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第54話 ドラゴンの娘と竜王様 Ⅰ

§1


「……気付かれてはいないようじゃな。」


 門を出て後ろを振り返っても建物からは誰も追いかけて来とらんのう。

 ……成功じゃ。


 せっかく人の街に来たのじゃ。

 アルフェと一緒も良いが、一人で歩くのもしてみたいのじゃ。

 しかし、何処に行こうかのう?

 適当に道なりに歩いておると、フードを被った怪しい者が向かって来ておるのじゃ。

 ……っと、あれはシエルじゃな。


 わしは奴の前に出るのじゃ。


「……お主、何しておる?」

「……あなた様こそ何をしているのかしら?」


 ……ふむ。シエルにしては少し焦ってる気がするのう。


「もしや、シエラの事かの?」

「……何故、分かったのかしら?」

「感じゃ。して、何があったのじゃ?」

「はぁ、……シエラが居なくなったのよ。」


 なるほどのう。

 しかし、シエルにしては珍しいのう。シエラを害する存在なんぞそうそう居ないとは分かっておるはずじゃ。

 しかも、“試練”としては丁度良い。

 ……シエルも母親と言う事じゃな。

 わしはシエルに頷いてやるのじゃ。


「よし。わしも探すぞ。」

「要らないわ。」

「! なんでじゃ!」

「はぁ。さっさと姫様の所へ帰って頂戴。」

「知らん!」

「! 竜王様!」


 わしはシエルから逃げ出すのじゃ。

 ……わしが本気で逃げたらシエルでは捕まえれんしのう。

 案の定、奴はすぐに諦めたのじゃ。

 ふん。シエルなど知らん。


 ……

 良い匂いがしてくるのう。

 わしは匂いがする方へ向かって歩いて行ったのじゃ。


§2#1


「……ミーシャはなぜあんな所にいたのですか?」


 足が止まると同時に聞いてみます。


「ああ、お兄様とかくれんぼしてたんだ。」

「かくれんぼ?」


 首を傾げるとミーシャが目を丸くして立ち止まります。


「えっ、かくれんぼ知らないの?」


 私は頷きます。


「えっと、鬼が隠れ……。」

「……助けて!」


 ミーシャの言葉に誰かの声が被ります。

 顔を動かすと女の子が路地の先から私たちに向かって走って来ています。


 ……?

 よく見ると女の子の首に首輪のような物が付いていました。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 女の子は立ち止まると息を何度も吐きます。


 ……

 私は女の子の背中を撫でます。


「大丈夫ですか?」

「はぁ、……うん。」

「どうしたの?」


 ミーシャに聞かれた女の子は泣きそうな顔をします。


「……私のせいで男の子が捕まっちゃったの。」


 ……捕まった?

 どう言う意味でしょうか?

 私は首を傾げます。

 すると女の子は私たちを見ながらお話を続けます。


「私、お外で遊んでたら知らない人に捕まってこの“首輪”を着けられちゃったんだ。……今日ね。私、お貴族様の所に連れて来られたんだけど男の子が助けてくれたの。そしたら、……」

