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第4話 王女様とドラゴン

§1

 魔の森の奥地。

 この森では数少ない炎の魔力の供給源である温泉のほとりに2つの影がある。

 月に照らされ浮かび上がったそれ。

 1つは炎龍。小さな山程ある巨体である。仲間を引き連れ1年以上かけてここまでやって来た。目指す火山帯は目と鼻の先である。

 そして、もう1つの影は炎龍に比べれば遥かに小さく。羽を畳めば人間の大人より少し大きい程度である。

 しかし、体からは絶えず神威を示す聖なる光が放たれ、炎龍がひれ伏している事を見れば女神の天地開闢に立ち会った十二柱の神々が一、竜王であると分かるだろう。


「……しかし災難だったな、炎龍よ。確か人の間では邪龍扱いになったそうじゃな。」

「1つ大きな街を潰しました故。その代わり、多くの命を守れました。人の間の評判など些細な事。とは言え、人の世に疎い竜王様は何故その様な事を? 」

「ん、ここに来る途中でちっこい飛竜どもが炎龍は邪龍になったと煩くてのう。詳しく話を聞いてみたんじゃ。」

「それで、私を見つけたので声を掛けたと。」

「……じゃな。して、ここの連中には挨拶はしたのかの?」

「長老達にはここに到着した折に。」

「ふむ。わしも後で彼奴らの顔を見てくるか。彼奴らと言えば、……」


 竜族の話は長い。2つの影は夜が明けてもなお話続けていた。


§2#1


「……ひ…………ひめ……ま……姫様、姫様。」


 誰かに揺すられ目を開くと金髪碧眼のお姉さんが目に入る。


「シーさん?」

「おはよう、姫様。ええそうよ。……ベルと一緒に来たわ。図書室で寝るなんて駄目よ。」


 周りを見渡すと図書室の机の上に本を積み上げたまま。私はあのまま寝てしまったみたい。


「おはよう。シーさん。……もしかして、朝なの?」

「ええ。」


 シーさんが頷く。

 ……本当だね。

 懐中時計を見ると確かに日が昇っている。

 私は起き上がると手櫛で髪を整える。


「……シーさん、ご飯食べた?」


 もし食べてなかったら一緒に作ろうかなと思って聞いてみる。


「ふふ、実は今日の朝ごはんは姫様の分も作ってあるわよ。」

「! ありがとう!」


 私は椅子から立ち上がる。


「行きましょうか? 姫様。」

「うん。シーさん!」


 私は頷くとシーさんの後に付いていく。

 シーさんはお母さんの“元”眷属。今は街で人間と結婚して生活しているらしい。

 ……実は今まで人化した姿しか見た事なかったりする。

 食堂に入るとベルさんが魔鷲の姿で南の窓枠に止まっていた。


「ベルさんもおはよう。」

「おはよう。姫さま。シエルが食事を用意してるから、冷めないうちに食べるんだよ。」


 ベルさんが嘴を向けた方を見ると、いつも私が作る料理より凄く豪華でボリュームがあるお皿がテーブルに並んでいる。

 スープが二種類にサラダ、ベーコンやソーセージと目玉焼き、チーズ。

 ミルクもコップに注がれている。

 後、バスケットにパンが山盛りになっている。

 ……お肉がある。

 保存用のお肉だけど、森だと滅多に食べられない。

 シーさんは街から食材を持って来てくれるので、いつもは食べられない物が食べられるんだよね。


「シーさん。すごく美味しそう! ……『女神様と私の糧になる魂さん。感謝を込めて魔力を捧げます。』」


 すると、テーブルの上の料理に光が降り注ぐ。

 いつもは魔力を使う祈りはしないけど、作ってもらったものだし“お肉”もあったから準正式のお祈りをする。

 ちなみに正式のお祈りは殆ど儀式魔法と言って良いものになっちゃうので今の私では魔力が持たない。しかも、女神様以外の12柱の神様達にもそれぞれ捧げるので凄い時間が掛かちゃう。

