第47話 王女様と夕暮れ
#1
「……うぅ。頭が痛いのじゃ。」
エルが頭を抱えながら声を出すと、少しだけワッフルを食べていたシエラちゃんがナイフとフォークを置いて心配そうな顔をしながらエルの方を見る。
……はぁ。
私は溜息を吐くと逸らしていた目を戻すと伏せているエルの髪をかき上げておでこに手を置く。
「エル。ちょっと我慢してね。『冷えて。』」
「? ……少し楽になったのじゃ。礼を言うぞ。アルフェ。」
顔を上げたエルに目を向けられた私は首を横に振る。
「……でも、アイスクリームを一気に食べたらそうなるから気を付けて。」
「先に言って欲しかったのう。」
エルはじっと私を見る。少しするとぷいっと顔を逸らして残ったワッフルを食べ始める。
……うーん。今回はエルが悪いと思う。
私はエルと正反対にすごい“綺麗”に食べているシエラちゃんのお皿を見て溜息を吐く。
するとシエラちゃんが私に声を掛けてくる。
「エルちゃん。大丈夫ですか?」
「うん。もう平気。」
私が頷くとシエラちゃんはエルの方を見る。
「……エルちゃん。良かったです。私も頭が痛くなってお母様に治して貰った事があります。」
「……ふん。」
エルは少しだけシエラちゃんの方を見ると少し頰を染めながらまたそっぽを向く。
……ちょっと可愛いかも。
私とシエラちゃんは目を見合わせて頷くと自分達のワッフルに目を戻す。
……そう言えば、今って何時くらいだろう? さっき外に出た時はだいぶ日が落ちていたけど。
私は切り分けたワッフルを口に入れながら懐中時計を取り出す。
「……アルフェ様。今、何時くらいかしら?」
声がする方を見るとミィルさんがナイフとフォークを置いて私の方を見ている。
私はこくりと頷きながら懐中時計に目を通す。
……うーんと。
「……後1,2時間で日の入りかな。」
「そう。食べ終わる頃に出れば間に合いそうね。……ありがとう。アルフェ様。」
「……大丈夫だよ。ミィルさん。」
私はミィルさんに首を横に振ると懐中時計をローブに仕舞い込む。
それを見ていたミィルさんは私から目を離してシエルさんに顔を向けると声を掛ける。
「シエル。」
「何かしら?」
「明日の予定が決まったら私の方に連絡を入れて欲しいわ。私も一緒に動くから。」
「……ええ。分かったわ。」
ミィルさんはシエルさんとじっと見る。
今日は結構目立ってたからね。シエルさんはミィルさんの目線を気にせずにワッフル食べてるけど。
……あっ。そうだ。
私はミィルさんに顔を向ける。
「ミィルさん。明日、図書館行っていい?」
結局、今日はあまり本を見られなかったから明日も行ってみたい。
すると、隣でぱくぱくとワッフルを食べていたシエラちゃんが口を拭いて顔を私に向ける。
「アーちゃん。私も行って良いですか?」
「……わしもアルフェが行くなら行くぞ。」
振り返るといつのまにかワッフルを食べ終わっていたエルが紅茶にどばどば砂糖を入れながら私を見ている。
……なんだろう。色々間違っている気がする。
そんな、エルを横目にミィルさんはシエルさんに顔を向ける。
「……私は構わないけど。シエルはどうかしら?」
「そうね。……サクラ。私は“用事”があるから貴女が姫様に付いて頂戴。」
「分かりました。」
「……決まりね。馬車とお昼の用意は私達の方でしておくわ。」
「助かるわ。……姫様。明日はサクラと一緒に行って頂戴。」
エルの方をじっと見ているとシエルさんの声が聞こえてくる。
私は顔を前に向けて軽く頷く。
……でも、用事ってなんだろう?
