第55話 ドラゴンの娘と竜王様 Ⅱ
§1
「……エルちゃん。どうして?」
エルちゃんはアーちゃんと一緒にミィル様の所へ行っていた筈です。
「んっ? なんじゃ?」
エルちゃんは飴を舐めながら首を傾げます。
……
えーっと。
「……シエラ。この子って知り合い?」
何と言えば良いのか悩んでいるとミーシャが声を掛けてきます。
私は頷きます。
「はい。……私のお友達です。」
「へー。……エルだっけ? 何で飴持ってるの?」
ミーシャはエルちゃんの飴を見ます。
「……お主の名は?」
「ミーシャだよ。」
「ふむ。ミーシャよ。この首輪を付けて、この馬車に乗れば飴をくれると言われてのう。つい釣られてしまったのじゃ。……お主らもそうなのじゃろ?」
……エルちゃん。
ミーシャは私の耳に口を当てます。
「……あの子。大丈夫なの?」
周りを見るとミアは呆れた顔をして、アレクは……? 何故か顔を赤くしています。
……そうですね。
私はミーシャに軽く首を横に振ります。
「大丈夫です。……エルちゃん。この馬車は人攫いの馬車です。」
そう言葉を掛けると、エルちゃんは目を丸くします。
「なんじゃと。……アルフェに呆れられてしまうのじゃ。」
エルちゃんはシュンとなります。でも、すぐに私を見てきます。
「……しかし、ならば何故お主らは“逃げて”おらんのじゃ?」
「人攫いの隠れ家にまだ子供達がいるらしいので……。」
「なるほどのう。では、これはまだ“外す”べきでは無いのう。」
エルちゃんは首輪を指で弾きます。
……エルちゃんも外せるのですね。
ドラゴンのエルちゃんと“同じ”。
私はどうして良いか分からなくなります。
“お母様”はお母様なのでしょうか?
悩んでいるとミアの声が聞こえてきます。
「……? もしかして、首輪外せるの?」
「うむ。そうじゃな。」
顔を上げるとエルちゃんがミアに頷いています。
すると、アレクが咳払いをします。
「……ミーシャ。お前、気づかないのか?」
「えっ。何?」
「あの子、昨日の魔女様の集団の中に居たぞ。」
「えっ!」
ミーシャがぱっとエルちゃんの方を向きます。
「ふむ。確かにお主らの事は見かけたのう。……しかし、シエラも居ったぞ。」
……あっ。
次の瞬間、ミーシャが私の肩を掴みます。
「やっぱり! 魔女様の弟子なんだ! もしかして、首輪が外せるのも弟子だから?」
ミーシャが私を激しく揺すります。
……少し気分が悪くなってきました。
エルちゃんはそんな私を見ながらミーシャに声を掛けます。
「……いや。わしらは弟子でないぞ。あの中で“魔女”なのはアルフェだけじゃ。」
ミーシャは手を離すとエルちゃんに近付きます。
「そのアルフェ様と会える?」
「まぁ、シエルが許せばのう。……後、アルフェの許可があるまでは名は口にせん方が良いぞ。」
「本当に魔女様ぽい! …………シエル様って誰?」
「? シエラの母親じゃ。……確か、ここの領主の息子と結婚したとか言っておったのう。」
ミーシャは私に近付こうしていましたが、エルちゃんの最後の一言で固まります。
「……えっ。シエラ……様って“そう”なの……ですか?」
……そうですね。
私はこくりと頷きます。
「……ミーシャ。こっちに来い。」
「うん。お兄様。」
それを見たアレクはミーシャを呼び寄せると揺れる馬車の中、さっと跪きます。
「……俺は大法官である父ルカの息子、アレク・リーナ・チェルノです。」
「私は妹のミーシャ・リーナ・チェルノ。」
……えっと。こういう時は確か。
私は二人に話しかけます。
「……アレクとミーシャですね。顔を上げなさい。」
2人は下げていた頭をもう一度、上げます。
……合っていたみたいです。
私はもう一度、アレクとミーシャに声を掛けます。
「……えっと、さっきまでと同じ様にしてください。」
「分かりました。」
「……うん。」
2人が立ち上がると何かを呟いているミアに目を向けます。
「……領主様。領主様。領主様。」
……何故か。だんだんと顔が青くなっています。
私は彼女を抱きしめてみます。
「大丈夫ですよ。」
「……領し……えっ! シエラ……様!」
「はい。」
「……私、殺されない?」
……何故、その様な事を考えたのでしょうか?