 お祈りが終わるとナイフとフォークを持ってすぐに口をつける。

 ……そういえば、昨日はお夕飯食べてないんだよね。

 気付くと、どんどんお皿の料理がなくなっていく。


「シエル。いつも不思議に思うんだけど食事で魔力まで捧げる必要無くはないかい。」

「ベル。貴女みたいな魔物は死の穢れを気にしないでしょうけど、姫様は違うのよ。」

「そりゃ、私みたいのはそんなの気にしてたら生きていけないからね。でも、魔力を喰らう為に魔力を使うのはどうなんだい。」

「あなたに言っても無駄だと思うけど、食事を楽しむって考え方もあるのよ。」


 ベルさんはウーちゃんさんとは違ってシーさんとは喧嘩しない。

 そんな、2人の会話を聞きながら食事を続ける。


「……そう言えば、2人とも朝食は食べたんだよね。」


 ふと、気になったので窓辺で会話をしている2人に聞いてみる。


「そうだね。ここに来る途中、適当に狩をしたからね。それに人間の街の食べ物は魔力が少なくて食べた気にならないよ。」

「私は街を出る前に軽く食事したわ。姫様、何かお代わりいるかしら? 」


 ベルさんとシーさんが順に答えてくれる。

 ベルさんは人化してなかったし、シーさんはいつも私達とは食事をしないから大体分かっていたけど。


「うーんと、それじゃあこっちのスープを少な目に。あとパンを3つ程。」


 ベーコンやソーセージと野菜が沢山入ったスープのお代わりとパンの追加を頼む。

 例の記憶から言うとポトフが一番近いかな?

 おかわりも食べ終わり食事をやめるとシーさんがお皿を下げてくれる。シーさんが台所に引っ込むとベルさんが人化して私が座っているテーブルにやって来る。


「さてと、姫さま。今後の事を話そうかと思うが大丈夫かい?」


 ベルさんは私の前に座ると目を合わせる。私は、ぴっと背筋を伸ばしてゆっくりと頷く。


「……よし、まずは主人様が魔女として支配してた領域についてだね。私達が居るこの森、東にある都に隣接する森、そして、南の火山帯を抜けた先にある小さな島の3つだね。どこの連中も姫さまを“見守る”って聞いてるから暫くは心配する必要はないよ。」

「ふーん、でも見守ってくれるなら私も挨拶に行くべきだよね?」


 私はこの森から出たことないし、そもそも、この森でも比較的安全な所しか行った事がないんだよね。

 しかも、東にある都って確か王都の事だよね?

 王都からオーベリィまでは徒歩でも1週間あれば到着できる。

 もしかしたら何か移動手段があるかも知れないと思って、そう言うとベルさんが顔を顰めている。

 ……あれ?


「ベル。少しくらい良いんじゃない?」

「シエル。でも、ここの長老達はまだ姫様には荷が重くないかい? ほかの所も長老達よりマシだろうけど、転移魔法が使えないから時間が掛かるよ。」


 首を捻っていると、シーさんが台所から出てきた。

 ……うーん、移動に転移魔法かぁ。

 何か他に移動手段がある訳じゃないみたい。

 少し残念に思いながら気になった事を聞いてみる。


「あの長老さん達って誰なの?」


 シーさんはベルさんと目配せをし合うとベルさんの隣に座って話し出す。


「……そうね。姫様この森の正式な名前を知ってるかしら? 」

「うーんと、魔の森?」

「それは人の間での名称よ。……“竜域”。これがここの名前。長老達って言うのは小さな山程あるドラゴン達なのよ。彼等も注意してくれるでしょうけど、こちらも注意しないとちょっとした事で命の危険があるわ。」


 !!

 初めて知った事実に衝撃を受ける。そう言えば、炎龍さんの時もお母さんに似たような事を言われた。

 大きなドラゴンさん達も体を小さくする事は出来るけど力が大分削がれるから“色々”と信頼出来る相手じゃないとダメなんだよね。

 でも、昨日考えたドラゴンさんお友達計画が浮かんでくる。

 長老さん達なら誰か紹介してくれるかも!