私は不思議に思ったけど、ワッフルの最後の一切れを口にする。
#2
ワッフルを食べ終えて紅茶を飲みながらのんびりしているとエルが私に声を掛けてくる。
「ふーう。しかし、アイスクリームとやらはふわふわで甘々じゃったな。美味しかったのじゃ。」
「……今度から気を付けてね。エル。」
「分かっておる。少しづつ食べれば良いのじゃろ? ルシティアの所に行くのが楽しみじゃの。」
「エルちゃん。私も楽しみです!」
エルとシエラちゃんがにこにこしている中、前を向くとシエルさんが額に皺を寄せている。
……あっ。エルがしちゃった誓約の事だよね。
文言はそこまで縛りは強くないし、エルはちっちゃいから大丈夫だと思うけど。
私は少し息を吐くと温くなった紅茶に口を付ける。
とんとん。
誰だろう? 扉を叩くお音が聞こえてくる。
「グランドマスター。ルーラです。」
「入りなさい。」
「失礼します。」
カップをテーブルに置いて扉の方を見るとルーラさんが私達の方にやって来る。
「馬車の用意が出来ました。」
「そう。分かったわ。」
ミィルさんが頷いて立ち上がると私もエルとシエラちゃんに声を掛ける。
「エル。シエラちゃん。手を繋ご。」
「うむ。」
「はい。アーちゃん。」
私達も手を繋いで立ち上がる。
シエルさんとサクラさんも立ち上がったのを確認したルーラさんは扉を開けながら口を開く。
「皆様。付いてきてください。」
私達はルーラさんに案内されて受付に戻ってくる。
……さっきと違って誰もいないね。職員の人もいない。
きょろきょろしているとルーラさんが振り返る。
「人払いをしております。……どうぞ。」
ルーラさんが開けた扉を出ると馬車が入り口ぎりぎりまで寄せられて外がほとんど見られない。
ルーラさんは一旦立ち止まって台を取り出すと馬車の扉を開ける。
「すまないわね。」
「いえ。グランドマスター。」
ミィルさんが馬車に入るとルーラさんは私とエル、シエラちゃんに手を伸ばす。
「お嬢様方。どうぞ。」
「……エルからで良いよ。」
「うむ。」
エルは頷くとルーラさんに手を引かれて馬車に乗り込む。
私はエルから目を離すとシエラちゃんに声を掛ける。
「シエラちゃん。先が良い? 後が良い?」
「……シエラ。貴女は私と一緒よ。」
でも、シエラちゃんが答える前にシエルさんが私達に近づいて来る。
シエラちゃんはこくりと頷くと私の手を離してシエルさんに抱き着く。
「はい。お母様。」
「ちゃんとしなさい。」
「……はい。」
……
…………
「お嬢様?」
はっ!
声がする方に顔を向けるとルーラさんが私に手を伸ばしながら首を傾げている。
……2人の様子に気を取られてたよ。
「! ごめんなさい。」
「いえ。……そんなに急がなくても平気ですよ。」
私はルーラさんの手を掴むと台を登って行く。
……あっ。普通の馬車だ。ちょっと大きいけど。
ルーラさんの手を離して中に入ると向かい合わせに座る場所が並んでいる。
エルは後ろの席にミィルさんは前の席に座っている。
「エル。隣良い?」
「うむ。」
私の隣にシエラちゃんとシエルさん、ミィルさんの隣にサクラさんが乗り込むとルーラさんが馬車の中に顔を覗かせる。
「グランドマスター。よろしいですか?」
「ええ。」
「了解しました。」
ルーラさんが顔を引っ込めるとすぐに動き始める。
……ここら辺って結構殺風景だよね。
ずーと続く壁を窓から眺めているとエルが私に顔を向ける。
「アルフェ。」
「何? エル。」
「これは馬車なのか? 昨日乗った馬車とは大分違うのじゃ。」
「……これが普通の馬車だよ。」
「なるほどのう。」
私とエルはそのまま窓を眺めていると唐突に壁が途切れる。
途切れた場所を跨いで道を曲がると外の雰囲気ががらっと変わる。
……何だろう。かなりごちゃごちゃしてる。
さっきとは違ってかなり人が多いし、ばらばらな建物の間に細い脇道いくつもある。
じっと眺めているとミィルさんの声が聞こえてくる。
「ここら辺は…………“商業地区”って感じかしらね。ただ、柄が悪いから近寄らない方が良いわね。」
ふーん。まぁ、来ることは無いと思うけどね。
一応こくこくと頷いていると腕をつんつんされる。
振り向くとシエラちゃんが反対側の窓を指で差している。
「アーちゃん。見えてきました。」
見ると橙色になった大神殿が建物の間から顔を覗かせていた。




