんですけど。」

「陛下直属の部隊だからなぁ。有ると言えばあるし、無いと言えばない。」

「……あー。そんな感じなんですね。」

「そっ、そういう事だ。」


 兵士の二人はぼんやりと空を眺める。

 しばらく、煙草を吸っていた若い兵士が少し不安そうな顔をしながら壮年の兵士に声を掛ける。


「先輩。これって吉兆なんでしょうか? それとも……。」


 壮年の兵士は軽く若い兵士に目を向けると通信用の魔導具の横にある灰皿に煙草を押し付ける。


「さぁな。だが、いずれにせよ、俺たちはここで国を守るだけだ。……一応、他の砦に引き継いだが、俺たちも見えなくなるまで監視を続けるかぁ。どうする?」

「……そうですね。やります。」


 若い兵士はまた、双眼鏡を手にすると再度捕捉しようとする。

 すると、壮年の兵士は笑みを浮かべる。


「……よしよし。」


 壮年の兵士は軽く首を縦に振りながらまた椅子に座る。

 そうして、二人の兵士は白銀に光るドラゴンの監視を再開した。


次回、野宿

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