「それでも、やっぱり長老さん達に挨拶に行きたいです。」


 私は真剣な顔をして目の前の2人にベルさん、シーさんと順に目を合わせる。

 ドラゴンさんお友達計画の事もあるけど、やっぱりこの森を守ると決めた私は長老さん達と会わないといけないと思う。

 ベルさんはそんな私を見て頷くと口を開く。


「分かったよ。でも、まずは炎龍の所で様子見をするんだよ。あいつも中々デカイからね。動物小屋のあのトカゲも元気になってるから、挨拶の口実として充分だろうよ。」

「それなら、今日とかダメかな?」

「構わないよ。後で、私の配下を走らせておくよ。……さてと、私の話はこれでおしまいだよ。」


 ベルさんの話が取り敢えず終わったようで、今度はシーさんがわざとらしく小さく咳をする。


「んっんっ。さて、次は私の番ね。実を言うと姫様に街に来て欲しいのよ。」

「街に?」

「ええ、幾つか理由があるのだけど一番は森と共生関係にある街を知って欲しいって所かしらね。まぁ、他には私の娘に会って欲しいと言う事もあるわ。」

「! シーさんって子供いるの!」


 すごく驚く。

 結婚しているのは知っていたけど、子供がいるのは知らなかった。

 でも、元々街には行く気だったので丁度いいかも。


「ふふ、そうよ。後、どちらでも良いのだけど領主に会う事も出来るわよ。どうするかしら?」


 シーさんの言葉で例の記憶から少し思い出す。

 例のゲームは攻略対象毎にストーリーが独立していて、それぞれの物語の始点“以前”の選択の差でルートが分岐している。

 ……そう、メインヒーローの第一王子のルートだと“アルフェ”はとある辺境伯領で王妃と瓜二つの容姿から発見される。とあるも何も昨日見た本だと辺境伯は一人しかいなかったけどね。

 そして、このメインヒーロー、私は大っ嫌い。

 主要攻略対象5人は色々と問題がある人たちけど、その中でもダントツ。

 第一王子は王弟と王弟妃との間の子供で、私の従兄弟って事になるけど“例のゲーム”と同じ事をするなら家族とは見れない。

 ただ、私は現実の王家を知らないので、実際に居るかどうか分からないけど。

 ……あんなのは居ないで欲しいなぁ。

 どうしよう。ここで、お父さんの事を聞くべきかも。


「……あの、お母さんからお父さんへのお手紙を預かっているの。お父さんの居場所って分かる?」


 すると目の前の2人は渋い顔をしながら顔を見合わせる。

 ……お父さんの事、話したくないのかな?


「……そうね。彼は王都に居るからあちらの森に姫様が行った時に“呼び出して”おくわ。」

「だね。」


 シーさんの言葉にベルさんが頷く。

 うーん、お父さんの事をもう少し聞こうかなって思ったけど後回しにしよう。まだ全然どうやってマーシェリーを助けようか考えてないもん。


「うーん、お父さんはまた今度で良いかな。シーさん。街に行くのは良いけど、領主さんに会うのはやめとくね。」


 もしお母さんが王妃さまだったのなら、領主さんは流石に知ってそうなんだよね。

 変装の魔法は今の私だと、髪の色を変える位しか出来ないから会ったらすぐにバレそう。

 後、変装の魔法はたまに本来の姿に戻せなく事があるらしいから余り使いたくない。

 幻影の魔法だとそんな事はないんだけど私はまだ使えない。


「分かったわ。とりあえず、私からは以上よ。」

「さてと、私は小鳥どもに炎龍に伝えるように言ってくるよ。……そうだね、昼過ぎに連中の所に行く事にしようか。姫さまもあのトカゲに話しておいてくれ。」

「分かった。ベルさん。」


 シーさんからの話が終わるとベルさんは人化を解いて窓に向かう。

 私は立ち上がりながらその後ろ姿に声を掛ける。

 そしてベルさんは窓辺で羽を広げると家から飛び立って行く。


「……姫様。午前中に仕事を終わらせましょう。私も手伝うわ。」


 空を飛んでいるベルさんの後ろ姿を眺めているとシーさんがいつのまにか隣に来てる。


「シーさん。街っていつ行くの?」

「……そうね。いつでも良いわよ。大丈夫な日を教えて頂戴。それこそ今日でも構わないわ。」

「分かった。……シーさんの娘さんってどんな子なの? 」

「ふふ、それは会ってみてのお楽しみよ。」


 シーさんを見ると目を細めて微笑みを浮かべている。

 シーさんの娘さんってどんな女の子なんだろう。街では公爵領への行き方とか調べたかったんだけど、楽しみが出来たかも。

 ……もしかしたら、お友達になれるかな?

