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魔法の森の王女さま! ~魔女っ子お姫様と五人の悪役令嬢達~  作者: A.Bell
第1.5章 街外れの孤児院の聖女様
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第61話 聖女様と世界 Ver.1.00

#1

 それは、私が大学生になりたての頃。


「……エグいなぁ。今度は奴隷墜ちかよ。」


 私は画面を見ながらぽつりと呟く。

 画面の中では栗色の髪をした美少女が“首輪”から伸びた鎖を掴んでいる“悪役令嬢”に踏みつけにされている。

 ……はぁ。

 精神的に疲れた私は一旦、画面を離れる事にする。


「……××の前作って言うからやってみたけど全然違うじゃん。」


 私は冷蔵庫から炭酸飲料を取り出すと息を吐く。

 ××とは私が昔、嵌ったRPGゲームの事。


 主人公は辺境で暮らしていた女の子で、“力”を使う時には背中から金色の翼が生えてくるドラゴンの娘……らしい。

 名前は“シエラ”。

 ……まぁ、自分で変更は出来るけど。

 そんな女の子は偶然にも魔法王国の女王様と出会う。

 その中で、女王様の娘で吸血鬼の姫が魔王に攫われてしまった事を知った女の子は魔王を倒すべく冒険へと出掛ける。


 と言うのが話の筋書き。

 まぁ、実は女の子の母親と女王様は知り合いだったり、吸血鬼のお姫様は実は女王様の“本当”の娘じゃなかったりするけど。

 さて、このゲームには前作……と言うか、世界観が共通する前日談にあたる“乙女ゲーム”がある。

 女王様がまだ王女様だった頃の話で彼女がヒロインになって、ヒーロー共を攻略していくゲームである。


 そして、このゲームにはもう一人ヒロインが居る。

 それが、さっき踏みつけにされていた美少女。

 彼女は聖女様“候補”と言う事で王都までやって来るのだけど、元は平民出身の孤児。

 ……身分差もあってかバットエンドがかなりえぐい。

 恋敵の悪役令嬢達は平気で権力を使ってくるので、“ただ”の奴隷墜ちならまだ良い方。

 特にマーシェリーとか言うクソ女が酷い。

 あれは、人を痛めつける事を生きがいにしている。

 ……マーシェリーの回想シーンは全部埋めているからどうしてあんな性格になったのかは知ってる。

 が、やっている事がやっている事なので全然同情出来ない。


 そして今やっている聖女様ヒロインのルートだと“聖女様”が“未来が見える”と言う設定もあって周回プレーが必須。

 何度もバッドエンドを見ないといけない。

 ……はぁ。

 王女様ヒロインの方だとバッドエンドでも“王女様は森に帰りました”のパターンが一番多くて平和だけど、マーシェリーの策謀で父親と結婚させられるバットエンドもあるので油断は出来ない。

 ただ、それでも聖女様ヒロインのバッドエンドと比べると遥かにまし。

 ……設定集読むだけにしといた方が良かったかもね。

 そんな事を考えながら、私はコップを飲み干すと薄暗い中浮かび上がっている画面に目を向けた。


#2

 ……どうしよう。これ。

 私は先生に見られながら冷や汗を掻く。


「……ステラ。どうしましたか?」

「本当だ。ステラ大丈夫?」


 私は先生とミーシャに顔を覗かれると首を振る。


「……大丈夫です。」


 大丈夫じゃないけど。

 私は今の状況に必死で頭を働かせる。

 まさか、乙女ゲームのヒロインになるなんて。

 ……なんてタイトルだったけ? 確か、“女神”なんちゃら“魔女”ってタイトルでどこかに“血”って文字が入ってた気がする。

 まぁ、良いか。はっきり言って、ヒーロー達には興味はない。

 ……やはり、“聖女”ルートか。

 私はそう結論付ける。

 聖女とその名の通り、汚れ無き乙女。聖女になってしまうと結婚は出来なくなる。

 ただ、聖女になれば“悪役令嬢”たちには流石に手を出されないだろうし、私にはその“素質”がある。

 ……ゲームの設定上だけど。

 しかも、学校に行くかどうかは“はい”か“Yes”かみたいな話で私に拒否権はない。

 先生は私達に任せるみたいな態度だけど遅かれ早かれ連れて行かれると思う。

 教会の聖女への傾倒はゲームでも示唆されている。教会が運営する学校の多くが女学校だし、聖職者は女性が優位になっている。

 なら、流れに乗った上で“ゲーム”の知識をフルに使えば“聖女”への道はそう難しくないはず。

 ……ただ、ゲームの知識だけだと分からない事がある。

 私は先生にもう一度目を合わせる。


「先生。学校に行くのは構わないんですけど。どうして、森から無事に帰る事が出来ると聖女様候補になるんですか?」


 私がそう質問すると隣のミーシャにもこくこくと頷く。


「あぁ、その事ですね。この森は“王妃様”の森まで続いているのです。西の果ての“魔の森”程ではありませんが深い場所だと危険な魔物が出る森なのですよ? ステラ。当然、子供達が入らないようにシスターが“監視”しています。……貴女たちはすり抜けてしまったようですが。」


