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第57話 王女様と金竜の姫君

§1


「……さて、これで最後です。」


 私は自分の首輪に触れます。

 次の瞬間、首輪は砂になってしまいます。


 ……これで全員の首輪が取れました。

 私はアレクに目を向けます。


「……次は鉄格子だ。皆、離れていろ。」


 アレクは鉄格子に向かうと何かの細い紐を巻き付けていきます。


「……吹き飛ばせるんじゃないの?」

「黙っていろ。罪人女。」

「……私、ローザって名前があるんだけど。」


 アレクはローザの声を無視してそのまま作業を続けます。


 ……

 暫くすると、作業が終わったのかアレクは私達の所まで避難してきます。


「……皆、反対側を向いて丸くなれ。ちゃんと耳も塞げ。…………準備出来たな。数を数える。3、2、1、0。『発破!』」


 ばち!!!!!…………がたん!


 大きな音がしたと思うと床に何かが落ちる音が聞こえます。


 ……

 目を開けて振り返ると鉄格子には大きな穴が開いています。


「よし、逃げ……。」

「……何事だ。」


 アレクが喋ると同時に誰かの声が聞こえてきます。

 見ると鉄格子の外でローブを着た男が眉を顰めながら私達の事を見ています。


 ……見つかってしまいました。


「……首輪が全て取れている。どう言う事だ? まだあの隷属術は“一般的”では無いはずだが。」

「……魔術師様!! 一体何が?」


 大きな音を聞きつけたのか男達が次々とやって来ます。


「子供の中に魔術の心得がある者が居たようだ。……確かお前が短刀を持ってきたな?」

「へぇ? はい。俺です。」

「短刀を持ってたのは誰だ?」

「……それはアレです。」


 私の短刀を奪った男が私を指差します。


「……分かった。それと……あの白髪の娘は“協力者”に献上する。」


 ローブを着た男はエルちゃんを指差します。


「後は皆殺しにせよ。証拠は残すな。」

「……本気ですか?」

「ああ。でないとお前達が死ぬぞ。」

「……了解しました。」


 …………えっ。

 頭が真っ白になります。

 …………皆殺し。

 ……


「…………大人しくしろよ?」


 突然、誰かに腕を掴まれ視界が戻ります。

 そして、私の目にはナイフを突き立てられるミーシャの姿が目に映ります。


『いっやぁーーーーー!!!!!!』


 次の瞬間、視界が金色に染まりました。

 ……


 …………


「ふむ。少しシエラにはきつかったのう。」

「……そうね。でも、シエラは“初めの羽ばたき”を終えたわ。竜王様に立ち会って貰えるなんて光栄な事よ。」

「……お主。本当にそう思っておるのか? わしの扱いが雑な気がするのじゃが……。」

「…………本当よ?」

「はぁ。まあ、良い。……シエラは羽を広げた“だけ”じゃからまだ羽ばたいてはおらんがの。」

「そうね。それはシエラが起きてから……と言いたいのだけど、シエラ。起きてるわね?」


 ……気付かれてしまいました。

 ゆっくりと目を開けます。

 私はお母様に膝枕をされていて、シュバインを肩に乗せたお母様が私を覗き込んでいます。


「……お母様。」

「何かしら?」

「ごめんなさい。」

「……そうね。でも、私も謝らないといけないわね。」


 私はお母様に首を振ると立ち上がります。

 ……?

 何かがおかしいです。


 ……あっ! 何かが背中から生えています!

 頑張って背中を見ると金色の翼が生えています!

 …………動きます。

 ……服は破けてしまったのでしょうか?

 首を傾げているとエルちゃんの笑い声が聞こえてきます。


「はぁ! はぁ! はぁ! 良かったのう、シエル。これでお主は名実共にシエラの母親じゃな!」

「そうね。……さてと、後処理をしましょう。」

「じゃな。」


 ?

 ……!

 皆は無事なのでしょうか!

 私ははっとして周りを見ます。……これはどう言う事でしょう?