 私は何のお仕事からするかシーさんと話しながらそんな事を考えていたんだ。


#2


「……炎龍様はかなりデカイですから、驚かんで下さいよ。」

「お前はすこし静かに出来ないのかい。姫さまもこんな奴、シエルに任せておけばよかったんだよ。」

「ベルさん。サラマンダーくんも他のみんなに会いたいみたいだから、やっぱりお留守番はダメだと思う。……サラマンダーくん。炎龍さんってどれぐらい大きいの?」


 私とベルさん、サラマンダーくんは家から西にしばらく歩いた所にある温泉の“湖”に向かっている。

 ベルさんは木々の枝を渡りながら、サラマンダーくんは私の肩の上をうろちょろしながら、私達は森を進んで行く。

 そして、サラマンダーくんは久しぶりの森だからか良く喋る。ここに来るまでの冒険談とか、元の火山での生活ぶりとか。

 シーさんと一緒に動物小屋に行った時、炎龍さん会いに行くって言ったらサラマンダーくんもついて行きたいって言ったんだよね。

 ちなみに、シーさんは家で留守番している。


「どれぐらいって言われると困りますわぁ。ただ、そうですね。自分らみたいにちっこい体だと炎龍様の体を登るのに1日はかかりそうな位ですかね。」

「……うーん想像つかないよ。」


 大分、温泉に近づいてきたけど木が邪魔して頭の上の空しか見えないんだよね。

 木に登れば見えると思うけど。

 ……温泉特有の匂いが漂ってくる。

 そろそろ、温泉が見えてくるはず。

 ここの温泉って大きな湖みたいになっているんだよね。火山に住んでいた魔物さん達には居心地良いらしく、南の火山帯の皆さんに貸してある。

 夜空の下で入るお外の温泉は好きだけど、暫くはしょうがない。

 ちなみに、ここから家まで温泉を引いているのでお風呂にはちゃんと入れる。

 温泉の入り口付近まで来ると木の根本でキラリと光が反射する。

 よく見てみると、亀さんがお昼寝をしていた。

 亀さんは亀さんだけど甲羅にいっぱい宝石を貼り付けた亀さん。

 私達が近づく音に気付くと首を伸ばして辺りを見回す。


「おお、魔女の姫様とベル様。お久しぶりです。お待ちしておりました。サラマンダーの小僧も元気になったか。」

「亀さんも元気だった?」

「はい。姫様。お陰様で大分甲羅の石が増えました。」

「亀の父さんも久しぶりですな。そりゃもう毎日炎の魔石を食べさせて貰ってるんで大分元気になっとります。」

「はっはっは。そりゃ直ぐに元気になるわ。姫様もありがとうございます。」

「うん。」

「はぁー。亀もお喋りでしてないで、さっさと案内しな。」

「おっと、すいません。……皆さんこちらです。」


 私とサラマンダーくんがその場で亀さんと話をしていたら、ベルさんが少しイライラして声を掛けてくる。

 ちなみにサラマンダーくんは会話中に私の肩から亀さんの甲羅に乗り移っている。

 この亀さんも一時期動物小屋に居たんだよ。

 人に甲羅を傷つけられたのと、サラマンダーくんみたいに魔力不足で甲羅の宝石が殆ど無くなっていたんだよね。

 この亀さんの仲間も人の間で乱獲されている。

 私とベルさんは亀さんと亀さんの甲羅に乗ったサラマンダーくんのあとを追って温泉へ向かう。

 ちなみに亀さんは亀だけど別に歩く速さは遅くない。


「そろそろです。」


 亀さんのそう言う声が聞こえると森の切れ目が見えてくる。そして、すぐに視界が開ける。

 ……

 …………?

 ………………!!

 太陽の眩しさに慣れた後、いつもと違う風景に首を傾げ、何が違うか分かると凄く驚く。

 温泉の湖の辺りに記憶にない黒い山が出来ていると思ったら、顔があるんだもんね。

 びっくり!!