 私は先生の言葉に頭を回転させる。

 ……王妃様。確か、あの王女様の母親だった。

 この世界に居るかは分からないけど魔女であるこの国の王妃様の娘がもう一人のヒロインである。

 同時に、設定集の大陸図が頭に浮かぶ。

 ……王都の隣接する形で王妃様の森があるから、あの森林地帯の先が今私達の居る場所かぁ。

 ただ、地名は流石に覚えてない。たぶん南の大公国との国境に近い場所とは思う。

 そして、魔物や監視と言った言葉。

 ……そう言えば、“魔法”があったね。この世界。

 監視って言うのはシスターが何かの魔法を使ったって事だと思う。

 それに魔物は出会ってしまったら私とミーシャなんてすぐに食べられてしまう。……よく無事だったね。私達。

 少し、顔が青くなった私とミーシャを見ながら先生は言葉を続ける。


「一度だけならシスターの監視をすり抜けて、森を無事に過ごす事もあり得るでしょう。……しかし、二度となると、偶然でありません。聖女様は“魔女”の素質も併せ持つと伝えられています。魔女の森で無事に過ごせたという事は魔女の素質を持っていると言う事なのですよ。ステラ。ミーシャ。」


 ……?

 魔女と聖女に何か関係あるのは初耳。

 目を丸くしているとミーシャの声が聞こえてくる。


「先生! 私って魔女になれるの?」

「そうですね。ただ、魔女様に弟子入りしなければいけませんよ。……私の知る限りだと王妃様と魔術ギルドの長をなさっている方が魔女だとは聞いています。」

「……そっか。その二人とも私なんかじゃ会えないね。」


 ミーシャはしゅんとなんてお茶をちびちびと飲み始める。

 ……魔女ってどんな存在だっけ。

 そんな事を考えていると困った顔をした先生と目が合う。

 ……ふぅ。

 私は息を吐くと先生に声を掛ける。


「先生。私達が行く事になる学校ってどんな所なんですか?」

「……そうですね。隣の大司教様の所領にある学校ですよ。女の子しか居らず、高貴な方も通われています。」


 すると隣からミーシャの声が聞こえてくる。


「えっ! お姫様とかいるの?」

「ふふ。教皇様も通われた学校ですよ。ミーシャ。」

「……へぇー。」


 ミーシャは首を捻りながらあいまいに返事をする。

 私もいきなり教皇様と言われても分からない。

 ……ゲームの“ステラ”は聖域の教会本部に属していたから、今の私には先生の言う学校は殆ど分からない。


 私とミーシャは暫く先生に学校の質問を続けた。


#3


「……ステラ。ミーシャ。“セレン”に向かうという事で良いですね。」


 先生は私とミーシャを交互に見る。


「うん。先生。ステラが行くなら私も行く。」


 そう言ってミーシャは私の手をぎゅっと握ってくる。

 私もミーシャの言葉に合わせてこくりと頷く。

 ちなみ“セレン”と言うのは隣の大司教領の名前らしい。

 すると、先生は私に目を向けた後、ミーシャに声を掛ける。


「ミーシャ。少しステラと話しますので、先に帰りなさい。」

「はい! ……ごはん!!」


 すると、ミーシャは私の手を振りほどくと部屋を飛び出す。

 呆気に取られていると先生に声を掛けられる。


「ステラ。……今日の貴女は昨日までの貴女と何かが違います。何があったのですか?」


 瞬間、背筋が凍る。

 ……どうしよう。

 固まっている私に先生は微笑みかける。


「ステラ。責めている訳ではないのです。……ただ、心配なのですよ。」


 先生はそう言って真剣な顔でじっと見てくる。

 私は先生から目を逸らしして、机に伏せる。

 ……どうしよう。どうしよう。

 ……

 …………

 ……ふぅ。これしかない。

 私は暫く伏せていた顔を上げると辛抱強く待ってくれた先生と目を合わせる。


「……先生。私、幾つか“未来”を見ました。」


 そう。聖女が持つと言う。神々より愛されている事の証。


 星読みの力。


 ゲームだと、この力を得ると人格が少し変わったりする事が多いと言う設定だった。

 ……年単位の“記憶”を注ぎ込まれるから当然と言えば当然。

 ゲームの中の“ステラ”もそれで星読みの力を見出される。


 先生は私の答えが分かっていたのかそのまま頷く。


「なるほど。……どの様な未来が見えたのですか?」


 私は少し考えると先生に目を向ける。


『オーベリィ公爵領にて暴動が起こり、“城”が落ちるでしょ。』


 ……別にマーシェリーを助けたいと思った訳ではない。

 単に一番近い出来事がこれだった。

 それに初めての“星読み”は信用されない。ここで言った所で何が起こる訳でもない。

 目の前で苦しんでいれば手を差し伸べるけど、今はまだ平民の孤児。

 遠く離れた公爵領の暴動を止めるなんて出来る訳がない。

 それにゲームの彼女の性格を考えるとどうしても“元”からと言うのが脳裏に過る。

 ……自分が酷い目にあったからって赤の他人に同じ事をするなんて理解できない。


 私は目を丸くしている先生を見ながらそう思う。


 ただ、この時の私は“タイトルすらよく覚えていない”はずのゲームの中身なのに、“一番近い出来事”をすぐに判断できた事を疑問に思う事はなかった。


次回よりプロローグを挟んで2章に入ります。

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