私は首を横に振ります。
「……殺されないの。」
「はい。殺されません。」
ミアは落ち着いたのかため息をつきます。
「……シエラ様。大丈夫。」
「はい。」
ミアを放すとアレクが私に話し掛けてきます。
「……しかし、何故シエラ様はあの様な所に?」
……どうしましょう。
悩んでいるとエルちゃんの声が聞こえてきます。
「……大聖堂の司祭がシエラの叔母じゃろ? 1人で会いに行こうとしたのじゃ。」
……えっ。
何故かエルちゃんは私が大聖堂に行こうとしていた事を知っています。
「……あー。司祭様って確か領主様の子供だったね。だから、シエラ様は大聖堂に行こうとしてたんだ。」
「……ミーシャは知ってたのか。」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「聞いてない。」
ただ、ミーシャとアレクは納得しているみたいです。
エルちゃんに目を向けるとエルちゃんはふんわりと笑います。
……何なのでしょうか?
首を捻っていると馬車が止まります。
「……お前達。早く出ろ。」
馬車の中に光が差込ます。遂に人攫いの隠れ家に着いた様です。
人攫いの男達に一旦、首輪を外され建物の中に連れ込まれました。
……
また新しい首輪を付けられた私達はしばらく歩きます。
すると声が聞こえてきます。
「……ぎり者! 裏切り者!」
「騙しやがって!」
「絶対許さない!」
「死ね!!」
見ると鉄の格子の中では1人の男の子が他の子供達に暴力を振るわれていました。
§2#1 人攫いのアジト
ハイゲン領都。
領軍や“由緒ある”武力ギルドの施設が集中する地区と魔の森側の門から伸びる大通りに挟まれた場所。
“柄の悪い”武力ギルドの人員が幅を利かせ、娼婦が夜な夜な客を求める猥雑な地区では領軍の兵や魔の森帰りの人々を対象にした雑多な商売がひしめき合っている。
さて、その一角にハイゲン領内最大の闇ギルドのアジトがある。
事務室にて、恰幅の良い身なりを整えた男が眼前のローブを着た線の細い男を鋭く睨み付けている。
しかし、その男はそれを気にした様子もなく言葉を続けていた。
#2
「……で、やはり失敗した様子だな。話によると、あの者共は領軍に拘束されているらしい。」
「……100人だぞ。お前は分かっているのか?」
「知らんな。雑魚が何人捕まろうと知った事では無い。」
……糞垂れが。
目の前の男を殺してやりたいが、コイツと俺は一蓮托生だ。
「ちっ。……で、“今回は”転移陣は使えるのか?」
「あぁ、それは勿論。」
転移陣は全て領軍の管理下だが、この男は何処かに伝手がある。
だが、3日前、攫ったガキ共を城壁の外に出す為に使う予定だった物が突然、中止になった。
……伝手より上位の者による割り込みらしいがな。
男を睨み付けていると扉から音がする。
「……かしら。良いですか?」
「あぁ、入れ。」
「……えっと、攫ったガキが何かの紋章が入った短刀を持っていまして。」
……面倒だな。
「……ちっ。そこら辺に投げておけ。」
「へい。……魔術師様も。」
「あぁ。」
扉が締まると男がにやけた顔をしながら短刀を弄ぶ。
「……見てみろ。これは“使える”。」
「ちっ、何だ…………まさか。」
コイツ、“これ”が“使える”だと。
……正気か。
「ああ、私は“姫君”の様子を見てくる事にしよう。……もう他の連中は“要らない”のだが。」
「……好きにしろ。」
「ふむ。では。」
目の前の男が出て行くと俺は頭を抱える。
……一番、糞垂れなのは俺だな。
そもそも最初にアイツの“言葉”を聞いたのが間違いだった。
最早、取り返しは付かない。