「……あの黒い山みたいのが炎龍さん?」

「そうです。さて、炎龍様の所に向かいましょう。」


 私は無言で頷く。

 炎龍さんの所に向かう間、サラマンダーくんも含めてみんな無言だった。

 ほとんど視界が炎龍さんで隠れる位まで近づくと炎龍さんがこちらに気付く。

 そして、ゆっくりとこっちに顔を向ける。


「んっ。どうした炎龍?」


 すると、不思議な声が炎龍さんの真下から聞こえてきた。

 頭に直接響くような不思議な声。

 声がした方をみると、真っ白い小さなドラゴンさんが炎龍さんを見上げている。

 一目惚れってこう言う事を言うのかも。

 この時の私はこの真っ白な可愛いドラゴンさんの事以外頭から消えてた。

 周りのみんなが止めていたらしいけど私の耳には入らず、真っ白なドラゴンさんに駆け寄る。

 すると、ドラゴンさんがクイっとこちらに顔を向ける。


「……と、お主は?」

「あの、ドラゴンさん!」


 私とドラゴンさんの声が被ってしまう。

 ……どうしよう。

 そう思っていると、ドラゴンさんが口を開く。


「お主が先で構わん。」

「うん。あの、ドラゴンさん! お友達になって下さい!!」


 私は精一杯手を前に出して頭を下げる。


「……もう一度言って貰えるか?」

「お友達になって下さい!」


 頭を下げたままもう一度言う。

 ……静かなまま時間が過ぎて行く。

 うーん。いきなり過ぎたかな。

 少し心配になり始めたら、またドラゴンさんの声が聞こえてくる。

 すこしだけ愉快そうにしている声。


「……“お友達”とな、“お友達になりたい”とは、お主も面白い事を言うの。良し、暫し待て。」


 ?

 不思議に思って、顔を上げるとドラゴンさんが居た場所には真っ白なワンピースを着て、長い真っ白な髪と金色の瞳をした私と同い年くらいの女の子が立っていた。


「……こんなもんかの。『汝の名を答えよ。』」


 女の子は私が出していた手を握ると私の名前を聞いてくる。


「私の、『私の名前はアルフェ。あなたの名前はなんて言うの?』」


 だから、私は答える、お母さんがくれた私の名前。


「『我の名はエルリン。』エルと呼ぶといい。」


 私とエルは手を握りながら笑顔になる。

 やった! 初めてのお友達が出来た!

 ウーちゃんさんやベルさんとも仲が悪い訳じゃ無いけどやっぱり、お母さんの眷属だから友達って訳にはいかない。

 シーさんもシーさんで自分から一歩引いた感じだし。

 魔物さんや普通の動物さん達も基本は自然の生き物でお友達にはなれなかった。

 ……嬉しいな。


「そろそろ、良いか?」


 でも、そう言う誰かの声が聞こえて私とエルは音圧で吹き飛ばされる。

 私はエルと握っていた手を離すと気を失ってしまった。


#3


「姫さま、大丈夫かい?」


 気付くと人間の姿のベルさんに抱えられている。よく見ると、身に付けていた光と闇、聖術、そして風の護符が淡い光を放っている。身代わりの護符は発動してないから死んでしまう程では無いけどかなりのダメージがあったみたい。


「うん、大丈夫、護符が守ってくれたみたい。」

「……ふぅ。姫さま。今回は無事だったけど、気をつけておくれ。いきなり炎龍に飛び出して行った時はヒヤヒヤしたよ。まぁ、理由はあったようだけどね。」

「ごめんなさい。」


 ベルさんは少し怒っている。

 でも、大きなドラゴンさんの危険性は分かった。

 話しかけられただけで死にそうになるなんて凄い!

 ……!!


「ベルさん!エルは大丈夫なの?」

「エル?……あーあ、“あの方”はあそこだよ。」


 ベルさんが指差す方を見ると少し離れた所でエルが地面の何かをペシペシ蹴りながら何か喋っている。


「……炎龍、お主は馬鹿なのか? 儂とアルフェの体の大きさを考えよ。念話を使えば良かろうに愚か者め!」


 立ち上がって近付いて見ると、エルが蹴っていたのは黒い蛇さんだった。驚いて、すぐに止めに入る。


「エル! 蛇さんいじめちゃダメだよ。」

「……んっ? アルフェかの? ……はぁー。お主はこやつの所為で気を失ったんじゃ。それに蹴りを入れたぐらいで死にはせん。小さくなろうが龍は龍じゃ。」


 ?

 私は周りを見渡す。何か足りないような?

 ……!

 私はしゃがみこむと蛇さんの顔に目を合わせる。


「……もしかして、炎龍さんですか? 」


 目の前の蛇さんは首を何度も振ってアピールする。

 ……うーん。どうしてこんな事になっているんだろう?


