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第52話 ドラゴンの娘と王女様 Ⅱ

§1

 ……はぁ。シエラちゃん、震えてたね。大丈夫かな?

 私は内心、ため息をつく。


「アルフェお嬢様。」

「うん。」


 扉を開けてくれたサリカさんの隣を抜けて部屋に入る。


 ……

 私は暗い顔をしているシエルさんに目線を合わせる。


「シエラちゃんはリフィアさんが連れて行ったよ。」

「そう。」


 ……シエラちゃんのチョコレートドリンクそのままだね。

 私はテーブルにぽつんと置かれたグラスを見ながらアンジェさんに引かれた椅子に座る。


「……ありがとう。」

「いえ。では、失礼します。」


 アンジェさん達が部屋を出て行くと隣から軽い物音が聞こえてくる。

 見るとエルが飲み干したグラスを置いてシエルさんを見ている。


「ふむ。シエラはかなり動揺しておったのう。……シエラの分も貰って良いかのう?」

「……構わないわ。シエラには後で持って行かせるわ。」


 シエルさんはエルの目の前にグラスを移動させる。


 ……エル。

 私はシエラちゃんのチョコレートドリンクを飲んでいるエルの事をじっと見る。


「なんじゃ。アルフェの分はまだあるじゃろ?」

「……そうじゃないよ。」


 息を吐くとテーブルの上に目を向ける。

 ……そう言えば、自分も飲んでなかったよ。


 私はグラスを手に取ると口を付ける。……うん。美味しい。

 一旦、グラスを下ろすとシエルさんに目を向ける。


「……さっきのって“幻影”?」

「そうよ。人化は解きたくは無かったのよ。……でも、あそこまで怯えられるとは思わなかったわ。」


 シエルさんは、はぁーと息を吐くとグラスに残ったお酒を一気に飲み干す。


 ……シエルさん。

 私はエルに目配せするとグラスを持ってシエルさんの隣の椅子に移動する。


「……姫様?」

「シエルさん。シエルさんのドラゴン姿ってどんな感じなの?」

「……アルフェ。金竜はかなり大きいぞ。ここの城と殆ど変わらん。」


 !

 ……えっ。それって炎龍さんと大して変わらない気がするけど。

 声がする方に目を向けるとエルがこっちに歩いて来ている。


「……金竜さんってそんなに大きいの?」


 私は目を戻して聞いてみるとシエルさんはこくりと頷く。


「ええ。“金色の竜と囚われの姫君”でもドラゴンがお城を破壊してたわよね? あれって、100年以上前のミィルがローベルツの姫を救い出した時の話なのよ。」


 ……だからミィルさん、図書館から出てきた時あんな感じだったんだ。

 それに、確かにお話の中でも大きな金色に光るドラゴンがお城の中から出てくる場面があったと思う。

 シエルさんにこくこくと頷いているとエルが私に目を向ける。


「……アルフェ。竜族の分類の仕方を知っておるかの?」

「えっと、完全に“神様”な上位と完全に“神様”じゃない下位とその間の中位だよね。」


 “神様”って言っても世界そのものを創れたりしない。出来るのは女神様と12柱の“神様達”の王様だけらしい。……ドラゴンさんだと竜王様かな?

 本当かは分からないけど。

 でも“超越的”ではある。

 例えば、炎龍さんみたいに大陸を滅ぼそうと思ったら出来るみたいに。


 エルは私に頷くとシエルさんに目を向ける。


「うむ。正確には竜王からの“距離”じゃが。……しかし、それは魔女の勝手な区分とも言えるのう。シエルはミィルに次いで“若い”金竜じゃがのう、それでも聖金竜の孫娘なのじゃ。力の上では“あの”若い炎龍よりは上じゃろう。」


 ……へー。よく分からないけど、種としての中位と上位とそれぞれのドラゴンさんの強さは違うって事かな? 確かにエルを見ると分かる気がする。

 じっと、エルを見ているとエルが見つめ返してくる。


「……なんじゃ。」

「何でもないよ。」


 エルから目を離すとシエルさんと目が合う。


「ふふ、そうね。……姫様。少し私達、金竜の話をしましょうか?」


 シエルさんは少し微笑んでいた。

 ……


 §2


「……シ……お嬢…………。……シエラお嬢様、お目覚めの時間で御座います。」


 体が揺すられます。

 目を開けるとリフィアと目が合います。


「シエラお嬢様。奥様より無理に食堂に来られる必要は無いとの事です。」


 ……そうですか。

 私はこくりと頷きます。


「分かりました。リフィア、朝食はここに用意して。」

「畏まりました。」


 リフィアはそのまま寝室を出て行きます。


 ……でも、どうしましょう。

 お父様はお城にいらっしゃるそうですがリフィアにも聞いてみましょう。

 私は体を起こすとガウンを整えます。


「……シュバイン、何処ですか?」


 とんとんとん。


「……! シュバイン! 危ないです。こちらに来て!」


 音のする方を見上げるとシュバインが天幕の上から顔を覗かせています!