「その男の子が代わりに捕まったって事?」


 ミーシャが言葉を続けると女の子が頷きます。

 ……ミィル様が言っていましたね。“行方不明になっている子供がいる”と。

 これは見過ごせません。

 私は女の子の手を取ると言葉を掛けます。


「……ごめんなさい。私、シエラの名においてその方をお救いします。」


 ……そうですね。まずは何となく“不快な”その首輪を外しましょう。

 私は女の子に首に手を伸ばします。

 でも、女の子はびっくとなって私から離れます。


「? どうしたのですか?」

「……これって、“奴隷の首輪”なの。」


 ? 良く分かりません。


「外すだけですよ?」


 私はさっと手を伸ばして首輪に手を伸ばします。

 すると触れた瞬間、首輪が砂みたいになって女の子の首から流れ落ちてしまいます。


 ……

 女の子の服が砂で汚れてしまいました。


「……ごめんなさい。」


 女の子を見ると、服が汚れたのも気にせずに首を摩っています。


「……えっ、首輪がない! ありがとう!」


 女の子が私に飛び付こうとします。

 でも、ミーシャに止められます。


「……! だめだめ! シエラが汚れちゃう!」

「あっ! ごめんね。」


 女の子は服を叩いて払うと私に抱き付いてきます。

 私も抱きしめ返します。


 ……

 しばらくするとミーシャの声が聞こえてきます。


「ねぇ、あなたの名前ってなんて言うの?」

「私? 私はミア。」

「……ミア。早く、その男の所行こ?」

「……大人の人を呼ばないの?」


 女の子は私から離れるとミーシャを見ます。


「……昨日からみんなお城に行ってるの。」


 ミーシャは肩を落とします。

 ……仕方ありません。

 私は二人を見回しながら声を掛けます。


「……衛兵を呼びましょう。」

「衛兵様? ……でも、子供の言うことなんて聞いてくれるかな?」


 女の子は首を傾げます。


 ……

 私はポケットから紋章付きの短刀を取り出します。


「……これを見せれば、」

「へぇー、良いもの持ってるねぇー。」


 !

 誰かが突然、私の手を掴みます。

 振り返ると男がにやにやしながら私の手を掴んでいます。


「……放して下さい。」

「衛兵を呼ばれると困るんだよね。……嬢ちゃん。周り見てみな。」


 周りを見るとミーシャも女の子も捕まっていました。


「やめて! もう戻りたくないよ!」

「手間取らせやがって……? おい、どう言うことだよ。首輪、無くなってるじゃねぇか!」

「放してよ!」

「大人しくしろ!」


 私はきゅっと唇を噛みます。

 男は私の手から短刀を取り上げます。


「大人しくしていれば死なないで済むぜ。……っと、これはどこの紋章だ? ……後で、かしらに渡すか。」

「兄貴。こいつの首輪が取れてるみたいです。」

「んっ……本当だな。こりゃ、今日の引き渡しは中止だ。ガキども連れて引き上げるぞ。」

「旦那にはなんて説明します?」

「……衛兵に見つかりそうになったとでも言っておけ。」

「分かりやした。」


 ……どうしましょう。

 私達は人攫いに捕まってしまいました。


#2


「あっ! お兄様!」

「アレク!」


 ミーシャとミアが馬車の中に先に居た男の子に駆け寄ります。


「? ミーシャなんで! それにミアも!」


 男の子は2人を抱きしめます。


 ……はぁ。

 私は適当に座るとため息を吐きます。

 人攫いに捕まった後、“首輪”を付けられた私達はこの馬車に放り込まれました。

 拘束用らしく、この馬車から離れようとすると激痛が走るそうです。

 ミアが付けていたのは隷属用で人攫いのアジトにしか予備が無いらしく、ミアも私達と一緒に馬車に放り込まれました。


 ……他にも囚われている子供達が居るそうです。首輪が外せる事は気付かれないようにしましょう。でも、この首輪も気を抜くと外してしまいそうです。

 私は外れ“ない”ように念じながらそっと首輪を撫でます。


 !

 馬車が何かを引いて飛び上がります。

 ……この馬車は乗り心地が非常に悪いです。

 馬車が動き出してもじっと座っていると、ミーシャが男の子を連れて私達の所にやってきます。


「えっと、シエラ。お兄様だよ。」

「アレクだ。よろしく。」


 シエラのお兄さん、アレクは私の手を差し出します。

 私はアレクの手を取ります。


「シエラです。」


 アレクは私と握手すると小さな声を出します。


「……首輪を外せるそうだな。」


 私はこくりと頷きます。


「……人攫いの所に居る子供も救う気です。」

「成る程、……分かった。私も魔術の心得がある。いざという時は手伝おう。」


 アレクは厳しい顔をして深く頷きます。


「……お兄様。格好付けすぎ。」


 でも、ミーシャの一言でアレクは顔を赤くします。


「なぁ! ミーシャ、お前……。」


 すると、ミアの声が聞こえてきます。


「アっ、アレク様はカッコ良いです!」

「……ミア。」


 ミーシャは呆れた顔で少し赤くなったミアを見ます。

 ……こう言うのも良いかも知れません。

 お屋敷には同い年の子は居ませんでしたし、他の貴族の子と関わる機会もまだありません。

 3人の様子を眺めていると突然、馬車が止まります。


「着いたのか?」


 アレクが一言呟きます。

 次の瞬間、馬車に光が差し込みます。


「……仲間だ。仲良くしろよ?」


 そして、すぐに扉は閉まります。


 ……どうして?

 私達はその子をじっと見ます。


「……んっ? シエラ、こんな所におったのかの。シエルが探しておったぞ。」


 それは、キャンディを両手に持ったエルちゃんでした。


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