「ねぇ、エル。何で炎龍さん、こんなに小さくなってるの? 」

「ふん。こやつに小さき者達の気持ちを分からせる為じゃ!」

「だからって、いじめるのは良くないよ。炎龍さんも元の大きさに戻って良いよ。ここまで小さいと逆に話しづらいよ。」


 黒い小さな蛇になっちゃった炎龍さんはエルの方を向くと首を傾げる。

 エルはため息を吐く。


「……分かったのじゃ。じゃが大きくなっても元の大きさはダメじゃ。わしらと同じ位の大きさまでにするのじゃ。」


 それを聞いた炎龍さんは軽く首を縦に動かすとシュルシュルと大きくなって行く。

 私達と同じくらいの大きさになると炎龍さんが私の方を向く。


「魔女の姫よ。先程は申し訳なかった。しかし、今回は何用で?」

「ちょっと待ちな。炎龍、あんた聞いていないのかい?」

「……ベル殿か? いや、私は何も聞いていないが。」

「どう言う事なんだい全く。そこの亀ちょっとこっちに来な。」


 いつのまにか私の後ろに立っていたベルさんが遠巻きに様子を伺っている亀さんを呼び寄せる。

 甲羅に乗っているサラマンダーくんと一緒にやってくる。


「炎龍さま。私はベル様よりこのサラマンダーが大分回復した為、それについて報告をしたいとの旨を受け取り火竜様にお伝えしました。火竜様より何か聞いていないのですか? 」

「…………おお、思い出した。何か言ってたな。聞き流していた。まぁ良い。お前がそのサラマンダーだな。……ふむ、ほぼ回復しておる。まぁ、この後の旅には支障なかろう。」


 すこし抜けている炎龍さんはサラマンダーくんから目を外すと、今度は私とベルさんに目を向ける。


「姫とベル殿、今回の保護には感謝する。数日中には此処を引き払おう。さて、幾許かの感謝と先程の非礼の詫びとしてこれを受け取って欲しい。」


 すると、炎龍さんと私達の間にすごく熱そうな赤い火の球が現れる。

 良く見て見ると何かが不思議な模様を描きながら対流している。時々、赤い何かが吹き出して球に戻って行く。

 なんか、例の記憶の太陽の何かの図に似てる気がする。……“コロナ”とか。

 でも、凄く綺麗。

 赤い火の球に見とれていると、みんなの声が聞こえてくる。


「炎龍は、余程此処での待遇に感謝しているようじゃな。」

「……他では厄介者でした故。此処で治療を受けられなければ死んでいた者が出たでしょう。」

「しかし、こんなもんどうするんだい。姫様でも触ることすら出来ないよ。」

「確か、そこの亀が治療の礼に魔石化した金剛石の原石を渡している筈だ。それに封じればよい。」


「……あのこれって何?」


 話の切れ目に質問するとみんな、ぽかーんとしている。

 少しするとベルさんが咳をして説明をしてくれる。


「ゴホゴホ。姫さまは実物を始めて見るんだったね。これは、“純粋な”炎の魔力の塊だよ。」

「もっと言えば、これは地の最深部、熱の源の一部を取って来たものだ。これを使えば、大陸全土を溶岩で覆う事も容易いだろう。」


 炎龍さんの補足説明に背筋がゾワっとしたけど、使い方を間違えると大陸を消せる“程度”の物なら危険な素材の保管庫に幾つかある。

 でも私なんかじゃ絶対に扱えない物なので、間違っても大陸が消し飛んだりしない。その前に私の命が消し飛ぶと思う。

 ……この、火の球もベルさんと炎龍さんの説明の通りの物だと保管庫行きだね。


「とりあえず、明日また例の金剛石を持ってくるからそれまで、その物騒な物を仕舞っておくれ。」

「ふむ、分かった。明日だな。そう言えば、サラマンダー。お前はどうする?」

「そうですね。姫さん達が明日も此処に来る言うんでしたら私も一旦戻りたいですわ。私も連中に別れの挨拶ぐらいはしときたいです。」


 ベルさん炎龍さんサラマンダーくんの順に喋る。私はエルの方をジーと見る。


「……なんじゃ?」

「エル。うち来ない? 『エル、あなたを私の家に招待します。』」


 私はドラゴンさんお友達計画に引き続いて、お友達をお家に招待計画を発動してみる。

 じっとエルの顔を見ているとエルは笑顔になる。


「やはり、面白い奴じゃのアルフェは。……良かろう。『我、エルリンは招きに応じ、汝の家に出向かん。』」


 やった!私はエルの手を握ると私の家まで駆ける。

 後で追いかけて来たベルさんと家に居たシーさんに怒られたけど。

 そして、初めて“相談”する事にした。

 私だけで抱え込むの辛かったんだ。


 まだ、“小さな”ドラゴンのエルに話すべきでは無いのかもしれないけど。


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