 心配しながら見ているとシュバインは器用に天幕を滑り降りて私の手元に歩いて来ます。


「シュバイン。危ないので今度から登らないで。……はい。朝ご飯です。」


 私はポケットからシュバインのご飯を取り出します。

 シュバインは私の手のひらに乗ってご飯を食べ始めます。


 ……可愛いです。

 しばらく、シュバインの背中を撫でます。


 ……

 …………! あっ!

 シュバインは突然、私の腕を駆け登ると私の髪の毛に潜り込みます。


 とんとん。


 少しすると扉を叩く音が聞こえてきました。


「リフィアでございます。よろしいでしょうか?」


 リフィアが朝食を持ってきたみたいです。シュバインは気付いていたのかも知れません。


「はい。いいですよ。」

「シエラお嬢様。失礼します。」


 リフィアは部屋に入るとベッドの上に朝食の準備を始めます。


 ……

 リフィアにお父様の事を聞いてみる事にしました。


「……リフィア。お父様に会いたいです。」

「シエラお嬢様。……申し訳ありません。お会いになる事は出来ません。」


 リフィアは悲しそうな顔をします。

 ……無理を言ったのかも知れません。


「いえ。大丈夫です。少し寂しかっただけです。」

「……申し訳ありません。」


 リフィアはもう一度深く頭を下げます。

 ……自分で何とかしましょう。

 リフィアは朝食の準備をまた始めます。


「……シエラお嬢様。準備が整いました。」


 準備が出来たみたいです。

 私はリフィアに頷くと女神様と魔女様にお祈りを捧げます。


「はい。リフィア。……『女神様、魔女様、今日もまた新たな日を迎える事が出来ました。今日もまたお守り下さい。……日々の糧に感謝して魔力を捧げます。』」


 ……!

 お祈りが終わると料理に“祝福”が降り注いでいます!

 祝福は滅多にありません。……アーちゃんやルシィおば様は別です。

 リフィアを見ると笑顔です。


「シエラお嬢様、今日は良い1日となりましょう。」

「はい!」


 私は早速、ソーセージを切り分けて食べ始めました。

 ……


「……シエラお嬢様。アルフェお嬢様とエルお嬢様が来られたようで御座います。如何なさいますか?」


 隣に控えていたリフィアが扉に目を向けます。

 食後に飲んでいたミルクティーを膝に下ろします。


「……昨日と同じような服に着替えます。」

「お忍びの際にお召しになった服でしょうか?」

「はい。」

「畏まりました。」


 昨日はエルちゃんと色違いの服でした。

 リフィアに着替えさせてもらうと寝室を出ます。

 応接室ではアーちゃんとエルちゃんが紅茶を飲みながら待っていました。


「……あっ。シエラちゃん。おはよう。」

「おはようじゃ。」

「はい。お早うございます。」


 アーちゃんとエルちゃんと挨拶をすると私もソファーに座ります。

 するとアーちゃんが私を見ます。


「えっと、シエラちゃん。ミィルさんの所に一緒に行こ?……シエルさんは居ないよ。」


 ……ミィルさんの所ですか。外には出たいです。

 悩んでいるとアーちゃんが言葉を続けます。


「サクラさんも一緒に来てくれるから、大抵の事は大丈夫だと思う。」


 ……サクラからは逃げ出せそうに無いです。

 私は静かに首を横に振ります。


「ごめんなさい。」

「そっか。」


 アーちゃんはテーブルに紅茶を置いて立ち上がります。


「アルフェ。もう良いのかの?」

「うん。……シエラちゃん、行ってくるね。」

「うむ。行ってくるのじゃ。」

「はい。お気をつけて下さい。」


 私も立ち上がると首の辺りがもぞもぞします。


「あっ! シュバさんも居たんだ。……シュバさん。行ってくるね。」

「……アルフェ。行くぞ。」

「うん。」


 アーちゃんはシュバさんに手を振るとエルちゃんと手を繋いで部屋を出て行きました。


「……リフィア。」

「はい。シエラお嬢様。」

「温室に行きたいです。」

「畏まりました。」


 リフィアは部屋を出て行きます。


 ……さてと。温室の準備には少しだけ時間が掛かります。

 足音が部屋から遠退いたみたいです。

 私は窓に駆け寄って外を覗きます。


「……誰も居ない。」


 私は窓を開け放つと窓枠に“飛び乗ります”。


「シュバイン。掴まっていて。」


 髪の毛が一瞬震えた気がしました。


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