 私とお母様、エルちゃん以外は皆、男達も含め眠っています。


「皆、お主の“聖性”に当てられて気を失ったのじゃ。……まぁ、あの魔術師は何かの防御術を仕込んでおったのか、何処かに飛んで行ったがの。」

「……大丈夫かしら?」

「ミィルが結界を張っている以上、この街からは出ておらん。駆り立てたらよいのじゃ。」

「そうね。なら、早く捕まえに行きましょう。」


 そう言って、お母様は鉄格子を殴りつけます。

 …………鉄格子が吹き飛んでいきました。

 驚いているとお母様が私に振り返ります。


「……あら? 今の貴女なら、これくらいは出来るわよ?」


 私はそんな事はしません。お母様。


 首を横に振っているとシュバインが私に駆け寄ってきます。

 私はシュバインを拾い上げると肩に乗せてあげます。


「ありがとう。シュバイン。」

「ふむ。わしはシエルについて行くがお主はどうするのじゃ?」


 エルちゃんがじっと私を見てきます。

 ……そうですね。

 私は周りの皆に目を走らせます。


「……ここに居る皆は平気なのですか?」

「ああ、それならすぐに領軍がやって来るはずよ。」

「では、私も行きます。」


 皆を殺す様に命じたあの男は許せません。


「……では行きましょう。」


 お母様はそう言うと歩き始めます。

 ……私はお母様の後ろを歩きながらエルちゃんに声を掛けます。


「……竜王様?」

「あぁ、そうじゃの。……アルフェには内緒じゃ。」


 エルちゃんは口元に人差し指を当てます。


「……ふふ。分かりました。秘密ですね。」


 私も口元に人差し指を当てます。


 少しだけ得意な気持ちになりました。


§2 ハイゲン領都 上空

 夕日を浴びながら寝そべっていると誰かに突かれる。

 ……何かしら。

 目を開けると小さな飛竜が私を突いている。


「……金竜さま。金竜さま。どうして雄なのに女の子なの?」

「…………趣味よ。」


 ……なんか騒がしいわね。

 失礼な飛竜から目を逸らすと周りを見渡す。

 私が張った結界の上に数十の飛竜たちが群がっている。


「きゃー。何これ!」

「空なのに硬い!」

「面白い!」

「滑るー!」


 ……これは、街の人間が見たら発狂ものね。

 “普通”の飛竜でも人が目にする魔物の中では最上位に近い。

 こんな数の飛竜に襲われたらどんな国の都でも落ちる。

 街からの視界は遮られているはずだから大丈夫だとは思うけど。

 ……珍しさで集まったのかしら?


 私の結界で遊んでいる飛竜達を眺めていると突然、体全体の鱗が逆立つ。

 ……はぁ。

 後ろを振り返ると目を丸くした竜王様が飛竜達を眺めていた。


「……竜王様がいらしたのね。」

「うむ。全て終わったぞ。……しかし、あやつらは何じゃ?」

「多分、遊んでいるのではないかしら?」

「はぁ。……暫し待て。わしが散らしてくるのじゃ。」


 竜王様はドラゴンの姿に戻ると飛竜達に飛び込む。


「あっ! 竜王さま!」

「竜王さまだ!」

「竜王さま! 遊ぼ!」

「きゃー! 竜王さま!」


 飛竜たちは竜王様と“遊んで”いたのだけど、少し経つと森に帰って行った。

 竜王様は私に近付くと例の白髪金眼の幼女の姿になる。


「さて、結界を解除するのじゃ。」


 ……そうね。素直に言った方が良いわね。


「……竜王様。実は“空”を飛ぶ自信が無いのよ。」


 最近は殆ど人の姿をしているから、ドラゴンなのに少し空が怖いのよね。

 私の言葉を聞くと竜王様は呆れた顔をする。


「全く……わしに掴まれ。」


 竜王様は私に手を伸ばす。

 私は竜王様の手を取ると鱗を回収する。

 次の瞬間、ふんわりと体が“浮き上がる”。


「……うむ。上々じゃ。」


 隣を見ると竜王様は見えない翼で風を受けている。

 ……こう言うのも良いかもしれないわね。


「さて、ミィルよ。帰るぞ。」

「ええ。」


 私と竜王様は空を駆け出した。

 ……


 あら?

 3人の人影がギルドの文官棟の屋上にいるのが見えてくる。

 少し目を細めながら此方を見上げるシエル。

 “金色の翼”を広げて苦笑いをしているシエラ。


 そして、夏の風に長い銀髪をたなびかせ腰に手を当てたアルフェ様は頰を膨らませながら竜王様を睨み付けている。

 ……これはかなり怒っているわね。

 隣を見ると竜王様は目を泳がせている。


「……アルフェ。かなり怒っておるのじゃ。」


 これはこれで面白いわ。

 空を飛ぶ事に慣れた私は及び腰の竜王様を引きずりながら屋上に降り立った。


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