第58話 始まりのエピローグ
#1
「……っと、そろそろお昼ね。食事にしましょう。」
「うん。分かったよ。ミィルさん。」
私は読んでいた“超越詠唱理論”を閉じるとミィルさんと一緒にサンドイッチを食べ始める。
……やっぱり、お昼は軽めがいいね。
一昨日に引き続いて昨日も事件が起きた。
……私が関わった訳じゃないけどね。夕方に背中から翼が生えていたシエラちゃんを見た時はびっくりした。
そう。シエラちゃんは暫く外出禁止になった。
表向きは勝手に外に出たからなんだけど、実際は翼を制御出来るまで外には出せないって事らしい。……翼自体は見える人は殆ど居ないんだけどね。ただし、“実体”がある訳じゃないから服を突き抜けちゃう。
当然、ミィルさんの所でのお泊まり会は中止。
今日はその穴埋めで“一人”でミィルさんの所に来ている。
……エルの事なんて知らない。
お昼になっても見当たらないからサクラさんと一緒に必死で探したんだよね。
……エルは“楽しそうに”ミィルさんと空を飛んでたけど。
後から聞くとシエラちゃんの為に頑張っていたらしいから、今はそこまで怒っている訳じゃないけどやっぱりもやもやする。
今は外を出歩くのはかなり危険って言うのもあるけどね。
シエラちゃんが攫われたから領軍の人たちが沢山街に出ているらしい。それに首謀者の人たちは尋問を受けた後、即日公開処刑されて今も首が晒されているみたいで街の雰囲気も悪いみたい。
……ちょっと怖い。
少しだけ頭を横に振っているとミィルさんの声が聞こえてくる。
「……アルフェ様。少しいいかしら?」
「……何?ミィルさん。」
見るとミィルさんは少し真剣な顔をしている。
「少しオーベリィについて調べてみたのだけど、前も言った通り、特に不審な点は無かったわ。……不思議な程に“問題”が上がってきてない事を除いてね。普通は何かしらがあるのよ。しかも、南部の方では炎龍様の一件があったばかり。はっきり言っておかしいわ。」
……やっぱり、何かあるんだ。
私はゆっくりとミィルさんに頷く。
「うん。気をつけるね。」
「ええ。そうして頂戴。こっちの件が片付いたらすぐに私もオーベリィに向かうわ。……絶対にエル様と一緒に居て頂戴。あんなのでも貴女の事は守ってくれるはずよ。」
エル?
……どうだろう?
私は少し曖昧に笑いながらミィルさんに頷いた。
#2
薄暗い中、1週間振りに魔術塔にやって来た。
魔術塔のてっぺんでドラゴン姿のエルに乗ると後ろから声が聞こえてくる。
「……アーちゃん。エルちゃん。気を付けてください。」
「姫様。森の事は私とベルに任せて頂戴。」
「うん。シエルさん。シエラちゃん。すぐに帰ってくるからね!」
「うむ。お主らの元気での。……行くぞ! アルフェ!!」
「うん!」
私がぎゅっと掴むとエルは塔から飛び上がる。
私は二人が見えなくなるまで手を振るとまたエルの事をぎゅっと掴みながら目を閉じる。
私達の真正面では朝日が昇り始めていた。




